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第47話 突然の訪問者

 私が起きたのは昼。それも、もうすぐ15時になろうというところだった。

 本来であれば学校で6時間目の授業が行われてる頃だろうか……。


 私は今日、というか昨日もか。学校を休んだ。

 理由は別に体調が悪かったとかそういうものでは無い。単に精神的な面で少し異常?があった為の欠席だ。

 SNSで知り合い?の人に意見を求めても別にこの問題は解決しなかった。というか、余計に複雑になってしまった。


 一昨日、私は紅葉ちゃんと一緒に隣の駅までシュークリームとケーキを食べに行った。

 私の様子がおかしくなってしまった。というよりはもっと前からおかしかったのかも知れないけど、自分では気がついて無かったのかも知れない。紅葉ちゃんには今まで、妹のような存在として接してきた。


 高校に入って初めて会った人相手に妹のような存在として接するのはおかしいかも知れないけど……あの子はなんでだかそんな風に思えてしまう。皐月さんから時々話を聞くけど……その時もなんどか年下の子に向けるような感情が出てきてたのは事実だ。


 でも……一昨日帰ってきた時は、なんだかいつもと様子が違って心臓がずっとうるさいくらい鳴っていた。幸い、紅葉ちゃんには気が付かれてなかったけど……その日はほとんど眠れなかったほどだ。


 私は趣味で中学生の頃からネットに小説を投稿している。

 別に本になるとかそんな大それたことには興味はない。ただの暇つぶし程度で書いてるだけだ。それでもいつの間にか少しだけではあるが有名になってしまったのは事実だ。その原因がなんでなのかは知らないけど。


 とにかく、私がネット用に作ったSNSには私の投稿してる小説を読んでくれてる人が数千人フォローしてくれていた。時々自分より年上という理由から相談にも乗ってもらっている。


 ただ、今回はそれがまずかった気がする。

 今朝もほとんど眠れず、ついさっき言った悩み事を所々誤魔化してではあるけど相談してしまった。

 その結果、それは恋だのなんだのと言われてしまう始末。そのせいで今日はまた学校を休んだまである。紅葉ちゃんの顔をまともに見れるか怪しかったし……。


 流石に3日連続で休みとなればあの優しい紅葉ちゃんは、きっと見舞いに来てしまうだろう。私の家は紅葉ちゃんの家から割と近くだということは既に伝えてあるし……。


 せめて後1日遅ければ……土日で合法的?に学校を休めたが、今日は残念ながら木曜日だ。

 明日も学校はある。流石に明日は行かないとまずいだろう。


 私が今いる部屋は自分の部屋であり、2日間全然寝れてなかったせいもあって朝から今までずっと寝ていた。

 両親はおそらく仕事に行ってるだろうけど……何時に帰ってくるかわからない以上あまり部屋の外には出たくない。お母さんは別にいいけど……お父さんにはあまり会いたくない。ただでさえ今は自分の精神面が不安定な時期なんだから……。


 私の部屋は少し大きめのベットと学習机。それとノートパソコンが置いてあるのみで、あとは全部本棚で埋め尽くされていた。

 何冊あるかはめんどくさくて数えたことは無いけど……ざっと見た感じ色んな種類の小説が200や300冊程度並べられている。

 どれもかなり分厚い本であり、漫画のようなものは一切ない。この部屋はそのせいもあって本来よりずっと狭く感じるほどだ。


「はぁ……。でも……流石にお腹は空くよね……」


 こんな時でも昨日の夜から何も口にしていない。と言うよりかは一昨日の夜からまともに食べていない気すらする。

 大好きなチョコ系統のアイスやお菓子すら、いつものようにスラスラと口に入ってくれない為だ。

 寝癖がついてボサボサの髪を少しだけ鬱陶しく思いながら下に降りる。


 とりあえず顔を洗って冷蔵庫を確認する。なにか適当なものでも口に入れないと色々まずいかも知れない。

 明日は多分学校に行くことになるし……顔色が悪ければ何か心配される恐れがある。別になんとも無いのに、そんな心配はかけたく無い。


 しかも、実の所私が書いているのは特殊ではあるが恋愛小説だ。

 そんなものを書いてる本人が言うのもあれだけど、恋っていうものが何なのか。実はあまりよく分かっていない。


 中学の頃は殆ど人と関わって来なかったし、友達も片手で数えられる程度いたかどうかという所。

 そんな人が初恋なんて経験してるわけがない。むしろ、男子には全くと言っていいほど興味がない。


 かといって女子とどうこうなるということも別に考えたことは無かった。というか、そう言うのは現実じゃなく物語の世界だけだと考えていた人間だった。ついこの前までは……。


