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第42話 雫ちゃんとのデートの約束

 朝、枕元で鳴り響く携帯の目覚ましで目を覚ました私は、いつも抱きかかえているサメの抱き枕が手元にないことに気が付いた。

 まだ若干眠いとはいえ、いつもは起きたとしても大抵の場合抱きしめてるものが無くなっていれば誰でも気がつく……。


 眠い体を必死に起こして、サメの捜索を開始した私は、なぜかただ床に転がっているサメを見つけるのに5分もかかってしまった。

 これは……部屋に明かりがついてなかったせいなのか、それとも単純にまだ寝ぼけているせいのか……。


 とりあえず……見つかってよかった……。せっかく美月ちゃんに貰った抱き枕なのに……無くしちゃったら大変……。


 探し物が見つかって安心していた私の耳に、扉の前からお母さんの声が聞こえてきた。


「朝ごはんよ〜。もう起きてるんでしょ?早く降りてきなさいね〜」


「わかった〜!」


 私はサメの抱き枕をベットの上に置いて、すぐ下に降りた。

 私の下に降りる格好は、いつもならクマが描いてあるパジャマに毛布を被った、とても高校生とは思えない格好で下に降りてたけど、昨日からはちょっと違っていた。


 美月ちゃんに買って貰ったケーブルニット?とさすがにスカートで寝るのはあれだし、少し大きめのズボンを履いていた。

 部屋でスカートはなんだか落ち着かないからあれは外出用になってしまったけど、普通に可愛かったし気に入ってる。


 お母さんは……昨日の朝この格好を見た時なんでだかちょっとニヤついてたけど……いつもよりはマシって言ってくれた。


「おはよ〜」


「おはよ。何を上でバタバタしてたの?」


 本当の事を言ったら……何か言われそうで、椅子に座るまでに何か良い言い訳を考えようと必死に普段あんまり使わない頭をフル回転させた結果、自分では結構いいと思う言い訳を思いついた。


「ベットから落ちちゃった……」


「……。無理に話せとは言わないから……話したくないならいいわ……」


「ホントなのに……」


 結果は……まったくダメでした……。

 何がいけないの!?私……そんなに嘘つくの下手!?


「うん。すっごく下手だよ……?今まで気が付いてなかったの……?」


 一緒に登校してた時に朝のことを雫ちゃんにも聞いたら、あっさりとそんなことを言われてしまった。

 何が悪いんだろう……。雫ちゃんにもそんなこと言われちゃうと……少し凹むんですけど……。


「単純に紅葉ちゃんは嘘の内容が……。例えば。普通の人だったら後ろに有名人がいる!みたいな嘘つくのに対して、紅葉ちゃんは……後ろにオバケがいる!って言ってるみたいでさ……。なんというか……見てて微笑ましい感じの嘘っていうか……」


「私の嘘そこまで酷いの!?え〜……。何がいけないんだろう……」


「別にそんなに嘘つく方法一生懸命考えることないと思うけど……」


「だって!悔しいじゃんか!」


「別に……嘘上手くても良いことないと思うけど……」


「え……いや……ほら!勉強嫌な時とか!誤魔化せるじゃん!」


 そう言った私に、雫ちゃんは大丈夫かなこの子……。みたいな視線を送ってきた……。

 良いじゃん……。無理やり勉強しても良いことないって……誰かが言ってたもん……。


「それとこれとは別だと思うけどね……。そういえば……なんで今日は一段と眠そうなの?」


「え……あ〜だって……昨日のアレが……」


 昨日、私と雫ちゃんは一緒に文芸部の部室に行った。

 朱音先輩か他の先輩の人が来るまで開けないようにしようってこの前決めたけど……少し前鈴音先輩がすっごい怒られてたし……今回は大丈夫でしょ!っ思って開けてしまったのが失敗だった。


 扉を開けて飛び込んできた光景は、鈴音先輩が春奈先輩にすっごく顔を近づけて……イチャついてる所だった……。

 当然、私と雫ちゃんは顔を真っ赤にしてその場から逃げ帰ってしまった。


 結局部活には出れなかったし……あの後春奈先輩たちがどうなったのかは分からないけど……結構経った頃に春奈先輩も休みますと連絡を入れてたし……多分……いつも通りの展開になったんだと思う……。


