第7話 恋愛相談
その日の私は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
いつもなら二度寝するけど、なぜか意識がはっきりとしていてとてもじゃないけど二度寝するなんて出来そうになかった。
携帯で今の時間を確認すると、まだ6時半だった。
なんだってこんなに早く起きてしまったのか…
心当たりが全くないかと言われたら嘘になっちゃうけど、本当にそうだとしたら私は、私自身がちょっとだけ怖くなってしまう。
だって、緑川さんとの一件が間違いなく影響していると思ってるんだもん。
雫ちゃ…雫ちゃんって呼ばせてくれたことがあまりにも嬉しくて、嬉しすぎて目が冴えてしまってる気がしてならない。
本当にそうなのかはわからないけど、そうだとしたら女の子相手になんでこんなにドキドキしちゃってるんだろう…
最近はこういうことが多い気がする。奥田さんにはこんな感情抱かないのに、雫ちゃん相手だったらなぜだか妙にドキドキしてしまう。
この気持ちの正体、そして早く起きすぎてしまったから朝ごはんまでどうやって時間を潰そうか考えて、雫ちゃんにお勧めしてもらった小説を読むことに決めた。
少しでも気持ちを落ち着けたくて読み始めたけれど、朝ごはんができたとお母さんが部屋まで呼びにきてくれるまでベットの上で悶絶しながら携帯を眺めていた。
小説はあんまり読んだことがないし、女の子同士の恋愛小説なのになんでか共感できる部分が多くて、最新話なんか妙に既視感というか、そんなのを感じて悶絶してしまっていた。
もどかしいというか、すっごく複雑というか。なんか、凄い。
部屋に入ってきたお母さんがどうしたの?とちょっとだけ引いてたし…
引かれちゃうのは今の私の状況から仕方ないかもしれないけど、純粋にこんな反応しちゃうんだから仕方ないじゃん!
今日は早く起きすぎていたことと、小説のせいで体温が多少高めになっていたからいつもみたいに毛布をかぶってリビングに降りるんじゃなくて、クマが描かれたパジャマだけを着てリビングに降りていた。
ちょっとだけ興奮しすぎちゃったかもしれない。朝からあの小説を読むのは刺激が強すぎる気がする…
これからは朝には絶対見ないようにしようと心に誓った。
いい作品ではあるんだろうけど……朝イチから見るとなんというか……興奮しすぎて良くないような気がする。
今も心なしか顔が赤くなっちゃってる気がするし…
朝ごはんを食べ終えた私は学校に行く準備をして、昨日や一昨日みたいに雫ちゃんから一緒に登校しようというお誘いが来るのを数分待っていたけれど、そんなメッセージが来ることはなかった。
そりゃそうだよね。昨日や一昨日は寝坊したから一緒に登校しない?って言ってたし…
しっかりしてる雫ちゃんが3日連続で寝坊するなんて考えられないし…
少しだけ残念に思いながら玄関へと向かう。
その時、制服の内ポケットに忍ばせていた携帯が鳴った。
私は変な期待をしながら携帯の画面をみると、そこには期待していた人物からのメッセージではなく、クラス委員の奥田さんからのメッセージだった。
「今日また2人でお話ししたいことがあるからお昼休みに図書室で会えない?」
というものだった。この前告白されてその返事についてどうしたらいいかの相談を受けたばかりだったから、その関連でまた相談したいことがあるのかもしれない。
そう思った私は、すぐにオッケーの返事を送った。
別にお昼休みに今の所予定は入ってないし、教室内で友達って言えるのは今の所奥田さんと雫ちゃんだけ。
もう少しだけ増やしたいとは思うけど、無理をしてでも友達は増やす必要ないし…
玄関を出た私は昨日と同様、照りつける太陽にまだ春なのにもう夏になってしまったかのような暖かさを感じた。
学校に行く道を間違えないように必死に今までの記憶を頼りに進んで行く。
なんで学校に通い始めて、もう一週間なのにまだ道すら覚えられてないのか自分でもわかんないけど覚えられないんだから仕方ないじゃんか!私が悪いんじゃないもん!
