第54話 浴衣選び
期末テストが終わった翌日、私は雫ちゃんと一緒にこの前行ったモールに来ていた。
前にお食事会?の後に来た事のあるモールに。
期末テストが始まる数日前、中間テストの時みたいにみんなで勉強会をしてた時、テストが終わったら一緒に浴衣選ばない?って誘われた。
ちょうど文芸部の先輩達に花火大会に誘われて、浴衣も小学生の頃に着てたやつしか残ってなかった私は、お母さんに頼んでなんとかお小遣いをもらった。
散々ダメって言ってたのに雫ちゃんと一緒に行くからお願い!って言った瞬間に良いよ!って言ってくれたのは一体なんだったのか……。
っていうか、モールで買うって言ったのになんで3万円もくれたのか……。そんなに高いの買うわけないじゃんか……。
「どうしたの?昨日のテストそんなに自信ないの?」
「え!?あ〜いや……自信は無いけど...別に大丈夫!」
「自信は無いんだ……。赤点取っちゃったら補習受けなきゃだけど……本当に大丈夫なの?」
「ま……まあ……今回も美月ちゃんの対策問題にかなり助けられたし……多分大丈夫……」
「はぁ……。一番前になったって言うのに変わらずウトウトしてるから……」
「だって〜……。眠いんだもん……」
そう言った私を見ながら、横を歩く雫ちゃんは苦笑した。
花火大会って……確か8月の頭だったっけ……。もし補習を受けることになっちゃったら昼間から行こうってなってるけど……私だけ夜からの参加になってしまう。その日だけはなんとか休んで……
「ねぇ……何考えてるか大体わかるけどさ……補修受けることになっても休んじゃダメよ?」
「え〜!でもさ〜」
「でもじゃ無いでしょ……。怒られるわよ?」
「うっ……。ほら……風邪ひきました〜って言えば……」
「翌日にバレるからダメ。補習になったら諦めなさい。いい?」
「……。は〜い……」
納得はしてないけど了解した私を見て、また雫ちゃんは苦笑したけど……それ以降は普段通りだった。
7月にも席替えあるかなってちょっと不安だったけど……夏休みが近いせいなのか、それは無かった。
多分夏休み明けにするんだろうけど……。月曜に学校行ったら最後だし……。
「あ……あれって奥田さんと皐月さんじゃない?」
「え?どこどこ?」
しばらく歩いた後、もう少しで目的の店に着くと言う所で、その店の中にクラスメイトの2人がいるのが見えたらしい。
私もよーく見てみると、確かに2人も浴衣を選んでるみたいだった。すっごい偶然!
私は嬉しくなって、思わず休みのせいで人通りが多くなってる通路を人とぶつからないように気をつけながら走って、2人がいる店に向かった。
「美月ちゃん〜。皐月ちゃ〜ん!」
「も……紅葉!?なんでここにいるんだ?」
「紅葉ちゃん!?どうしてここに!?」
「雫ちゃんと浴衣選びに来ててね!2人は?」
少しの興奮と、さっき少し走ったせいで息が荒い私はそんなの気にしないまま、驚いてる2人に答えた。
少ししてさっきより表情が硬くなってる気がする雫ちゃんが追いついた。
雫ちゃんが合流した時に美月ちゃんもなんだか少し表情が変わった気がしたけど……皐月ちゃんは気にしないでいいって言ってるし別に気にしないでいいや。
「私達も紅葉と同じでさ。今度凛と3人で花火大会に行くから浴衣選びに来た」
「あれ?凛ちゃんは?」
「あの子は……6月にあった大会で負けちゃってね……。まだ立ち直ってないの。自分の油断で負けた……。みたいな事言っててさ。見てられないから花火大会に誘って見たんだけど……めんどくさいから浴衣は嫌だって...」
「そうなんだ……。花火大会っていつの?どこでやるやつ?」
そう言った私に、雫ちゃんが少しだけびっくりしたような声を出してたけど……一瞬だったし勘違いかもしれない。
