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第5話 部活の紹介と見学

 週が明けて月曜日、いつものようにお母さんに起こされて、目を覚ます。


 いつもとは少し違う土日を過ごしていたので、いつもの月曜のような目覚めのいい朝ではなく、もう少しだけ寝ていたいという気持ちがあった。


 まだぼんやりとした意識の中で昨日までのことを思い出す。

 土日は私にしては珍しく、奥田さんと緑川さん。二人と一日中LINEでやり取りをしていた。


 いつもの私なら、土日だからと甘えて、一日中寝ている。

 そんな私が、お友達とLINEするだけの休みを過ごした。お母さんは一日寝てるよりましだと言ってくれたけど、外に出たら?とも言っていた。


 私はあんまりテレビを見る方ではないから、ずっとスマホを眺めて、2人から返事が来るのを待っていた。

 そういえば、緑川さんがお勧めだと言ってくれた小説を今度探して読んでみると言う話が出た。


 まぁ私が憧れの人に少しでも近づきたかったから聞いたんだけど……。

 どうやら緑川さんのお勧めの小説は販売されているものではなくて、ネットのサイトで書かれている小説だった。


 販売されている小説でも別によかったんだけど、気を遣わせてしまったかもしれない。

 けれど、お勧めしてくれた作品には変わりない。


 日曜日はLINEの返事を待ちながら、お勧めされた小説を探して読んでいた。

 あんまり読書もしないから、サイトの小説が上手いのかどうかはわかんないけど、内容がすごく好きな部類だった。なぜかすらすらと頭に入ってくるような感じ。


 内容的には、女の子同士の恋愛ものだった。そういう内容が好きってわけじゃないけど、何故か文章に引き込まれて、連絡を取り合っていなければ、時間を忘れていつまでも読んでいられる作品だった。


 流石読書好きの緑川さんだな〜。ネット小説だと言っても、面白い作品を知っている。


 でも、お勧めするってことは緑川さんもこの話を読んでいるってことで… 

 ということは、あのクールな緑川さんが女の子同士の恋愛物の小説を読んでいるということで……。


 そう考えると、目の前にお母さんがいるにも関わらず、顔が少しだけ赤くなってしまう。

 お母さんが熱でもあるの?と聞いてきたから、それなりに赤くなってしまっていたんだろう。


 そんな不純なことを考えているうちに、薄れていた意識は完全に覚醒していた。


 いつものように、毛布をかぶって、お母さんと一緒にリビングに降りると、そこには既に朝ご飯が用意されていた。


 さっき顔を赤くしてしまったことが原因なのか、今日はお母さんが呆れて深いため息をつくことはなかった。

 熱を出していると勘違いさせてしまったのかもしれない。ただ不純なことを考えて、顔が赤くなってしまっただけ。なんて言えないから黙ってるけど……。


 朝ごはんを食べ終えて、学校へ行く準備をしていると、勉強机の上に置いていたスマホが鳴った。

 何だろうと思い、確認すると緑川さんから寝坊したから一緒に登校しない?とメッセージが来ていた。


 私が家を出なくちゃいけない時間まで、後7分ほどの余裕があったから、私はすごく喜んで返事を送った。


 5分後、玄関から出ると、そこにはまぶしい太陽の光に照らされて、少しうんざりしている緑川さんの姿があった。

 だけど、私が玄関から出て手を振ると、笑顔で返してくれた。


 その笑顔で私は少しやる気が湧いてきたような気がした。

 前に緑川さんが見せてくれた笑顔と同等の可愛さと凛々しさがあった。


 学校に行く道すがら、お勧めされた小説の感想を言ったり、いろんなお話をして学校まで登校した。

 少しづつではあるけれど、学校への道も覚え始めたことを話すと、少し安心したような顔を見せてくれた。


 まだ完全に覚えられてない事とか、道を教えるからついておいで。などと言われたらホイホイついて行きそうでとても心配だと言われてしまったけど…。

  完全に否定できないことがまた何とも言い難い…


 そういえば、お勧めされた小説が、すごく面白かったと伝えた時は驚いていたけど、それよりもすごく動揺して顔が赤くなってしまっていたのは何故だろう……。


 まぁ内容が内容だから朝の私見たいに、想像してしまったから顔が赤くなってしまったと言われたらそうなのだろうけれど…。


 学校についたのは8時30分くらいで、すでに教室には、かなりの生徒がいた。

 そのせいで教室はかなりうるさくなってしまっていて、読書するには不向きだと思ったのか、緑川さんは読書をしようとせず、席に着くなり窓の外を眺めてしまった。


 やっぱり、学校についた瞬間から、登校時のゆるやかというか、お姉ちゃんのような雰囲気は一変して、氷の女王見たいになってしまったので、やっぱり学校で話しかけるのは難しいと思ってしまう。


