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第46話 奇妙な連鎖

 その日、いつもより早く起きれた私は、最近色々な理由で続きを見れてなかった小説を読む事にした。


 最近読めてなかったって言う理由と、なぜだかいつもより2時間近く早く起きてしまった私は、朝と夜には読まないと決めていたあの小説が投稿されているサイトを開いた。


 予想通り、私が最後に読んだところから大分話が更新されていた。


「うわ……。2時間で足りるかな……」


 結果だけ言うと……全然足りなかった。

 更新されてたのは10話くらいで、途中までは順調に読めていた。もちろん、所々顔を真っ赤にして転げ回ったりしてたけど……。

 それでも、なんとか1時間で半分の所までは読めていた。それでも、急にペースが落ちたのには理由がちゃんとある。


 だって……さっきまでは普通だったのに、急に話がリアルになってたんだもん……。しかも……今までの話よりなんか……恥ずかしくなる要素が多いし……。


 ん……?この子……。何処と無く鈴音先輩に似てるなぁ……。

 そう思ってからは更に読むのが遅くなっていった。番外編みたいで書かれているお話が完全に鈴音先輩と春奈先輩達のようにしか見えなくなってしまってからはもう……ほとんど読めなくなってしまっていた。


 いや……多分2人の事を知らない人でもかなり恥ずかしい気もするけど……。私は完全に……もうダメになりかけていた。


「あ〜!もう無理ぃ……」


 私が力尽きたのは言うまでもなく、顔は真っ赤に、頭からは湯気が出ていた。

 着ている服は汗か何かで少し湿っている。


 耐えられなくなった私は、少ししてからこの小説を書いている作家さんのSNSを見て見る事にした。

 小説関連の事とか……日頃の悩みとかしか呟いてないけど……あ。やっぱり……。


「今回の話!マジやばかったです!どうしたんですか最近!尊死しそうなんですけど!」


「最近の話は特にヤバイです!もう尊すぎますって!」


 こんなコメントで溢れかえっていた……。

 よかった……。そう感じてたの私だけじゃなかった……。でも……この尊死ってどう言う意味なんだろう……。この人のSNSだとたまに目に入る言葉だけど……。ん〜!分かんないや……。また皐月ちゃんとかに聞いてみよっかな……。


 そんな事を考えていると、ちょうどその人が何か呟いたみたいで新たに通知が来た。


「最近……時々自分の心がわかんない時があって……。どなたか知恵を貸してください……!」


 何が言いたいのか全然わかんない私は、今の時間を確認してまだ朝ごはんまで余裕があるのが分かると、その後の読者と思われる人達とその作家さんのやり取りを眺めていた。


 分かりやすく言うと……。というか、私も全然内容はわかんなかったけど……色んな人が言ってる内容から思うに……多分この作家さんには好きな人がいて……みたいな話だった。


「高校に入ってから仲良くなった女の子が常に頭にいて……なんかよく眠れないんですよ……。その子が他の女子と話してるとその日はまともに授業聞けないし……。この間2人で出掛けたんですけど……その日の夜なんて全然眠れなくて……次の日学校休みました……。私はこの女の子の事をどう思ってるんでしょうか……。別に嫌いとかそう言うのじゃないんですけど……なんか……胸が痛くなるんですよね……」


「あ〜うん!ごちそうさまです!」


  「先生まで尊かったとは……」


「恋って病気なんで諦めましょう!」


「高校生の恋愛とかキュンキュンするー!もっと聞かせてください!」


  「雫ちゃん可愛い〜!」


 こんな感じの会話が為されてた……。この人が雫ちゃんと同じ名前で呼ばれてるのは、天野雫という名前で活動してるからであって……多分だけど雫ちゃんとは何にも関係ない。でも……この人も高校生なんだ……。なんだか親近感が湧く……。


 なんか文面の感じ歳が近いかも!みたいに思ってたけど本当にそうだったんだ……。


「特殊ですけど恋愛小説書いてる人が恋愛で悩むなんてありえないと思うんですけど……。本当にこれが好きっていう気持ちなら……今日も学校休みます……。ちょっと一日考えます……」


