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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある冒険者の食事風景

いまだ若い、ピンク色をしたそれは、まさにこれだけのために用意されたといっても過言ではないように思えた。


「んじゅぅっりゅゅるるるっ!!」


それに思い切り吸い付けば、まるで潮を吹いたように、あふれ出す汁がとめどなく欲望を刺激した。



「はぁっ、んぱっ、ぎゅじゅぅじゅじゅうっ」


目いっぱいに口を広げても覆いきれないそれを、思わず舌を出して味わう。

じゅるじゅると滴る涎と交わった、熱い汁がてらてらと自分の口の辺りを濡らしていく。

口を離し、ごくりと喉を震わすと、何とも言えない気持ちが胸の奥で高まっていく。


「はぁむっ、むっ、んんんん!!」



思わず耐え切れずに、そのほっそりとした、それでいて筋肉のほどよくついた、形のよい脚にかぶりつく。

ぎちぎちと歯で軋ませ、その感触を楽しむ。

歯型をつけるまでしっかりと、まるでこれが自分のものであることを主張するかのように。


ぐちっ、と抵抗が加わる。

必死に肉をつなげようとするそれに、またしても興奮が高まった。


このごちそうはこの期に及んで、まだ抵抗しようとする。



普段ではめったにありつけない、まさしく極上の肢体。

改めてその全貌を見る、白く、透き通るようにクリアな肉、見た目では淡白な印象を受ける。

しかし、それでいていまにも熱い汁を飛び散らせようともしていた。


それをぐっとこらえるのは、自分の意思か、それとも他人の手によるものか。

その内情には、様々な事柄がかかわってきているようだ。


ぐらぐらと煮えるように、熱くなる身体。

自分でも気づかないうちに、あり得ないほどこの状況を心待ちにしていたらしい。


目の前の、自分に食われてしまう物の歴史などには、もう全くというほど気にならなかった。


びっしょりと濡れていた、もはやソレも、何をされているかがわからずとも、身体だけは正直になっていく。

こうやって楽しませるために、己が阿鼻叫喚を上げさせられ、毎日その身が散らされていることを知らず。

大概が貴族によって、だがそれによりこの楽しみがあるのだから、貴族さまさまである。


こんな贅沢は、早々できるものではない。

普通は手や足などで我慢するべきなのだ、いや、普通だとそれで満足するはずである。


しかし自分は我慢が出来ずにいた、もやもやと自分のうちに、幼いころからその感情があったのだ。


そのために自分は将来を決めた、好きな時に好きなことをし、だれにも縛られない生き方。

そしてそれ以上に、一獲千金という大いなる恩恵がもたらされる、冒険者へと。


その道のりは決して安くはなかった。

当たり前だが、周りにはいつもライバルがいた、彼らとは目指す道は違ったが、狙いは一緒だった。


それを押しのけ、あるいは続いて、ようやくやっと目途が立った。

自分のこれからのこと、なにをしていくのか。


それには万感の思いがあるが、なによりも今の光景が素晴らしい。


そしてこの後の出来事を想像して、自分は頬を歪めた。



「ぷじゅっ、ぐぷぅ、ぐちゅっちゅぅ~っ」


今まで散々焦らしてきた甲斐があって、その肉はまるで吸い付くように自分を求めた。

ごぽり、と流れ出る粘度の高い液体、これまでと違う色に、自分は狂喜した。


ちらと、敷かれている布を見ると、赤い鮮血がしとしとと斑点となっていた。

自分は好き者である、大抵がじっくりと最後まで行くのだが、自分はそこまでを必要としない。


最後に口を大きく開き、奥まで突っ込む。

コリコリとした感触を感じながら、ちゅっちゅっと吸い付く。


文字通り、骨の髄まで味わい尽くすのであった。


そして最後の最後に、この日までの自分の溜まりに溜まっていた欲望を吐き出した。







「うまい!」


そう放った言葉を聞いていたのはただ一人。

向かいに座る女性は顔を隠していて、こちらをうかがう目線では表情が知れない。


ここは貴族御用達、王侯貴族でさえ暇があれば訪れるという、一般人には幻の店、その一室。

極上の肉に極上の料理人、一般人が来れば一生の思い出になる場所である。


自分がまだ、さっきまで味わっていた料理について舌鼓を打っていると、不意に彼女から言葉が飛んできた。


「あんさぁ、マジでキモイんだよなぁ」


彼女は機嫌が悪くなるほどに、周囲に対する言葉遣いが悪くなる。

それは、エルフ全体に言えることだが。


呼称が「アナタ」でも「アンタ」でもなく「あんさぁ」になっていた。

あんたさぁ、を短縮して、彼女がとてつもなく何かに対して嫌がっているのは明白だった。


「やめてくれる?

もうアンタの食事に付き合うのってマジ勘弁なんだわ」


彼女はその調子で言葉を続けていく、顔が隠されていてもその表情は容易に想像がついた。

エルフ特有の顔隠しの布で、隠されていない双眸の光だけで彼女はこちらを非難する。


「ほんとにほんとに…、

…はもう、どうしようもないね…」


その後は彼女の説教で時間が過ぎてゆくが、その話は、まだ強く記憶に残る食事のことで頭のうちには入らなかった…。



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