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第3話 雷鳴の涙

書きながら『この街の治安、確かにやべぇな』と思いました。

 春の収穫祭中に突然現れた異形の怪物に街は大パニックに……は陥ってはいなかった。

 20年位前から定期的に街中でもモンスターが出現する様な世界なので避難もある意味慣れたものだった。

 ちなみにモンスター出現にレム家の面々が割と絡んでいることは知られていない。

 

「おい!化け物はあそこだ!」


 魔人と化したゾフィーを見つけた警備兵達がメールに加勢しようとするが進路を塞ぐ様に刃が降り注ぐ。

 警備兵たちが驚いていると屋根の上に立つ女性が凛とした声で告げる。


「申し訳ありませんが。この戦いに手出しは無用ですわ。あなた方は住民の避難をお願い致します!」


 メールの妹、リムであった。


「だ、だが……」


「この刃より先に他者が入るのは我が姉が負けたその時です!どうしても通るなら、私がお相手致しましょう!!」


「わ、わかった。よし!お前達、逃げ遅れた人が居ないか確認だ!!」


 散っていく警備兵達を見送った末妹は広場で戦う姉に目をやる。


「あなたならきっと勝つと信じていますよ」


 一方、別の方向ではギルドの依頼でモンスターを討伐せんとする冒険者が恐ろしい光景を目の前にしていた。


「な、何だあの変態は!?魔物も重大だがあんな変態がいるなんてこの街の治安はどうなってる!?」


 彼らの目の前ではブーメランパンツに前をはだけたシャツを着て頭には白い虎のマスクをかぶった男性がポーズを決めていたのだ。

 これは疑いの余地が無い程の変態だ。

 しかもその傍には女性が一人木箱に腰を下ろしており広場の方を向いていた。


「おい、あんた!その変態から離れろ!何をされるかわからんぞ!?」


「かわいそうに。きっと恐怖で動けないんだ……だがあの変態ぶりではこちらも迂闊には近づけん!!」


 女性は次女のリリィ。

 変態は彼女の夫であるユリウスであった。


「ふむ。ねぇ君、聞いたかい?この街には危険な変態が居るらしいよ。そういう輩はきっちり取り締まって欲しいものだね」


 いや、お前だよ!!

 というツッコミが方々から飛ぶ中、変態の妻である次女は涼しい顔で妹の戦いを見学していた。


「その調子で足止めしといてね。保釈金は何とかするからさ」


「ハハハッ!保釈金だって?まるで僕が捕まるみたいじゃないか」


「ああ、なるほどね。顔が割れてないなら捕まる前に『逃げれば』問題はないわね」



「行くよ、ゾフィーちゃん!!」


 サンダーペガサススタイルにスタイルチェンジしたメールは弾丸の如く放つ拳を乱れ打ちする。

 父親が得意としている技のひとつだが魔人ゾフィーの硬質化した皮膚にはあまり効果が無い様子だ。


「ヌルイ……」


 魔人ゾフィーは両腕でメールを捕らえるとショルダースルーで投げ飛ばす。

 それに対しメールは身体を捻って着地し、カンガルーキックで応戦。顔面に一撃を叩き込む。

 だが脚を掴まれそのまま振り回され近くの屋台に叩きつけられてしまった。

 更に硬質化した腕を振り上げメールを滅多打ちにする。


「ぐっ……痛くなんか、痛くなんかないっ!ゾフィーちゃんの心の痛みに比べればこんなもの!!」


 魔人ゾフィーの腕を掴むとそのまま一本背負いで壁に叩きつける。

 さらに追撃で起き上がりに飛び蹴りを放つものの姿勢を低くした相手に避けられ着地と同時に背中から組み付かれバックドロップで投げられてしまう。


 更なる追撃をしようと接近して来る魔人ゾフィーの足をメールは雷を纏いながら思いっきり踏みつけた。


「サンダースタンピングッ!!」


「!!!」


 一瞬敵の動きが止まるがすぐに反撃のパンチで後ろに吹っ飛ばされ地面を転がる。

 そこへ魔人ゾフィーが何度も蹴りを入れメールは転がりながらそれを受けつつ起き上がる。

 低姿勢のタックルを放つも避けられてしまい口から噴かれた火にメールはその身を焼かれる。

 慌てて転がり火を消すが魔人ゾフィーはそんなメールの顔面を踏みにじる。


「まだだ……まだっ!!」


 メールは魔人ゾフィーの足を持ち上げるとそのまま背後に回り。


「ケリュケイオン・スープレックスだッ!!!」


 つい先刻、姉から受けた技で魔人ゾフィーを地面に叩きつけた。

 その様子を見ていたこの技本来の使い手である姉は小さく微笑んでいた。


「まだまだーっ!!」


 メールは起き上がろうとする魔人ゾフィーの背中にまたがり両腕をクラッチして思いっきり搾り上げる。


「天馬破砕締め―ッッ!!」


 力の限り搾り上げるメールの技は完全に極まっていた。

 だが……


「ギイイイイヤアアアア!!」


 咆哮をあげる魔人ゾフィーの身体が赤熱していく。

 高熱が技を掛けているメールの身体を焼き更に魔人ゾフィーがめちゃくちゃに暴れるが……


「グゥゥゥッ!離すものかっ!絶対に離しはしないッ!この腕が二度と使えなくなったとしても、このまま一気に、押し通すッッ!!」


 さらに力を籠めると鈍い破砕音と共に魔人ゾフィーの両腕が破壊された。

 魔人ゾフィーはそのまま顔面を地面に叩きつけられた。


「グゥゥゥゥ……」

 

 赤熱化が収まり身体をけいれんさせる魔人ゾフィーの姿を確認するとメールは技を解き少し距離を取って対峙。

 両腕を破壊されながらも立ち上がる魔人ゾフィーの割れた装甲の一部から黒い核の様なものが覗いているのを発見する。

 

 本能的に何をすればいいか理解したメールは拳を構えると呼吸を整え飛び上がる。


「疾風迅雷!サンダーブランディング――――ッ!!!」

 

 両拳による落雷の如き一撃を核に叩き込み打ち砕いた。


「ギャァァァッーー!!」


 悲鳴を上げ前のめりに倒れていく魔人ゾフィーの身体をメールは受け止めた。

 装甲が剥がれ落ちていき元の姿に戻ったゾフィーは息を荒げながら小さく呟いた。


「ありがとう……ね」


 安堵した表情の後、ゾフィーはゆっくりと目を閉じ息を引き取った。


「お礼なんか……お礼なんか言われる人間じゃないのに……あたしは……」


 小さく呟いたメールの頬を伝ったものが穏やかな表情で眠る少女の顔を濡らしていた。

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