「あ……うん……。ごめん。実は私も……昨日のアレであんまり寝れてなくてさ……」


「雫ちゃんもなんだ……。私は……夢にもあれが出てきて……もう……」


「うん。うん。しばらく部活休もうか……」


 私の肩をポンポンと優しく叩きながらそう言ってくれた雫ちゃんはいつもの何倍も可愛く見えた。


 文芸部は……確か毎回来ないといけないって決まりはなかったはずだし……1回か2回は休んでも大丈夫だと思う……。


 雫ちゃんに優しくされて気が昂ってしまったのか、それともあんまり寝れてなくてテンションがおかしかったのか、普段なら絶対に言わないような事をこの後言ってしまった……。


 それは、赤信号で止まった時だった……。


「ねぇ雫ちゃん……。今日学校終わったら暇?」


「ん?暇だけど……。どうしたの?」


「実はさ……隣の駅に美味しいシュークリームがある洋菓子のお店があるんだけど……一緒に行かない?」


「え……?今日?2人で……?」


「うん!今日は6時間目までだし……ちょうど良いかなって……。ダメ……かな……」


「ううん!行こ!私も美味しいんなら食べて見たいし!」


「やったー!約束ね!」


 そこから学校に向かうまでの道は、私はすっごく嬉しくて、眠気も忘れてスキップまでしてしまった……。


 横で歩いてた雫ちゃんが顔を少しだけ赤くして、恥ずかしいからやめてって言ってたからやめたけど……。


 反対の道を見てみると、何かのお店の前で掃除をしていたお婆さんがニコニコしながら私を見てて……急に恥ずかしくなってしまった……。


 つい小さい子供みたいにはしゃいじゃったけど……お昼休みが終わってあと2時間の授業が終われば下校。となる頃にはとっくに自分がやったことの重大さに気が付いてしまった……。


 美月ちゃんや皐月ちゃんを誘って4人とかで行くならまだしも……雫ちゃんと2人きりでなんて……。


 全然嫌じゃないし……むしろ嬉しいけど……意識すればするほど、心臓がうるさいくらいに鳴り始める。

 この間雫ちゃんが貸してくれた本の中にこういう状況があったけど……確か……デートだっけ……。


 恋愛の事なんてあんまり分かんないし中学生の時に友達に聞いた知識と、貸してもらった本の中の知識しか持ってない私には……そこまで自信がなかったけど。多分デート……だと思う……。


 一応美月ちゃんか皐月ちゃんに聞いて見たほうがいいのかな……。

 凛ちゃんは……今日は休んでるみたいだし……。


 5時間目が終わったタイミングで、急いで皐月ちゃんの席まで走って聞いて見たい事を思いきって言ってみた。

 美月ちゃんでもよかったけど……皐月ちゃんの方が席が近かったから皐月ちゃんに聞いた。


「ねぇ皐月ちゃん……。聞いてもいい?」


「ん〜?あ。紅葉か。なんだ?」


「皐月ちゃんって……デートってしたことある?」


「...は?どしたんだ急に……」


「ちょっと気になったの!私……そこら辺の事とか全然知らないし……」


「マジで言ってるの?」


「うん……。恋愛がどういうもの。みたいな事は知ってるけど……。男の子に好きとかそういうの思った事ないし……」


 そう言った私に、皐月ちゃんは少し考えるようなそぶりをして、なぜか私に背中を向けて携帯を何やら操作していた。

 少ししてまた私の方を向くと、話を再開してくれた。


「あ〜じゃあさ。デートが何なのかも知らないとか言わないよな?」


「多分……分かってると思うけど……雫ちゃんに借りた本の中に書いてたし……」


「……。まぁ一応。一応な?デートって何なのか聞いてもいいか?」


「友達と2人でどこかに行く事……じゃないの?」


「……。まぁ半分正解で半分不正解って感じ?なんて言ったらいいかな...。簡単に言うとデートってのは、男子と女子が2人で出かける事を言うんだけど……そもそも、何で紅葉はそんな事聞いてきたんだ?」


