第97話 非情な席替え
教室に戻った私は、ずっと隣に甘えてくる美月ちゃんがいて、困っている状態だった。
非常階段からずっとこんな感じだから、廊下でいろんな人に怪訝そうな顔で見られた…。
私としては別に美月ちゃんは可愛いし、なんだか今日はいい匂いがするから良いんだけど…。
皐月ちゃんが凄い顔で見てくるから、なんかちょっと微妙な気持ちになる。
「ねぇ…。そろそろ離れない?もうHR始まっちゃうよ?」
「ええ〜!別に良いじゃん!先生くるまでこうしてる!」
「皐月ちゃん。ヘルプ!」
「…。こんなに嬉しそうな美月は久しぶりに見たから…複雑だけどもう少しそうさせてあげて」
そんな!唯一の助けが…。
雫ちゃんは私と美月ちゃんのこの状況を見てからなんだか怖い顔で黒板の方を睨んでるから助けは求めにくい。
しかも、今はちょっと色々あって話しづらい。
もうすぐHRが始まるのは確かだけど、後5分もある…。
どうしたら良いんだろう…。
このままだと、私が恥ずかしくてどうにかなっちゃいそうなんだけど!
美月ちゃんも普通に可愛いんだし、そりゃ大胆に抱きつかれてたら、恥ずかしくもなる。
それが非常階段からずっとなんだから、もうそろそろキツイよ!?私!
そんな時、私に思わぬ助けの手が差し伸べられた。
それは、朝この教室で先輩らしき人と…アレをしていた人だった。
「あの、イチャついてるところ申し訳ないんですけど、紅葉さんを借りても良いですか?」
「ふぇ?私…?」
「はい。ちょっと今のうちにお話ししておきたいことがあって…」
「え〜!後にしてよ〜!」
「ちょ!美月ちゃん少し落ち着きなって。すぐ帰ってくるから。ね?」
行かないでと可愛く駄々をこねる美月ちゃんを皐月ちゃんに任せて、私は霧島さんと廊下に出た。
連れていかれたのは、この前鈴音先輩と話したあの階段の踊り場だった。
てっきり、あの相手の先輩もいて、また何かやんわり言われるのかと覚悟したんだけど…。
なんでこの霧島さんは少しだけ顔を赤くしてるんだろう…。
「それで…話って?」
「あの…クラスのみんなにはあのこと、内緒にしてください!私と先輩が付き合ってるって、この学校で知ってるのは紅葉さんだけなんです!先輩の部活が忙しいから休みの日は大体家で会ってるんですけど…時々ああやって教室で…その…」
「うん!その先は良い!私もなんか恥ずかしくなってくるから!」
「はい!えっと…それで、いつもはあんなに早い時間に誰も来ないからって理由であの…ああいうことをしてたんですけど…先輩にも私から言っておくので、今回の件はどうか!」
側から見たらこの光景は、耳まで真っ赤にした女の子2人が話してるんだし、告白してるとか思う人もいるかもしれない。
現に、霧島さんは頭を下げてるから、ますますその現場にしか見えない。
今ここに誰か来たら、完全にアウトだよねぇ…。と呑気なことを考えていると、霧島さんが突然泣き出してしまった。
「もしかして…もう誰かに話しちゃいました…か?」
「え!?いやいや!そんな訳ないじゃん!」
「先輩が付き合おうって言ってくれた時、家の事情でバレたら別れないといけないって…。でも、紅葉さんならまだ誰にも話さないってなんとか説得したのに…。もう…話しちゃったんですか…?」
「待ってって!本当に誰にも話してないから!」
「本当…ですか…?」
そう上目遣いで聞いて来た霧島さんは、さっきの美月ちゃんと同じか、それ以上に可愛く見えた。
どっちも雫ちゃんが見せてくれる笑顔には敵わないけど、どっちも好きになってくれてる人がいるのは納得できる可愛さだった。
私が皐月ちゃんから美月ちゃんを奪うなんて絶対にないし、出来ればあの二人は結ばれて欲しいと私の方から応援したいくらいだ。
霧島さんたちは…まだよく分かんないけど、相手の人もどっちかといえば美人さんって感じだったし、応援はしたい。
私だって、好きな人ともし付き合えたとして、周りにバレただけで別れるなんて絶対嫌だし!
「本当だって!誰にも言ってない!それこそ美月ちゃんにも、皐月ちゃんにも!雫ちゃんとは…最近話せてないから…」
「そう…ですか…。良かったです。紅葉さんは言わないって信じてました!じゃあ、これからもお口チャックで!」
えぇ...。言わないって信じてたっていう割に、さっき思いっきり疑ってたような…?
ていうか、お口チャックってなに?可愛い…。
その後、一応連絡先だけ交換して教室に戻った。
美月ちゃんは戻ってくるのが遅いって怒ってたけど…3分も経ってないよね!?