 私も自分の席について、鞄の中から教科書や筆箱を出していると、後ろから話しかけられた。


「おはよ~。みなちゃん~」


 そう言ってきたのはクラス委員の奥田さんだった。みなちゃんとは、彼女が私につけたあだ名だ。

 どう呼ばれても、私は気にしないから関係ないんだけど、みなちゃんは流石に恥ずかしい。


「おはよ~。奥田さん。どうしたの?」


 私は横の緑川さんを少しだけ気にしつつも、奥田さんの方を向く。

 昨日までいっぱいお話ししてたから、わざわざ話しかけてくれたってことは何かあるんだろうけど、振り返った彼女の顔からはなぜか少しの怒りが見て取れたけど、何で怒っているのかは分からないし、そもそも本当に怒っているのかどうかも分かんない。


「実は、話したいことがあるから、お昼休みに図書室でお弁当食べない?」


 別に断る理由もないから承諾したけど、話したいことって何だろう。

 今ここでは話ずらいことなんだろうけど……。


 朝のHRで、今日の1-2時間目は体育館で部活動の紹介があると言われた。


 正直部活動には全く興味はないけど、どんな部活があるかも知らないから少しだけまじめに聞いてみようかな?なんて思ったりもしたけど、体育館について10分ほどで私の意識は薄れていった。


 椅子に座っているうちにウトウトしてたら、横に座っていた緑川さんが、ちょっと。しっかりしなさいよ…。と言ってきてくれて、少しドキッとしながらも、その感情を悟られないように気を引き締めた。


 横に緑川さんがいるなんて、眠すぎて気づいてなかったけれど、気づいてしまったからにはもう眠気なんて感じない。


 それどころか、さっきから心臓がバクバクしてて静まってくれない。

 緑川さんに聞かれてしまうのではないかと心配になるほど心臓がうるさく鳴っていた。

 緊張し過ぎて、どうにかなってしまいそうなほど、私はすごくドキドキしていた。


 何でこんなにドキドキしてしまうのか。昨日読んだ女の子同士の恋愛小説が少なからず影響している気がする。


 そんな状態だからなのか、部活動の説明が頭に入ってくることは無くて、何の部活があるのかも、どんな部活なのかも分からなくて、気づいたら全部の部活の説明が終わっていた。


 体育館から教室に戻る途中、肩を落としながら歩いていると、後ろから奥田さんに話しかけられた。


「ねぇ。どんな部活に興味あった?私は吹奏楽部にちょっと興味あるんだ~」


 奥田さんは吹奏楽部に興味を持っていると。っていうか、何の説明も聞いてなかったからどんな部活があるのかさえ分かんない私には、なんて答えればいいかわかんない質問だ。


「えっと…特にはなかったかな~って感じ?私、特技って言えるものなにもないし…」


 そう言いながら、わたしは、少し前にいる緑川さんの方をちらっと見た。

 本音を言えば、彼女とおんなじ部活に入りたい。同じ部活で、少しでも距離を縮めようと考えてしまう。


 私は運動が苦手だから、緑川さんが運動部系以外に興味を持っているなら、そこに行ってみるのも別に悪くないような気がしてる。


「あ。そう言えば、私あれも気になってる。なんだっけ。文芸部だっけ?確か、部員同士のお勧めの本をみんなで読むみたいな事を言ってなかった?あの部活も面白そうだな~って思うの。どう?」


 文芸部?そんなのもあるんだ。説明聞いてなかったからどんな部活なのかわかんないけど、緑川さんが興味を持ちそうな部活であるのは確か……。


 もし、その文芸部に、緑川さんが入るのだとすれば、私も入って少しでも近づけたらいいなと思ってるんだけど、本当に興味を持つのかさえ分からない。


 でも、一応今日から部活動の見学が出来るって柊先生が言ってたような気がするし、その文芸部なるところに見学に行ってみてもいいかもしれない。多分、緑川さんが最初に行ってみたいと思う部活動はそこのはずだし。


