第59話 鈴音先輩と私
あまりの嬉しさで私が2分ほど泣いてしまって泣き止んだ後、鈴音先輩がハンカチを貸してくれた。
少しだけ落ち着いてもう一回鈴音先輩の方を見ると、いつも通りすぎてさっきのが夢であったと一瞬迷うほどだった。
「どした?そんなじっと見つめて」
「いえ……なんか夢みたいで……」
「ふ〜ん。そんなに嬉しかったんだ……」
「当たり前じゃないですか!すっごい嬉しかったんですから!」
「そっ……そっか……」
少しだけ顔を赤くした鈴音先輩は、私に背を向けて少しだけ小さい声で何か言っていた。
小さすぎてなんて言ってるのか分かんなかったけど、すぐに振り向いてくれた。
振り返った後はいつも通りだったけど……さっき一瞬だけ照れてくれた……?
「私だって好きな人にそんな事言われたら照れるわ……」
「へ〜そうなんですか〜」
この瞬間、今までからかわれ続けてた私は、初めて勝てたような気がした。
先輩が可愛くて私も少しだけ照れちゃったけど……。
「いいから行くぞ!花火終わる前に帰んないと」
「そうですね!」
私は初めて勝てた事で嬉しくて、つい自分から先輩の手を握ってしまった。
数分後、急に恥ずかしくなって離そうとしても先輩が離してくれなくてすごい困ったことは言うまでもなく……。
「あ〜おかえり。もういいの?」
「いや〜良かった良かった〜。ありがとな〜朱音」
「ふーん。その様子だと成功したみたいね」
「何がですか?」
文芸部のみんなの所に着いたのは、花火が終わる5分ほど前で、一年生組と恵が仲良く花火を見てる場所から少し離れた所で私達3人がさっきの件の事を話していた。
その時、1人一年生組の輪から抜けて来た緑川が会話に入って来た。
ここに来るまでに鈴音先輩から聞いたけど、朱音先輩には前から相談してて今回も協力して貰ったらしい。
今日寝坊したって言うのも口実で、私が好きそうな服を選んでくれてたらしい。
結果、どストライクだったのは言うまでも無いんだけど。
横にいる今でもすごい可愛いって思うし……。
「ん〜。私と春奈の告白が成功したって意味」
「ちょ!先輩!?」
「良いじゃんか〜。どうせすぐバレるんだから〜」
「やっぱりそう言うことだったんですか……。おめでとうございます」
「ありがとな。それにしてもやっぱり気付いてたのか?」
「一年生の私達以外全員変だったじゃ無いですか……。気付いてないの紅葉ちゃんくらいですよ……」
少しだけ呆れ気味にそう言った緑川に、それはそうか……。なんて思ってしまった。
っていうか、紅葉以外全員気付いてたってあの子ちょっと心配になるレベルなんですけど……。
「ま、緑川も頑張れよ」
「なっ!何のことですか!?」
「え〜?ほら紅葉と...」
「失礼しました!」
少しだけ顔を赤くした緑川は、逃げるように私達から離れて行った。
なんか……次の標的はあの子達になりそうだなぁ〜。なんて呑気なことを考えてた私は、鈴音先輩の次の一言で過去一番と言っていいほどドキッとした。
それこそ、あの告白の前よりも……。
「あ春奈〜。今度から部室に来る時もうちょっと早く来てな。もっと2人で遊びたい〜」
「あのね〜。ほんとに部室でイチャつくのやめてくんない?せめてお互いの家でやりなって……」
「え〜だって家に誘っても春奈が恥ずかしがって来てくれないんだからしょうがないじゃん〜」
「何言ってるんですか!?朱音先輩もですよ!も〜!」
先輩の家なんて色々勝手に想像しちゃって行けるわけないじゃんか!
