お転婆姫と氷の執事
初の恋愛物です。
遥か千年は昔の事、世界を恐怖で支配していた邪悪な魔王を倒さんと一人の勇者が立ち上がった。数々の苦難の末魔王の元までたどり着いた勇者に魔王は倒され平和が訪れましたとさ。御仕舞い御仕舞い。
「で、その勇者の末裔が私らしいよ。」
豪奢なベッドにうつ伏せる金髪青目の淡い水色のドレスを着た13~14歳くらいの少女がつまらなそうに絵本を眼鏡をかけ執事服を着た月を思わせるような銀髪の男に投げ渡した。
彼女の名はエリザベート=ローゼンメイデン。
ここ、ローゼンメイデン王国の第一王女である。
「はぁ…。リザ姫様。本は投げるものではありませんが?」
「うるさいよセバス。それ直しといて。」
「ご自分で直すべきだと思われますが?」
「いいから直しといて!」
「…。かしこまりました。」
セバスと呼ばれた執事は本を手に退室していった。
「…。セバスって本当表情変わんないな。」
一人になったエリザベートはポツリと呟いた。
セバス ー セバスチャン=アークライトは私、エリザベートの専属執事だ。
見た目はサラリとした銀髪に金目の中性的な目鼻立ちで、はっきり言ってイケメンの部類だ。その見た目と表情一つ変えない所から付いたあだ名は「氷の執事」だ。私はその表情を変えてみたくてあれこれしてみたのだが、クスリと笑いもしない。あえてわがままを言ってみてもあれである。 ー 今でも素敵だが笑えばもっと素敵になのだろうにな…。
「やれやれ…。仕事を増やさないでもらいたいですね。」
何か荒事でもあったのか、彼はパンパンと服に付いた埃を払いながら乱れを直していた。
床に倒れた黒ずくめの連中を見る限りそれが原因だろう。
「そこの不埒者を牢屋に入れておきなさい。リザ姫の命を狙った賊です。」
セバスチャンは駆けつけた近衛にそう言うとエリザベートの部屋へと戻って行った。
「セバス!何か飲み物とお菓子を用意して。」
セバスチャンが戻ると開口一番にエリザベートはそう言った。
「かしこまりました。すでにこちらにクッキーとアイスティーを用意しておりますのでどうぞ。」
まるで予見していたかのように部屋にある小さなテーブルの上にクッキーとアイスティーが用意されていた。
「あら、早いじゃない。」
エリザベートは嬉しそうに椅子に座った。
エリザベートは側で静かに佇むセバスチャンをチラリと見ながらふと考えた。
エリザベートの気分も好みも知り尽くす完璧な私の執事セバスチャン。実は謎の多い人なのよね…。
そもそも何処から来たのかも知らない。何時から王族に使えているかも不明。ただ分かっているのは私の曾祖父の時代には既にセバスチャン=アークライトを名乗る執事が使えていたと言う事実だけである。
流石に同一人物と言うことは無いだろう。きっと名前が受け継がれているだけだ…。
などと考えながらクッキーを食べるエリザベートであった。
● ○ ● ○
ある日、王宮で事件が起きた…。
エリザベート王女が何者かに拐われたのである。
誘拐犯からの要求も無いため皆は困惑していた。
「何としてでも娘を見つけ助け出すのだ!」
エリザベートの父である王ジェイド=ローゼンメイデンは宰相達に命令していた。
そんな中、セバスチャンは拐われたエリザベートの部屋で何か痕跡は無いかと捜していた。
「私の居ない間に舐めたことをしてくれましたね…。」
その日、たまたま休日でエリザベートの側に居なかったセバスチャンは表情こそは変わらないが、その声色には明らかな怒りが感じられた。
「久々に魔法を使いますか…。リザ姫様の痕跡を辿れ!『チェイス』!」
光輝く魔方陣が展開されるとボゥと淡く光る足跡が現れた。
この魔法は探し人の居場所を突き止める魔法で、この足跡は使用者にしか見えないようになっいる。
ちなみにこの魔法、かなり魔力を消費するため使い手はかなり少ない
「さてと…。今、参りますよリザ姫様。」
剣呑とした雰囲気を纏いながらセバスチャンは光る足跡を辿るのであった…。
その頃エリザベートは…。
「んーんー!!」
猿轡を噛まされ手足を縛られ床に放置された状態のエリザベートがどうにか周りを見回した所、どうやらここは薄暗い倉庫のようであった。
ー まさか誘拐されるなんて…。何とかして抜け出さなきゃ!
