表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/153

第43話 店までの道のり

 6時間目が終わってやっと一息ついた私は、横でそわそわしている雫ちゃんを見て、なんだか自分まで緊張してきてしまった。

 いや、雫ちゃんが緊張してるのかはわかんないけど……


「そろそろ行く?」


「そうだね……。行こ〜」


 その短い会話だけでも、私は自分の声が震えていることに気がついた。

 美月ちゃんや皐月ちゃん、凛ちゃんと話す時は普通なのになんで雫ちゃんと話す時だけはこんなにドキドキするんだろう……。


 そんなこと深く考えても分かるわけないし別に良いけどさ……。


 自分で無理やり納得した私は、深く考える事をやめて昇降口に向かう雫ちゃんの後を追った。

 なんだかんだで雫ちゃんと2人でどこかに遊びに行くのは……今日が初めてだったりする?

 いつもは美月ちゃんとか皐月ちゃんがいたし……。


「あれそうだっけ。そういえば、私達って初めて会ったの4月なのにもう数ヶ月位一緒にいる気がするや……。まだ出会ってから1月しか経ってないんだね……」


「あ〜!私もそんな感じする!なんか……一ヶ月の間に色々あったし……」


「色々あったね……。実は私、中学の頃はほとんど友達がいなくてさ、入学してすぐの頃紅葉ちゃんが私のことを気にかけてくれてた気がしたから友達になりたいなって思ってたんだけど……無事になれて良かったなって。まぁ……色々心配なところが多いけど……」


「も〜!別にそんな事ないもん……。初めて話した時だって……雫ちゃんが赤信号渡ってたからだったし……」


「ん〜……。それを言われるとね……。でもほら!私より紅葉ちゃんの方がさ!ね!?」


 急にいつもの様子から一転して焦り始めた雫ちゃんは、あの時を思い出してるのか少し顔が赤くなっていた。

 でも……雫ちゃんより私の方が危なっかしいのは事実だから……なんとも言えない……。


「私は駅の乗り場間違えたり、電車を寝過ごす事なんてないから〜」


「あ〜!なんでその事知ってるの!?」


「さぁ〜?なんででしょう〜?」


「も〜!誰にも言わないでね!?」


「分かってる。でもね〜小学生じゃないんだしさ……乗り場くらいはちゃんとしよ?」


 笑いながら言ってたさっきとは違って、少し真剣に。お母さんがよく私に向ける心配してる目を向けてそう言った雫ちゃんは、心の底から私を心配してくれてるみたいだった。

 そんな顔されちゃうと……何も言えなくなってしまう……。


 事実。私だって少しくらい不味いとは思ってる。

 そんな毎回毎回間違ってるわけじゃないけど……間違える時は本当に間違える。

 だいたい……5回に1回くらいは……。


「中学生の時電車で出かけるときとかどうしてたの?」


「えっと……一時期すっごく仲よかった子がいたんだけど、その子が前歩いてくれてたから……ついて行ってた!」


「……。そんな自慢げに言う事じゃないと思うけどね……。前から気になってたんだけどさ、聞いて良いかな」


「ん?どうしたの?」


「その中学生の時仲良かった子って……もしかして奥田さん?」


「美月ちゃん!?ん〜。どうだろ……。確かに何回か見たことあるな〜って思った事はあるんだけど……。あんな可愛い子記憶にないし……。というか、そう言えば仲は良かったけど連絡先とか名前とか知らないんだよね……」


「なんで!?普通友達なら知ってるんじゃないの!?」


 そう言われて、当時のことを思い出してみる。

 友達ならって言われても……あの子と私が関わるようになった原因が特殊すぎて……覚えてないって言うか……。


「おいメガネ。キモイんだよ……。とっとと消えてくれないかな〜」


「ちょっと頭いいからって調子乗りやがってよ……。ウザいんだけど……」


 名前も知らない女の子が中庭で何人かの男の子に囲まれて泣いてる所を見てしまった私は、あんまり深く考えずその中に飛び込んで行ってしまった。


 前にも言ったかもしれないけど、この行為には別に後悔してないし、見て見ぬ振りなんて一番ない選択肢だったと今でも思う。


 ただ……その現場に何も考えずに入って行ったのは絶対良くなかった。

 先生を探すなり、もうちょっとマシな手段はいくらでもあったんじゃ無いかとさえ思う。


「何やってんの!?かわいそうじゃんか!やめなよ!」


「は?何言ってんのお前。いい子ぶってんじゃねぇよ!」


「邪魔なんだよ。どけ!」


「自分がされて嫌な事は人にしちゃいけないってママが言ってたもん!だからダメ!」


「うるせぇよ……雪女」


「そーだそーだ!髪が白いなんて雪女だろお前!」


 そこからのことは……思い出したくも無い……。

 最初にいじめられてた子は助かったけど……代わりに私が……。

 そのせいで今でも男の子は少し怖い。


 それから少しの間、その子と遊ぶ機会があった。

 その数回でなんとなく仲良くなったと言うだけで……お互いクラスも違ったし、名前も知らなかった。


 あの子が美月ちゃんだなんて、全然考えられない。だって……あの子はメガネかけてたけど……美月ちゃんはかけてないし……。


「紅葉ちゃん?どうしたの?暗い顔して……」


「あ……。ごめんね。なんでも無い!」


 無理に雫ちゃんや皐月ちゃん、美月ちゃんや凛ちゃん達に私の過去を話す必要はない。

 多分話しても大丈夫だと思うけど……話すのが少しだけ怖いのも事実……。


「もしかして……中学生の頃何かあったの?」


「え!?ううん!?何にもなかったよ!」


「そう……。でも……無理しないでね?」


「え?う……うん……」


 そう言えば、朝に私は嘘が下手って言われたばっかりだったっけ……。

 忘れてた……!まぁ……何とかなるか……


「ねぇ紅葉ちゃん……。行ってみる?」


「ん?どこに?って……雫ちゃんまでそんなこと言うの...?」


 いつの間にか駅についてた私たちは、改札の少し左のほうで止まっていた。

 雫ちゃんが言ってきた質問に対して、答えを迷っていたのが主な原因だけど……。

 結構雫ちゃんって負けず嫌い?


