第72話 誕生日会 第1部
自分で言うのもなんですけど、最初の方に比べるとだいぶマシになったと思うんです。
どうでしょう。そんな事ないですかね...笑
春奈先輩の誕生日当日、しっかり目覚ましを5個かけたおかげで起きれた私は、今いつもみたいにニヤついてるお母さんと一緒に朝ごはんを食べていた。
数日前に雫ちゃんと一緒に出かけた夜なんか、もうすっごい言われたし。
「どうだった!?」
って家に入った瞬間笑顔で聞いて来たときは流石にげんなりしちゃったけど、その後の夜ごはんの時もそんな感じで聞いて来た。
お母さんに対しての好感度がここ最近でグッと下がってる気がする。
恋愛のことにならなければ普通なのに、なんでこういう事になっちゃうかな…。
「あのさ…そんなに笑われてると食べにくいんだけど…」
「大丈夫だって〜。お母さん今日1日大人しくしてるから〜」
「いつもは大人しくしてないみたいなこと言うのやめてくれる!?怖いんだけど…」
「最近冷たくない〜?お母さん何かした?」
自覚してないのかな…。現在進行形で私にニヤニヤしながら話しかけてるんだけど…。
どんどんお母さんが苦手になりそう…。どうしよう本当に。
雫ちゃんや美月ちゃん達をもう家に呼べないよ…。
「今日遅くなるんだったら連絡してね。夕食は皆で食べてくるんでしょ?」
「分かんないよ…。そこら辺全然説明されてないし…。結局先輩の家の場所送るって言われてたのにまだ送られて来てないから…」
「あなたは雫ちゃんと一緒に来るって分かってるから教えてないんじゃない?」
さらに笑いながらそう言ったお母さんに、確かにそうかも…。と思ってしまった私はすぐに後悔した。
それが顔に出てたのか、お母さんがなぜか知らないけど喜んだから…。
こういう時、なんて反応したらいいのか分からない...。どうすれば良いんだろう。
急いで朝ごはんを食べ終えた私は、お母さんから逃げるように自分の部屋に戻った。
とりあえず、お母さんの事は一旦置いておいて、雫ちゃんに先輩の家の場所を聞いてるかどうか確認しないといけない…。
後、また私の家の前で集合するとお母さんに色々言われてめんどくさくなるから、集合場所も違う場所にしようって話もしないと…。
メールではなく電話したのは、多分さっきあんなことを言われて雫ちゃんの声を聞きたかったのかも。いや、多分声が聞きたかったんだと思う。
「はいもしもし?」
「あ雫ちゃん!?私、私!」
「あ〜紅葉ちゃん?おはよ。どうしたの?」
「いや…雫ちゃんに聞きたいことがあってさ。私ね?先輩の家の場所教えられてないんだけど、雫ちゃんは知ってるかなって」
そう聞くと、雫ちゃんから帰って来た答えはお母さんが予想してた通りのものだった。
正確にいうと、紅葉と一緒に来いってなぜか電話で言われたらしい。
その理由は雫ちゃんもよくは分かってないみたい。ついでに言うなら、なんで集合時間がお昼なのかも気にしてた。
普通は夕方とかじゃないかな?って。私はあんまりこう言うのに呼ばれないから分かんないけど…。
「あ!それとね?いつも私の家まで来てもらってるじゃん?今日は雫ちゃんの家まで私が行っても良い?」
「ん?別に良いけど…。なんで?」
「え…えっとね〜。雫ちゃんの家が見てみたいから?」
「なんで疑問形なの…。別に良いけど、迷わないでよ?近いから流石に大丈夫だと思うけど」
「大丈夫!じゃあまたね!」
正直にお母さんが色々言ってくるから!なんて言ったら辺な誤解をされそうで怖い。
多分うまくごまかせたと思うし、雫ちゃんの家は歩いて5分くらいだって前に言ってた気がするし迷わないと思う!
