第93話 余計なこと
今回のお話は雫ちゃん視点になります〜。
文化祭のお話が終わったあと、番外編として春奈ちゃんの修学旅行編を書くことにします〜!
紅葉ちゃんが熱で休んでしまった翌日、学校に来た紅葉ちゃんの様子はどこか変だった。
簡単に言えば、私と全く目を合わせてくれない。
ただでさえ昨日、お見舞いに行こうとしたら断られてしまっているし。
私がなにかして怒らせてしまったのかもしれない…。
どこかで謝りたいと思っても、原因が全くわからないんじゃ謝りようが無いし…。
「ねぇ。紅葉ちゃんの様子変じゃ無い?気のせい?」
奥田さんがそう言い出したのは、紅葉ちゃんが鈴音先輩を押してどこかへ行ってしまった後だった。
やっぱりなにかおかしいと思ってたのは私だけじゃ無いみたいだ。
鈴音先輩がどんな理由で呼び出したのかは知らないけど、紅葉ちゃんが帰ってくるまでに皐月さんも含めたこの2人から、何かしら情報を集めないと…。
「昨日なにかあったのか?思えば、一昨日の放課後くらいからちょっとおかしかったけど?」
「一昨日…。緑川さんが急にイメチェンした日?」
「やっぱり私がなにかしちゃったのかな?でも、全然心当たりがないんだけど…」
「緑川のイメージがガラッと変わったのが本当は嫌だったとか?でも、そんな感じは見えないもんな〜」
大体、このイメチェンは紅葉ちゃんがこの前凄く喜んでたから決行しただけで、嫌がられるのなら…すぐにでも止める。
皐月さんが奥田さんのことが好きだと発覚した今、私が紅葉ちゃんを射止めるにはこのタイミングしかない。
奥田さんにはまだ少し不安要素があるし、できるだけ早く私の気持ちを伝えておかないと、下手したら奥田さんに取られてしまうかもしれない。
だから、奥田さんの隠し球がなんだったとしても大丈夫なように、できるだけ紅葉ちゃんを私に傾けておく必要がある。
まだ紅葉ちゃんは私のこと友達止まりかもしれないんだし…。
「でも、見てる感じ紅葉ちゃんが何かに怒ってるって訳じゃないと思うよ?紅葉ちゃんが本気で怒ってるところなんて、一回しか見たことないし...」
「あ〜はいはい。その話は良いって。で?怒ってないなら、なんであんなに緑川を避けてるんだ?」
「あ…やっぱり私避けられてるの?嫌われちゃったのかな…」
「だから、そんな感じには見えないって美月も言ってるだろ?本人に聞くのが1番手っ取り早いんだろうけどなぁ…」
その本人と会話すらできそうにない今の状況で、どうやって聞けと…。
中学生時代はこんなに周りに人がいなかったからなんとも思わなかったけど、大事な人ができた時、その人に避けられるとこんなに心に来るんだ…。
こんなに辛い気持ちになるなんて…中学時代の私からしてみれば考えられなかったなぁ…。
あの時も友達なんて片手があれば数えられる程度だったし、今連絡をとってる人なんていない。
「私らから聞いてみようか?なんで緑川を避けてるのか」
「そうして貰えると凄く嬉しいけど…でも、私がなにか嫌われるようなことをしちゃったなら、皐月さん達の力を借りるわけには…」
「じゃあ、紅葉とあんな微妙な関係のままでいいのか?多分時期的にもうすぐ席替えだぞ?席が遠くなれば、話す機会も減るんだぞ?」
「それは…そうかもだけど…」
でも、そのために皐月さん達の力を借りるっていうのは…。
せめて、自分の力でなんとかして見て、どうにもならなかった時初めて2人の力を借りるべきなんじゃないかって思う。