学校になんとかたどり着いた時、私の体力は残り少ししか残っていなかった。
雫ちゃんと登校したときはこんなに疲れなかったのになぁ…おかしい…。
教室に上がるとまた黒板に男の人同士のカップルを書いている子がいたけど、疲れ切っていた私はそんな落書きを少し見ただけでちょっと呆れてしまった。
なんでお絵描き帳を持ってきて描かないんだろう…
黒板で落書きをしていたのはこの間落書きしていた霜月あかりちゃんだった。
必死で落書きの続きを書いていたけど、その姿はいつもチャラチャラしてギャルっぽいイメージの彼女とは違って、凄く真面目に書いていた。才能の使い方をなんとなく間違えているような気もするけど…
席について横をみるとすでに雫ちゃんが本を読んでいた。
隣の席に座った私にはまるで気づいていない様子で、必死に読書を続けていた。
下の名前で呼ばせてもらったことをすごく気にしていた私は少し、いやだいぶ恥ずかしくなってしまって机に突っ伏してしまった。
登校の疲れもあったからなのか、HRが始まるまで起きることができなかった。
HRが始まってハッと目を覚ましたとき、雫ちゃんがこっちを見ていた気がしたけれどきっと気のせい。
その後の授業は久しぶりに?きちっと受けることができた。いや、普通は毎時間きちっと受けるんだろうけど、私は最近色々ありすぎて…。
きちっと受けることができたって言っても、4時間目は寝ちゃったけどね…。
現代社会はね。仕方ないよね。だって先生の話がわかんないんだもん。
お昼休みになって奥田さんが私を起こしてくれて一緒に図書室に向かった。
図書室には私達の他にカップルが一緒にお昼ご飯を食べている姿が何個かあった。
その中に私達も混ざり、まるで雫ちゃんがお勧めしてくれた小説の主人公とヒロインの子になっているみたいでちょっとだけ顔を赤くしてしまったのは内緒だ。
私だけこんな不純なことで顔を真っ赤にするなんて恥ずかしすぎる…
やっぱり話したいことっていうのは、お昼ご飯を食べた後に話してくれた。
内容は簡単にいうと恋愛相談だった。
私に恋愛相談なんてされても、私も付き合ったことなんてないし無理だって言ったんだけど、聞いてくれるだけでもいいって言ってくれたから……一応聞くだけ聞いてみた。
奥田さんには中学校の頃から好きな子がいるらしい。その子はいじめられていた女の子を助けたそうで…
その姿に彼女は惹かれたらしい。
私も正直そんな姿を見たら惹かれちゃう自信はある。だって、王子様みたいでかっこいいじゃん!
でも、本当にそんな男の子いるんだ…
でもその子とはある事情で連絡先も交換できずに卒業しちゃって、すごく後悔して忘れようとしてたら偶然この学校でその子を見たって。
で、なんとか連絡先は交換できたんだけど、その先どうしたらいいかな?って相談だった。
なんか……昔見た幼馴染の恋愛漫画みたいな話でキュンときちゃったけど、偶然この学校で見たってことは同級生にそんな男の子がいるってことなのかな?
誰なのか聞いて見たけど顔をちょっとだけ赤くして教えてくれなかった。
どうしたらいいかって言われても私にはなんて言ってあげたらいいか本当にわからない。
そんな時奥田さんが、みなちゃんがこういう状況で相手の男の子だったとしたらしてほしいことを言って欲しいな…って言ってくれた。
私が男の子だったとして、して欲しいことって言われても…
男の子のお友達なんていないし分かんないよぉ…。
でも、相手の人は奥田さんのことを中学生の時にいた子だって認識してないんだったらいきなりガツガツいってもあれだと思うし……お友達から初めて距離を縮めたほうがいいんじゃない?って当たり障りのないような答えしか出てこなかった。
せっかく私に話してくれたのに申し訳ないって気持ちでいっぱいになりながらそう答えると、満足したような顔でありがとう!って言ってくれた。
私の話が少しでも役に立てたならよかったけど、奥田さんなら普通に可愛いし告白してもなんか成功しそうな気がする。
奥田さんが惹かれる相手なら性格もきっといいだろうし…っていじめられてた女の子を助けてたっていうんだから性格が悪いはずがないか…
私の周りにはそんな男の子いなかったし、告白されたことだって今までで一度もない。
ちょっとだけ奥田さんのことを羨ましく思いながら一緒に教室に戻った。
私たちが教室に戻ったと同時に、入れ替わるように雫ちゃんが教室を出て行った。
すれ違った時、少しだけ悲しそうな感じがしたけど気の所為だと流してしまった。
奥田さんはすっごく喜んで自分の席に戻って行ったけど、私は少し微妙な気持ちで自分の席についた。
恋愛経験が全くない私が本当に役に立てたのかってすごく不安になりながら…。
7時間目の授業が終わって帰る用意をしていると、雫ちゃんがサーっと教室から出て行ってしまった。
なんとなく気になって後をつけてしまったけど、雫ちゃんは昇降口に向かうんじゃなくて職員室の方に向かって行った。
職員室に用事でもあるのかな?と思ってさらに後をついて行くと、職員室の横の教室に入って行った。
そこは、私が見学に行った文芸部の部室だった。
やっぱり雫ちゃんが興味を持ちそうな部活だと思った。多分この前言ってた見学をしに行ったんだと思う。昨日行かなかったのかな…?
私は職員室の前でそんなことを考えながらぼーっと立っていたから職員室から出てくる先生方にちょっと心配されちゃった。
そうこうしているうちに急に恥ずかしくなってきてしまってその場から逃げるように下校した。
家に帰った私は、今日1日を振り返ってベットに制服姿のままダイブして、何をしていたんだ一体…とちょっとに後悔と恥ずかしさに襲われていた。
その日は夜ご飯で呼ばれるまでの1時間ほどそうして過ごしてしまった。
夜に雫ちゃんから文芸部に入部することにしたよ!というメッセージが来て、すぐさま私も入部することを決意した。
その為にもう少し読書をしなければ…とも強く思った。