「可愛すぎなんですけど!」


「私にもそんな時代があったなぁ……」


  「あ〜戻りたい〜!」


「確かに恋愛小説書いてるのにそこで迷うの!?って感じですね〜。実るといいですね〜!」


 その後に投稿されたその人の呟きにも、さっき以上の人が反応してて……なんだかこっちまで恥ずかしくなってきてしまった。

 別に私のことではないのに……なんでだろう……。私も何か送ってみようかな……。


「朝ごはんもう出来るわよ。さっさと起きなさ〜い」


 そう思った瞬間、部屋の外からお母さんの声が聞こえてきた。

 あ〜もうこんな時間になっちゃった……。あ……この服は着替えないと……また変な目で見られる……。


 私は汗で少し湿っているこの前美月ちゃんに選んでもらった服を部屋の隅にある水色の洗濯物入れに投げた。下は……めんどくさいし上だけでいいや……。


 数日ぶりにいつも通りの服に毛布を被った私を見たお母さんは、やっぱり数日ぶりに呆れたような溜息をついた。

 なんか……着替えなければよかったかな……。って一瞬だけ迷ってしまったほど深い溜息を吐かれた。


 別にそんなに呆れなくても……。私も少しは傷つくんですけど……。


「あの服はどうしたの?気に入ってたじゃない……」


「えっと……色々あって……今部屋の洗濯物入れにある……」


「はぁ……。まぁいいわ。早く食べちゃって」


「は〜い……」


 顔が赤かったのはさっきまでのSNSのやり取りで完全に元に戻ってたみたいで、別になんとも言われなかった。

 どうせ顔が赤かったらまた雫ちゃんがどうのって言ってくるもん……。絶対に!関係ないって言ってるのに人の話を聞かないんだもんこの人……。


 私がお母さんを少し薄目で見ていると、不思議そうに見つめ返してくるお母さんと目があってしまった……。

 別にどうと言うことはないけど……なんだかまた何か変な事を言われる気がしてすぐに目を逸らしてしまった。


 朝ごはんを食べ終わってから部屋に戻ると、ベットの上で充電していた携帯が光っていた。誰かからメールが来てたみたいだった。


 ちなみに、昨日の夜に充電機に差し込まずに寝ちゃったから結構充電がまずい感じになってた……。今日一日持つかどうか不安なレベルで……。

 さっきも充電器は繋げてたけど...まだ半分も充電がない...。ちょっとヤバめ?


「あ……雫ちゃんから……。なんだろ……」


「今日もちょっと体調悪いから休むって先生に言っといてくれる?ごめんね。心配しなくてもいいから……」


 雫ちゃんからのメッセージはそれだけだった。昨日も同じようなメッセージをもらってた私は、心配になって今日の放課後にお見舞いに行こうか迷った。いきなり行くのは迷惑かな……。でも……事前に伝えたら絶対大丈夫!って断られちゃうし……。


 家から出るまでの20分くらい真剣に悩んで、結局行くことにした。事前に伝えたらなんか理由をつけられてダメ!って言われそうだったから内緒で……。驚かせれるかなって思っての狙いもあるんだけど……。


 学校についても雫ちゃんが隣にいない。やっぱり昨日からの違和感はなんだかすごい。

 もう少しで席替えするって先生が言ってたから……隣同士にはもうなれないかもしれない……。周りの人達はすっごい喜んでたけど……


 私は、正直このままで良かった。そりゃ、皐月ちゃんとか美月ちゃんと近くの席がいいとかはあるけど……。それよりも雫ちゃんが横にいないっていう寂しさの方が大きい気がする……。


 今は両隣が女の子で前が男の子っていう席順だけど……これ周りが全員男の子になることもあるんでしょ!?無理なんですけど……。


 周りが全員女の子!とかなら全然いいし……むしろそっちの方がいいんだけど……あんまり前の方の席になるとお昼寝がしにくくなるっていうあれもあるし……。席替えなんてしなくて良いじゃん!みたいな感情に午前中は襲われていた。


 もちろん授業とかはちゃんと聞いてたけど……横に雫ちゃんがいない違和感と寂しさ。それと席替えへの不満と心配が色々合わさって、全然集中できなかった。いつも集中してないって意見は知りません。


「なんだ。緑川さんは今日も休みなのか?」


「そうなんだよ〜。どうしたんだろうね……」


「ふ〜ん。そうなんだ……」


「なんでちょっと嬉しそうなの?良いことでもあったの?」


「まぁ……ちょっとね……」


 お昼休み、一緒にご飯を食べに集まってくれたいつもの3人。皐月ちゃんと美月ちゃんも雫ちゃんがいない事を不思議がっていた。


 美月ちゃんは……なにか良いことがあったみたいだけど何があったかは教えてくれなかった。

 でも……なんで美月ちゃん……右手に包帯巻いてるんだろう……。すっごい痛そう……。


「あ〜。これはこの子がやらかしただけだから何も気にしなくていいぞ。昨日やめとけって言ったのにあんな事するから。自業自得」


「いや……でもあれは……仕方ないじゃん……。何かにぶつけたかったんだもん……」


「美月ちゃん何かあったの!?」


「あ〜。まぁ色々な。この子がバカなだけだから。うん」


「そ……そっか……」


 まぁ分かってたけど……何と無く誤魔化される……。

 雫ちゃんといい、美月ちゃんといい、なんだかこの頃変な気がするけど……大丈夫かな……。


 そう思ってる時、スカートのポケットに入れていたスマホが揺れた気がして、電源をつけてみると鈴音先輩から電話がかかってきていた。なんか……変なこと言われてそうだけど……無視するわけにいかないし……。


