4話
前まで何書いてたか忘れた。
「こんな……っ、どういうことなのですか!? お答えください!」
なにやら言い争いでもしているかのような声が立て続けに聞こえてくる。この洋館の外からだ。
なんとなく浮かんだ予感を胸にフォークを置き、ストールを羽織り席を立つ。出来たては格別なのだが、致し方あるまい。炉からもらった火をオイルランプに灯し、部屋を後にする。
シャンデリアは灯されていない、薄暗いエントランスを急ぎ足で歩けば、反響が孤独感へと化けそうになる。外へと繋がる扉を開ければ、ひゅるるう、と涼しいと寒いの間のような風が流れ込んできた。
と、同時に。
「きゃあっ!」
「わ、っ」
扉のすぐ前に女性が一人、裸で蹲っていた。
「ぁ……っ、ち、違います、これは……!」
戸惑いと怯えと萎縮の声。腰まで重く垂れた金髪で肌を隠しつつも、アメジストの如く輝く瞳にはたっぷりと涙が浮かんでいる。白く滑らかな肌、細いくびれが髪の隙間から覗いて。
「っ、ま、待っててください! 着るものを持ってきます!」
慌てて顔を背けつつ、ストールを彼女に羽織らせて踵を返す。オイルランプをその場に置き自室へと走り、辿り着く頃には慣れない靴によろめきながら扉に縋り付く、随分とみっともない姿が出来上がった。
大方、私と同じようにこの世界に送られてきたのだろう。裸で。気持ちはわかる、私だって一人でなければ取り乱して意味のない言葉を並べていたに違いない。
にしたって、まさか送り込まれた当日に来るとは思わなかったのである。
「えっと、とりあえずこれと、あっお風呂も用意しなきゃ……」
クローゼットから深緑のワンピースドレスと白い下着を掻っ攫って、洗濯かごらしきバスケットに入れて再び走る。走り出して、彼女の姿を見てから靴を忘れたことを思い出して……こうして見ると、私の方が余程取り乱している。いや、その方が彼女は落ち着けるだろうか。
「あの、今お風呂に湯を張ってきますので、それまで着ていてください」
ストールを羽織り座り込んだままの彼女へ声を掛ければ、ちらりと此方を振り向いた視線と目が合った。せめて緊張を解こうと笑みを作れば、急に立ち上がった彼女に持っていたかごを掻っ攫われてしまった。
「それ程までに愉快ですか、この私が、っ……こんな姿で居て……ええ、さぞや滑稽なのでしょうね!」
ごう、と効果音でも付きそうな程の剣幕で告げられ、当の私はドウイウコト? 状態だ。この私、と言われても、私は彼女を知らない。少なくとも既知の人物、キャラクターに当て嵌る姿はない。
しかし、随分と気が立っているらしい。とはいえ普通はこれくらい取り乱すものなのかもしれない。確かに裸一貫で放り出されるなど、逆ギレに値してもおかしくない。彼女には、笑いかけたのは良くなかったようだ。
「ああ、ほら……私にはこの程度の布がお似合いだと言いたいのでしょう……!? 粗末で、惨めで、庶民のような……」
「えっこれ庶民の服なんです!?」
「……は?」
思わず素で返してしまった。
早くタイトル決めたい。