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第3話 お近づきになりたい少女

 お母さんが私を呼ぶ声で目が覚めて行く。

 まだぼんやりとした意識の中、毎朝のことながらではあるけど、なんで目覚ましで起きれないのか本当にわからない。


「早く起きなさい。もう7時半よ。早く朝ごはん食べちゃって」


 昨日の夜ごはんはしっかりと食べて、夜の9時には自分の部屋で寝たはずなのに、まだ寝足りないのは何故だろう。

 まぁどうせ学校でも寝ると思うし早く朝ごはん食べなきゃ…


「わかった…」


 まだ全然寝足りないという様子の私を見てお母さんは深いため息をついた。


「ホントにあんたって子は…」


 本当に心底あきれた様子でお母さんは私の部屋から出て行った。

 去り際にまた寝なさんなよ?という言葉を残して…


 お母さんは私のことを眠り姫か何かだと思っているのだろうか…

 流石の私も一回起きちゃうとそんなに簡単には眠れない。


 現代社会の授業とか物理の授業だと先生の話がさっぱりわかんなくて眠くなっちゃうだけで…


 そんなこんなでいつもの恰好で下に降りた時にもお母さんから深いため息をつかれた。

 毎朝のことながらだけどさ、寒いんだもん。仕方ないじゃんね?


