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第50話 席替え

 その日、外で雨が降っていた。その音で目が覚めた私は、少しだけ気分が良くなかった。

 昨日は誕生日ですごく嬉しかったけど、今日は雨からのスタートなんて……なんだかちょっとだけ嫌な予感がする。


 まだ7時にはなってないから、まだ朝ごはんまで1時間くらいある。

 昨日お母さんから救出したマカロンのクッションを抱きしめながら、カーテンを開けて雨が降っている暗い外を睨みつけた。

 別に怨みがあるとかじゃないけど……なんだか物凄く嫌な予感がする。


 いくら雨が嫌いだと言っても、暗い外を眺めてるだけで朝ごはんまでの時間を潰すなんてことはできなくて、下に降りて天気予報でも見よう。という事に決まった。


 もしかしたら、この雨は一時的なものなのかもしれないという希望を込めて。

 まぁ……激しさからみて大体予想はついてるんだけど……一応ね?一応確認したいじゃん?


「今日は一日中雨が続きそうです。少し遅めの梅雨でしょうかね〜」


 テレビをつけて、ニュース番組でお天気お姉さんが言った一言で、まだちょっとだけ眠かった私は、一気に目が覚めてしまった。

 梅雨とかもういやだ……。だとしたら……しばらくは雨が続くって事?最悪……。


「ふ〜ん。今年は梅雨入り遅かったわね〜」


「梅雨ってなんで毎年来るんだろうね。100年に一回とかで良いと思う……。って何してんの!?」


 いつの間にか後ろにいたお母さんに、少しだけ。というか、かなりびっくりした。一言くらい声かけてくれれば良いのに……。


 そんな私の顔がよっぽどおかしかったのか、お母さんは笑いながらキッチンの方に歩いて行ってしまった。


 朝ごはんの時にサラッと聞いてみたけど、面白そうだからやってみた〜って小学生みたいな事言っててちょっと呆れてしまった。

 本当に何やってるんだろうこの人……。


「学校から帰る時雨止んでてもちゃんと傘持って帰って来なさいね」


「大丈夫だって。今日1日雨って言ってたし〜」


「良いから。持って帰って来なさいね」


「……。は〜い」


 なんか、私って信用ないよね。皐月ちゃん達も私のこと心配って言うし、お母さんもお母さんでなんだかちょっと心配しすぎみたいな所あるし……。


 いや心配されるようなことしかしない私が悪いのかも知んないけどさ……。

 それでも!少しは信用してくれても良いと思うんだよね!


 少しだけ怒りながら外に出た私は、外に出た瞬間に少しだけ濡れたカバンを見て、やっぱり雨は嫌いという気持ちを隠そうともせず顔に出した。傘持つのもちょっとめんどくさいし……。


 靴とかも少し濡れるし……最悪靴下とかも濡れて気持ち悪いから本当に嫌なんだよね……。

 朝の嫌な予感の正体がこんな可愛い事なら良いんだけど……。


 いつも通りの時間に家を出たのに、学校に着いたのはいつもより5分ほど遅かった。


 まぁ……昨日と違って横の席にはいつも通りに雫ちゃんが本を読んで座ってたし、少し私の機嫌は回復したけど……なんでだか挨拶をしても目を合わせてはくれなかった。前まではちゃんと目を合わせてくれてたんだけどなぁ……。私何かしたかな……。


「おはよ〜。はいはい席について〜」


 いつも通りの時間に、担任の柊先生が教室に入って来た。

 今日も休みとか言われたら……2日連続であの先生はちょっと……嫌だ。あの先生怖いんだもん!顔が……。


 やっぱりこの先生がいい……。あの先生に比べたら……可愛いし。


「昨日先生が休んじゃったから出来なかったんだけど、今から席替えをします!席替えするってことは前もって言ってたし、1限の授業もあるからちゃっちゃと終わらせるよ〜」


 うわ……。やっぱり朝の嫌な予感が当たった……。別に私は今のままの席でいいってば……。


 まぁそんな願いが通じる訳もなく、柊先生が淡々と黒板に席の位置を書いていく。

 やっぱりくじ引きとかじゃないんだ……。くじ引きならまた雫ちゃんと隣になれる可能性が少しでもあったのに……。


 そして、殆ど知らない名前が黒板に書かれた席に綺麗な字で書かれていく。多分あれが新しい席なんだろうけど……。


 あ……私誰とも近くない……。しかも……1番前……。最悪なんですけど……。も〜嫌!


