第98話 誤解を解く方法
昼休み、先生に席替えのことで直談判しに言った帰り、私はどうやったら雫ちゃんとの中を修復できるのか考えていた。
別に喧嘩したとかじゃない。私が一方的に変なことを考えて、まともに顔を見られなくなったんだ。
でも、そのことが原因で段々雫ちゃんと話す機会がなくなっていってるのも確かだ。
この前チラッと聞いただけだけれど、私が美月ちゃんと疎遠になった時と同じようなことが今起こっている。
美月ちゃんが離れて行っちゃった理由は今度の文化祭までわからないままだけれど、自分がされて嫌だったことは人にしちゃいけないって小さい頃からよく言われて来た。
まして、雫ちゃんに変に誤解させちゃったままなんて、絶対嫌だ。
そうじゃなくても文化祭で一緒にお店をすることになるんだから、その前に誤解は解いておきたい。
こういう時に頼れそうなのって…軒並み2年の先輩しか思い浮かばないんだよね…。
皐月ちゃん達には…なんとなく頼りにくいし。
私の勘違いが原因なんだから、なるべくみじかな友達には言いたくない。
「でも、朱音先輩は勉強で忙しいだろうし…。鈴音先輩は〜面白がりそうだから却下で!」
「ん?私がどうかしたの?」
「へ?」
後ろから急に朱音先輩の声がして、振り返ってみるとちょうど職員室から出て来た朱音先輩がそこに立っていた。
さっきまで同じ空間にいたのに、柊先生に怒ってたから全然気付かなかった…。
でも、なんで先輩が昼休みに職員室に?
なにかあったのかな…。
「いや?ただ、最近の文芸部の様子を聞いておこうかと思ってさ?一応部室は職員室の目と鼻の先だからね。鈴音に聞いてもどうせ噓吐くだろうし、後輩に聞いても気を遣いそうだと思ってね」
「なるほど…」
「まぁ案の定予想した通りの回答が帰って来たから、後であの子にはきつく言っとくけど。それであなたは?何か私に用事があるみたいなこと言ってなかった?」
「えっと…それは…」
そこで一瞬、受験勉強で忙しい先輩に、私の市場が原因で招いたこの状況を相談してもいいのか考えてしまう。
先輩だって暇じゃないだろうし、私の相談に乗ってもらうのは…。
そんな風に悩んでいる私の様子を見てなのか、朱音先輩は私の心情を察してくれたらしい。
1人で勝手に悩んでいる私の肩の手を置いて、いつもより優しい声でこう言ってくれた。
「これは私の自論だけど、後輩が先輩に向かって気なんて遣うものじゃないんだよ?私の勉強のことよりも、大事なのは可愛い後輩ちゃんなんだから。なんでも相談して?」
「朱音先輩…。実は、雫ちゃんに私が原因でひどい誤解をさせちゃってるみたいで、それをなんとか解きたいんですけど、どうすればいいか分からなくて…」
「ん?ああ〜そういえばなんか数日前にあの子が言ってたなぁ〜。なるほどね〜。じゃあそこの部室でちょっと待っててくれる?私は一回お手洗い行ってくるから」
「え…?あ、はい…」
それから、なぜか鍵がかかっていなかった部室を開けて、朱音先輩の到着を待った。
ドアが開いた瞬間、まさか雫ちゃんが入ってくるとかないよね!?と思ったけど、そこにはちゃんと朱音先輩が立っていた。
それから私の向かいの席に座ると、一息ついてから話を始めた。
なんでも、自分が行くのは専門学校だから、そこまで真面目に勉強しなくてもある程度はなんとかなるんだそうで…。
朱音先輩は結構頭が良いらしい。前に鈴音先輩にちょろっと聞いただけでその場限りの冗談だと思ってたんだけども…。
「まぁ〜あの子の発言が嘘か本当かは普段の行いのせいで分かりにくいよね〜。まぁそれは置いておくとして、まずなんで雫ちゃんと仲違いしてるのか教えてもらっても良い?」
「えっと…先輩は知ってますか?最近雫ちゃんのイメージがガラッと変わったの…」