 変な事を言われても大丈夫なように気合を入れながら、2人から離れて女子トイレに向かう。さすがに教室で堂々と電話は少し恥ずかしい...。


 個室に入った私は、恐る恐る鈴音先輩からの電話に出てみると、いつもより若干テンションが高めの鈴音先輩の声が聞こえてきた。


「なぁ。紅葉の恋人の緑川に聞きたいことあるんだけどさ。今教室いるか?ちょっと前から連絡入れても反応なくてさ」


 何恋人って……。そういえば……鈴音先輩ってこの前もこんな事言ってたっけ……。はぁ……。私と雫ちゃんは別にそんな関係じゃないって何回も言ってるのに……。この先輩は本当に……お母さんみたいに人の話を聞かない人なんだから……。


「まず、私と雫ちゃんは恋人じゃないですって……!先輩と春奈先輩じゃないんですから……。後、雫ちゃんなら昨日から休んでますよ?」


「私と春奈がね〜。別に私は付き合ってもいいんだけどな。あの子可愛いし……。それに……まぁそんなことは置いといて、緑川休みなのか。じゃあ今度会った時でもいいから言っといてくれねぇか?天野ってどう言う意味なんだ?って」


「?はい……。分かりました。聞いときます……」


「おう。よろしくな〜」


 なんか……さりげなく春奈先輩との惚気話を聞かされそうになったんだけど……気にしても仕方ないか……。

 あの人たちはあんなんだし……。春奈先輩が本気ならすぐ付き合いそうだなぁ……。


 なんて呑気な事を思いながら、鈴音先輩の言っていた意味がわからない伝言をちゃんと記憶する。

 私は記憶力が怪しいし……。寝ちゃったら最後……絶対忘れる……。


 電話を終えた私は、一応水を流して手を洗い、まだちょっとどういう意味なんだろうという事を考えながら教室に戻った。


「誰からだったんだ?」


「部活の先輩〜。なんか、雫ちゃんに聞きたい事あるから代わりに聞いといてって言われた〜」


「ふ〜ん。あ。今日私達、紅葉が一昨日行ったって言ってた店行ってくるぞ」


「そうなんだ!私も行きたいけど……今日は用事あるから……」


「そうか。ん?いや、そうか」


 ちょっと不安げな顔をした皐月ちゃんは、一瞬で元の顔に戻ってしまった。どうしたんだろう……。

 まぁ聞いても多分何ともないって言われちゃうし……一瞬だったから見間違いかもしれないけど……。


 6時間目が終わった後、私は近くのコンビニで美味しそうなチョコのアイスを2つ買って、雫ちゃんの家に走った。

 校門の前で不安そうに見守っていた皐月ちゃんと美月ちゃんには気が付かずに……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なぁ……。やっぱり紅葉……緑川の見舞いにでも行くんじゃねぇのか?一緒に行かなくていいのか?」


 コンビニから何か袋を持った紅葉ちゃんが出てきて、昼に皐月から聞いた憶測が正しかったと思った私はその話が信じられずに紅葉ちゃんに確認しなかった自分を責めていた。若干後悔し、右手に巻いた包帯をさすりながら……。


「仕方ないじゃん……。今からいきなり行くって言っても不審がられるだけだよ……。それより、私たちは私達が出来ることしよ。近場の美味しいお菓子のお店とかを見つけて……紅葉ちゃんの誕生日にあげるやつ選ばないと……」


「あのなぁ……紅葉の誕生日って確か6月3日だっけ?まだ若干早いんじゃねぇの?」


「もう5月終わるんだし……6月3日は水曜で祝日とかじゃないんだから……急ぐことに越したことないじゃん……」


「いやそりゃそうだけどさ……。はぁ……。分かったよ……。付き合うから……」


「ありがと!私じゃ変なもの選んじゃうかもだしよろしくね!」


 なんだか微妙そうな顔をした皐月の顔は見なかったことにして、私は皐月の手を引いて近くの駅へと向かった。


 家に帰り着いたのは昨日よりも遅かったけど……結果的には良い誕生日プレゼントが選べた気がする。

 中学の時にさりげなく誕生日何が欲しい?って聞いといて正解だった……。ナイス!あの時の私!


 誕生日プレゼント用のお菓子が入った青い袋を冷蔵庫に入れて、疲れた私はそのままベットに直行してパジャマに着替えると、すぐに眠ってしまった。


 夢の中で誕生日プレゼントを渡した後に可愛く喜んでくれる紅葉ちゃんの姿を見れて……なんだかちょっと嬉しかった。

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