 自分の読者さんやフォロワーさんが言うのが正しいのであれば、これが恋というものらしい。

 らしいというのは当事者になったというのがイマイチ納得いかないというか、まだうーん?みたいな感じだからだ。


 それもそうだろう。妹みたいな存在として認識してた人に対する気持ちが、急に第三者にそれは恋だ。なんて言われてもピンと来るわけがない。むしろ、ピンと来る人の方がおかしいだろう。それを今日一日考える為に休んだというのも実際のところ正しいわけで……。


 まぁ結局、殆ど寝てたから考えるのはこれからになるだろうけど……答えが今日1日で出るかと言われると、正直分からない。

 初恋だったとしても、それがどんな感情なのか分からない以上、気付くのに時間がかかると思うし……。初恋じゃないという判断もまた、初恋がどんなものなのか知らない為にどう判断していいか分からない。


 第三者に頼ってもどうにもならないからこればっかりは自分で答えを見つける必要がある。


「何もないじゃん……。はぁ……。夕飯まで我慢かな……」


 冷蔵庫の中には、殆ど食べられるものが残っていなかった。

 料理も出来ないわけではないけど、あまり得意という訳じゃない。少なくとも、奥田さんよりうまい自信はない。


 奥田さんは間違いなく紅葉ちゃんになんらかの感情を持っていると言ってもいい。物語の登場人物に当てはめるとすれば、多分恋愛感情を持っていると考えていいだろう。


 実際、私の小説に登場する子のほとんどが恋愛という形がわからない私が書いたものであり、その実電子書籍も含め数百冊の恋愛ものの小説を読んできた経験で書いてるだけに過ぎない。だから、まぁ間違ってはないとは思うけど……私自身のことになると話は別だ。


 物事を客観的に見ることができない人は一定数存在する。私もその中の1人であり、自分の状況を正しく認識できる時とできない時がある。今がまさにその状態だ。


 奥田さんには紅葉ちゃんは渡したくないとは思う。ただそれは、恋愛感情からくるものなのか、友情的な意味からくるものなのか、私には判断がつかない。殆ど頭に栄養が行ってないから普段の何倍も考える力が低下してる可能性すらある。


 夕食後にもう一回考えよ……。そう考えた私は、キッチンの前にあるリビングのソファに寝転がり、壁にかかった電波時計の秒数が進んでいくのを、ただじっと観察していた。


 側から見ればかなり危ない女の子に見えるのは間違いない行動だろう。でも……何もすることがなく、暇な時はいつも大抵こうしている。まぁ流石に10分もこんな事してるほど、私はヤバイ人ではないけど……。せいぜいが5分程度の時間だと思う。


 その後は適当にテレビを見たり、意味なくソファを転がったりと……。家のチャイムが鳴るまで、ずっとそうやって過ごしていた。


 普段私は、家に1人でいた時、チャイムは基本無視する。お母さんからこの時間に荷物が来るから受け取っておいて。などと言われない限り、基本無視を決め込む。理由は1つ。めんどくさいからだ。


