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第6話 さらに縮まる距離

 私はその日、珍しく目覚ましの音で目が覚めた。

 ゆっくり眠れたらしく、今日は2度寝することなくすんなり起きれた。


 でも今日の夢には、最近いつも出てくる緑川さんの姿がなかった。

 それどころか、今日の夢はおばけに追いかけられるって言うすごく怖い夢だった…。


 そのせいもあってなのか、目覚ましで起きた時には既に意識はしっかりと持っていた。

 何で急におばけに追いかけられないといけないのか……


 毛布をかぶったまま部屋を出ると階段を上ってきているお母さんとはち合わせた。


「あら。珍しいわね。おはよ」


 すごく驚いた顔で私に話しかけてくるお母さん。そんなに驚かれるとなんかムカっときてしまった。


「なに人を眠り姫見たいに…」


「四六時中寝てるんだから自業自得でしょ…朝ご飯食べるよ」


 自業自得って言われるとなにを言い返せなくなってしまう…。

 だって……本当にその通りだもん…


 私のこの格好には驚きの方が強くて目に入ってないらしい。また呆れられるのもどうかと思うけど…

 リビングでお母さんと一緒に朝ご飯を食べていると、お母さんが唐突に話を切り出した。


「そう言えば、夏休みにお父さんが帰ってくるって~。何年ぶりだろね~」


 えぇ……。夏休みにお父さんが帰ってくる?幼稚園か小学生の頃以来会ってないから顔をほとんど覚えてない。

 どうしよ…リアクションがとりにくい…


 こんな時、緑川さんなら素直に顔なんて覚えてないって言うんだろうけど私にはそんな勇気?はない。

 どう答えるのが正解なんだろう。


 仕事で遠くに行ってるって言うのは理解しているけど、お母さんの方が好きだし、いまさら帰ってこられても感が…


「夏休みに帰ってくるって急にどうしたの?」


「さぁ?あなたに会いたがってたから顔を見たいんじゃないの?」


「私は別にお父さんに会いたいなんて思った事は一回もないんだけど…」


 あ…つい本音が出ちゃった。どうしよ…お母さん凄い顔してる。

 なんか哀れんでる…だって~


「そんなことお父さんが帰ってきてから言わないであげてね?かわいそうだから」


 ちょっと笑いながらお母さんはそんなことを言った。

 何でちょっと笑ってるんだろう…


 夏休みに顔も覚えていないお父さんが帰ってくるとわかってからちょっと憂鬱になりながらご飯を食べていた。そんな私の様子に、お母さんはやっぱり少し笑いながらご飯を食べていた。


