1話
前回のあらすじ。
サービス精神って人間しか持ってないものなんじゃない?
「…………ん、……」
鳥の囀りが聞こえる。風のない麗らかな時間だ。
どうやら転生、と呼んでいいものか定かではないが、無事よくわからん世界に送り込まれたらしい。
思い返してみても、この身体の記憶や癖は思い浮かばない。となれば恐らくは水や炭素、その他諸々の材料から作られたのであろう。しかし、ふと身体を見下ろせばなんと吃驚。裸である。
確かに神話などで描かれている天使は裸なことも多いが、それにしたってこれはないだろう。それともまさか、この世界では裸が一般的なのだろうか。
「……はは、そんなまさか」
目覚めたそばから困惑が凄まじい。館の中に入れば服くらいはあるだろうか。死んだ実感も生まれた実感もない私は、羞恥を忘れたかの如く冷静だった。
大きく開いた門は黒く、足を踏み入れた先では手入れの行き届いた、こぢんまりとした薔薇の庭園が迎えてくれた。
「これ、これからは私が手入れしなきゃなんないのかな……」
青空、よりは若干、ほんの僅かにエメラルドを含んだような空の下。茶系の色で統一された敷石をぺたぺたと裸足で歩きながら、そんな情緒も何もない言葉が漏れる。大人びた中に少しの愛嬌が残るような、よく出来た声だ。少なくとも前世よりは良い声をしている。
しかし喜んでばかりもいられない。
両開きの黒い扉を前にして、まさか自分の為に誂えられたものでなかったらどうしよう。と不安が過った。これで見ず知らずの老人が出てきたりなんてしたら、羞恥どころの話ではない。
「…………」
ノ ックをしてみる。傍のベルを鳴らしてみる。返ってきたのはどちらも無音だけだ。一応背後を振り返ってみる。誰も居ない。
「神様ー、この建物で合ってますか?」
なんとなく頭上に向かって声を投げかけてみる。反応はない。本当に丸投げと言っていいだろう。
覚悟を決めるしかないようだ。
「……お邪魔しま、……うわ」
尻込みしながら扉を開けば、思わず息が漏れた。
大きく実った栗を思わせる色合いの、テラコッタタイルの床。左手には優雅に流れるサーキュラー階段が目を引いた。木目調に映えるワインレッドの絨毯が、派手過ぎない豪華さを醸し出している。
天井からはシャンデリアが一つぶら下がり、全体的に白を基調とした壁に、入隅や出隅に差し込まれたブラウンがなんとも言えず良い。アーチ型の窓が自然光をふんだんに取り入れている為、吹き抜けの上まで明るく照らされているのがよくわかる。
これが今から私の家になるのか。随分気前のいい神様だこと。ついでにセンスも申し分ない、満点だ。
となれば、早速調べ尽くさなくてはならない。
私は意気揚々と片っ端から部屋を開けて回った。こんなに豪勢な場所に居るのに、いつまでも全裸では流石に気が引ける。それに自分の姿も見たい。
忙しなく駆け回り、だというのに漸くクローゼットの中身がある部屋を見付けたのは、凡そ十五分が経過してからだった。
果たしてこれで機能してるのか。続き物としての投稿が初めてなので、長い目で見ていただけると助かります。