第74話 誕生日会 第3部
前半に少し鈴音ちゃん視点のお話がありますけど、オマケって感じで見ていただけると。
後半からは春菜ちゃん視点で本編が進みます。
春奈の好きなクッキーを作り終わって10分くらいした頃、家のチャイムが鳴った。
指定した時間より少しだけ早いけど、多分春奈だ。
「お!来た!」
カメラから外の様子を見て見ると、やっぱり春奈だった。
すぐに門を開けて、リビングに皆を残して春奈を迎えに行った。
「お邪魔します…。先輩」
「はいよ〜。でも春奈〜なんで顔赤いんだ?」
「それは…。分かって聞いてますよね?」
春奈には誕生日会が終わっても私の家に残って、今日は泊まってもらうことになってる。
春奈は多分、というか絶対にそのことを今でも恥ずかしがってる。
まぁ…そこがすっごい可愛いんだけど!
そしてお願いした通り、とびきり可愛い服で来てもらった。
本人達には内緒で緑川にもイメチェンさせたし、春奈もこんなに可愛いんだから、今日は色々面白くなりそう…。
「なんでそんなに笑ってるんですか...?なんだかすごく嫌な予感がするんですけど…」
「まぁまぁ!皆待ってるからいこ!」
春奈の腕をとって、半ば抱きつくみたいな形で一緒に歩いてリビングまで歩いて行った私は、春奈のいつもと違う香水の香りになんだか嬉しくなって、更にテンションが上がった。
私の可愛い彼女は、私が頼むか私とデートする時以外は基本オシャレはしてくれないから、今日はしてこないかもと心配して、花火大会の時に着てたやつを着てきてほしいとお願いした。
本人はちょっと恥ずかしそうだったけど、私はあの服を着てる春奈に告白されて、一種の思い出深い服になっていた。
「は〜い。主役が来たぞ〜!」
「お〜やっと来た…って、何やってんのあんたら…」
勢いよくリビングのドアを開いて、目の前にいた朱音が私たちの姿を見て一番最初に言った言葉がそれだった。
いつも以上に春奈にべったりくっついてる私が珍しいのか、さっきから春奈が恥ずかしそうに
「離れてください」
って小声で言ってるのが聞こえているのかは分からないけど、ため息をつきながら朱音はすぐに目を逸らした。
「ちょ!先輩!助けてくださいよ!」
必死にそういう春奈に、朱音は一瞬振り返ってごめんと手を合わせると、逃げるようにソファでテレビを見てる一年生組のところに避難した。
朱音がさっき言っていた
「今日は私たちにはなるべく口を出さない」
って言うのは本当だったらしい。
少しは何か言ってくるかもと覚悟していた私は、隣で希望が失われたみたいな顔をしてる春奈を見て、さらにベタベタすることにした。
◇ ◇ ◇
私が先輩の家に着いてから、妙にテンションが高い先輩にずっと密着されている状態のせいで、1時間もしないうちに私の精神は限界を迎えようとしていた。
花火大会の時と同じ服で来てほしいなんて言われて、そのせいでいつもより肌が出てる分、先輩のいろんなところが当たるからいつもよりドキドキするし!
「先輩…。なんで今日はそんなにテンションが高いんですか…」
さっきからずっと私の左手を握りながら笑っている先輩に、なんとか気力を振り絞って聞いて見たら、少しも照れることなく、むしろ満面の笑みで
「春奈が可愛すぎて抑えられなくて」
なんて言って来た。
大好きな人にそんな事を言われて、正気でいられるほど今の私には余裕がない…。
今日は私の誕生日なんだし、先輩もこんなんだから私が少しくらい無茶をしても許されるはず!と思い、目標でもある先輩をリードすることに決めた。
今は攻められっぱなしだけど…。
「先輩…。そんなこと言われたら私…我慢しませんよ…?」
「ん?良いぞ?我慢なんてしなくても〜」
「じゃあ!」
そう言いながら自分の唇を先輩の頬に近づけようとしたところで、急に恥ずかしさが来て断念してしまった。
多分今の私は、耳まで真っ赤だと思う。先輩は少しだけ不満そうだけど、今の私はそれどころじゃない…。
自分がしようとしたことが恥ずかしすぎて…もう耐えられない…。
「も〜。ちょっと期待したじゃん〜」
「やめてください…。魔がさしました…」
「は〜。お手本見せてあげようか?」
その言葉に驚いて逸らしていた顔を先輩の方に向けた途端、先輩の唇が私の左頬にあたる感触があった。
握られていた左手を離して、思わずその感触があったところに手を当てると、先輩が恥ずかしそうに苦笑いしてる姿が目に入った。
すぐに周りを見回してみると、朱音先輩と結奈はなんでもないように話してるけど、恵は頬を赤く染めながら私と目が合うとそっぽを向いてしまった。
一年生組は…緑川は紅葉の目を隠しながら顔を赤くしてるし、沙織は私がしようとしたところから目を背けてたのか、ずっと窓から庭を眺めていた。
周りにこんなに人がいるから余計に恥ずかしくて、私はその場に座り込んでしまった。
「どした春奈。急に座り込んで〜」
「誰のせいだと思ってるんですか…。私今日1日は持たないと思いますよ…」
「ん〜。それはそれで可愛いからあり!」
「あり!じゃないですよ!本当にもう…」
先輩が差し出してきた手は握らず、逃げるように恵の方に行った私は、まだ後ろで笑っている先輩を見て勝てる気がしないと思った。
これで何度目だろう…。先輩をリードしようとする度にこんな風に返り討ちにあってる気がする…。
恵に泣きついて助けを求めても、良かったね〜としか言われないから更に困る…。
「良かったじゃなくて!助けてってば…」
「え〜?でも嬉しいんでしょ?」
「嬉しいけど…だって違うじゃん!」
「ねぇ春奈…。私帰っても良い?後でお祝いはするからさ…」
「ねぇダメ…。お願いだからいて!私これからどうなるか怖いの…!」
「さっきのなんだかんだ言って嬉しかったんでしょ?ならほら。行っておいで?」
苦笑いしながらも先輩に手招きをしてる恵を見てると、告白とかに関しては色々してくれたけど、今だけは何もして欲しくないという気持ちが溢れてくる…。
確かにさっきのはびっくりしたけどやっぱり嬉しかったし…いつもよりテンションが高い先輩も可愛いけど…それとこれとは違うの!