どうしよう。
美月ちゃんが小学生みたいな子供になっちゃったんだけど…。
だけど美月ちゃんが抱きついてくる前に、HR開始のチャイムがなって柊先生が教室に入って来た。
すごく残念そうな顔をした後、渋々自分の席から私のことをジッと眺めることにシフトしてしまった…。
「は〜い。今日のHRは、みんなお待ちかねの席替えです〜!」
「え!?嫌です!今のままでいいです!」
「私も!今のままでいいです!」
先生がそう言った途端、一部の男の子が大騒ぎを始める。
そんな中、私の両隣の女の子達からそんな声が上がった。
美月ちゃんはさっきまでの態度を見てたら分かるけど…雫ちゃんも…?
自意識過剰かもしれないけど、私と離れたくないって思ってくれてるなら…嬉しいなぁ…。
まぁ、最近私が異常に雫ちゃんを意識しちゃってるせいでこんなことを思ってるだけなんだろうけどさ!
でも、嬉しいじゃん!
私がただ単に誤解させちゃってるだけなのに、こんなこと言ってくれたらさ!
まぁ普通に考えると、今の席の周りには女の子達しかいないから変わりたくないって言ってるんだと思うけど。
私達の前は教卓だし、後ろは春ちゃんと卓球部の…名前は忘れちゃったけど、女の子だし。
「はいはい。そんなワガママ言わないの。今回は私が席を決めたから、みんなそれに従ってもらいます。視力が良くない子は比較的前にしたから、安心してね。背が高い子は…ゴメンけど後ろ寄りになっちゃった」
『そんな…』
そう言いながら、美月ちゃんが私を泣きそうな目で見つめて来た。
どんな反応したらいいか分かんないからその顔はやめて欲しい…。
可愛いけど、そんな泣きそうな顔されると…反応に困る。
私もみんなとあんまり遠くにならないように祈るから…。
というより、みんなと遠くなっちゃうと、話す相手が誰もいないから授業中とか凄い寂しいんですけど!
先生が黒板に席の見取り図とみんなの名前を書いていく。
とりあえず教室の1番後ろ。黒板から一番遠いところから書いていってる。
「うそ…。私一番後ろ…?」
そう言ったのは私の右隣に座っている雫ちゃんだった。
しかも、雫ちゃんの隣にはあの…雫ちゃんが嫌っている男の子が来ていた。
まぁ雫ちゃんは女の子の中でも背が高い方だから、後ろの方になっちゃうかもとは思ってたけど...。
そして、周りには私も美月ちゃんも、皐月ちゃんすら配置されなかった。
これで、残念ながら私たち四人がみんな近くに座れるという最高のシュチュエーションの可能性が消えてしまった。
そして、肝心の私達の席は…。
「って!今とそんなに変わってないじゃないですか!」
「あ〜!良かった!先生本当にありがとうございます!」
そう。私と美月ちゃんの席はそんなに変わらず、私は今美月ちゃんが座ってる席になって、美月ちゃんが今雫ちゃんが座っている席になった。
そしてその間。つまり、今私が座っている席には皐月ちゃんが座ることになった。
ちなみに、凛ちゃんは私の2つ後ろで雫ちゃんの2つ前だった。
まぁ、凛ちゃんは最近学校に来てるところ見ないんだけど…。
でも、なんだか雫ちゃんだけが遠くに行っちゃってすごく寂しい。
なんでこんなほとんど変わらない席順になったのか、休み時間に職員室に行って直接直談判しに行った。
さすがに雫ちゃんだけ遠くなんて嫌だ!
「え〜?だって、あなた達2人4月からずっと隣でしょ?だから一回離さないとあれかな〜って?」
「全然納得できません!じゃあなんで美月ちゃん達は私の近くから変わってないんですか!いや別に嫌とかじゃないんですけど!」
「だってあなた、後ろに行ったら授業中寝るじゃない。その点、横に皐月さんや美月さんがいれば、あなたが寝そうになっても注意してくれると思ったのよ」
「それだったら雫ちゃんだってできますよね!?今からでも遅くないので、雫ちゃんも私の近くに…」
「だから〜今度の席替えはくじ引きにするから、その時に一緒になれるように祈ってればいいじゃない」
笑顔でそう言われて…私は何も言えなくなってしまった。
これ以上言っても…多分席が変わるなんてことはないし、今日の掃除が終わったら、5時間目からは新しい席順で始まってしまう。
このままだと、雫ちゃんに誤解を与えたまま席替えすることになっちゃう。
それだけは、絶対に嫌だ…。5時間目までに、ちゃんと雫ちゃんに謝らないと…!
なんて謝るかは…急いで考えないといけないけど!
このままだと最悪、だんだん疎遠になってしまう気がする。
美月ちゃんの時みたいなことには、もう絶対したくない!
そう決意を固めて、私は職員室を出た。
次回のお話は10月25日の0時に更新します。
病院に行って持病の方はとりあえず抑えますのでご心配なくm(_ _)m
もう少しで100話ですし、頑張ります〜!




