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第41話 ある少女の胸の内

「ママ〜!パパ〜!どこ〜?どこにいるの〜?」


 泣いてる……。小さな女の子が……泣いている……。

 この子は……誰?どこかで見た事があるような……。


 その小さな女の子は、祭が行われているらしい神社の隅の方で1人、寂しそうに泣いていた。

 その子はまだ小学3・4年生にしか見えない。

 可愛らしいアサガオ柄の浴衣を着ていた。


 その子を何とか助けてあげたいけど……なんでか私の体は動かない。


 意識はしっかりしてるのに……なぜか体はがいうことを聞いてくれない。

 小さな女の子が泣いてるのに……。助けてあげないと……。あの子……迷子になってる……。


「あなた。どうしたの?大丈夫?」


 私が動けないでいると、泣いてる女の子とあんまり変わらない小さな女の子が声をかけてた。

 手には金魚すくいで取ったんだろう袋に入った2匹の赤い金魚が握られていた。


 何もできなかった私は、その子がちゃんとお父さんとお母さんの元に帰れるかどうか……せめて見守る事にした。

 さっきからずっと体が動かない……。


 でもこれは……なんでだろう……。前にこんな光景を見た事があるような気がする……。

 それより、今は女の子……。


「ほら。泣いてちゃわかんないでしょ?どうしたの?お父さんとお母さんは?はぐれちゃったの?」


「うん……。花火を見に行こうって……ママが言ったから……一緒に行ってたのに……いつの間にか……いなくなっちゃったの……」


「あ〜。そっか。なら私に着いてきて。あっちに私のママがいるからママに相談しよ?ね?」


「うん……。わかった……。お姉ちゃん……ありがとう……」


「どういたしまして。そういえば、あなた。名前は?なんて呼べば良いの?」


「私は……春奈。三浦春奈だよ……」


「そっか。私は鈴音。吉岡鈴音。よろしくね!」


 そうだ……。思い出した……。

 私が小学三年生の頃、お母さん達と離れて迷子になってたら助けてくれたお姉ちゃんがいたんだ……。


 それが鈴音先輩で...確かこの後は……


「春奈?ねぇ春奈ってば。そろそろ起きないと授業始まっちゃうよ?」


 そこで、私の意識は夢の中から現実へと引き戻されてしまった。

 そういえば、昼休みに恵とご飯を食べた後急に眠くなってきて……。


「あ……。ごめんメグ。ありがと……」


「ん……。大丈夫だよ……」


 その後、数分で先生が教室に入ってきて、すぐに授業が始まってしまった。

 相変わらず退屈な話しかしない先生の話なんて真面目に聞かず、私はさっき見た夢のことを思い出していた。


 確かあの後、鈴音先輩のお母さんと鈴音先輩と一緒にお母さんとお父さん。弟を探して……。

 花火が上がった後に見つけて……結局一緒に見れなかったって泣いちゃったんだっけ……。


 あれ……。でも……そこからどうやって私と鈴音先輩……仲良くなったんだっけ……。

 覚えてない...


 その授業の時間いっぱい考えても答えは思い出せないまま、いつの間にか次の授業が始まってしまった。

 その授業中にも答えは出てこなくて、結局7時間目でも思い出せなかった私は、今日が部活ということで、本人に聞くのが一番良いという結論に辿り着いた。辿り着いてしまった……。


 後から冷静に考えたら、昨日の今日でそんな事を聞いたら、あんな事になるのは少し考えたらわかったはずなのに、昨日のことで舞い上がってしまっていたテンションがまだ完全には下がってないせいなのか、その時は考えもしてなかった。

 鈴音先輩がどんな人なのか。そういう認識がすっぽりと抜けていたんだと思う。


 いつも朱音先輩より早くきて机に突っ伏して寝てる鈴音先輩は、きっと今日もそうしてるはずだと、私はメグを置いて、先に部室に向かった。


 中間考査があったり、結奈は家の用事、メグは個人的な用事で顔を出せなくていたけど、

 今日は久しぶりに結奈もメグも参加できるらしく、全員参加になりそうだった。


「失礼します〜。鈴音先輩……いますか〜?」


「ん〜?ああ春奈か。どした〜?」


「えっと……先輩に聞きたい事があって……」


「お〜。なんだ?」


 案の定、部室を開けると、そこには机に突っ伏して今にも寝そうになっていた鈴音先輩がいた。

 いつも部室に来たらこんな感じだけど……あんまり寝れてないのかな……。


「えっと……結構前のことなんですけど……私たちが最初にあった頃のことって覚えてたりしますか?」


「ん〜。どうだっけ……。私が覚えてるのは……祭りでビービー泣いてた春奈に声をかけたところだけど……そこで合ってるか?」


「……言い方に含みありませんか……?」


「そんな事ないぞ〜?それで?急にどしたんだ?」


「えっと……不意に気になったので……。先輩って……その後私がどうなったか覚えてたりしますか?」


 少し考えるように唸り声を上げる先輩は、どこかちょっと可愛さがあって、昨日のことがあった私は、自然と手に力が入った。

 昨日の帰り道……離してくれなかった右手に……。


「ん〜。確か……私のお母さんが案内所かどっかに連れて行って……春奈が離れて欲しくないっていうからお母さんが見つかるまで一緒に話してたっけ……。そういえば、家が結構近かったからしばらく一緒に遊んだよな〜。あの頃の春奈って本当可愛かったよな〜」