 ちょっと沈んだ気分のまま部屋に戻る。

 部屋に戻ると携帯が光っていた。何だろうと思い携帯を見ると緑川さんからメッセージが入っていた。


 その瞬間。沈んでいた気分があっという間に晴れて行くのを感じた。

 内容は、今日も寝坊しちゃったから一緒に登校しようというものだった。


 メッセージを読み終えた私は、さっきまで少し気分が沈んでいたのも忘れて、舞いあがっていた。

 というより、緑川さんと一緒に登校できると思った時点でお父さんの事なんか私の頭からは抜け落ちていた。


 もちろんすぐに一緒に登校しようと返したら緑川さんもすごく喜んでくれていた。

 急いで学校に行く準備を済ませて家の外に出ると、もう緑川さんが待ってくれていた。


 太陽に照らされてちょっとだけ嫌そうな表情を浮かべていた緑川さんだったけど、私を見つけると笑顔で手を振ってくれた。


 そのしぐさにちょっとだけ可愛いと思ったけど、そんなこと言えるはずもなく、気持ちを悟られないように私も笑顔で手を振り返した。


 別に好きとかじゃないんだけど緑川さんを見ているとなんでだか楽しくなったり、幸せな気持ちになる。

 何でだろう。別に奥田さんと話しててもこんな気持ちにはならないんだけど…


 緑川さんとおしゃべりしながら登校していると、緑川さんがお勧めしてくれた小説のことを聞いてきた。


「そういえば…あの…あ…あの小説どう?私がお勧めした小説」


 何でたどたどしいんだろう。さっきまで普通に話してたのに…

 あ…内容があれだからなのかな…


 そう思った私はちょっとだけ顔を赤くして面白いよ!っと答えたら、緑川さんがすごく顔を赤くしていた。

 そんな顔されると、私も自然とさらに顔が熱くなってくる。


 なんだか、ちょっとだけ気まずい雰囲気になってしまった。

 どうしよう。この雰囲気…すっごい恥ずかしいんだけど…


 こんな雰囲気をどうにかしたいって気持ちでいっぱいだったからなのか、私はなにを思ったのか緑川さんにこんな提案をしていた。


「そう言えば、緑川さん。今度から下の名前で呼んでもいい?」


 さっきのこともあるし、この時の私は何も考えてなかったのかもしれない。

 だからあんな普段言わないようなこともすらっと言えちゃったんだ…


「えっ?」


 そう言われてふと私は我に返った。なにを言ってるんだろう私は…

 ただでさえ赤くなってしまっている顔がさらに赤くなっていくのを感じた。


「ごっごめんなさい!忘れて。」


 恥ずかしさで帰りたい気持ちになっていた私は、ちょっと裏声になりながらもなんとかごまかしの言葉を口にした。

 もう私は泣きそうになっていた。


 早く学校についてほしい。心の底からそう思っていると、緑川さんの声が聞こえてきた。


「べっ別にいいわよ?呼び方なんて…」


 そう言われて、泣きそうな顔のまま緑川さんの方を見ると、彼女も恥ずかしそうに私を見ていた。


「いいの?本当に?」


「え…ええ。いいわよ?私も下の名前で呼ぶから。これでおあいこ…でいいよ」


 顔を真っ赤にしながらも動揺している様子の彼女はかなり可愛かった。

 私は顔を真っ赤にして少しだけ涙を流してるし…私とは大違い。


 というより、私は下の名前で呼んでいいって言ってもらったことに安心と喜びが加わってもう見てられない顔になっているかもしれない。


 だって良いって言ってもらえると思ってなかったし……ついでに緑川さんが私を下の名前で呼ぶとも…。考えただけでなんか…ヤバい。さらに顔が真っ赤になっていく。


「雫ちゃん…?雫ちゃんだ!これからは雫ちゃんって呼ぶ!」


 私は恥ずかしさを何とか振り切って下の名前で呼んでみた。

 飛び上がりながら呼んだんだけど言ってみてから気づいた。


 あ…想像してたより数倍やばい気がする。

 だって……緑川さんが顔を真っ赤にしてるし、私の顔もたぶん真っ赤。


「なっなら私は紅葉ちゃんって呼ぶから…」


 ふぁぁぁぁ…。や…ヤバい…もう死んでもいいかも…

 すっごく幸せ…。ほんとにヤバい…。


 その後は恥ずかしすぎて学校につくまで何も話すことができなかった。

 だって、もういっぱいいっぱいで…


 学校についてからも私は恥ずかしさと嬉しさで授業中もずっと悶えていた。

 その日の授業は本当になにもわかんなかった。


 緑川さんの方を見る余裕すら私にはなかった。

 お昼休みも教室で悶えてしまっていた。


 ずっと奥田さんがどうしたの?と心配してくれてたけど、本当のことは話せなかった。

 だって、私以外の女の子たちにとっては別にこんなに嬉しがるようなことじゃないと思うし…


 家に帰ってからも最近はずっと奥田さんかしず…雫ちゃんとお話ししてたけど、そんなことできる状態じゃなかったから、家に帰るなり自分の部屋に早足で戻って制服のままベットにダイブして抱き枕を抱きしめながらベットの上で夜ごはんで呼ばれるまで足をばたつかせながらずっと悶えていた。


 夜ごはんで呼ばれて制服のまま下に降りるとお母さんがなにしてたの…とちょっと呆れていた。

 まだ少しだけ顔が赤いし、いつもならパジャマ姿の私が制服姿だからちょっと呆れてるのかもしれない。


 明日にはこの恥ずかしさがマシになっていることを祈ってその日は眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおおおおお!お互いに下の名前で呼ぶだけで赤くなるなんて、なんて尊いんでしょう!? たまらないですね!最高です!
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