そういえば、図書館の勉強会が無くなって美月ちゃんや皐月ちゃんとも最近会えてないから、どこかで会いたいなぁ…。
でも、私からどこかに誘うのって苦手だから…美月ちゃん達が誘ってくれないと、うまい誘い方が思い浮かばない。
夏休みは後半月しかないし、学校が始まる前にはもう一回会いたいんだけどなぁ…。
家を出る前に一応鏡を見て自分の服装が別におかしくないかを確認してから家を出た。
今日はグレーのTシャツと白のロングスカートで誕生日会にどんな服を着ていけば良いのか分からなかったから、少しだけ変かもしれない。
こんなにオシャレしなくても良かったかも…。と家を出て思った。
後、雫ちゃんの家に向かう途中に大きな公園があるんだけど、結局そこで待ち合わせになった。
その公園なら私もよく知ってる!ってあの後のメールで言っちゃったせいで、迷子になると大変だからって理由でそこになってしまった。
私って全然信用ないよね…。その通りだから強く言えないんだけど…。
「あ、紅葉ちゃん。こっちこっち」
その公園の近くに着くと、入り口付近で手を振ってる女の子を見つけた。
いつもと髪型が違うし、洋服の雰囲気も違うから一瞬誰かと思ったけど、それは間違いなく雫ちゃんだった。
いつもは結んでない髪も、今日はなんでだかポニーテールになってるし、いつもはかっこいいって言うか、どっちかって言うと大人っぽい洋服を着てる。
そんな雫ちゃんが今日は、青のボーダーシャツに白のミニスカートでいつもより幼いって言うか、大人っぽかったのに急に同年代って感じがするようになったって言うか?
正直に言うと、いつものかっこいい雫ちゃんも良いけど、こっちの雫ちゃんもすっごい可愛い!
っていうか、いつも大人でクール系!って感じなのに、今は年頃の女の子!って感じでものすっごく良い!
「どうしたの雫ちゃん!いつもとだいぶ雰囲気違う!」
「へ…変、かな?」
顔を少しだけ赤くしながらそう答えて来た雫ちゃんに、今までで一番ドキッとした。
この前の映画館で怖がってた時も可愛かったけど…これはそれ以上にというか、比べ物にならないくらい可愛い!
自然と私の方がなんだか恥ずかしくなってくる…。
「変じゃない!むしろ…可愛い!」
「そう…?良かった。紅葉ちゃんも可愛い…よ」
本当に、今日は雫ちゃんがいつもと全然違う。
いつもより数倍可愛く見える…。なんで急に…?
「実はさ…知り合い?に相談したら、こうした方がいいって言われて…」
「うんうん!いつもより可愛い!っていうか!いつもこんな感じだともっといいと思う!」
「そんなに言われるとなんか複雑だけど…。これは今日だけ。私もちょっと恥ずかしいし…」
「え〜残念だなぁ…。じゃあしっかり目に焼き付けとかなきゃだね!」
「そんなに見られると余計恥ずかしいからやめてくれない…?」
そう恥ずかしそうにいう雫ちゃんも、すごく可愛かった。
本当のいつもこんな感じだったらすごく可愛いのに…。
私は雫ちゃんの手を引きながら駅までご機嫌に歩いた。途中鼻歌なんか歌っちゃって、雫ちゃんがいつもとは正反対で静かになっちゃったから、ずっと耳まで真っ赤にして何も言わずに着いてきてくれてたのも、すっごい可愛くて!
電車の中でも手は離さないで、雫ちゃんが教えてくれた降りる駅に着くまで立ってたのをいい事に、お互い向き合って私はなんだか嬉しくて自然に笑顔が溢れてきた。
そんな私を見て雫ちゃんが自分の格好が余計に恥ずかしいのか頭から少しだけ湯気みたいなものが出そうだった。
「あれ?ここって前に朱音先輩のお見舞いに来た時に見た事ある…」
「そうなの…?私は始めて来たけど…」
電車を降りて駅前のバス停を見た私は、まだ顔が赤い雫ちゃんの手を引きながら歩いていた。
そこで、お見舞い来る時に見たバスからの景色を思い出した。
確かに、あの時は雫ちゃんはいなかった。ちょうど雫ちゃんが休んでた時に来たんだっけ?