「今そういうこと言うのやめてください!昨日も……」


「そうそう!確かさ……私が引っ越す時にお嫁さんにしてください!とか言ってなかったか?何この子...めっちゃ可愛い!って思った記憶あるんだけど〜?」


「もう!そんなこと……絶対言ってません!絶対……」


「確か……私の家にその頃の写真があったような気がするんだけど……今度見にくるか?」


「え……えっと……遠慮……します……」


「そうか〜。じゃあ今日の夜1人で見ようかな〜。懐かしい〜」


「本当にやめてください!先輩……」


 涙目になりながらお願いした私に、さすがに鈴音先輩も折れてくれた。

 でも……言われて思い出したけど……本当にそんなこと言った気がする……。


 あの頃は……確か……私が小5とかの頃だったっけ……。

 鈴音先輩が突然引っ越す事になって……それから……


「春奈。私...今月引っ越す事になった……。だから……一緒に遊べるのは……これが最後かも……」


「なんで……!?やだやだ!鈴音お姉ちゃん!行っちゃやだ!」


「数年で帰ってくるから。ね?心配しないで?」


「ヤダ!私をひとりにしないで!」


「春奈は他に友達も、弟もいるじゃん。1人じゃないでしょ?ほら。泣かないで……?」


「鈴音お姉ちゃん……。イヤだよ……。イヤだ……!」


「だから……すぐに帰ってくるって。ちょっと遠くに行ってくるだけだから……」


「……ホント……?ホントに……すぐ帰ってくるの……?」


「うん!約束!ね?」


「うん……。約束!ゆびきりげんまん〜嘘ついたらはりせんぼんの〜ます!」


「ん。じゃあね。春奈」


「鈴音お姉ちゃん!」


「ん〜どしたの〜?」


「鈴音お姉ちゃんが帰って来たら!私をお嫁さんにしてくれる...?」


 あ……しっかり言ってた……。改めて考えると……何言っちゃってるの!?私……。

 恥ずかしい……。いくら小学生だったからって……!私のバカ!


「どした〜?春奈。顔赤いぞ?」


「!?先輩……。顔……近いです……」


「ん〜?春奈が心配でさ〜」


「面白がってるだけじゃないですか……!もう!」


「あ。それとさ。言い忘れてたけど……」


「……なんですか?」


「後ろ。見てみ?」


 そう言われて、まだちょっと顔が赤い私は、あんまり深く考えずに後ろを向いてしまった……。

 そこには、ちょっと顔を赤くした後輩の紅葉と雫が立っていた。


 また!?もう!なんでこんなにこの子達は間が悪いの!?


「あ!いや!違うの!これは!あの……」


「またお邪魔しちゃったみたいでごめんなさい……。この前あんな事があったのでしばらくは大丈夫だと思った私が浅はかでした……。

 私達は帰るので……続けてください……」


 そう言って申し訳なさそうに扉を閉めた雫は、そのまま横にいた紅葉と一緒に気配が消えてしまった。

 ああ……。誤解なのに……。いや……誤解じゃないけど……。違うのに……。


「続けてくださいだって〜。緑川って案外面白いな〜」


「面白くありませんよ!私達のこと誤解されちゃってますって!」


「誤解も何もな〜?四六時中私たちがイチャついてんのは事実じゃん〜。あ……逃げた……」


 バカバカ!なんであんな事言うの!?

 もう……無理ぃ……!耐えられない……。


「春奈?どうしたの!?」


 逃げ帰る途中で朱音先輩とすれ違ったけど……恥ずかしすぎてどうにかなりそうだった私は、無視してそのまま昇降口に走ってしまった。


 帰り道で少しだけ冷静になった私は、今頃になって部活を休みますと連絡を入れた。

 紅葉と雫もかなり前に休むと言う連絡を入れていたみたいで、私が逃げ帰った後、朱音先輩が鈴音先輩から事情を聞いてまた怒ってくれたらしい……。


 今回は……私が勝手に恥ずかしがって逃げちゃっただけな気もするけど……。

 そういえば、私があの時、お嫁さんにしてくれる?って言った時、鈴音先輩はなんて答えたんだっけ……。

 思い出せない……。なんだっけ……。


 結局、寝る前までずっと考えてた私だったけど、全く答えが出ないまま、眠気に負けてしまった……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 少しだけ時を戻そう。


 文芸部の部室から顔を真っ赤にした女の子が飛び出した後、1人残された少女は、少し寂しそうにこう言ったそうだ。


「はぁ……。自分で言った事忘れるなよ……。まったく……」


 その少女は、その後別の少女にキッチリ怒られたらしいが...なぜだかその間、ずっと笑っていたらしい……。

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