「別にそんなんじゃ無いよ。ほんとなのかな〜って」


 笑いながらそう言った雫ちゃんは可愛かったけど、私はすっごく追い詰められていた。

 雫ちゃんが私にしてきた質問は、改札から乗り場まで無事に行けるかどうかと言うものだった。


 この駅は何回も来てるから自信はそれなりにあるけど……もし間違えたら……恥ずかしずぎる……。


 雫ちゃんにまですっごく心配される……。いやもうかなり心配されてるけど...どうしよう……。

 私がすっごく迷ってる姿を見てた雫ちゃんは、心底楽しそうに笑ってたけど、結局自信をなくした私を乗り場まで案内してくれた。


 ちなみに、私がえ?ここじゃ無いの?って思ったところでは曲がらずに、一個先の角で曲がった時は自分の判断が正しかったとすごく思った。


 学校の近くのこの駅と家の近くの駅くらいは完璧に把握しとかないとヤバイかもしれない……。

 今まで良く間違えなかったと自分を褒めたい気持ちに襲われていた私は、雫ちゃんが私を見て笑っていたことに気が付かなかった。


 時刻表に表示されてた時間より数分遅れてやってきた電車に乗り込んだ私達は、その車内に自分達とおんなじ制服を着た人達がたくさんいることに驚いた。その中には何人か見たことある人たちも混ざってたし...。


 私は基本的に、あんまり親しく無いクラスの人とは学校の外で会いたく無いタイプの人だから雫ちゃんを連れて隣の車両に向かった。


 学校の近くの駅から乗ったと言うこともあって、どの車両にも数人は制服姿の人たちがいた。

 私たちが降りるのは次の駅だし……もうそろそろ着く。半分諦めて扉の前で駅に着くのを待っていると、案外早く着いてしまった。

 もう少しだけ雫ちゃんの後ろ姿を眺めてたかった……。


「紅葉ちゃんが行きたがってた洋菓子の店ってどこなの?」


「えっとね〜前にお母さんときたことがあるから……道は多分大丈夫なんだけど……」


「待って。やっぱり検索するから……」


「も〜!何でそんなに私信用ないの!?」


 そう聞いた私を無視して、携帯で近くの洋菓子店の検索を始めた雫ちゃんは少しだけ不安そうな顔をしながら私にこう聞いてきた。


「うん……。ちなみに聞くけど、紅葉ちゃんの記憶にある道ってここどっちに曲がるの?」


「え……確かね〜こっち!」


 そう言ってTの字になってる道の右側を示すと、雫ちゃんは呆れたように正解は左。って教えてくれた。

 雫ちゃんはこうなると分かってたのかな……。

 私がまともに目的地に着けたのってお食事会の時だけだったりしない!?

 あの時は奇跡だったのかな……。んん……


「まぁそうがっかりしないで……。ほら。行こ?」


「うん……。なんかごめんね……」


「気にしないで」


 そう言う雫ちゃんはちょっと笑いながら、時々後ろをしょんぼりしながら歩いてる私を見てきた。

 手にはマップアプリか何かが起動された携帯を持ちながら……。


 しばらく歩くと、見覚えがある通りに出た。お母さんときた時も、確かここ通ったよね?みたいな通りだった。

 周りには色んなお店が並んでて、所々いい匂いがする。


 学校の隣の駅というせいもあってか、電車の中にいた同じ制服の人も何人か歩いていた。

 もう16時近いせいなのか、あたりにはちらほら小学生とか小さい子達の姿も見え始めて、この前美月ちゃん達と行ったモールとか駅ほどではないにしてもかなりの人がいた。


 万が一離れてしまうと、なんだか二度と会えなくなってしまうような気がして前を歩く雫ちゃんの制服の裾をしっかりと摘んでその後をついて行った。


 私はこんなことをしないとはぐれてしまうという恥ずかしさから少しだけ顔が赤くなっていた。


 そうこうするうちに、目的の場所に着いたみたいで、雫ちゃんも少しだけ疲れていた。

 駅からここまでは人が多かったせいもあって5・6分かかっていた。

 私はただ着いて行ってただけだけど、雫ちゃんはマップを見ながらだったし……私の何倍も疲れてるのかも……。


 でも……ここのシュークリームは本当に美味しかったし疲れなんて忘れちゃうんじゃないかな!

 私はそんな期待を抱きながら目の前の少し高価そうな店構えのお店を眺めた。


 英語か何かで書いてある看板は、なんて書いてあるかさっぱり読めなかったけど、別に店内まで英語で書かれてるということはないから大丈夫だし……。

 雫ちゃんと2人で初めてのお出かけなんだから……もうちょっとだけでも頑張らないと……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