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第53話 固めた決意

「え?本気なの?春奈……」


「うん!前から決めてたけど……前に進まないと先輩が遠くに行っちゃうし……」


 私は6月中旬のある日の昼休み。ほとんど人が来ない非常階段で、文芸部に一緒に入ってる友達の恵にずっと前から考えてた事を打ち明けた。その反応は大体予想してた通りで、凄く驚かれた。


「でも春奈……。いっつも恥ずかしくなって逃げてるじゃん……。花火大会で告白なんて本当にできるの?」


「いや……それは……頑張るとしか言えないけどさ……。でも!うじうじしてたら先輩が受験勉強とかで遊べなくなっちゃうじゃん!もう...会えなくなっちゃうかもじゃん!部活に来てくれるかも分かんないしさ!」


「ん〜。まぁそれはそうだけどさ……。そもそもの問題、どうやって花火大会に誘うの?そこからまず問題なんじゃない?」


 さっきよりは少し落ち着いた恵が冷静にそう言ってきて、確かに……。とそう思ってしまった。


 誘う事自体は簡単だ。文芸部みんなで花火大会に行きたいみたいな何かしらの理由で誘えば、優しい鈴音先輩はきっと来てくれると思う。


 ただ、それは恵や結奈には任せられない。というか、これは私がしなきゃいけない事だと思う。


 でも……絶対!誘う過程で絶対にまたいつもみたいになる気がする。

 鈴音先輩のあの行動は……慣れるのは無理だし……。っていうか!好きな人からあんな事されて……耐えられる方がおかしい!


「あのさ……何思い出してるか知らないけどさ……私の前で顔赤くしないでもらえる?どなんか……私も恥ずかしくなるから...。鈴音先輩の事考えるなら家でよろしく」


「なんか……ごめん...。ていうか!家では普通だし!」


「はぁ……。まぁいいや。それで?本当に大丈夫なの?それ……失敗したら今より余計にからかわれることになるかもしれないけど……」


「鈴音先輩はそんな人じゃないよ……。でも実際、受験とかあるし……断られたらどうしよう……」


 1番の心配は、告白できるかどうかじゃなくて、振られたらどうしよう。という事だった。きっかけはどうであれ……好きな人に振られるのはかなり辛い。


 しかも、私も来年は受験だし……。9月になれば修学旅行もある。

 色んな断られる可能性がある。しかも1番の問題は……私が男子じゃない事にある。


「まぁぶっちゃけ、断られる可能性の方が高いんじゃない?女子同士でそういう関係になる人って、それこそ本の中とかごく一部の人だけでしょ?春奈がなんであの先輩が好きなのかは詳しく知らないけど……普通は男子と女子って関係だからね。そこは忘れちゃダメだよ?」


 恵はそこで1回切って、私の目を見た。

 真剣に話を聞いてる私を見て、さらに話を続けた。


「もちろん、あんたが悪いとかそういう事じゃないし、同性が付き合うとかには私は別に好き同士なら良いんじゃない?って思う派。それに、女子同士とか男子同士の話が面白いのは事実だよ?鈴音先輩もそういう類のものは好きって言ってたけど……それでも。一応言っとくよ?望みはすごく薄い。それでも……するの?」