雫ちゃんとは花火大会の日、一緒に会場まで行こう!って話をしてたからそう言う問題でビックリしたのかもしれないな〜って思って。
「えっと……いつだっけ?」
「はぁ……。凛誘って花火大会行こうって言い出したの美月だろ……。しっかりしろよ……。8月の頭にある〜ほら。あのちょっとでかい川あるだろ?あそこである花火大会」
「あ〜ね!あの神社の近くの?」
「そうそう。ん?紅葉もそこ行くのか?」
「うん!文芸部の先輩達に誘われて!雫ちゃんも一緒に!」
美月ちゃんが一瞬嬉しそうな顔をしたと思ったら、今度は急に暗い顔になった……。どうしたんだろう……。
確か花火大会は3日間あるんだっけ……。どこで行くんだろう……。私達は最終日だったはずだけど……。
あれ?花火があるのって最終日だけだっけ...。よく調べてないから分かんないや。
「あ〜私達は2……」
「私達も最終日に行くよ!?当日会えると良いね〜!」
「……おい……」
「良いじゃん別に……。凛も今度の大会までしばらくあるって言ってたし……」
「はぁ……。本当にもう……」
急に2人で話したいって言って店の外に出て行っちゃった2人を眺めて、残された私は雫ちゃんと一緒に良かったね〜!って話をしてた。
何か言いたげだった雫ちゃんにどうしたの?って聞いたら、別になんでも無い!って言われてしまった。
明らかに何か言いたそうだけど……まぁ良いや。
しばらくして帰って来た2人は、皐月ちゃんがなぜか顔を赤くしていた。
何があったんだろう……。2、3分しか離れてなかったよね?体調でも悪くなったのかな……
「ん。別に大丈夫。そういえば、どうせなら一緒に浴衣選ばない?って美月が言ってたぞ」
「ちょ!いや違くて!その……あの……緑川さんが良いならって事で……」
「...。私は別に良いけど……なんで私なの?」
「いえ?別に……」
そう言って目をそらした美月ちゃんは、少しだけだけど不安そうだった。なぜかは分かんないけど……。
この時、ちょうど私達の後ろの通路を文芸部の先輩2人が通ったことに、私達全員気が付かなかった。
後日、本人達に言われて初めて知ったし……。
「でも……皐月ちゃんが浴衣着るなんて全然イメージ湧かないけど……着るんだね〜」
「おい……そりゃどう言う意味だよ……。私も一応女子なんだからそりゃ着るぞ……。まぁあんまり好きじゃ無いのは事実だけどさ……」
「なんか……ごめん……」
「皐月はどっちかって言うと、祭りでもパーカーとか着てること多いからね〜。私も別に浴衣は……歩きづらいから好きじゃ無いんだけどさ」
「ん?じゃあなんで?」
「凛が私らの浴衣姿見たら元気出すって訳の分からん事言うから……」
「あ〜なるほどね」
でも……それちゃんと聞いてあげるって2人とも優しいよね〜。と心の中で呟いた。
実際、凛ちゃんの為にそこまで好きじゃ無い浴衣を着るなんて優しいよね〜。
雫ちゃんは...確かあんまり祭りとかには興味ないって言ってたっけ。私は毎年...っと言っても中学生だった時は行ってなかったけど、小学生の頃とかは毎年行ってた。
まぁその時に着てた浴衣しか残ってないから今買いにきてるんだけど。
「で?美月はどんなのにするか決めたのか?」
「そんな事言われても……浴衣なんてそんなに着たことないからさ……。どんなの選べば良いか〜位しか分かんないから似合う似合わないが分かんない……」
「そっか〜。ちなみに紅葉達は決まってるのか?」
「私は大体こういうのがあれば買う!みたいなのは決めてるけど……雫ちゃんは?」
「私はまだ決めてないよ。私も着たことあんまり無いからさ」
皆意外と着たことないんだ。まぁ私もお母さんが毎年着付けしてくれなかったら着なかったし……。
