第56話 告白までのカウントダウン
家からわりと近くにある駅から電車に乗った私は、直ぐに座席に座ってる恵と白い浴衣を着てちょこんと座ってる結奈を見つけた。
小学生にしか見えない結奈を少し可愛いなぁと思いながら恵の隣に座った。
2人とも少し驚いてるけど……なんでだろう。
「いや……なんというかその……普通だな〜って」
「普通?ああ〜弟に言われちゃってさ……。いつも通りの自分でいた方がいいって……」
「弟?ああ〜。なんだ相談したんだ」
「違うって!あの子が勝手に勘付いて聞いて来たの!」
「まぁ春奈は顔にでるからね〜。弟君も良いアドバイスしたよねほんと」
なに……。そんなに良いアドバイスだったの?私そうでもないかなって思ってたんだけど……。そう思ってるのは私だけ!?
「春奈が変に緊張してたら失敗は確定だなぁ〜って2人で話してたんだよ?良かったよほんとに……」
「そんな……。でも!大丈夫。頑張るから!」
「私は彼が言ってくれたから上手く言えないけどさ……。応援してるから。頑張って!」
「そうよ。成功してくんないと私が相談しにくいんだから!」
「ありがと……」
2人の言葉に、少しだけ泣きそうになってしまった。でも……恵って好きな人いるんだ。初耳なんだけど……。
これは成功させて聞き出すしか無くなった!いや元から成功させる気しか無いけど。
電車の中には、まだ昼間だからなのか、浴衣や着物を着た人はそこまで多くは無かった。
そう言った人は大体20代前半くらいの女の人だった。しかも5人くらいのグループ。
私達の集合場所は13時に祭りがある神社の鳥居って事になってたはず……。
時間はかなり余裕を持って早めに出てきたから大丈夫だとして……問題は私が着てきたこの服が問題無いのかだけど……。
少し祭りに行くにはオシャレすぎるかな……。
「別にそんな事ないと思うよ?似合ってるし」
「そう……かな。私も恵みたいに落ち着いた感じのにすれば良かったかもって少し思ってたんだ……」
「私はあんまり着飾るタイプじゃないからこういうので良いの〜。春奈は今日大事な日なんだから気合い入れてきて正解だよ」
恵は黄色い普通の洋服に、グレーのミニスカ。いつもは付けてない薄緑でハート形の髪飾りを付けていた。
対して私は、少し肩が出てる白い服に、チェックのスカート。昔先輩に貰ったアクセサリーを首から下げていた。
結構気合い入れちゃったけど……恵に比べると凄い派手な気もする……。肩出てるやつなんてあんまり着ないけど……挑戦してみた結果だった。
恵は正解って言ってくれてるけど……結奈はどうなんだろう。
恋愛経験でいうと結構前から彼氏がいる結奈の方が豊富だし……。
「別に変じゃないし、むしろ可愛いよ?大分気合い入ってるなぁ〜って思っただけで……」
「そう……かな」
「うん。肩出してるやつ着てるとこ見たの凄い久しぶりだし。普段着てないせいで余計可愛く見えるまである」
「ほんとに!?ありがと!良かった〜」
私は胸を撫で下ろしながら、まだしばらくかかる道のりを流れて行く外の景色と、恵や結奈との会話を楽しみながら過ごした。
恵は最近の愚痴。結奈は彼氏との惚気で正反対の内容だったけど……。
ていうか、もう付き合って半年くらいなのに未だにラブラブなの何なの……。ちょっと羨ましいんですけど。
「そんな事私に聞かれても……。学祭で告白されて勢いで付き合っちゃったけど……なんか毎日が楽しくてさ!」
私は心の中で、誠也……。あんたが言ってた事早速間違ってんじゃないの?と愚痴っていた。
誠也の話では、例外はあるけど大体勢いで付き合ったカップルは2ヶ月しないうちに別れるって言ってた。
結奈が例外なのか、あの子が間違ってたのか今は確かめようがないんだけどさ……。
「そう言えば夏休み終わったら三年以外は直ぐに学祭の準備だっけ……。去年は楽しかったけど……今年はどうなるんだろう……」
「またそういうこと言う……。そんなの今日の結果次第でしょ?考えないんじゃ無かったの?」
「そんなつもりじゃ……。うん。でも……そうだね。今日の結果次第みたいなとこあるし、余計だよね!ごめん。もう考えないから!」
「結奈。あと何分後にこう言う話題出るか賭けない?」
「良いよ。なら私は〜鈴音先輩見て直ぐに思い出すにチョコバナナ」
「なら私は……駅から出て数分後に思い出すにかき氷」
なんか勝手に賭けられてるけど……もう大丈夫だって……。ていうか、人で勝手に賭け事始めないでよ……。
