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第85話 揺らぐ気持ち

今回のお話も皐月ちゃん視点でのお話になります。

翌日の朝、昨日凛に言われたことをずっと考えていたせいで全く眠れなかった私は、いつもより早く葉月を起こした。


まだ少しだけ熱はあったけど今日学校に行かないと、最悪の場合問答無用で私は全てを失うかもしれない。


葉月はまだ休んで欲しそうだったけど、朝ごはんだけパッと作って私は家を出た。

まだ朝の7時を少し過ぎた頃っていう絶対に早すぎる時間だけど、早く学校に行って色々考えたい。


少なくとも誰かがいる教室なんかで考えられる内容じゃ無いし。


学校の校門がまだ開いてないかもと歩いてる途中に気付いたけど引き返してもしょうがない。

そう割り切って考えたのが良かったのか、運良くすでに校門は開いていた。


教室に上って見ると、以外にも1人だけ私より先に来ていた。

だけどその1人は、誰の席か知らないけど、自分の席の隣で寝ていた。


「こんなに早く来てんのになんで爆睡してんだよ…」


机に突っ伏して爆睡してるその1人とは、一緒に文化祭で店番をすることになってる霧島さんだった。


確か霜月がこの子はどこか抜けてるとか言ってたっけ?

それにしても…私が男子だったらこの子はどうするつもりだったんだ?


このクラスに男子はバカばっかりだから変なことされないとも限らないのに…。

何回か告白されてるとか聞いたことあるけど…こんな姿みたらそりゃ好きになるのもなんとなく分かる気がする…。


とりあえず、こんなところで1人悩んでても仕方ない。

とりあえず文芸部の部室にでも行ってみよう。図書室はまだ開いてないし。


そんなところしか頼るところがないなんて…なんだかなぁ。


文芸部の部室の前に着くと、なぜだか電気がついていた。

なんかすっごい嫌な予感がするけど、一旦ノックだけして中から反応があるかだけ伺って見る。


「おう。良いぞ〜」


そう聞こえて来たから入ったのに、部室のドアを開けた瞬間目に飛び込んで来た光景は前に見たのと似たような感じだった。


前は確か鈴音先輩?の方が壁ドンされてる側だったけど、今回は壁ドンしてる側だった。

相手はもちろん…前回と同じで。


「…。確か私は良いと言われたので入って来たんですけど?」


「あ〜こんなに早く来るってことは朱音かな〜って。朱音ならなんともないだろうしな!」


「この間怒られたばっかりですよね!?っていうかなんでこんな状況で良いなんて言うんですか!?」


「すいません。出直します…」


ここがダメならもう女子トイレとか…まだ少しだけ暑いけど非常階段とかに行くしかない…。


っていうか、なんでこんな朝早くからイチャついてんだこの人たちは…。

ラブラブで良いな!私はかなりやばい状況なのに!


「別に良いって。春奈〜この続きはまた今度な!」


「いやまた今度って!明後日の遊園地で何かする気ですか!?」


「別に誰も遊園地でとか言ってないんだけどなぁ〜?そっか!遊園地で色々して欲しいんだな!?も〜可愛いなぁ〜!」


「もう良いです!ほんとに…」


そう言いながら顔を真っ赤にして出て行った春奈先輩とは反対に、鈴音先輩はニヤニヤしながら残った。


え?私1人にしてくれるんじゃなくて残るの!?

思わず自分の体を抱いて少しだけ身構えたけど、鈴音先輩は春奈先輩以外には興味がないらしく、少しだけ変な目で見られた。


あなたならやりかねないと思ったからそうしたんですけど…。

あなたの普段の行いが悪いんです…。


「春奈が可愛いんだから仕方ないだろ?どんな大人しい動物でもご飯前にしたら必死に食べるだろ?あれと同じだ」


「いやその例えだと先輩が春奈先輩食べてるみたいに聞こえるんですけど…」


「食べたくなるくらい好きって言葉あるだろ?あれって本当だったんだって最近思ったぞ。まぁこんな話は置いといてだ。ここに何しに来たんだ?こんな朝から本とか読みに来たわけじゃないだろ?」