 ただ、その日は色々あってあまり頭が働いてなかったのか、いつもなら絶対に出ないはずなのにインターホンに出てしまった。


「はい……。なんですか……」


「雫ちゃん〜!私〜!心配だったから……来ちゃった!」


 そこには、今私の調子がおかしくなっている原因の女の子が、息を切らしながら立っていた。

 見間違いじゃないかと思わず二度見してしまったほどだ。それでも、間違えるわけがなかった。その子は……


「紅葉ちゃん!?え……。あ……。ちょっと待ってね!着替えて来るから!」


「あ……うん……。ごめんね急に……」


 えっと……全く役に立ってない頭をフル回転させないと……。なんでまず急に紅葉ちゃんがこの家に来たか……。

 多分私が2日連続で学校を休んだから心配できてくれたんだろう。それはわかる。さっき本人もそう言っていた。


 でも……このままドアを開けるのはまずい……。今の私の格好を紅葉ちゃんに見せるわけには行かない……。


 紅葉ちゃんに着替えるとは言ったものの、別に着ている服は普段家にいる時に着ている上下グレーの地味目なジャージだし、別に問題はない。問題があるとすれば、寝癖がつきまくった髪とノーメイクのこの顔だろう。別にメイクは休んでるんだししてなくても不自然ではないと思う。ただ……そう。ちょっとだけメイクはしたい……。


 なるべく早く終わらせないと紅葉ちゃんを長く待たせちゃう事になるから出来るだけ急いで……。


 5分後、簡単にメイクをして髪をいつも通りに直した私は、やっと玄関を開けた。

 インターホン越しでは少し息が切れてた紅葉ちゃんは、すっかり落ち着いていた。

 まぁ5分も待たせちゃったし当然っちゃ当然か……。でも……別に来なくてもいいよって朝言ったのに……。


「ごめんね待たせちゃって……。どうぞ」


「ううん。こっちこそごめんね。急に来ちゃって……」


「全然大丈夫よ。心配かけちゃってごめんね〜」


 出来る限りの笑顔でそう言った私は、やっぱり紅葉ちゃんの顔をまともに見ることができない自分に気がつく。

 なんでだか顔を見ようとすると、妙に恥ずかしい気持ちに襲われるというか……。今までこんな事無かったのに……。


 とりあえず、紅葉ちゃんをリビングに通して、紅葉ちゃんが買って来てくれたチョコアイスを2人でパクつきながら、なんで休んでたのかとか、そこら辺のことを話した。


 昨日まではスラッと?喉を通らなかったチョコアイスはなんでだか普通に食べられた。心なしか、何度も食べたことのあるアイスなのに、その時はいつもより少しだけ美味しく感じた。