「そんな部活もあるの?全然聞いてなかったからわかんないや……」


 悪戯っぽく笑いながら、私はそう言う。奥田さんはそんな私に、まぁそんな気はしてたよ。と笑ってくれた。

 お見通しだったみたい。


 教室まで楽しくおしゃべりしながら帰っていると、先生に静かにしろって怒られちゃった。


 その後の授業は物理学と現代社会の授業だったから、いつも通り眠って過ごした。

 お昼休みになると、私の席に奥田さんが来てくれて、眠っていた私を起こしてくれた。


「もうお昼休みだよ。図書室いこ~」


「ふぇ?もう?」


 寝ぼけながら答えた私の姿に、奥田さんは苦笑いをこぼした。朝起きた時の私とは別人のようにすぐ起きて図書室に向かう。


 教室を出るときに、無意識的に緑川さんの席の方を見ると、いつもはそこにいないはずの緑川さんが、窓の外を眺めがらボーっとしていた。


 その緑川さんの姿に、どこか寂しさを感じたけれど、気のせいだと思って奥田さんと一緒に図書室に向かった。


 図書室について、おしゃべりしながらお弁当を食べたけれど、本題の話したい事というのは、お弁当を食べ終わった後に話してくれた。


 その内容はざっくり言うと、クラスの男子に告白されたんだけど、どうしたらいいかな?と言う相談だった。

 クラスの男子とは、小田川春樹(おだがわはるき)君。茶髪で少しチャラいイメージがある人らしい。

 私は名前を言われてもピンとこなかったけど、特徴を聞いてなんとなく分かった。

 いつも何人かの女の子と一緒にいるイメージがある人だ。


 しかも、まだ入学して1週間ちょっとしかたってないのに、もう告白するなんて、私はあんまりいい印象を受けなかった。


 しかも、いつも女の子達といるから、本当に奥田さんのことが好きかどうかも分かんない。

 好きだったとしても、悲しい思いをすることになりそう。


 私は本心のままにそう言った。そしたら、奥田さんもそう思っていたようで、断ることに自信を持っている様子だった。


 だけど、入学して一週間で男の子から告白されるなんて、奥田さんは元から可愛いと思っていたけれど、私の目に狂いはなかったみたい。


 その後は一緒に図書室でおしゃべりしながら過ごしたけど、図書室だからそんなに大きな声でお話しすることはできなかった。


 5時間目が始まる5分前に教室に戻ると、私の隣の席にいた緑川さんは少しだけ怒っているような感じだった。何かあったのかな…。


 すごく気になったけど、学校での緑川さんは、話しかけずらい雰囲気があるから、どうしても話しかけにくい。


 下校時間になっても、緑川さんは少しだけ怒っているような感じだったけど、なにも言わず帰って行ってしまった。私も下校したかったけど、文芸部の見学に行ってみた。


 緑川さんが興味を持つと思った部活だから見学してみたんだけど、想像以上に面白かった。


 その部活は職員室の横にある小さな教室でひっそりとやっていた。

 文芸部の活動内容は奥田さんが言っていたのとほとんど同じだった。


 部長さんは小説が好きで、自分でも小説を書いていると言っていた。

 別に本を出しているわけじゃなくて、サイトに投稿しているだけって言ってたけど。


 一番驚いたのは部員が5人もいるのに全員が女の子だったこと。

 部活紹介の時に全員女子です。って言ったらしいんだけど、私は聞いてなかったので知らなかった。


 しかも部員のみんなが、モデルみたいに可愛い人たちだった。

 正直、部員のみんながかわいいということだけで入部する価値があるのかもしれないけど、私にとっては可愛い子に囲まれる事よりもお昼寝の方が幸せだ。


 だから、緑川さんがこの部活に入らないと言うなら、私も入ることはないと思う。

 部活見学で私もお勧めの本を紹介してって言われたけれど、私はあんまり本を読まないし、知ってる小説は、昨日緑川さんに教えてもらったあの小説だけだった。

 それを先輩方に教えるのはちょっと嫌だ。その場は何とか流したけど、この部活に本当に入るなら、少しは本に興味を持っていた方が良いかもしれない。


 この部活は本当に本が好きな人たちが集まっていて、部室の中にある大きい本棚の中にはいっぱい本が詰まっていた。

 本棚の他には、大きめの机が一つと椅子が5個あるだけだった。


 椅子を一つ出してもらって、私も部長さんがお勧めしてくれた小説を読んで過ごした。

 部室の中ではページをめくる音と、部員の女の子達の吐息、そして運動場から聞こえてくるかけ声以外何も聞こえない。


 本に集中さえしていれば、かけ声すら聞こえなくなるのかもしれないけれど、私はそこまで集中できるほどまだ本の世界に入り込めなかった。


 でも、まちがいなく本を読むには絶好の場所なんじゃないかな。図書室より人が少ないって言うのもあるし……。

 今日帰ったら緑川さんに伝えてみよう。


 部活動が終わったのは5時過ぎだった。

 部活が終わるタイミングは自由らしい。本を読み終わったら帰ってもいいよ?と言われたし。


 そして、文芸部だけは、パソコンやスマホの使用が許可されているらしい。去年卒業した部長さんが頼み込んでなんとか許可をもらえたらしい。


 もちろん、ネット小説を読む目的以外での使用はできないらしいけれど。


 家に帰ってから、緑川さんに文芸部を見学してきた事、部活動の詳細を話したら案の定とても興味を持っていた。明日見学に行ってみるとさえ言っていた。


 それにしても、本当に緑川さんは、学校での様子と学校の外では人が変わるみたい。

 何か事情があるのかな……。


 一応奥田さんも文芸部のことを気にしてたようだったし、部活動の内容だけはお話ししておいた。

 そしたら、私には合わないかも~と言っていた。


 部員の人が全員とっても可愛い人達だったと知らせたら少し気にしてはいたけれど…

 その後は夜ごはんを食べて、いつも通り、2人とお話しして眠った。 


 最近の夢には必ずと言っていいほど緑川さんが出てくるけれど今日も出てきてくれるのだろうか…

 少しだけ期待しながら、私は目を閉じた。

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