駅前のバス停では降りなかったけど、この駅の次のバス停で降りたような気がする…。
「鈴音先輩が言ってたのはこのマンションなんだけど…」
「ここって朱音先輩のマンションじゃないかな...?」
さらに、雫ちゃんがここだと言ったマンションは朱音先輩のマンションと同じだった。
鈴音先輩と朱音先輩って同じマンションに住んでるのかな…。
あれ?でもお見舞いに来た時先輩は鍵持ってなかったよね?気のせいかな…。
「インターフォンは押さずに、中から人が出て来るの待つか、中に入ってく人と一緒に入って来てって言われてるんだけど…まさかね?」
「お見舞いに来た時もそうやって入ったような...」
「ねぇすごく嫌な予感がするんだけど…」
雫ちゃんがそう言った直後、マンション内のエレベーターから小学生くらいの子供たち5人が出て来た。
その子供達はまっすぐこっちに向かって来て、そのままマンションを出ていった。
私達2人はちょっと嫌な予感がしながらも、その子供達と入れ替わりにマンションの中に入った。
エレベーターで3階まで上がって、見覚えのあるドアプレートの飾ってある部屋の前で立ち止まって、嫌な予感は確信に変わった。
一応鈴音先輩に電話して確認しようと意見が一致して、朱音先輩の家の前で確認するために電話をした。
そしたら、朱音はどうせまだ寝てるから起こしてから一緒に来て欲しいって事らしい。
私の家の場所は朱音が知ってるからと…。ついでに、宅配便でーすって言いながらインターホン押してって言われた…。
雫ちゃんが嫌々言われた通りに、インターホンを押すと、本当にパジャマ姿で眠そうな朱音先輩が出て来た。
そして案の定、宅配便の人が来たと信じて疑ってなかった朱音先輩も相変わらずだった。
「それで鈴音に騙されて起こしに来てくれたと…」
家の中に通されて、一度来たことがある先輩の部屋に通された私達は鈴音先輩に言われた通りに来たらここに着いたことを正直に話した。
そして、話し終えた後に呆れたようにそう言われた。
「はい…。その、さっきのあれも…」
「うん。鈴音でしょ?分かってる。相変わらずなんだから…。ちょっと向こうで待っててくれる?着替えてくるから」
呆れながら笑った朱音先輩は、私達にリビングで待っててと言い、20分くらい経った頃準備ができたらしい朱音先輩が部屋から出て来た。
玄関から出て来た時は軽いメイクだったけど、今はいつも通りのメイクになってるし寝癖も直ってる。
さっきバタバタと洗面所と自分の部屋を行き来してたから…結構寝癖を直すのに苦労したらしい。
朱音先輩は比較的シンプルな白いなにかのロゴが入ったシャツに、黒いロングスカートだった。
意外だったのは、朱音先輩が雫ちゃんを見ても反応が薄かったことくらいで…。
私が大袈裟すぎたのかな…。すっごい可愛くなってると思うけどなぁ。
「ああ〜別に変だとかそんな事は無いから安心して?ただなんというか…まぁ後で分かると思うよ」
そんなことを苦笑しながら言った朱音先輩は、それ以上雫ちゃんには触れずにそのまま私達と一緒にマンションを出た。
鈴音先輩の家までバスで行ったけど、バスが来るまでの待ち時間もバスの中でも、ずっと朱音先輩は鈴音先輩の愚痴を言っていた。
とにかく呆れてものが言えないらしい…。
40分くらいバスに揺られ、降りて少し行ったところにある小さな公園で春奈先輩以外の文芸部員の人達と合流した。
そして、朱音先輩と同じように誰も雫ちゃんがイメチェンしたことに反応をしなかった。
私はなんでだろう?くらいにしか思わなかったけど、雫ちゃんは慌てて携帯を見ながら、少し青ざめていた。
次回のお話は8月11日の19時に更新します。
オシャレとかに全く興味が無い人なので、雫ちゃんのイメチェンはどんな感じのが似合うかなってすごく迷いました。
いい感じに出来ていたら嬉しいんですが...。