「元気そうでよかった〜。2日も休んでたから何かあったのかなって……」


「ちょっと色々あって眠れなくてさ……。学校に行けるようになれなくて……」


 苦しい言い訳だけど、別に嘘ではないし問題はないと思う。特に何か重い病気にかかっていると言うことは今は無いし。


「そっか〜。明日は?来れそう?」


「まぁ……多分大丈夫だと思う……。頑張るよ……」


「そっか〜!良かった!先生がそろそろ席替えするって言ってたからさ……。少し寂しくなっちゃうよね……」


 その言葉を聞いた瞬間、私は胸が少しだけチクっとするのを感じた。別になんてことない普通の会話だと言うのに……。

 席替えなんて……。ずっと同じ席で良いじゃんか……。そう思ってしまう。


「そうなんだ……。時期的に6月入ったあたりでするのかな……?」


「う〜ん。そこまでは分からないけど……6月中にはやるだろうね……。もう少し雫ちゃんの横にいたかったんだけどなぁ……」


 その言葉に、今度はさっきと違って少しだけ嬉しい。そう思ってしまう。

 さっきからいろんな感情が頭の中に入り込んで来てめちゃくちゃだ。少し落ち着かないとダメだと頭の中では分かっているのにそう出来ない……。


「う〜ん。寂しくなるね……。まぁクラスが変わるわけじゃないしさ……」


「それもそうだね……。あ。そういえば、鈴音先輩から伝言なんだけど、えっと……なんだっけ……。確か……天野ってどう言う意味?って言ってた!」


「それだけ言われてもねぇ……。天野ってどう言う意味って言われても……」


 そこまで言って、天野とは自分のネットでの名前。天野雫のことなんじゃないか。そう思い始めた。

 もし違ってたらちょっと恥ずかしいけど……あの先輩が朱音先輩から聞いて私の正体を知ってるなんて可能性は十分あり得る……。


 部活に入る時に当然ながら朱音先輩には自分がしてる事を話している。その関係で鈴音先輩が知っている可能性は充分ある。


 だとしたら……ちょっとめんどくさい事になるかもしれない……。夜確認を取らないと……。

 既に紅葉ちゃんが持ってきてくれたチョコアイスは、棒だけになって机の上にビニールと一緒に並んでいた。


「あ〜その件は私から鈴音先輩に言っとくね。他に何か言ってた?」


「ううん〜?それだけ〜だよ?」


「そっか……。ありがとねわざわざ」


 その後、紅葉ちゃんと軽く話して、17時前には帰ってしまった。

 紅葉ちゃんが帰った後、急激に寂しくなったけど……多分話し相手がいなくなってしまった事に対する寂しさだろう。


 結局、最後まで紅葉ちゃんの顔をまともに見る事は出来なかった。チラチラとは見えたけど……ジッと見つめるなんて事は出来なかった。いや……この前までもそんな事はしてなかったっけ……。なんでだか思い出せないけど……。


 久しぶりにまともにご飯を食べて、自分の部屋に帰って来た私は夕方紅葉ちゃんから聞いた話のことを確かめるために鈴音先輩に連絡を取った。すると、数分でメッセージが来た。


「ちょっと電話で話せないか?いちいち送るのめんどくさいじゃん?」


「少しなら……大丈夫です……」


 そう送った瞬間、握りしめてた携帯が勢いよく鳴り、鈴音先輩から電話がかかってきた。

 あまりに急だったから少しビックリしたけど……なんとか電話に出た。


「もしもし……?」


「おうー!緑川〜。それで?なんだ?聞きたいことって」


「今日紅葉ちゃんが家にお見舞いに来てくれたんですけど……」


「お!ラブラブじゃねぇか!いいな〜。私もそんな人欲しいわ〜」


「話を逸らさないでもらっていいですか……。その時に聞いた件なんですけど……。あれってどう言う意味ですか?」


「緑川って案外そう言うとこは気にするんだな。まぁいいか。えっとな〜朱音から聞いたんだけど、緑川がネットで小説書いてるって話。それ私も読んだんだけど、天野雫ってどう言う意味があるんだろうなって気になってさ。雫はまぁ名前だからいいとして、天野ってなんだろうなって単純な疑問」


「本当にそれだけで紅葉ちゃんに伝言したんですか?遠回しに私の家に見舞いに行けとか言いませんでしたか?」


 実は、夕飯を食べ終わってからずっとその線を疑っていた。

 久しぶりのちゃんとした食事で脳に栄養がちゃんと届いたのか知らないけど、昼間よりは頭は働くようになっていた。

 その中で出て来た答えがこれだった。つまり、紅葉ちゃんはこの先輩に誘導されて見舞いに来てくれたのではないか。と言う説。


「んなことするわけないだろ〜。今度会った時に聞いといてって言っただけだぞ?そんで?なんか理由でもあんのか?」


「……。まぁいいです……。一応は信じます。天野は別に深い意味は無いですよ……。適当に考えた名前なので……。強いて言うなら雨は空から降ってくるって言うことですかね……。多分そんな単純な事を思ってたから天野って名前にしたんだと思いますけど……。またどうしてそっちに興味持ったんですか……」


「ん〜?いや別になんとなく気になっただけだぞ〜?じゃな。夜更かしすんなよ〜」


 そう言って一方的に電話を切った鈴音先輩は、最後の方は少し笑っていた。

 鈴音先輩が本当の事を言ったかは分かんないけど……なんか……遠回しにと言うか……めっちゃ遠回しに急ぎの要件だから今度会った時に聞いて。みたいに言ったようにしか聞こえないんですけど……。


 いやまぁ考えても仕方ないか……。昼間に結構寝たとはいえ、2日ろくに寝てなかった体には、まだまだ睡眠は足りなかったらしく部屋の電気を消したらすぐの眠気が襲ってきた。そして私は、翌日の朝、遅刻ギリギリで学校に着いた。

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