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第86話 私のヒーロー

今回も皐月ちゃん視点でのお話です。



部室に美月が入ってきて3分か5分くらいするまで、私達の間にはなんだか気まずい雰囲気が流れていた。


美月は急に呼び出されてまだ何が起こってるのか分かってない様子だし、私は目の前の状況で何をすれば良いのかわからない状態だった。


「ねぇ…なんで泣いてるの?」


そんな空気を壊したのは美月のそんな言葉だった。


忘れてたけど、私はさっきまで鈴音先輩とかなり激しく言い合ってた。

その過程で結構派手に泣いてしまったから、顔にバッチリ涙の跡がついてる。


「ん…。ちょっとな。色々あったんだよ」


「大丈夫?昨日も休んでたし、何かあったの?」


「なんもないって。ちょっと熱出しただけだから」


「…。そう。じゃあさっきの鈴音先輩は?許すとかなんとか言ってなかった?」


結局その話になるのか…。この状況で誤魔化すのはそう難しいことじゃない。

一言「なんでもない」と言えばいい。


ただ、ここで誤魔化したとしても後々凛から伝わるんだろう。その時は私と美月の今の関係は終わってしまう。


こう言う場合、私はどうするのが正解なんだろう。

正直に先輩と話してたことを話す?いや、なんて説明したら良いのか分からない…。


なんでもないととりあえず誤魔化す?それもさっき言った理由であまりやりたくはない。

こんな状況を作った張本人なんだからせめてあの先輩は残って欲しかった…。


どうすれば良いのか私が悩んでいると、なんでだか美月が少し怒ったように予想外のことを言ってきた。


「はぁ…。私昨日凛から聞いたよ?まだ私が虐められてた時のこと悩んでるって…。そのことと何か関係あるの?」


「は!?いや…それは…」


なんでバラしてんだ凛のやつ…。

今日まで待つとか言ってなかったか…?


「図星なんだね…。私が気にしてないって言ってるのに納得してなかったあの時に気付くべきだった…。ごめんね?」


「なんで美月が謝るんだよ…。そうじゃなくて…」


「思えばあの時からだよね。皐月がそんな変な喋り方するようになったの…。今考えたらその理由がなんとなくわかる。皐月のことだから、弱い女の子としての自分を封印して、無理やりにでも男の子みたいになろうとか思ったんでしょ?相変わらず意味わかんない理論だよねそれ」


「別にこれはそんな理由じゃなくて…。っていうか、凛のからどこまで聞いたんだよ…」


私が美月のことで悩んでるのは伝わってしまったらしいからその件に関してはもう仕方ないとして。


大事なのはもう一個の方だ。私の気持ちまで凛が話してしまってるんならもう…ダメだ。

私はこの先どうやって美月と会えば良いか分からなくなる…。


「皐月がその件で変に抱え込んで熱出して、私と付き合う資格がないとか言ってた〜って聞いてるけど?」


「そっか…」


「そっかじゃないでしょ?ちゃんと説明してくれる?私はあの時、気にしてないって言ったよね?それなのになんでまだ皐月が気にしてるの?」


「美月が気にしてないって言ってくれても、私的には納得できなかったってだけの話だ。こればっかりは気持ちの問題だろ?」


「なにそれ!全然分かんない!なんでそんな大事なことを何年も1人で抱え込んで相談してくれないの?私には無理かもしれないけど、凛には出来たでしょ!?」


昨日凛からもおんなじことを言われたような気がするな…。

仕方ないじゃんか。いつも偉そうにしてるのに、こんな時だけ凛に頼るなんてダサいこと…したくない。


つまらない理由って思うかもしれないけど、私にとっては大事なことだったんだ…。


結局全部バレてしまって、今こんな状況になってるんだから、自分の小さなプライドなんか捨ててればよかったって後悔しても遅い。


結局、自業自得なんだ。私って、自分のしてきたことに関して後悔すること多いな…。


「ねぇ…。皐月前に言ってくれたよね?『紅葉ちゃんは私にとっても特別な人だから協力する』って…。あれってこう言うことだったの?自分には出来なかったことが紅葉ちゃんには出来た。私の恩人だからそんな気持ちで手伝ってくれてたの?」


「なんでそんなに泣きそうな顔してんだよ…。美月が泣くこと無いだろ…」


「悲しいんだよ!親友だと思ってたのに!皐月は違ったんだって!私のこと、ただあの時の後悔が原因で付き合ってくれてたなんて!」


それは違う…。それは違うんだ...。

確かに、美月に最初に近付いたのは邪な思いからだったり、紅葉とのことを応援してたのもあの時の後悔からだった。


だけど、美月のことを友達…いや親友だと思ってたのは私も同じなんだ…。

そう言えたら…どんなに良かったか。


全面的に私が悪いのに、自分の好きな人を泣かせておいて、そんなこと言えるわけない。


「なんでなにも言ってくれないの…?私は…どうすれば良かった?どうすれば皐月を…こんなに追い詰めずに済んだの?」


「別に…美月はなにも悪くない。悪いのは私だ。プールで美月が紅葉を助けたって聞いた時な?正直すごいと思ったんだ。私だったら出来たかなって…。実際数年前は出来なかった。そんな私が…なにやってんだろって…」