そもそもチョコバナナって、確か売ってるおばちゃんとのジャンケンに勝ったら2本目タダで貰えなかったっけ……
少なくとも去年はそうだった。
「まぁ細かい事は気にしないでさ。ほら。もう直ぐ着くよ」
「誤魔化した……」
「誤魔化したね〜」
少し早足でドアの方に歩いて行く結奈を見ながら、私達2人はクスッと笑って後を追った。
いつも通りの結奈を見て、少しだけ緊張が和らいだような気がした。
駅を出て10分くらい歩くと、会場の神社が見えて来た。
かなり大きめの神社で、出店も駅からここまででかなりあった。
まだ昼間だけど祭りの最終日だからなのか、そこそこ人がいた。
待ち合わせ場所になってる鳥居に着くと、数分後に楽しそうに談笑しながらこちらに歩いてくる可愛らしい浴衣を着た一年生組3人が来た。
紅葉はベージュの着物に、白い花柄が散りばめられたやつで、緑川は水色と青の水玉が描かれた着物。あとの1人の沙織は、赤い着物に桜が描かれたやつだった。
沙織が浴衣を着てるのはなんだか以外で、少しだけ驚いた。
確かに、事前に浴衣を着て来ます!とは言ってたけど……普段おとなしいのに赤い浴衣って結構思い切ってるなぁ〜って思ったり。
まぁ私も電車の中で言われたみたいにかなり思い切ってるんだけど……。
そして、集合時間10分前に来た一年組に続いて、5分後には先輩たちが来た。
朱音先輩と楽しそうに笑いながら話してる鈴音先輩を見ると、いつも以上にもやっとするけど……それよりも、鈴音先輩の今日のコーデが可愛すぎて直ぐにどうでも良くなった。
鈴音先輩はいつも可愛いけど……なんだか今日は一段と可愛く思えた。
先輩が見えてから私達のところに到着するまで2分くらいあったけど、その間もずっとドキドキしていた。
朱音先輩は、白い帽子をかぶって少しだけお腹が出てる服の上から、黒いジャケットを羽織っていた。下はショートパンツで……なんでこんなに暑いのにジャケット?と思ったけど……そう言えば学校の外ではこんな格好をしてることが多かったな〜って思い返した。
帽子をかぶってるのも、自分の髪色は目立つからできれば隠したいって言ってたし。
私は綺麗だと思うけど...外に出る時は基本的に帽子をかぶってるらしい。
問題の鈴音先輩は、くすみ色のチェックシャツを羽織って、少し大きめのロゴTとミニスカだった。
羽織ってるシャツはちょっと暑そうだけど……薄手だから全然そんなことないらしい。
時間なくて適当に選んじゃった……。って言ってたけどすごい似合ってたし、めっちゃ可愛かった!
というか、今まで見て来た中で1番可愛いって言っても大袈裟じゃないくらい可愛い……。
隣で恵が悔しそうに結奈に後でかき氷ね……。なんて言ってたけど、そんな事気にならない程鈴音先輩に見惚れてしまっていた。
「おまたせ〜。ごめんな待ったか?」
「いえ!そんな事は!」
「本当にごめんね。鈴音が昨日夜更かしして寝坊とかしなけりゃね〜?」
「仕方ねぇだろ!勉強してたんだから!」
「小論文書くだけのくせに勉強ね〜?」
「はいはい!行くぞ〜」
ちょっと焦ってる先輩が新鮮で、少しだけ笑ってしまった。そんな先輩も可愛いなぁ〜って...。
合流してから15時までの2時間は、文芸部皆で広い敷地内にある出店や、通りにある店をだらだら歩いていた。
15時から花火が上がる18時までは、各自の自由時間になっていた。
一年生組は紅葉と緑川が一緒に気になってたらしい出し物の方へ向かって行った。
残された沙織は、朱音と一緒に回るらしい。珍しい組み合わせだなぁ〜って思ったら、この前お見舞いに行った時からなぜだか意気投合して仲良くなったらしい。
残った私達4人は、皆で行動することになった。これは、2人きりにした方がいいんじゃない?って言う作戦会議の時に出た案を全力で却下して作った状況だった。
どうせ全員で行動してる時はからかってこないだろうけど、2人きりにしたら1時間もしないうちに私が倒れるって言ったら、2人ともあっさりとそりゃそうだ。って言ってくれた。
なんか、嬉しいやら複雑やら……。
「さてと……。今からしばらく自由だけど〜気になるとことかあったか〜?」
「あ私は1時間もしたら彼氏が合流するので皆の行きたいところに合わせます」
「私も少ししたら友達と合流する予定なので先輩の好きなところに……」
え!?会議と違くない!?結奈は聞いてたから良いとして、恵はその後も着いて来てくれる予定だったじゃん!
