第60話 花火大会翌日
後日談なので、あんまり長くなってもあれかなと思い、あえて長くはしませんでした。
次のお話から夏休みに本格的に入っていきます〜
夢のようだった花火大会から一夜明けた今、私はひどく混乱していた。
それもそのはず、つい数分前まで昨日の事があって夜遅くまでなかなか寝れなかった私は、不機嫌な弟が起こしにくるまでぐっすり眠っていた。
「おい。なんか女の人来てるぞ。あなたの恋人が来たって言えば分かるって言われたけどどゆこと」
「ん〜?誰…」
「知らねぇよ。まだ寝てるって言ったら起こして来てって言われたから起こしに来たんだ!はよ起きろ」
昨日綿菓子買って来るのを忘れたせいですごく機嫌が悪い弟は、それだけ言うとさっさと部屋から出て行ってしまった。
寝ぼけていた私は弟の言っていた意味がわからず、二度寝をしてしまった。
しかし、5分も経たずにまた誰かが部屋に入って来た。
「誠也…まだ眠いから朝ごはんなら適当に食べてて…」
「ん〜。せっかく昼からどっか遊びに行こうって思ってたけど春奈は眠いから嫌と…。そうか〜。ちょっと残念だなぁ〜」
「え…?うわ!なっ!なんで鈴音先輩がいるんですか!?」
「だから〜昼からどっか遊び行きたいなって思って来たんだけど〜嫌か?」
「あ!いえ!行きます!行きたいです!」
慌てて飛び起きた私は、目の前にいる鈴音先輩が幻なんかじゃないことを確認すると、改めて驚いてしまった。
もちろん、先輩がうちに来るのは初めてじゃないし、高校生になってからも朱音先輩や恵達と一緒に来た事はある。
ただ、鈴音先輩だけで来るのは…高校生になってからは初めてで…。
「それにしても〜随分と寝たな〜?」
「ちょっと…なかなか寝れなくて…」
「へ〜?なんか良いことでもあったのか?」
「なっ!言わせないでくださいよ!恥ずかしいんです!」
顔を真っ赤にしながらそう言った私に、先輩はいつも通り笑いながら、下で待ってるな〜って言いながら下に降りて行ってしまった。
少し上の空になりながらもパジャマから普段着に着替えた私は、出来るだけ急いで先輩が待ってるリビングへと降りて行った。
先輩はリビングでダラダラテレビを見てる弟の横で携帯をいじりながら待っていた。
用意が出来た私を見て、少しだけ嬉しそうに笑ってくれた後、手を握ってくれてそのまま足早に私の家を飛び出した。
ちなみに、私は急いでたせいもあってクロゼットから適当に選んじゃったけど、先輩はすごいオシャレで、可愛い服装だった。
昨日の私の服と似たような感じの、白い肩が出てるタイプのワンピースを着てた。
なんだか…先輩が着てるとすごく子供っぽい感が否めないけど…。
「なんだよ〜。別に良いだろ?子供っぽくても私の方が大人だし〜」
「私達1つしか歳離れて無いですよね…」
「まぁ細かい事は良いじゃん。お寝坊さんはお腹すいてないか?」
「そのお寝坊さんってやめてくれませんか…」
「昼過ぎまで寝てるような子はお寝坊さんで良いの〜。ほらあそこでお茶してこ」
先輩に連れられて入ったそのカフェは、家からそこまで遠く無いのに以外にも入った事がなかった店だった。
店内は白を基調として作られてるみたいで、そこまで広くは無いけどお客さんも全然いないから全く狭く感じなくて。
むしろ、ゆったりとした感じのBGMとコーヒーか何かのいい匂いが漂って来るだけで…。
店員さんもおじいちゃんが1人いるだけだし。
入ってすぐ右にある窓側の席に座った私は、まるでこのカフェにいるのは私と向かいに座る先輩の2人だけのような気さえしてしまう。
「ここさ。前に一回だけ来たことあるんだけどな?あのおじさんが作るオムライスがすごい美味しかったんだよ!それで、一回春奈と来たいな〜って思っててさ」
「そう...なんですか。じゃあ私はそれと…カフェオレを」
「おじさん〜。オムライス2つとカフェオレとコーヒー。砂糖とミルクたっぷりでお願いしま〜す」
するとキッチン?にいたおじさんは何も言わず黙々と何か作業をし始めた。
店内には、BGMとコーヒーのいい匂いがさらに充満し始めた。
「なぁ。そういえば…昨日の件だけどさ。考えてくれたか?」
「昨日…ですか?えっと…」
「ほら。部室でいちゃつくの出来るだけ抑えるから家に誘ったら来てくれるか?って事」
「え!?あれ本気だったんですか!?」
「あんな事冗談で言うわけないだろ?ほら。私は春奈の家上がったことあるけどさ、春奈は私の家上がったことないだろ?それとも…私の家来るのは嫌か?」
「そんな事ないって…分かってて言ってますよね…」
そう言うと、鈴音先輩は少しだけ安心したような、驚いたような顔をした後笑った。
何がそんなにおかしいのか。そう思えるほど笑った後、じゃ決まりな!って嬉しそうにまた笑った。
誰も行きますなんて言ってないような気がするんですけど…。