 高校生で毛布をかぶったまま朝ごはんを食べる女の子は私だけじゃないはず…


 学校に行く準備を終わらせ玄関から外に出ると、太陽は雲に隠れていた。

 ただでさえ寒いのに太陽の光が無いだけでさらに寒く感じてしまう。


 寒さで凍えながら毎朝のように同じ学校の人を探してきょろきょろしていると同じ制服を着た女の子を見つけた。あの女の子は確か、クラスで見たことがある気がする。


 あんまり話したことはないけど、確か名前は…「藤咲 花」ちゃんだっけ…。そこまで自信ないや……。


 ピンク色の綺麗な髪と空色の瞳で自己紹介の時可愛いって思った子だ。

 でも、休み時間もお昼休みも教室にいないからなかなか話すタイミングがなかったんだよね…

 この機会にお友達になれたらいいけど…


「おはよ~」


 後ろから肩を叩いて藤咲さんに話しかけると驚かせちゃったのか小さく悲鳴を上げていた。

 悪いことしちゃったかな…


「なっなに?」


 驚いた様子で可愛らしくも、どこか大人びた感じの声で藤咲さんは答える。

 あイヤホン付けてる…そりゃ驚くよね~。音楽聴いてたら突然後ろから肩を叩かれたんだもん。

 私だって同じ状況だったら少し驚く。


「あの~同じクラスの水無月です。学校まで一緒に行きませんか?」


 そういうと藤咲さんは納得した様子で了承してくれた。

 あんまり話したことない私とも一緒に登校してくれるなんてこの人はいい子なのかもしれない。


 だけど、あんまり話したことがないせいで学校に着くまでに何も話せなかった。

 藤咲さんもずっとイヤホン付けてたし…。


 横で時々鼻歌を歌い出す時があってその度にちょっと可愛いって思っちゃったのは私だけの秘密だ。


 学校について教室に入ると、すでに私の席の横で本を読んでいる彼女がいた。

 私は少しだけ嬉しくなって席に着くなり横の席で読書をしている緑川さんを横目で眺めていた。


 相変わらず私に話しかける勇気はないみたいだけど……。


 昨日の登校中少しお話ししただけで軽々しくまた話しかけていいものなのかどうか、中学生の時友達が多い方では無かった私には少し難しい。


 横目でしばらく眺めていると、後ろから声をかけられた。


「なにしてるの?」


 急に話しかけられて、完全に緑川さんに見惚れてしまっていた私は「ひゃっ」なんて変な声を出してしまった。


 今朝の藤咲さんもこんな感じだったのかもしれない。

 そう思いながら振り返って声の主を確認すると、クラス委員の奥田さんだった。


「いっいや?別に?」


 ちょっと裏声になってしまった…。というか横の席の女の子に見惚れてた。なんて言えないよ…

 というかどうしたんだろう。奥田さんとはあんまり話したことはないけど、気になっている子の一人だ。


「ごめんなさい。驚かせちゃった?そんなつもりはなかったんだけど……」


 そう言いながら奥田さんは、悪戯が成功して喜んでいる少年のような顔で私を見てきた。

 あ…絶対わざとだ…


「あ~。その顔!絶対わざとだ~。もうやめてくださいよ~」


 私は頬を膨らませながら冗談っぽく言った。

 この時、奥田さんの顔が少し赤くなった気がするけど気のせいだと思う。


「バレちゃった?ごめんね~。話したことなかったでしょ?お話ししてみたいって思ってたんだ~」


 そう言った彼女の顔はさっきの表情とは裏腹に、少しだけ不安の色が混ざってるようにも見えた。

 勇気を出して言ってくれたことくらい、この表情を見たら誰でもわかるし明るい風に振る舞ってるけど、少しだけ震えている。


 何でこんなに緊張?しているのかな……。でもお話ししてみたいって思ってくれてたのは素直に嬉しい。


「ほんと?嬉しいな~。私もちょっとお話ししたいな~って思ってたんだよ。」


 私が精一杯の笑顔でそう答えると奥田さんは心底ほっとしたように微笑んでいた。


「はぁよかった~。断られたらどうしようって思ってたんだ~。じゃ、HR始まるまでお話ししよ」


 そう言っている彼女の顔はすごく嬉しそうだった。

 それからHRが始まるまでのしばらくの間、私の席で奥田さんとお話しをしてた。


 話し始めたら意外と面白い子で、どこかで見たことがあるような気がしていたけど気のせいなのかもしれない。


 だってこの子、見た目は可愛い猫ちゃんみたいなのに内面は幼い子犬みたいに可愛いんだもん。

 こんな可愛い子、もし仮にあったことがあったなら忘れるわけがない。


 HRの時間になって別れる前に連絡先を交換するまでには仲良くなれた。

 その後の休み時間やお昼休みも積極的に話しかけてくれて今日はすごく楽しかった。


 学校から帰ったらいつもはすぐに寝るけど、今日は学校から帰る時までずっと奥田さんとLINEで連絡をしあっている。

 友達とこんなに長い間LINEでやり取りしたことはない。


 お昼寝して、良い夢を見るよりも楽しいかもしれないと少し思ってしまった。

 それからお母さんが帰ってくるまでずっと奥田さんとLINEのやり取りをしていて、そのことをお母さんに話すと自分のことのように喜んでくれた。


 お母さんがこんなに喜んでいる姿を見たのは久しぶりだった。それだけで私も嬉しくなってくる気がする。


 高校に入って初めてのお友達ができたことでその日はすごく楽しく、いつもの私なら考えられないほど夜更かしをしてしまった。今日は本当にすごく楽しかったな~。


 私は、そんな幸せな気持ちでベットに入り、抱き枕を抱きながら眠りに着いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


  私の名前は奥田美月。

  今日は勇気を出して水無月さんに話しかけることができた!

 本当なら自己紹介の後や、昨日のお昼ご飯の時に話しかけたかったけど勇気が足りなかったんだよ…

 拒絶されたりしなくて良かった…


 私と水無月さんは同じ中学校に通っていたけど、その時の私はすごく地味で男子からイジメを受けていた。その時、先生も友達も、誰も助けてくれなかった。


 そんな時、水無月さんだけが私の見方になってくれた。その時から、私はあの人に夢中になってしまった。女の子同士なのはわかってるけど、この気持ちは憧れなんてものじゃない。


 女の子だったとしても、水無月さんの視界に、少しでもはいれるように見た目をガラりと変えて、中学の時とは別人のように振る舞った。


 その甲斐あって、今日水無月さんの連絡先をゲットできた。それから家に帰ってもずっとお話しができている。


 正直、帰り道は思わず飛び上がってしまうほど嬉しかった。しかも、学校で見た水無月さんのあの笑顔!すごく可愛かった…あれは…ヤバい…


 今日はすごくいい夢を見れそうだなぁ…

 二ヤけながら帰り道を歩いてると偶然部活帰りの弟と一緒になり、気持ち悪…って言われちゃったけどそんなことが気にならないほど嬉しかったんだから仕方がない。


 水無月さんは隣の席の緑川さんを少し気にしてるようだけど、絶対負けないから!


 こうして私は、勝手に緑川さんにライバル心を燃やした。

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