 私は教卓。先生から1番近い所。教室の真ん中の列1番前になってしまった。

 皐月ちゃんは比較的近くて私の2列左で2つ後ろだけど……美月ちゃんは前に雫ちゃんが座ってた所。


 凛ちゃんは美月ちゃんの真逆。

 教室の後ろのドアの1番近くになってた。肝心の雫ちゃんは、私の列ではあるけど、1番後ろだった。

 なんでこうなるかなぁ……。せめて誰かと隣が良かった……。


 しかも最悪なことに、左右は名前も知らない男の子だし、後ろは女の子だけどこの子も話した事がない。


 ちょっとだけ先生を恨んでしまった。この後目が悪い人とか前の人がでかくて黒板が見えない人と後ろの人が入れ替わる作業が起こるけど……美月ちゃんも雫ちゃんも別に目が悪い訳じゃない……はず。


 凛ちゃんは少しは目が悪いかもだけど……今日は。というか、今日も来てないし。

 見た感じ美月ちゃんの前の人は小柄だし、雫ちゃんの前の人も比較的小さいような気がする。終わった……。

 次の席替えいつだろう……。


 早々に諦めた私は、後ろの皐月ちゃんから変な目で見られてることなんて気が付かずに、ちょっと眠ってしまった。


 もちろん教卓の1番近くだし、今まで通り授業中に寝るなんて事は出来なくなってるけど……。それでも、少しでも夢に救いを求めたかった。もう嫌だ……。柊先生好きだったのに……嫌いになりそう……。


「紅葉ちゃん。もう起きないと先生に怒られるよ?」


 ちょうど美月ちゃんと雫ちゃんが横の席に来て嬉しくて舞い上がってる夢を見ていた私を現実に呼び戻したのは、夢の中にも出て来た女の子の声だった。でも、そこには決しているはずのない子でもあった。


 それなのに、寝る前と今とじゃ、全然違う景色が少しだけ目を開いた私の目の前にあった。


 そこには、机の上に私と同じように突っ伏してるけど、私の方をジッと見てる雫ちゃんの姿があった。


 私が目を見開くと、すぐに目を逸らしちゃったけど……耳がちょっとだけ赤いのは、私が急に起きたからなんだと思う。

 でも……なんで雫ちゃんが横にいるの?さっきまで知らない男の人だったのに……。


「ちょっと最近黒板の文字が見えづらくなっててさ。先生に言ったらここの席の人と変わっていいよって言われたんだよね」


「そうなんだ!え!嬉しい!」


「あ……うん。ありがと……」


 その後、なんだか急に変な雰囲気になってしまって、お互い目を逸らして黙ってしまった。


 別に気まずいとかじゃ無いけど...なんだか雫ちゃんの顔が赤い気がして、何となく目が合わせられないというか...うん。


「なぁイチャついてるとこ悪いんだけどさ、美月が言いたい事があるそうなんだよ。聞いてやってくんないか?」


 別にイチャついてた訳じゃないんだけど……。でも、なんだか意識してしまうと、自然と顔が赤くなっていく私は振り返って皐月ちゃんの横に立っているどこかで見たことあるけどどこで見たのか思い出せない女の子に目を向けた。


 こんな人……このクラスに居たっけ……。いやほとんどのクラスの人の顔と名前が一致しない私には分かんないけどさ……。


「えっと……その人……誰?っていうか……美月ちゃんは?」


「ちょっとみなちゃん……。それは少し傷つくよ……」


 その緑の縁の眼鏡をかけた女の子から聞こえて来た声は、私がよく知ってる声で、思わず変な声が出てしまった。


 雫ちゃんはなんでか知らないけど少し不満そうだけど……それは今は良いとして……なんで美月ちゃんが眼鏡かけてるの!?


「まぁこの子普段コンタクトだからな〜。前は眼鏡だったんだけど!?...おい」


「ちょっと一時期かけてた眼鏡持ってきてたんだよね……。授業中だけかけようかな〜って」


「そうなんだ〜。でも……似合ってるね!その眼鏡!」


「あ……ありがと!それでねそれでね!私も先生に黒板が見えないから席変えてください!って言ったら!みなちゃんの横になれたの!」


「え〜!?ほんと!?やったー!みんな一緒!」


 私が諦めて寝た後で……なんだか凄いことになってたみたい。

 なんか……夢で見た光景がそのまま現実に起きた感じがして、今にもはしゃぎそう!まぁもう少しはしゃいでるけどさ……。


 でも!すっごい嬉しい!仲がいい人が横にいるってやっぱり嬉しい!