 恵とは文芸部に入った頃からの友達だったけど、今までに見たことがないくらい真剣な表情でそう言ってくれた。私の相談にすごく真面目に考えてくれてるのが分かる。


 だからこそ、この子が言ってる事が正しいことも当然理解できる。

 それでも!やらないで後悔するよりか、やって後悔しろって色んな人が言ってるし...私が好きな本にも出てくる。


 私が頷くと、恵は一層真剣な表情で私を見て来た。

 3秒くらいの短い時間だったけど、私には凄く長い時間に感じた。


「はぁ……。そんな本気なら私も応援してあげる。その代わり!私の相談にも乗ること!いい!?」


「ありがと〜!」


「ちょっと……なんで泣くのよ……。ほら。どうやって告白まで持っていくか一緒に考えてあげるから……」


 恵がポケットから出してくれたハンカチで流れてた涙を拭いて、気を引き締める。

 これからの事を考えるのに、残りの昼休み20分だけでは当然足りないし、私はこの後数日。結奈も加えて3人で何回も作戦会議を重ねた。


 恵に相談してからちょうど半月。7月に入って最初の部活動で花火大会に誘う事に決まった。


 その前の作戦会議で、先に鈴音先輩以外の部員全員に話をして、残りは鈴音先輩だけという形を作った。


 一番最初だと色々言われそうだし……一番最後なら、比較的早く話が終わるだろうから、からかわれる前に話を切り上げられるだろう。って事だった。


 更に、私達がいたら変だと思われるかもしれないから。というちょっと納得しにくい理由で、誘うのは2人きりの時になってしまった。結奈か恵はいて欲しかったんですけど……。


「大丈夫!私達は近くで見てるから!」


 いや何が大丈夫なの?って思いっきり心の中で突っ込んだ私の気持ちを知ってか知らずか、2人はちょっと笑いながら私を送り出した。


 朱音先輩や後輩の子たちが来たら、うまい感じに足止めしといてあげる!なんて妙な気を使って……。


「はぁ……。大丈夫!頑張って!私!」


「何を頑張るんだ?」


 部室までの道で自分を励ましてた私に、後ろから話しかけて来たのは私が告白しようとしてる相手の鈴音先輩だった。


 最近作戦会議とかで部活になかなか参加出来てなかったり、参加出来てもなぜだか鈴音先輩がいなかったり。みたいなすれ違いで会えてなかったから……びっくりしたけど……それ以上に嬉しかった。