私が何かしちゃったことが原因なんだとしたら、なおさら自分で解決しないといけないと思うし…。
しかも、今の状態だと文化祭を一緒に回ろうって誘いにくい。
奥田さんが一緒になっても良いから、文化祭は紅葉ちゃんと回りたい...。
「あ…帰ってきた。どうだった?何言われたんだ?」
「え!?あ…いや別に…」
「紅葉ちゃん…」
「あ!ごめん!私用事あるの思い出した!」
そう言いながら慌てて教室の前の扉から出て行こうとした紅葉ちゃんは、廊下に出た瞬間誰かとぶつかったらしく、ごめんと謝りながら再び走って行ってしまった。
やっぱり私が何かしちゃったのかな…。どうしよう…。こういう時どうやったら解決できるのか分かんない。
小学校の時も中学校の時も、友達となにかあっても別に気にしなかったから、こうやって気にしたのは初めてだ。
だから、さっきは自分の力で〜とか偉そうなこと言ってたけど、実際のところどうやればいいか全く分からない。
その時、カバンの中から携帯が鳴る音がした。
もしかしたら紅葉ちゃんかも!と思って急いで携帯を取り出した私は、鈴音先輩からの電話だったことにかなりガッカリした。
「もしもし…?」
「露骨に残念そうな声で出るなって〜。紅葉もそうだけど、緑川も大概分かりやすいよな〜」
「別にそこはどうでも良いんですよ…。要件はなんですか?」
「ん?ああ〜放課後、部室に1人で来てくれ。他の連中には今日も休みって伝えとくから」
「それはまたなんでですか…」
「ん?それはその時のお楽しみな〜」
そう言うと、鈴音先輩は一方的に電話を切ってしまった。
なんのことか全く分からなかったけど、とりあえず放課後部室に行かないといけないらしい。
なんの話をされるのか少しだけ怖い。
あの先輩のことだから、さっき紅葉ちゃんを呼び出した時に、また変なことを聞いたんだろう。
はぁ…。何言われるんだろ…。
◇ ◇ ◇
そして放課後、相変わらず紅葉ちゃんに避けられ続けた私は、少し涙目になりながら部室に向かっていた。
お昼休みも、授業中でさえ好きな人に目も向けてもらえないって…結構心に来るって言うか…。凄く辛い。
本当なら、今すぐにでも帰ってベットでうずくまりたいのに…。
「それでそれで?明日は何時頃帰って来るんだ?」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか…。確か、昼頃にはそっちに着く予定ですけど…」
「じゃあ久しぶりに一緒に帰ろうな!本当なら私の家に来て欲しいんだけど…」
「嫌ですよ!なんで4日離れただけでそんなに寂しそうなんですか!?初日から寂しいなんて送って来て!恵達にに呆れられてますよ!?」
部室の前に来たら…なんでだか中から鈴音先輩の嬉しそうな声と、今は修学旅行中でいないはずの春奈先輩の声が聞こえて来るんだけど。
恐る恐る部室のドアをノックしてみると、中から鈴音先輩のどうぞと言う声が聞こえて来た。
「お邪魔します…」
返事が聞こえたから部室の中を覗いてみると、案の定鈴音先輩は、春奈先輩とビデオ通話で会話していた。
本当に、この人たちはいっつもイチャついてるなぁ…。どんだけラブラブなの?
「あ〜もうそんな時間か〜。じゃあ春奈また夜な!」
「え!?夜も電話するんですか!?同部屋の子達に変な目で見られるのでちょっとあれなんですけど!」
「じゃあな〜!」
またも通話を一方的に切った先輩は、私を目の前の席に座るように指示した。
いつもこの部室に来ると、この人たちのイチャつきを目撃するんだけど、ワザとやってるの?