 あれ...でも美月ちゃん授業中だけでも眼鏡かけるって事はコンタクトはどうするんだろう...。まぁ私はどっちも持ってないし併用しても問題ないのかもしれないけど...。


 その後の数学の授業でいつもの癖で寝かけちゃって、終わった後に先生にすごい怒られたけど……それも全然良い!って思えるほど良かった。


 でも……授業中に寝れないのは……物理とかの時間は本当にきついけど……。

 何言ってるかわかんないのに……そんなのを1時間近くも耐えないといけないなんてなんの苦行!?みたいな感じ……。


 雨なのにテンションが以上に高いまま帰った私は、お母さんが帰ってくるまでリビングでひたすらはしゃいでたから、帰ってきたお母さんに白い目で見られてしまった……。


 理由を説明したら、なんでか知らないけど良かったね〜ってニヤついてきて……ちょっとだけ気持ち悪かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ね!?念の為眼鏡持ってきといて良かったでしょ!?」


 放課後の学校からの帰り道、自信満々にそう言いながら満面の笑みを浮かべてるこの女の子は、朝からずっとこんな感じだった。


 いや……正確には、紅葉の横に席が決まった瞬間からって言った方が良いかもしれない。

 登校中なんて、なんか嫌な予感がする……。物凄く!なんだか嫌な予感がする!ってずっと言いながら歩いてたし……。


「あのなぁ……。紅葉がたまたま寝てたから良かったものの、起きてたらどうするつもりだったんだよ……」


「紅葉ちゃんが起きてたら……数日我慢して……やっぱり見えないから前の方にしてください。って言ったかな……」


 あまりにもマジトーンでそう言われて、流石にため息が出てしまった。


 私なんか紅葉の斜め横らへんの位置になっちゃったけど……自分の好きな人が他の女子とイチャつこうと頑張ってるところを黙って見ないといけないなんて……どんな苦行だよ!って思ってしまう。まぁ……結局は自分が悪いから仕方ないんだけどさ……。


「はぁ……。でも……当時と同じ眼鏡なのに気が付かんもんかな……」


「さぁ……。髪型も今とちょっと違かったし……大丈夫だったんでしょ」


 美月があの時かけてた眼鏡は、中学の頃からも愛用してた眼鏡だった。

 高校に入ってからコンタクトに変えたけど……眼鏡よりもちょっと可愛くて私はこっちの方が好きだったりする。

 まぁ……眼鏡の美月も十分可愛いけど……。じゃなくて!


「あ〜じゃあさ。あの子はどうするんだ?美月より半ば強引に横に入ってきたけど……」


「緑川さんでしょ?ちょっとあそこまでするとは思わなかったんだよね……。なんで先生もすんなり通しちゃうかな〜!明らかに見えないって言ってるの嘘じゃんか!」


「それはしらねぇよ……。それより、この後どうするかだろ……」


「まだ考え中……。でも……紅葉ちゃんが寝そうになってたあの顔!めっちゃ可愛くなかった!?」


「あ〜はいはい。今後の話はまた明日な」


 こういう事になると、美月の話は長い。しかも、あの顔は少ししか見えなかった私でも可愛いと思えた。


 それが余計に変な気持ちを加速させている。ちょっとムスッとしながらも、今後の話は明日話す事には賛成なのか、美月がそれ以上何も言うことは無かった。


 美月と別れた後、私はそのまま家には帰らず、家の近くの公園にいた。

 少し古いブランコに揺られながら、少しだけ泣いていた。


 それはそうだろう。もう3年近く片想いをしている相手が、嬉々として好きな人の事を話してるんだ。

 時々こんな風に感情を表に出さないとやってられない。というか、我慢できない。


 自業自得だから仕方ないと割り切れてはいても、それで我慢できるかと言われたら別だ。

 そんな理由で我慢できるならこんなに苦労はしない。もっと楽に事を運べるはずだ。


 次々溢れてくる美月との思い出と笑顔。そして、押しつぶされそうになるほどの自己嫌悪と嫉妬。

 それと同じだけ。もしくはそれ以上に心の中に美月に対する色んな思いが次々に溢れ出てくる。


「本当に……。あの時……私が臆病じゃ無かったら……こんな事にはなってなかったのに……。ああ……分かってても……苦しいな……」


 10分ほど静かに泣いて、気持ちを落ち着かせた私は、いつも通りの笑顔を作りながら家に帰った。


 寝る前にまた少しだけ涙が出てきたけど、時々ある事だし特に気にせずそのまま眠りについた。


 その夜、妙に葉月が優しかったのはなんでだか寝る直前になっても分からなかった。

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