第37話 中間考査のお礼
日曜日、お母さんから起こされる前に起きた私は、今日の買い物の準備で朝からすごく慌てていた。
昨日のうちに着て行く服を決めようと思ってたのに、すっかり忘れてのんびりしてたのが主な原因で……。
目覚ましを5個以上かけてたのに最後の一回でようやく起きたせいで準備に使える時間がすごく少ない……。
えっと……今が9時20分……。私の家に美月ちゃん達が迎えに来てくれるのが11時……。間に合うかな……。
集合場所が私の家なのは、過去に何度も私が電車で迷っちゃったことが原因で...しんぱいした美月ちゃんと皐月ちゃん、それに凛ちゃんが私の家まで迎えに来るって話になってしまった。
帰りは確かに何回か失敗しちゃってるけど……行きで失敗したことないもん……。
「みな〜?起きてる〜?」
ちょっと不満げに集合場所が私の家になってしまったことを改めて考えてたら、お母さんが起こしに来てくれた。
万が一のために9時30分には起こしに来てって昨日のうちに言っておいたんだけど……
「起きてる〜!ねぇお母さん〜。この服変じゃないかな〜?」
私はちょうどいいと思い、部屋に入ってきたお母さんに、今日着ていこうと思っている服を見せた。
「ん〜?まぁ良いんじゃない?」
「...適当に言ってない?」
「別に〜?それより、朝ごはんできてるわよ。早く食べちゃって」
「は〜い……」
自分ではこの服が変じゃないかわかんないからお母さんに聞いてるのに……お母さんは興味なさそうに答えるだけだった……。
私が今日着て行く服に選んだのは、中学生の頃、友達と買い物に行った時に選んでもらった白いワンピースに決めた。
久しぶりにこの服を着るから一応確認しときたかったのに……。
着ていく服を決めた私は、とりあえずベットの上に服を置いて、いつもの格好で下に降りた。
リビングには、朝ごはんを食べながらテレビを見ているお母さんがいて……私の格好を見るなり
「もう5月なんだからその格好やめたら?」
なんて言ってきて、まだちょっと寒いんだもん!って言ったら呆れられてしまった……。
せめて6月くらいまではこの格好でいたい……。
「ねぇ。なんで今日そんなにテンション低いの?まさかとは思うけど今回は雫ちゃんが来ないからテンションが低い〜。とか言わないよね?」
「よく分かったね〜。あの子も一緒に行くんならまた面白くなりそうだな〜って」
「だからなんでよ!」
あの勉強会の後から、お母さんは雫ちゃんとの関係をやたらと気にして来るようになったし……雫ちゃんのことを話すとニヤニヤしながら聞いてるしで……。なんなの……。
「はいはい。その話はいいから冷めないうちにスープ飲んじゃって」
「も〜!」
うちのお母さんが特殊なのか、他のお母さん達もこんな感じなのかわかんないのがなんとも……。
夏休みにはここにお父さんも加わるなんて……本当に嫌なんだけど……。
お母さんは好きだけど……こう言うところは直して欲しいな……
朝ごはんを食べ終わってから準備が終わった頃、皐月ちゃんから「私らもう直ぐ着くけど起きてるか?」ってメッセージがきて、ちょっと複雑な気持ちになってしまった……。
私って一体どんな生活してると思われてるんだろう……。
学校ではいっぱい寝てるけど……休日もそんなには寝てな……いや、前まではずっと寝てたっけ……。あはは……。
「今準備が終わったところ!もう行くの?」
「あ〜凛とは一緒に来てないから凛が来てからだな」
「分かった!」
それから10分くらいして、家のチャイムがなった。
さすがに、この前の失敗を学んで、相手が皐月ちゃんと美月ちゃんだって事を確認してからドアを開けた。
この前は宅配便の人だったし……。
玄関を開けた先に待ってたのは、チェックのスカートとデニムのジャケットをかっこよく着こなしてた皐月ちゃんと、デニムスカートとカーディガンを着て少しだけ顔を赤くした美月ちゃんだった。
皐月ちゃんがスカートを履いてたのがちょっと意外だったけど……普通に似合ってる……。
美月ちゃんは、いつも可愛い感じの服を着てるから少しだけ期待してたんだけど……予想通りかなり可愛かった。
「紅葉おはよ。ちゃんと起きれたんだな」
「さすがに起きれるよ!目覚ましいっぱいかけたけど……」
「だろうと思った。それよりさ、私似合ってるか?スカートとか制服以外であんまり着ないから分かんなくてさ〜」
「似合ってるよ!でも本当に珍しい気がするね〜」
「だろ?まぁそれよりも……美月?なんでさっきから黙ってるんだ?」
「え!?いや!?別に!?」
確かに、私がドアを開けた時から美月ちゃんが喋ってない気がする……。
ずっと顔を赤くして私を見てるだけで……。そんなに変かな……
「ううん!紅葉ちゃん!とっても似合ってる!」
「そう?ありがと!美月ちゃんも可愛い!」
「え!?あ!うん!ありがと!」
「よかったな〜美月」
「え?何が?」
「なんでもない!うん!凛が来るまでうちにお邪魔してていい?」
「もちろん!」
皐月ちゃんがニヤニヤしてるのはいつものことだからもう何も言わないけど……美月ちゃんはいつもより顔が赤い気がする……。
あれ……?ちょっと泣いてる……?気のせい?