エリザベートが抜け出そうともがいていると、ガチャリとドアの開き如何にも盗賊らしい格好をした男達が入ってきた。
「待たせたな嬢ちゃん。雇い主からようやく処分する許可がでた。悪いが嬢ちゃんには死んでもらうぜ。」
「んーんー!んーんー!」
エリザベートは手足を縛られたままで必死に抵抗するも空しく目の前で銀色の剣が閃いた ―
ガキン…。ドシャ…。
「ん?」
もう駄目だ…。そう諦めたエリザベートの瞳に映ったのは背中にナイフが刺さり絶命した盗賊の姿だった。
「リザ姫様。ご無事ですか。」
エリザベートが声のする方を見るとそこにはセバスチャンの姿があった。
「んーんー!」
「助け出すのだ遅れて申し訳ありません。今、お救いします。」
セバスチャンは手早くエリザベートの拘束を解いた。
「うわあぁぁぁーん!!怖かったよぉぉぉ!!」
エリザベートは号泣しながらセバスチャンに抱きついていた。
「もう大丈夫ですよ。さ、帰りましょうリザ姫様。」
「うん。」
こうしてエリザベートはセバスチャンにお姫様抱っこされた状態で城へと帰ってきたそうだ。
ちなみに道中で恥ずかしいから下ろせだの怪我してるから下ろさないだの軽い言い争いがあったとかなかったとか…。それはご想像にお任せします。
それから数日が経ったある夜の事…。
とある場所にある暗殺ギルドにて ー
「き、貴様!何者だ!」
ギルドのマスターと思われるデップリと太った中年の男は不埒な侵入者に恐れおののいていた。
「それを知る必要はありません…。貴方は今、ここで死ぬのですから。」
侵入者…。銀髪金目の執事…。セバスチャンはナイフを手になんて事も無いようにそう言った。
「な…。」
「貴方のギルドが王女の…。王族の暗殺を受けたのは調べがついています。捕まえた族が吐きました。王族の暗殺でなければ私は動く必要が無いのですが…。」
シュン…。
ナイフを一閃!一瞬にして中年男の首が飛んだ。
「生憎契約なんですよ。王族ならびに王家に仇なす輩の処分もね。」
カツンカツン…。
誰もいない暗殺ギルドにはただただ足音が響くだけであった。
「もう少しで終わるのです…。波風はたてないでもらいたいものです。」
セバスチャンは溜め息をつきながらポツリと呟いた。
「セバス…。」
布団をすっぽりと被りエリザベートは顔を真っ赤にしていた。
ー あーもう!セバスったらステキすぎっ!ただでさえイケメンなのにあれは反則よ!
エリザベートは布団の中で悶えていた。
「だけど…。身分が違いすぎる。ああ、どうしたら良いの?」
眠れぬ夜を過ごすエリザベートであった。
次の日…。
庭でのティータイムにて…。
「ねぇセバス?」
「何ですか?リザ姫様?」
「いや、いいわ。ただ …。」
ー セバス私はまだ一度も誰かを好きになった事がないから貴方に初めて会った頃から抱いているこの気持ちが恋なのかはハッキリとは分からないの…。でも、これが恋ならば例え許されなくても自分の力で貴方を振り向かせたいの。
だから ー
「これからも私の側で居てくれますか?」
「勿論居ますが?妙な事をおっしゃいますね。」
「そうかしら?フフ♪セバス!お転婆で至らない所ばかりの私だけどこれからもよろしくね。」
「はい。リザ姫様。」
お転婆姫と氷の執事の恋物語はまだまだ始まったばかりのようだ。
楽しんで頂けましたか?
もし評判が良ければ連載しようかと考えています。
連載希望の方は是非ブックマークと★評価をよろしくお願いいたします。
後、西音寺の初作品転生したら魔王のペットだった件及び転生魔王創世記もよろしくお願いいたします。