朝から濃厚なイチャつきしてた人にだけは言われたくないんですけど…。

その言葉を私は必死で飲み込んだ。

なんか、ここで言ってしまうと長い惚気が始まりそうだったから。


だけど、本当の理由をこの先輩に話してしまっても良いのか迷う。美月には言わないでくれるかもしれないけど…なんか嫌だ…。


「あの子のことか?昨日来た...あれ名前なんだっけな」


「…。美月のことですか?」


「そうそう!自分の好きな人のことで悩んでるんだろ?昨日本人見て分かったけど、あの子も紅葉のこと好きなんだな〜。確かにその立場ならキツイわな〜」


「は!?ちょっと待ってください!なんで私が美月のこと好きだってことになるんですか!?今は状況があれなので好きなこと自体否定はしないですけど、なんでこう皆にバレるんですか!?」


少しだけ考えた後、鈴音先輩は昨日の凛と同じようなことを言ってきた。

正確には、私が最初に鈴音先輩に美月のことを話した時から気付いていたらしい。


そんなに分かりやすいかな…。自分ではそんな自覚全く無かったんだけど。


「緑川と同等くらいに分かりやすいぞ?あの子に関してはもうバレるの覚悟でアタックしろって言って見たけど、意外とうまくいってるらしいな」


「最近急に活発になったのはあなたのせいだったんですか…」


「そうそう。でも、今もそうだけど少しだけ嬉しそうだよな。自分で気付いてないのか?」


そう言われて初めて自分が少しだけホッとしてることに気付いた。

最近こんなことばっかりだ。もう私は、自分がどうしたいのか全く分からない。


自分が美月と紅葉のことを応援したいのか、それとも応援したくないのかすら分からない。


「なぁ。お前もしかして、今自分がどうしたいのか分かってないのか?」


「…。そうだって言ったらどうしますか?私はもう私がどうすれば良いのか分かりません…。紅葉のことが嫌いとか全然そんなのじゃないのに、美月と話してるところを見ると時々悲しくなります…。だけど私は立場上、美月と紅葉を緑川より先にくっつけないと行けません」


「なんだそのラブコメみたいな展開。今時そんな複雑なラブコメなんて滅多に見ないぞ?」


「そんなの知りませんよ…。ラブコメじゃないんだから創作物として考えられても困ります…」


「そんなの分かってるって。ものの例えだろ?そうだな〜。アドバイスかなんかが欲しくてここに来たのか?ここなら結奈とかメグとか割とまともな人もいるからな」


自分でまともじゃないって分かってるんだ…。

朝から学校の部室でイチャつくのがまともとか言われたら今の私は即刻帰りそうだけど。


でも、別にアドバイスを求めにここに来たわけじゃない。

そりゃもらえるならありがたいけど、今のこの状況は、私自身からでも充分分かるくらい複雑だ。


そんな中で、ただ数回話を聞いただけの人にまともなアドバイスを求めても仕方ないような気がする…。


「まぁいいや。なら独り言だと思ってこれから私が言うことは流してくれ」


「?はい…」


「何かの本で読んだことがあるんだ。人生は一度きりだから、自分が本当にやりたいこと以外は極論やらない方が人生は楽しいってな。一時期私は春奈と離れてたんだけど、その時めっちゃ寂しくてな?結構最初の方は夜とか1人で泣いてたんだよ」


「そうなんですか…」


「だけどその言葉を知ってな?もう一回春奈に会ったら、今まで我慢してたこととか、これからやりたいことは全部やることにした。勿論春奈が嫌がることはしないってちゃんと節度は守ってな?」


若干守れてないような気がするけど今はそれを言っても仕方ない。

黙ってその先を聞くことにした。


「それからは、また春奈に会えるようになったらなにしようとか色々考えるだけで2年か3年あっという間だった。夜に寂しくて泣くことも減った。まぁたまに凄い寂しくなって泣いてたんだけどな」


「それ何年前の話ですか…?」


「私らがまだ小学生の時だ。それで、今恋愛で困ってる下級生がいるんだけどな?その子は過去になにかやらかしてるのか知らないけど、好きな子に手を出そうとしてない。あまつさえ自分の好きな人の恋路を応援しようとしてる」


