プロローグ
死んだ。死因は覚えていない。それどころか、いつから死んでいたのかすらわからない。眠っていたのか起きていたのか、まるで夢でも見ていたかのように曖昧で、気付いたときにはミルクみたいに真っ白なこの場所に居た。
周りを見渡しても誰も居なくて、私の身体すらも見えなくて、なんとなく死んだことしかわからなかった。
「▒▒▒▒▒、貴方にははぐれた者達のケアを頼む」
どこからか、突如として響いた無機質な、少年のような声。その声が紡ぐ聞き取れない単語を、漠然と、これは名前ではなく番号なのだと思った。十進法ではない数字、生まれた命に割り振られる番号なのだろう。そんなものは億でも兆でも足りない筈だ。
「はぐれた者達、とは」
私の声も、同じ声に変換されている。生気が感じられない、死んだ声だ。
「一つの器には、一つの魂しか入らない。追い出された魂は、狭間を彷徨い輪廻に戻ることが出来ない」
「追い出された、魂……」
「それをはぐれた魂と呼称している。その者達と対話していれば、事の顛末は理解は出来るだろう」
丸投げか? と思ったが言わないでおいた。
「記憶の消去は、肉体の死をもって完了する。肉体を持たぬ魂は莫大な記憶と感情を保持したまま生まれ、結果肉体が錯綜し潰える」
「えっと……」
「肉体と記憶と感情の錯綜により潰えた命は魂までも消滅する。これは多大な損害を」
少し待ってほしい、死んで早々聞くにはややこしいぞこの話。
「すみませんちょっと整理させてもらっていいですか」
「構わない」
一応待ってはくれるらしい。一旦話を振り返ってみよう。
声の主を、今は一先ず神としておく。
神の最初の言葉を思い返すに、追い出された魂はケアが必要な程のストレスを抱えている、ということらしい。しかも来世まで記憶をしっかり保つという特典付き。
そんなストレスを抱えたまま生まれ変われば、ただでさえ数十年の情報を一気に背負った赤ん坊の未発達な脳は、この負荷に耐え切れない、ということだろう。その結果、魂までもが消滅し、神達は損害を被る……と。
「感情が良好になれば、輪廻に組み込む際記憶も消去しやすくなる」
「ケアとは、カウンセリングのような」
「その見解で相違ない」
悪い記憶の方が、良い記憶よりこびり付いて離れなくなるというのは、輪廻転生なんて壮大なスケールの中でも同じらしい。それは理解出来たが、にしたってそれならカウンセラーを雇うべきじゃなかろうか。
「ちなみに、私が選ばれたのは」
「秘匿情報である。知る必要はない」
「そうですか」
無愛想な神だ。とはいえ、人間以外が仕事で愛想を振り撒くなんてサービス精神、持ち得ているかどうか怪しいところだ。
「狭間で彷徨う魂達を、今から▒▒▒▒▒が向かう世界に順次送り込む。ケアが滞りなく進まなければ、別の者を割り当てる」
「一度に大勢は相手に出来ないかと」
「ひとつずつ送る。他に質問は」
「あ、ないです」
魂の単位はそれなのか、等と考えつつも質問はと聞かれると咄嗟には浮かばないもので、軽い気持ちで首を振ってしまう。否、今は首もないのだが。
「器や住家は此方で用意してある。以上だ」
随分淡々と話が進んでいったものだ。後からこれも聞いておけばよかった、なんて悔やむことになるんだろうな。
呆気なく切り上げたその言葉を最後に私は、緑豊かな森の中、ひっそりと構えた洋館の前で立ち竦んでいた。
ちょくちょく書き直すかもしれません。タイトルは未定です。
初めなので地の文多めです。一人だと喋らせにくいので。令嬢達が早く出てきて賑やかになってほしいこの頃。
もうほぼほぼ初投稿みたいなものなので大目に見てもらえると助かります。
主人公は一度死にました。どれだけ藻掻いたか、どれだけ悲しみ苦しみ、他者へ縋ったか。或いは自ら命を絶ったのか。トラックで呆気なく死んだのか。
そんなもの、皆どうだっていいでしょう?
死んでいれば物語は始まります。それだけの話なのです。