私が恵の方を見ると、スッと視線を逸らされた。あ……ワザとだ。もう……無理なんですけど……。持つわけないじゃん!
「そっか〜。1時間もしたら私ら2人きりになるのか〜」
「……。それわざと言ってますよね?」
「あ〜私金魚すくい行きたいな〜。確かあっちにあったよな?」
「話逸らしましたね!?」
「良いから良いから。ほら。行くぞ〜」
「何がいいんですか...ほんとに...」
それから1時間、こんな調子で振り回されながら4人で回った祭りは、凄く楽しかった。
1時間が30分にも15分にも感じられた。
すごい短く感じた。ただ、ここからが本当の戦いで……。
「恵も行っちゃったな〜。2人きりになったけど〜どうする?」
「どうするって……。私は先輩の行きたいところに……」
先輩右手には、水風船のヨーヨーやら金魚すくいで取った金魚やらが沢山握られていた。
それを2人きりになった瞬間、なぜか何も持ってなかった左手に持ち替えた。
その時点で、なんだか嫌な予感がしたのは……まぁ事実だったけど、避けられないことも心のどこかで分かってた。
だけど、不意に先輩の右手が、私の左手に重なった時は思わず変な声が出てしまった。
何と無くこうなることは分かってたけど……それでも、凄く恥ずかしい……。
「ならあっち行こ!確かあっちに射的があったんだよ!」
「あの……そっ……それは良いんですけど、手は……」
「ん?嫌か?」
笑いながらそう言って来た先輩に、相変わらず何も言えなくなって……。
耳まで赤くした私は、首を横に振るのが精一杯だった。
すると、鈴音先輩は小さく笑って私の手を引いて歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「中々良い感じじゃん……。これは……わんちゃんある?」
近くの物陰に隠れながら様子を伺ってた私は、予想外の展開にちょっとだけ胸を撫で下ろしていた。
正直、少し心配だったし……。でも、いつも通りみたいで少し安心した。
春奈には悪いけど、このまま告白まで2人で頑張ってもらうしかない。
でも……先輩のあの左手のやつ……。後で自然と回収しないと邪魔そうだなぁ……。
私はそう考えると、ポケットに入れてた携帯を取り出して春奈には教えてない協力者に連絡を取った。
「先輩と春奈を2人きりにすることには成功しました。ただ、先輩が取ったヨーヨとか金魚を自然に回収した方が良いかもしれません」
すると、意外に数分で返信が返って来た。
この協力者の人も、今は文芸部の子と一緒に祭りを楽しんでるはずなんだけど……でも、正直早い返信は凄く助かる。
もちろん、返信を待ってる間も2人を物陰から追いかけていた。
私が作戦会議の内容を無視してこんな事をしてるのはもう1人の協力者の人に言われたからだ。
「それなら、告白の時にいきなり2人きりにするより最初から2人にした方が良いと思う」
なんて最もなことを言われたら、何も言えない。結奈は少し心配してたけど...。
協力者からの返信はこうだった。
「分かった。私がなんとかしてあげるからあなたは引き続き2人の監視をお願い。手筈通り、マズそうだったら入ってあげて」
マズそうだったら。って言うのは、春奈が耐えきれなさそうだったらって意味ね。
まぁ出来るだけ関与しないでって言われてるけど、肝心の告白前に耐えられなくなったら元も子もない。
「了解です。でも……本当に良かったんですか?協力して貰って……」
「あの2人くっつけたら面白そうって思っただけよ。気にしないで。じゃあまたね」
私は、少しだけ苦笑しながら耳まで赤くしながら鈴音先輩と手を繋いで歩いている親友を眺めながら後を追った。