「...悪いですか?それが私が選んだ道なんです。私がやってしまったことに対する、私なりの責任の取り方なんです」


「誰もお前の話とは言ってないだろ?あくまで独り言だ。続けるぞ?私は自分がしたくないことはしない主義だ。バイトとかに関しては、したくはないけど春奈と色々なとこに出掛けるためにはしないと行けない。そう言うのは回り回って自分に利として返ってくる。だけど、その下級生のやってることは」


「成就すれば自分が辛くなって、成就しなければしないで失恋した自分の想い人を見ることになってどっちみち不幸になると?そう言いたいんですか?」


そんなこと私だって分かってる。自分の歩く道には私が幸せになる未来なんてない。


私1人が不幸になるか、美月も一緒に不幸になってしまうかの道しかない。

だからこそ、私1人が不幸になる道を必死で歩いてるんだ。


いくつ美月も一緒に不幸になる道に進む分岐点があったとしても、絶対に曲がったりしない。

不幸になるのは、あの時勇気が出せなかった私だけで十分なんだ。


「その子の恋が実るのを下級生の子自身が心の底から思ってるなら私は何も言わない。それは自分がしたくてやっている事なんだからな。だけど、そうじゃない。自分がどうしたいのか、自分の気持ちが分からなくなってるほど追い詰められてる。そんなのおかしいだろ?」


「私は別に!本当に結ばれればいいって!だからそのために色々考えて!」


「だったらなんでそんなに辛い顔してんだ?私や紅葉には別に嘘ついてもいい。なんなら親にもな。ただな?自分や、自分が好きな人にまで嘘をつくのは違うだろ?自分の気持ちを抑えるのも時には大切だ。それは否定しない」


「...」


「だけど自分が辛くなるほど、そんなに追い詰められるほど我慢なんてしなくて良いんじゃないか?」


「そんなこと言われても!もう遅いじゃないですか!私がしてしまったことは…一歩間違えてたら取り返しがつかなかったんです!そんな私が幸せになって良いはずないでしょ!?」


目の前にいる先輩に、昨日枯れたはずの涙を必死で流しながら訴えた。

昨日も凛に同じようなことを言われて、少しだけ私が間違っているのかもしれないと思うようになってきた。


だけど、本当に私は許されて良いのか、その答えが私には出せない…。


「はぁ。良いか?お前が過去に何をしたのか知らないけど、それを心から後悔してるならもう充分だろ?後悔してないならいざ知らず、お前はこれ以上ないって言うくらい。いや、後悔しすぎだって位後悔してる。それなのになんでまだ自分を不幸にしようとする?」


「だって!」


「だってじゃないだろ!それは自分を不幸にしてまですることじゃないだろ!?これからもそうやって、自分が幸せになる権利がないとか厨二病みたいなこと言って生きてくのか?」


「そんなこと言われても!私は!」


そこまで言って、部室のドアがノックされた。

私が涙を拭くより前に、鈴音先輩がドアの前にいる人に入ってくるよう促した。


相手が誰だか分かってるらしい。

とにかく、私はここから一旦出よう…。


そう思って私が席を立つのと、ドアが開くのはほぼ同時だった。

そして、開かれたドアの奥にいたのは、全力で走ってきたのか髪が乱れた美月だった。


「美月…なんで…?」


「先輩に皐月がどうしても伝えたいことがあるから走ってこいって…」


そう言われて鈴音先輩の方を見てみると、ちょっとだけ笑いながら席を立った。

先輩が座ってた席に美月を座らせて、自分は出ていくらしい。


「許されるかどうかは私が決めることじゃない。2人で話し合ってみるんだな。余計なお世話かもしれないけど、私は執拗な自己犠牲は嫌いなんだ」


それだけ言うと、さっさと部室を出て行ってしまった。

残された私たちの間には、しばらくなんとも言えない空気が流れた。

次回のお話は9月19日の19時に更新します。


次のお話で皐月ちゃんのお話が一旦落ち着きます。

今度からは日付が変わるのと同時に更新されるようになります。


毎度のことですが後書きで次回予告?をして行きますのでこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m



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