それから、私は買うものが大体決まってたからすぐに買えたけど、他の3人はかなり迷ってた。特に皐月ちゃんが……。
「え……こんなの着るのかよ……。こんな華やかなの私には似合わないって……」
「う〜ん……。こっちも私には派手すぎるんじゃないか?もっとこう……地味なやつでいいんだけど……」
私が知る限り、地味な浴衣って無い気がするんだけど……。男の人が着てる甚平?は浴衣に比べたら地味だろうけど……。
最終的に、美月ちゃんが決めた私達の中では一番落ち着いた色のやつに決めたらしい。
私は4000円ちょっとの小さい花がたくさん描かれたちょっと白め?それともベージュなのかな?まぁそんな感じの色の着物に決めた。
私はみんなに比べたらちょっと身長が小さいから、こういう小さい柄が散りばめられてる方がいいってお婆ちゃんが何年か前に言ってたような気がする。かなり前だからあってるかどうか分かんないけど……。
雫ちゃんは5000円ちょっとで水色と青の水玉がたくさん描いてある着物と、家に無いって言ってた下駄も買ったらしい。
私はお母さんが下駄は前のが少し大きかったからまだ履けると思うって言ってたから買わなかった。
私以外はみんな買ってたからちょっとアレだったけど……。
美月ちゃんは4000円と少しでピンクの花柄の黒い着物を買ってた。
みんな試着は出来なかったけど……美月ちゃんは私が似合いそう!って言ったものを買ってくれた。
なんだか少しだけ嬉しかった……。似合いそうって言ってくれたの買ってくれたし……。
一番悩んでた皐月ちゃんが選んだ物は、赤い帯以外はほとんど白の着物だった。もちろん、薄く桜か何かの模様はついてたけど……売られてる中だと一番大人しめな感じのやつだった。
最終的に美月ちゃんがこれで我慢しなさいって言ってて少しクスッと来たけど……。
「待たせてごめんな……」
「全然いいよ〜。この後2人はどうするの?」
「私達はこの後〜少し買い物してから帰る予定だけど……紅葉達はどうするんだ?」
「私達はこの後〜特に決めてなかったよね?」
「そうね。別に特に何か決めてたわけじゃ無いね」
「多分適当にぶらぶらして帰ると思う!」
少しだけ雫ちゃんが安心したように溜息をついてたけど……そんなに疲れたのかな……。
もう16時だし別にこのまま帰ってもいいんだけど……。
「そっか。じゃあまた学校でな〜。行くぞ美月〜」
「あ……うん……。じゃあね。紅葉ちゃん……と緑川さん」
「ええ。また学校で……」
「じゃ〜ね〜」
2人と別れた私達は、その後モールの中を適当に見て回ったり、ゲームセンターに行ったりと18時過ぎまで遊んだ。
雫ちゃんがクレーンゲームでクマのぬいぐるみを取ってくれた時は、小学生みたいにはしゃいでしまった……。
今思い出しても少しだけ恥ずかしい……。
帰りの電車の中で眠ってしまった私は、降りるときに慌ててたせいでせっかく買った着物を忘れるところだった。
取ってもらったぬいぐるみはずっと抱きしめてたから大丈夫だったけど……。
雫ちゃんはゲームセンターを出た時あたりからずっと顔が少し赤いけど……私は嬉しくてずっとニヤニヤしてた。
家に帰ってからすぐに部屋に飾った!その後、お母さんにその事を話したら凄いニヤつきながらもっと話して!って言ってきたから少し怖かった……。
そういえば……明日お父さんが何年かぶりに帰ってくるらしい……。
そのせいで明日は日曜日だけど……お母さんは昼間からいないらしい……。
あ〜本当に嫌なんだけど……。別に帰って来なくてもいいのに……。
ちなみに、数学は31点で、物理は37点。ギリギリ赤点は回避できました……。
補修にならなくて本当に良かった……。
ちなみに、帰ってきたお父さんは思ってた通り顔も覚えて無かったので無視してます……。