「いつも緑川たちが変なタイミングで入って来るってだけ〜。別にずっとイチャついてる訳じゃないんだからさ〜!」
「全く説得力ないですよ?現に今も時間忘れてイチャついてましたよね?」
「だって春奈いないと学校なんて寂しくてやってけないんだもん。疲れたから励ましてもらってたの〜」
「はぁ。もう分かりました。それで?私を呼び出した理由を聞いても良いですか?」
「ん?ああ〜今日紅葉に緑川のことどう思ってるか聞いたんだけどさ〜」
ほら。やっぱり余計なこと聞いてるし…。
私別にこの先輩に何も頼んでないんですけど…。なんでまた勝手に…。
「だって昨日小説用のアカウントの方で色々書いてたじゃん。面白いから…じゃなくて、力になりたいな〜って!」
「本音漏れてますよ…。っていうか、私のあのアカウント監視するのやめてもらって良いですか!?」
「失敬な。別に監視してる訳じゃないって〜。私が元々あの小説読んでて、偶然それが緑川が書いてるやつだったってだけ〜。百合系の小説とか結構好きだしな〜私」
「先輩がだんだんと狼少年に見えて来ましたよ…。一応信じますけど…」
嘘だ。全く信じられない。
確かに先輩のアカウントは結構前からコメントとかをくれてたから知ってるけど、朱音先輩みたいな有名な作品を書いてる訳じゃないし、偶然私のを見つけたっていうのはどうにも…。
だけど、そこのところを深く考える前に、鈴音先輩は本題に入ってしまった。
このことはとりあえず保留にしておいて、後で朱音先輩にでも聞いてみることにしよう。あの人なら何か知ってるかもだし。
「それでな?紅葉がなんて言ったかだけど〜」
「はい…」
「別に緑川が何かしたとかじゃないらしいぞ?むしろ、大好きだから避けてるって〜」
「…。絶対嘘ですよね!?紅葉ちゃんがそんなこと言う訳無いじゃないですか!」
あの恥ずかしがり屋で…小動物みたいな子が、そんなにストレートなこと言うわけがない。
本当にこの先輩は…。いや、嬉しいけど!嬉しいけどさ!
「いや〜流石にわかる?」
「誰でも分かりますって!紅葉ちゃんがそんなこと言うわけないですもん…」
「でも〜それに近いことは言ってたぞ?ちなみにこれ本当な」
「…。今までの発言で信じろと言う方が無理なんですけど…」
「まぁ別に信じないならそれで良いけど、小学生とか中学生がよく言うだろ?好き避けだっけ?多分紅葉の場合、それだと思うぞ?」
紅葉ちゃんはもう高校生ですけど…。そんな子供みたいなことするかな…。
いや、確かに駅で迷子になるなんて高校生じゃあんまり考えられないんだけどさ!
それこそ、好きな子には意地悪したくなるみたいな意味不明の理論と全く同じなんですけど…。
日頃の紅葉ちゃんを見てると、あり得なくはないって思えるのがまた怖い…。
っていうか、それが本当なら紅葉ちゃんが私のこと好きってことになるじゃん!
「朝も言ったけどさ。緑川と紅葉ってやっぱ似てるよな〜。すぐ顔に出るところとか」
「それは…否定はできませんけど…」
「まぁ良かったじゃん。好きな相手に好きって言われたようなものなんだから〜」
「いやまだ紅葉ちゃんが私のことを好きだって信じた訳じゃないですよ…。ただ…そうだったら嬉しいなってだけで…」
相手が鈴音先輩じゃなくて、朱音先輩とかにこのことを言われたなら、それこそ飛び上がって喜ぶけど、相手がこの先輩じゃ…。
正直言って、本当かどうか判断がつかない。
こう言うところで日頃の行いが出るんだ…。
「ん?春奈から電話…。ちょっと待ってな?」
「え?あ…はい…」
「もしもし?どした?」
本当かどうか判断がつかないのに、なんでこんな微妙なことを伝えてくるんだろうこの先輩は…。
明日から余計紅葉ちゃんと顔合わせにくくなるじゃんか…。
「はぁ?またはぐれたのか?昨日とかもはぐれたって言ってたよな?その時に連絡先とか交換しなかったのか?」
「あの…どうかしましたか?」
「ん?ああごめん。とりあえず要件は話し終えたから帰って良いぞ?こっちは春奈が班の人と離れたって」
紅葉ちゃんみたいだなぁ…。まぁ、とりあえず2人きりだね?とか言い出してイチャつき出す前にさっさと帰ろう。
そして思った通り、私が部室を出た直後、鈴音先輩の嬉しそうな声が聞こえてきた。
本当にイチャつき始めたし…。もうあの先輩たち嫌なんですけど…。
私はと言うと、帰り道、先輩の言動が本当かどうか分からないせいで余計に色々考えてしまった。
それは家に帰っても同じで、結局夜まで考えた結果朱音先輩に聞いた方が早いと、明日の朝に聞きに行くことにした。
もっと早くこの答えに辿り着けばよかった…。
次回のお話は10月13日の0時に更新します。
春奈ちゃんと鈴音先輩のイチャつきは修学旅行編でまた改めて書きます〜!
お楽しみに(`・ω・´)