先輩にされることが全部嬉しくたって、耐えられないの!
「春奈〜そろそろ緑川がプレゼントとか渡したいって言うから、ほらこっちきな?」
「プレゼント渡したら帰るとか言いそうで怖いんですけど…そんなことないですよね…?」
そう言いながら緑川の方を見ると、顔が赤い紅葉のことを眺めながら私と目が合うと、すぐに逸らしてしまった。
その態度で色々察したけど、多分プレゼント渡したら紅葉を連れてあの子は帰りそう…。
私と先輩のこと前から見てるし、多分耐えられないって思ってるんだろうなぁ…。私はこの後も耐えなきゃいけないのに…。
「嫌です私…。まだ受け取りたくないです…。帰られたら私が困ります…」
「バカなこと言ってないで〜ほら行くぞ〜」
「ちょ!先輩は他の人いなくなったら何する気ですか!?」
「ん〜?もっと良いこと?」
「私もすっごく帰りたいんですけど…」
私の言うことには耳も貸さず、私の好きなクッキーと結奈が買ってきたらしいお菓子が並べられたテーブルに連れていかれた。
そして、一年生組は全員顔を赤くしながら各々可愛くラッピングされた物を渡してくれた。
恵と結奈は、小さな封筒に入ったものをくれた。
これに関しては、すごく嫌な予感がする…。
「開けて良い?」
「はい…。私と紅葉ちゃんは同じものです。春奈先輩と鈴音先輩に1つずつ…」
開けて見ると、フレームが可愛く飾られた写真立てだった。
予想してたのか、私より鈴音先輩が喜んでたのを見て緑川は苦笑いをしていた。
沙織はお菓子の詰め合わせで、結奈と恵は予想した通り遊園地のペアチケットだった。
「お〜!結奈、メグありがと〜!」
「喜んでもらえて良かったです…。春奈も楽しんで来てね!」
「嫌な予感が当たった…。ありがと…」
遊園地で撮った写真とかをさっきもらった写真立てに入れて、お互いの部屋に飾ろうとか絶対言ってくる…。
そして案の定、ニコニコしながらそう言って来た先輩に、私は半分期待して、半分遊園地で何をされるんだろうと怖くなっていた。
残りの朱音先輩は2人で共有すれば良いと言いながら、少し小さめのアルバムを渡してくれた。
「嬉しいですけど…なんかすごく微妙な気持ちです…」
「私からは後で渡すな〜」
そう笑いながら言って来た先輩は、心底嬉しそうだった。
まぁ…私より喜んでたし先輩の方が特になりそうな物ばっかりだったけど…。
その後はケーキをみんなで食べたり、みんなで作ってくれたらしいクッキーを食べたりと楽しかった。
だけど、終始先輩が私をからかってくるせいで緑川と紅葉、さらには恵まで途中で帰ってしまった。
恵は後で埋め合わせするから!って謝りながら帰って言ったけど、正直私も帰りたい…。恥ずかしいし。
「よ〜し。そろそろ夕飯時だしお開きにするか?」
「そうね。片付けは手伝った方がいい?」
「いや大丈夫だぞ。今日はありがとな〜」
「そう?じゃあまたね」
そう言いながら何かを察した朱音先輩は、結奈を連れて帰ってしまった。
まだ5時なのにもう夕飯時なんて…。どれだけ私と2人きりになりたいのか…。
もう私ノックアウトされちゃってるんですけど…。
「何言ってるんだよ〜。これからこれから〜!」
「あの…本当に変なことはしませんよね…」
自分の体を手で覆いながらそう言うと、今度は満面の笑みで何も言わず、ただ淡々と後片付けを始めてしまった。
何も言わずに後片付けを始めるから、変なことをされそうで少しだけ身震いした。
次回のお話は7月17日の19時に更新します。
なんとなく察してる方もいるかも知れませんけど、次のお話が本編と言っていいかもです笑