先輩にそんな気は無いだろうけど……先輩の両親って確か共働きって言ってたし……。
そんな事より……文化祭も一緒に回りたいのにこんな調子で大丈夫なのかな。
すっごい心配なんですけど!なんか……前より凄いことになりそうなんですけど。
「ならさ、部室でイチャつくの出来るだけ我慢するから家来ない?って言ったら来てくれるのか?」
「なんで出来るだけなんですか!?いや……別にイチャつくのが嫌って言ってるんじゃなくて、その……先輩の家はあの……」
「あ〜私いない方がいいならあっち行ってるけど?」
「あそうしてくれると助かるわ〜」
「じゃ無いですよ!朱音先輩いてくれないと困ります!」
「はいはいお熱いこと〜。ひゃ〜私には刺激が強いからあっちで休んでるね〜」
棒読みでそう言った朱音先輩は、早足で一年生組が花火を見てる場所に帰ってしまった。
私も追いかけようとしたけど……先輩に手を引かれて止められてしまった……。
すっごいニヤついてるし嫌な予感がする...。
「朱音も行っちゃったしさ〜2人きりで残りの花火楽しも」
「は……はい」
予想してたより軽い答えが返って来て少しだけ安心した私は、3分ほど先輩の隣で花火を楽しんだ。
ベンチに座りながら見る花火も隣に鈴音先輩がいるからなのか、いつもより綺麗に見えた。
最後の方にまた嬉しさで少し目から涙が溢れてきたけど、凄い楽しかった。
「終わっちゃったな〜。あ、なぁ春奈?ちょっと良いか?」
「なんですか?」
花火が終わって鈴音先輩が話しかけて来た方を見ると、いきなり唇を重ねて来た。
それは一瞬だけだったけど……先輩の赤い顔が見えた時、私は頭から湯気が出てたと思う。
小学生の時に頬とかに意味もわからずしてた時はあったけど……これは……その比にならない...。
「来年も一緒に来ような!」
笑いながらそう言った鈴音先輩は、今まで見て来たどの先輩よりも可愛くて、魅力的だった。
当の私は、恥ずかしさや混乱、嬉しさ。その他のいろんな感情が頭の中でグルグルしてて何が何だか分からなかった。
その後合流した恵から良かったね〜って言われて夢じゃなかった……って思ったくらいなんだし。
帰り道、紅葉は疲れたのかほとんど寝てるみたいな状態で緑川に寄りかかりながら歩いてるし、結奈は彼氏と帰るってメッセージが来てた。
朱音先輩と恵はわざとなのか私達には近づかないように歩いていた。
なんとなく察してるような、そうで無いような表情で歩いてたのは沙織だけだった。
「いや〜楽しかったな〜。今年は特に〜」
何事も無かったように歩く先輩とは反対に、私はさっきから顔を赤くして少し下を向来ながら歩いていた。
だって……あんな事されたら誰だってそうなるでしょ!?私だけじゃ無いでしょ!?
「春奈〜。今年の文化祭も一緒に回ってくれるよな?」
「え?あ!はい」
「どうしたんだ?さっきから顔赤いけど」
「誰のせいだと思ってるんですか!?」
「いや〜春奈ってそういうとこも可愛いよな〜」
「またそういうこと言う……」
この時の私は、自分のことで精一杯で横を歩いてる鈴音先輩が私より顔を赤くして歩いてた事なんて分からなかった。
駅までは10分歩いたら着くはずだけど、祭に来てた人がかなり多かったせいで倍くらいかかった。
その間、私はずっと鈴音先輩と2人で、手を繋ぎながら歩いていた。
誰も助けに来てくれないから少しだけ恨めしく思った時もあったけど、電車の方向が別でお別れの時間になった時はすごく寂しかった。もっと長く一緒にいたかった……。
その思いからなのか、それとも成功して嬉しかったからなのか、電車の中でまた泣いてしまったのは仕方ない気もする。
恵が良かったねって慰めてくれたけど、電車から降りてもしばらくは泣き止めなかった。
ちなみに、帰り着いて弟に表情で成功したことが伝わると、良かったねとかそう言ってくる前に、綿菓子は?って言われた時に買うのを忘れたことに気が付いた。
それからしばらく、弟とは仲が悪くなった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、神社出た辺りからずっと顔真っ赤だけど大丈夫なの?」
帰りの電車の中でそう心配して来たのは、今日の為に色々一緒に考えてくれた朱音だった。
花火が終わった後にした行為のせいで、私はその直後からかなり顔が赤かった。
幸い、春奈には気付かれてなかったけど他の面々には当然バレバレだったし、なんならあのシーンもバッチリ見てたらしい。
「あんな事して大丈夫なわけないだろ……。勢いでしちゃったけどすっごい恥ずかしかったんだからな!?」
「はいはい。成功して良かったわね〜。来年も一緒に来ようとか言っちゃってさ〜?あ〜私もそんなこと言ってみたいわ〜」
「茶化すなよ!余計恥ずかしくなるだろ!」
「面白いんだから良いじゃない。あんたがいっつも春奈にやってる事でしょ?でもほんと、私がいなくなったからって部室でいちゃつくのはやめなさいよ?」
「まぁ出来る限り頑張るって。大体、春奈が可愛すぎるのが悪いんだから」
「はぁ……。結奈達よりよっぽどラブラブになっちゃって……。分かってると思うけど、春奈泣かしたら許さないからね」
「大丈夫。私が春奈泣かせる訳ないだろ?」
少しだけ照れながら言った私に、呆れ気味にため息をついた朱音は、その後も何回かため息をついていた。
後で知った事だけど、朱音は春奈が結奈と恵に協力を頼んでることを知って、そっちにも手を貸すって言いながら1人だけ結果を知ってる中立者?みたいな立場で楽しんでたらしい。
後日緑川の書いてる小説にも、朱音が書いてる小説にも私達のことがモデルになったみたいな話が出て来た時は流石に笑ったけど。
でも、春奈は失敗するかもって思ってたらしいけど……私も凄い心配だったんだから……。
春奈から告白された時どんなに嬉しくて、どんなに安心したか……。
緊張しすぎて口から心臓が飛び出すかと思ったし...。前日まともに寝れなかったし...。
あの時は本当に、今にも飛び上がりたいくらい嬉しかったんだからな……。本当に。