「え!?あ……いや別に……」


「そっか?そういえば久しぶりに会うな〜。なんで最近来てなかったんだ?」


「ちょ……!顔……近いです……」


「ん〜?そうか〜?私な?寂しかったんだぞ?恵も結奈も顔だしてくれないからさ〜」


 そう言って少し笑った鈴音先輩を見て、やっぱりこの人は可愛いなぁ〜なんて思ってたらまた顔を近づけられて赤面してしまった。


 久しぶりなんだから……少しは抑えてほしい……。話を持ち出す前にこっちが倒れちゃいそう……。


「はぁ……。なぁ春奈〜。受験の事なんだけどさ〜」


 部室について早々、椅子に座った鈴音先輩がそう言って来た。

 なんでも、小論文は自信あるけど、面接には自信が無いらしい。だから……私を相手にして練習したい。なんて言って来た……。

 っていうか……なんで受験で小論文なんですか……。


「ん?言ってなかったっけ?私……あ〜いや良いや。文系の大学進むからな〜。多分その関係なんじゃないかー?」


「なんで若干棒読みなんですか……」


「良いから!ほら。面接の練習付き合って」


「……はい」


 なんか重要な事をはぐらかされてしまったような気がするけど……今はいいや。

 でも……面接の練習って言っても……何すればいいかわかんないんですけど……


「じゃあ質問な。あなたはなんでこの部活に入ろうと思ったんですか〜」


「いやなんで私が質問される側なんですか!先輩が答える側じゃないんですか!?」


「まぁ良いから良いから。それで?」


「……。先輩に誘われたので入りました……」


 そういうと、鈴音先輩は満足そうにうなづいて、次の質問をして来た。

 なんか……いつも通り鈴音先輩に流されてる気がする……。


「次な。あなたの一番楽しかった思い出を教えてくださーい」


「まだ続くんですか……。一番は……去年の文化祭ですかね……」


「あ〜私と一緒に回ったもんな〜!そう言われるとなんか嬉しいな!」


「またそういうこと言う!」


「まぁまぁ。ほら次」


 少しだけ顔が赤くなってるのを感じながら、誰も入ってこない事を祈る。

 まだ私は言いたい事を言えてないんだし……。


「あなたは、私の事が好きですか〜?」


「なっ!なんですかその質問!」


「顔真っ赤にして……どした〜?」


「分かってるくせに言わないでください!もう!」


 私はこれ以上ないくらい顔を真っ赤にしてニヤニヤしてる先輩に背中を向けた。

 いつもならここで逃げ出してる……。でも……まだ……ギリギリ耐えられてる……。まだギリギリいける……。


「じゃあ最後の質問な〜?私以外みんな誘ってる花火大会は〜私も行っていいのか〜?」


「ちょ!なんでそれ知ってるんですか!」


「ん〜?朱音に聞いたぞ〜?なんだ?私は誘うつもり無かったのか?少し悲しいぞ?」


「そんな訳ないじゃないですか!むしろ……!」


 そこまで言って振り向いた私は、目の前の机に突っ伏してこっちだけ見てる鈴音先輩と目があってしまった。


 それだけで今言いかけた事が、作戦会議の内容、諸々が全部頭から抜け落ちてしまった……。

 だって……今までのどんな姿より可愛かったんだもん!さっきも……あんな事言われて……。


「むしろ?なんだよ〜。言ってくれないと分かんないぞ〜?」


「なぁなぁ〜。後ろ向いてないでさ〜。こっち向きなよ〜」


 恥ずかしくてプルプル震えてる私を見ながらそんな風に言ってくる後ろの先輩が……ただひたすらに...愛おしかった。


 恥ずかしいけど……でも、何よりその感情が先に来た。やっぱり私は、この先輩が好きで、好きで、誰よりも大好きで...誰にも取られたくなくて...ずっとそばに居たくて告白するって事を思い出した。


 もう決めたんだから……自分で決めたことはちゃんとやらないと……!


「お〜。今日はいつもより頑張るなぁ〜。どしたんだ?」


「!鈴音先輩!」


「ん〜?」


「8月にある花火大会!来てくれますか!?」


 耳まで真っ赤にした私は、うるさくなる心臓の前で手を握りながらそう言った。

 鈴音先輩がん〜。と唸り声をあげてる時間はほんの数秒だったけど、その時間が何分にも何時間にも感じられた。


 よく小説とかでこう言う表現をしてる所があるけど……実際こう言う風になるとこんな感じなんだ……。結構きつい……。


「よし。もちろん行くぞ〜!でもなぁ〜?悲しかったのは本当なんだからな?」


「はい!」


「本当に分かってんのか……?まぁ良いけどさ〜」


 私は嬉しくて、少しだけホッとした。この先輩は絶対に来てくれるって分かってたけど……それでも……怖かった……。


 しかも……結奈達の予想すっごい外れてるし……。っていうか、むしろ久しぶりに会った分いつもより恥ずかしかった気がするんだけど……。気のせい?


「なぁ〜良い加減耳まで赤くするのはやめような?私まで少し恥ずかしくなってくるからさ〜」


「元はと言えば先輩があんな事言うからですよね!?」


「あんな事?私なんか言ったか〜?」


「もう!いいです!」


 言いたい事が言えた私は、部室を逃げるように飛び出して、1人走って昇降口に向かった。


 下駄箱では結奈と恵の2人が待ってくれていた。私の様子で大体察した様子の2人は、頑張ったね。って言ってくれた。


 帰りに、朱音先輩抑えるの結構苦労したんだから〜みたいな愚痴を近くのカフェで聞かされた。もちろんそこのお代は全部私が出した……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さっき昇降口に走ってく春奈見たけど……あんた春奈にほんと何したの……」


「ん〜?久しぶりに会えて嬉しくてさ〜。ついからかいすぎちゃった〜。いや〜やっぱ可愛いなぁ〜」


「ついじゃないでしょうが……。あんたはともかく、私は受験勉強あるから夏休み終わってからは部活に顔出せなくなるかもなんだから……しっかりしてよね……」


「はいはい〜」


「本当に分かってんの……?」


「分かってる分かってる〜」


 1人は幸せそうに笑いながら、もう1人は心配そうな深いため息をついた所で2人の後輩の一年生が部室に入って来て、不思議そうな顔をしてる2人と、後から入って来たもう1人の一年生に夏休み明けからはまだ幸せそうに笑ってるこの人が部長だから。と伝えた。


 各々反応はそれぞれだったけど……最終的に部活動は久しぶりに本を読んだだけで終わった。



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