この先輩はほんとに…さすがと言うか、ずるいと言うか…。
私が先輩の家に上がりたくない理由だって分かってるくせに、分からないとでも言いたげに聞いて来るし。
「なら、文化祭一緒に回る予定とかも今度一緒に考えような!」
「先輩…文化祭はもちろん一緒に回りたいですけど、本当に受験とかは大丈夫なんですか?推薦貰ってるって言っても小論文と面接はあるって言ってたじゃないですか…」
「あ〜。それな?春奈に告白するって決めた時から色々勉強始めててさ。正直、もうやる事ないんだよ。面接はうちの親が会社で面接官やった事あるらしいから大丈夫だし、小論文も…まぁ一応文系だからな。なんとかなるだろ。だから〜受験までいっぱい遊ぼうな!」
心底嬉しそうに、無邪気な子供みたいに笑う先輩の顔を見て、なんとなく恥ずかしくなってしまった私は、思わず先輩から目を逸らしてしまった。少しだけ顔も赤い気がする。
そんな私を、相変わらず笑いながら眺めてる先輩は心底楽しそうだった。
「お待たせ。このプリンはおまけね」
「ありがとうございます…」
おじさんが運んで来たのは、オムライス2つとコーヒー。そして、私の分のカフェオレはなぜか紅茶になっていた。
そして、おまけで持って来てくれたプリンは1つしかなく、ご丁寧にスプーンは2つ付いていた。
「へ〜?なぁ春奈。このプリン、シェアするか?」
「私はいいので先輩だけで食べてください...」
「え〜?じゃあほら。あ〜ん」
「ふぁい!?」
「ほら。あ〜ん」
先輩は、私がプリンを食べないと告げると、唐突にスプーンでプリンを少しだけすくい私の目の前に持って来た。
先輩の顔はすっごい笑顔だけど…私はさすがに耐えられなくて真っ赤になっていた。
それでも…なんとか耐えて先輩の持つスプーンを口の中に入れた。
「おお〜。頑張ったな〜」
同じスプーンで残りのプリンを食べながらそう言う先輩のことを、私はもう直視出来なかった。
恥ずかしくて頭のてっぺんから湯気を出しながら、テーブルの上にあるオムライスをひたすら凝視していた。
少しして落ち着いた私は、何事もなかったかのように美味しそうにオムライスをパクついてる先輩に、仕返しをしてやろう!と思いついた。
後から考えると、絶対やめたほうがいいって分かるのに…。この時の私は、まだ起きてから2時間も経ってないのとさっき先輩がして来たあれのせいで冷静じゃなかった。
「先輩!私も…。あ〜んしてあげ…ます」
「ん?無理しないでも良いぞ?」
「やります!ほ…ほら。口…開けてください…」
どっちも同じオムライスなんだからわざわざあ〜んするなんて、はたから見たら不自然極まりないけど…この時の私は、そんな事も分からないほど混乱していたらしい。
「あ〜ん。ん〜春奈にやってもらうと一段と美味しく感じるな〜」
「もう!なんで私はこんななのに先輩は平気なんですか!」
「ん〜。全然平気じゃないぞ?だってなんだこの可愛い子!ってさっきから思ってるし」
「またそう言うこと言う!もう良いです!」
「春奈ってそう言うとこも可愛いんだから〜もっとやって!」
「からかわないでください!」
本当に…。私は全然大丈夫じゃないのに、なんで先輩は平気なの...。
なんで仕返ししようとした私の方がダメージ大きいのよ。
「少しはリードしたいって思ってるのに…」
「そのうち出来るかもな〜。文化祭も楽しみにしてるな!」
「楽しみですけど!今以上からかうのやめてくださいね!?絶対途中で…いや、なんでもないです」
「ま!出来るだけ頑張るな!」
とびきりの笑顔でそういった先輩を見て、私はすっごく不安になったのは言うまでもない。
先輩のせいでせっかくのオムライスの味はよく分かんなかったし、お会計の時に優しそうなおじさんがずっと微笑ましそうに笑ってるし…。もう帰ってベットに包まりたいんですけど!
「この後クレープ食べに行って〜映画行って〜、あ!なんなら今日うち来るか?明日まで私以外誰もいないぞ?」
「わざとですよね!?行きませんよ!」
「え〜?なら寂しいから春奈の家泊めて〜」
「いや…あの…それはっその…」
「なんでそれは迷ってるんだよ..。冗談だって。ほら行くぞ〜?」
「そういう冗談は今後一切禁止でお願いします…」
鈴音先輩は冗談っぽく笑って、その後私の手を引いて歩き出した。
それから18時ごろまで鈴音先輩の攻撃にかろうじて耐え続けた私は、なんとか帰宅した。
弟は先にご飯を食べたらしく、もう部屋にこもっていた。
なんだか…前よりからかい方がハードになったというか、遠慮がなくなったというか。
夏休み中とか文化祭…。本当に大丈夫かな。すっごく不安。
次回のお話は7月6日の21時に更新します。
やっぱりこの2人のお話は書いててすごく楽しいと思いました。
もちろん夏休み中のお話にも登場させる予定です!