 私が思ってたデートの意味とは全然違う答えが返ってきて、少しあっけにとられてた私に、皐月ちゃんは質問された側としては当然のことを聞いてきた……。


 ここで正直に雫ちゃんと2人でシュークリームが美味しいお店に行くって言ったら……なんだか怒られそうな気がして……朝下手だと言われたことをすっかり忘れて、自分では完璧だと思った嘘を口にした。


「お母さんが友達と遊びに行くって言ってて!それが……あの〜そうなんじゃないかな〜って思って!」


「……。あ〜うん。分かった。多分デートじゃないぞそれ……」


「そうなんだー。あ。ちなみに、皐月ちゃんはデートした事あるの?」


「どうしてもそれは聞きたいのか……。私は別にした事ないよ。美月は何回かしたことあるって言ってたけど」


 その時、教室の後ろのドアが大きな音を立てからビックリしちゃったけど……皐月ちゃんに気にするなって言われて気にしない事にした。

 聞けたい事が聞けて満足した私は、皐月ちゃんにお礼を言って自分の席に戻った。


 自分の席に向かってる途中に皐月ちゃんが小さい声で何か言ってたような気がしたけど、周りがうるさかったから全然聞こえなかった。


 少しして後ろのドアから真剣な表情をした美月ちゃんが入ってきて少しビックリしたのを覚えてる。

 手にはなんでか携帯が力強く握られてた……。

 すぐにチャイムが鳴ったからそれ以上考えるのはやめたけど……。


 でも……。雫ちゃんと2人きりで遊びに行く事はデートじゃないって事が分かって、安心してる自分となんでか残念がってる自分がいたけど、なんで残念がってるのか私は全然わからなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 5時間目が終わってお手洗いに行こうとしてたタイミングで、急に皐月から電話がかかってきて何かと思って電話に出てみると、そこからは紅葉ちゃんの声が聞こえてきた。


 中学生の時でさえ電話では話した事がなかった私は、初めて電話越しに聞こえてきた紅葉ちゃんの声に少しだけ感動しながら、何事かと耳をすませてみた。


 お手洗いに行くことなんか忘れて教室の後ろのドアの辺りでこそこそと電話をしている女子生徒を見る皆の目はちょっと恥ずかしかったけど、そんなことより電話から聞こえてくる内容が衝撃的すぎてそれどころではなかった。


 紅葉ちゃんが皐月にデートとは何か。という私からしたらすっごく不穏な事を聞いていたからだ。


 高校生なのにそこら辺の知識が全くない紅葉ちゃんは純粋ですっごく可愛いけど……まさか……男子にデートに誘われた!?

 ダメ!絶対ダメ!行っちゃやだ!


 だけど、皐月と紅葉ちゃんが話してる内容からすると、別にそういう訳では無さそうだった。

 でも、良かった……。と安心した直後、皐月が「美月は何回かしたことあるって言ってた」なんて爆弾発言をしたせいで、ドアに頭をぶつけてしまった。すっごい痛い……。


 その後、紅葉ちゃんが皐月の席から離れたのか電話から紅葉ちゃんの声は聞こえなくなって、代わりに深刻そうな皐月の声が聞こえてきた。


「なぁ美月。ちゃんと聞いてたか?多分あの子……近いうちに誰かと遊びに行くんじゃないか?それも……2人きりで……」


「うそ……。なんで分かるの……?」


「あんな下手な嘘つかれたら誰でも分かるだろ……。とにかく、急いで作戦立てないとヤバイかもしれないぞ」


「そうだね……。今日の放課後皐月の家行っていい?」


「分かった。作戦会議だな」


 それだけ言って、私は電話を切った。

 絶対にデートは阻止しないといけない……。


 相手が仮に男の子だった場合、万が一そこから発展して付き合いました。なんてなったら一ヶ月は立ち直れない自信がある。


 お手洗いに行きたかった事も忘れて、教室に戻った私は、6時間目の授業なんて全然集中出来ず、授業が終わった瞬間に皐月の手を引いて急いで家に帰った。


 そのせいで肝心の想い人のデートが今日、この後行われる事。

 そして、その事を本人から夜に聞いた時、かなりのショックを受ける事を彼女はまだ知る由もなかった。

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