「うん。鈴音から聞いてるよ?なんでも、春奈の誕生日会の時にイメチェンしたのが意外とウケが良かったらしいから、そのまま続けることにしたって」
「そうなんですよ!もう可愛くて可愛くて!じゃなくて…その件でその…色々ありまして…」
私は耳まで真っ赤になりながら、所々ぼかして朱音先輩に事情を話して行く。
さすがに雫ちゃんのことを変な目で見ちゃってるとか、そんな不審者みたいなことは言えないし…。
自分なりに言葉を選んで、朱音先輩にはうまいこと理解してほしいな〜と。
「へ〜。私がいない間にそんなに面白そうな展開になってるんだ〜。私も鈴音に色々聞いちゃおっかな…」
「あの…先輩?」
「ん?ああ〜こっちの話。それで〜仲直りの方法だっけ?直接は言えないんだっけ?そのとある事情で」
「言おうと思えば言えると思うんですけど…。でも恥ずかしいっていうか…その…」
「はぁ〜!後輩ながらなんでそんな尊いことになってんのかねぇ…」
朱音先輩は時々意味がわからない独り言を呟きながら、ニヤついてアドバイスをくれた。
なんでそんなにニヤついてるのか全く分からないけど、とりあえずアドバイスには耳を傾ける。
「結局、厳しいとしても本人に直接言うしかないと思うよ?顔を見て話した方が、やっぱり気持ちは伝わりやすいのよ?これは例えだけど、告白なんかもそう。電話でなんてありえないから!するなら直接でしょ?」
「まぁ、あんまりそう言うことを考えたことがないのでよく分かりませんけど…」
「だからね〜。簡単に言うと、面と向かってちゃんと誤解は解いた方がいいよ?厳しいなら厳しいなりに、頑張れば相手にはその気持ちも伝わると思うよ?あなたがどれだけあの子を想ってるか」
「え!?私は全然!雫ちゃんとはただの友達で…!」
「耳まで真っ赤にしといて何言ってんの?そんな顔で言っても説得力ないよ?」
確かに…ここ最近の私はちょっと変だけど!主に鈴音先輩とお母さんのせいで変になっちゃってるけど!
それでも、雫ちゃんのことはただのお友達として…考えてると思う。
自信が無いのは、ただのお友達に告白されるって言うシーンを想像なんてするかっていう気持ちがあるからで…。
しかも、そのせいで熱を出して学校を休むなんて…。
告白されて嬉しいのは確かだけど、付き合うとか、そんなことまだ良くわかんないし…。
「とりあえず、告白しなさいなんて言わないから、ちゃんと好きって伝えな?じゃないと誤解なんて解けないよ?」
「…?好きって言っちゃったらそれはもう告白なのでは…」
「違う違う!恋愛的な好きじゃなくて、友情の好きってことよ!likeじゃなくてloveの方って言えば良いのよ!」
「え…?loveが恋愛的な好きじゃなかったでしたっけ?あれ?違ったかな?」
「何言ってるの〜?loveが友情とあの好きで、likeが恋愛的な好きだよ〜」
なぜだか言動がたどたどしかったけど、私はどちらかと言えば英語は苦手だし、先輩が言うんだから間違いない。
じゃあ雫ちゃんには、そう言えば良いか…。
元気に「分かりました!」って言った瞬間、なぜだか驚いたような顔をされたけども…。
なんでそんな顔をするんだろう。別に何も変なこと言ってないよね?私…。
「変なことは言ってないけど、将来が心配だな〜って」
「急にどうしてですか!?」
「ん〜。それは後々わかると思うよ?じゃあ頑張ってね〜」
そう言うと、妙に慌てて朱音先輩は部室を出て行ってしまった。
私は、残り半分になったこの昼休みの間に誤解を解いておこうと、雫ちゃんをこの部室まで呼び出した。
この時の私は、まさかこの後に朱音先輩が原因でとんでも無いことになるなんて思っても見なかった。
次回のお話は10月28日の0時に更新します。