皐月ちゃんと美月ちゃんが着いて5分くらい経った頃、またチャイムがなってドアを開けると、息を切らして肩で息をしてる凛ちゃんが立っていた。そんなに走ってきたの?
「遅れたら皐月に何されるか分かんないんだもん……。だからちょっと……」
「大丈夫だと思うけど……」
「いいや!皐月はやる……。今度は……グリグリされる気がする……」
ちょっと泣きそうになりながらそう言う凛ちゃんを見て、された事があるんだろうな〜って容易に想像できたのがなんとも……。
凛ちゃんはさすがにこの前みたいなジャージ姿じゃなくて、黒いパーカーを着ていた。
「ん〜?なんか悪口を言われた気がするんだけど〜?凛なんか知ってるか〜?」
「私は何も言ってない!ねぇ本当だってば!」
皐月ちゃんにいじられてる?凛ちゃんはなんか……必死で可愛い……。
凛ちゃんには申し訳ないけど……もうちょっとだけ見てたい……。
「はぁ……。バカなことやってないで行くよ」
「ありがと〜美月……」
「凛?それはどう言う意味?」
「あ〜えっと……」
そう言いながら助けてほしい。って言う目で凛ちゃんが私を見てきたからさすがに可哀想になって助けてあげた。
目をウルウルさせながら見られたら助けるしかないじゃん……。可愛すぎる……
皆で駅に向かってる時、皐月ちゃんから高校生にもなって電車間違えるなよ……って呆れられながら言われたけど……そんな事言われても。
間違ってると言うより……寝ちゃって寝過ごしたり……反対の電車に乗っちゃうだけだもん……。
「帰りも送った方がいいなこりゃ……」
「今回は大丈夫だって!……多分」
「前回もそう言って寝過ごしたって言ってただろ……。美月。帰り送ってあげな」
「私!?うん!分かった!」
「美月ちゃんまで……」
凛ちゃんも皐月ちゃん達の話を聞いてるうちに段々と私を心配そうな目で見て来るし……。
凛ちゃんにはそう思われたくなかったな〜!
改札を抜けたあたりで、どのホームに行ったら良いか分かるか?って言われて着いたホームが見事に反対の電車だった時はさすがに何も言えなくなっちゃって……顔を真っ赤にしたけど……。
「ほらな〜?これ帰りも絶対やるぞ。美月頼むな〜」
「良いけど……。紅葉ちゃん……本当に大丈夫?」
「今は大丈夫じゃない……」
「ほら。もう少しで電車くるから……美月。紅葉ちゃんと連れてこいよ。先に行ってるぞ」
「は!?ちょっと!皐月!?」
私は恥ずかしくてずっと下を向いてたから何が起きてるのか全くわからなかったけど、突然手を引かれた時は思わず顔を上げてしまった。そこには、耳まで赤くしながら私の手を引いてくれてる美月ちゃんの姿があって……。
こんなスタートで大丈夫かな……なんて思ってしまった。
電車に乗ってからも横に座った美月ちゃんは耳まで赤くて、電車を降りるまでずっとそんな感じだった。
皐月ちゃんと凛ちゃんは隣でずっと笑ってるから私もどうして良いかわからずに下を向いていた。
駅のホームから手を引いて歩いてくれた美月ちゃんの右手は、まだ私の左手と繋がってて、美月ちゃんのあったかい手が少しだけ心地よかった。