「どう言うこと?」


ここで、私が美月のことを好きだって伝えても良いものなのか、一瞬だけ迷ってしまった。


今は美月にとって大事な時期だ。文化祭前に紅葉に自分のことを話すかどうかの大事な時期。


そんなところに急に私が入り込んで…大丈夫なのかって。

もう十分なってるかもしれないけど、美月の重荷にはなりたくなかった。


だけど、このことを話さないと上手く説明が出来そうにない。

私はそんなに器用な性格じゃないから…。告白して、おとなしく引き下がるしか今の私には思いつかなかった。


「私さ…中学の頃から美月のことが好きだったんだ。だから余計に、自分が許せなかったんだ…」


「…え?ごめんちょっと待って…」


「笑っちゃうだろ?自分の好きな人で、大切な友達だった美月を自分で助けられずに、顔も知らない他人に助けてもらうなんて。そんな私が…美月と付き合うなんて到底無理な話だ。ましてや、美月を助けてくれたヒーローを差し置いて私が横入りするのは…」


「ずっと…そう思ってたの…?」


「なにも最初からそう思ってたわけじゃない。最初は本気で、相手が紅葉ならしょうがないって思ってた。だけど、最近はその気持ちすら本心だったのか分からなくなってきたんだ…」


本気で紅葉なら大丈夫。仕方ないって思ってたのか、それとも自分にそう言い聞かせてただけだったのか、自分でも分からなくなってしまった。


こんなこと伝えたら…いくら優しい美月でも、私から離れていってしまうかもしれない。


だけど、それは美月にとっては良い選択かもしれない。

今は大事な時期なんだ。私より紅葉の方を優先して、私なんかとは付き合うのをやめるかもしれない。


そうなったら私は…1人になるけど…自分が招いたことなんだ。仕方ないって受け止めるしかない。


「なんで…?なんでそんなに辛そうなの…?」


「分かんない…。ただ、美月が私から離れていくって考えたら…結構キツイなって…」


こんな状態になると、もうまともに美月の顔が見れなくなった。

目の前が真っ暗になって、もうなにも見えなくなっていた。


まだ朝の8時前なのに、夜中街灯もない道を歩いてる時のような、そんな感覚陥ってしまった。


そんな私を見て呆れたのか、目の前から椅子を引く音が聞こえてきた。

美月が出ていってしまうんだ…。なにやってんだろ私…。美月が帰ったらさっさと家に帰ろう…。


そう思っていると、急に後ろから抱きしめられた。

相手が誰なのか、顔を見なくても後ろから香ってくる優しい匂いで分かる。美月だ...。


「バカ…。離れるわけないでしょ…。私達親友でしょ?」


「美月…。でも私は…!」


「皐月がどう思っていようが、私はあなたの親友だから…」


「だからって…!」


「皐月が納得できないんだったら、こうしよ!これからは、隠し事禁止!いっぱいワガママも聞いてもらう!凛のこともこれまで以上に任せる!それで良いでしょ?」


「そんなことじゃ私は…」


「皐月さ。私のこと好きでいてくれてるんでしょ?だったら、これ以上好きな人苦しめないで?良い?」


そう言われた瞬間、今日初めて嬉しくて涙が出てきた。


それからしばらく、好きな人に宥められながら派手に泣くという…あとでこの状況を思い出したら死にたくなるようなことが10分以上続いた。


「落ち着いた…?」


「少しは…」


「なら、最初のワガママを聞いてもらうよ?」


やっと泣き止んで、しゃっくりが出ている私に対して、美月はそんなことを言ってきた。

涙をぬぐいながらなにを言われるのか身構えていると、これまた意外なことを言われた。


「これからは、そんな無理した喋り方じゃなくて、普通に喋ってほしい。もちろん、今の喋り方が無理してないっていうんならそれでも良いけど、私は前の方が好きだったよ!」


「…。今回の件で改めて分かった…。やっぱり私が好きな人は、途方もなく優しくて、すっごく可愛いって」


「それ!ストレートにいうのやめてくれない!?結構恥ずかしいんだけど!」


「隠し事は無しって言われたんだもん。美月が紅葉に惚れてるのと同じ理由で、私は更に美月のことが好きになったんだから〜」


もちろん、美月と紅葉の関係を邪魔するようなことはしない。


だけど、美月のことを好きだってもう本人にもバレたんだし…紅葉じゃなくて、私を好きになってもらうようにこれからは頑張ることにした。


そんなことは知らないで、顔を真っ赤にしてる美月に今日一番のとびきりの笑顔を見せた。

それで更に耳まで赤くした後、美月はたまらず部室を出て行った。


私は少しだけその場に残って、気持ちを落ち着かせてから教室に戻った。


結局凛は3限目が始まるのと同時に教室に入ってきたけど、私と美月の様子を見て、どこか安心したように笑っていた。

もちろん、凛にもちゃんと黙っててごめんと謝った。


その日は久しぶりに、本当に久しぶりに美月の前で本当の意味で笑えた気がした。

次回のお話は9月21日の0時に更新します。


22日の0時か迷ったんですけど、あんまり変わんないかなと思って...。

これからは3日おきの0時に更新します〜!


今回のお話どうでしたでしょうか...?

いい感じにできていたら嬉しいんですが|ू•ω•)チラッ

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