第36話 買い物の前日
「ねぇ皐月!これどうかな!変じゃない?」
私は今、明日紅葉ちゃんと皐月、それに凛と来る予定のモールに来ている。
そこの洋服屋で明日着て行く服を皐月と一緒に選んでいる。
皐月は、中間考査が終わって2日の休みがあった間に、今週の日曜日に緑川さんに予定がある事を調べてくれて、昨日は紅葉ちゃんと一緒に出かける口実まで作ってくれた。誘い方がちょっと……あれだったのは置いといて……。
「変ではないけど……微妙な気がするぞ?」
「そうかな……。じゃあ次!」
かれこれもう1時間近くこんな感じでなかなか服が決まらずにいた。
せっかくあの人がいないんだし思いっきり話せるチャンス……。新しい服で可愛いって言われたいし……
「なぁ〜。別に持ってるので良いんじゃねぇの?そんなにこだわらなくてもさ〜」
「だって……可愛いねって言われたいんだもん……。せっかくあの子いないんだし……」
「あんたバイトしてないでしょ……。お金大丈夫なのか?明日もここ来るんだぞ?」
「いつこうなっても良いようにお小遣い貯金してるもん!多分大丈夫!」
「はぁ……。本当にもう……」
それから30分くらいして、やっと着て行く服が決まった。
皐月はすっごく疲れて、半ば呆れたみたいな顔してたけど私はすっごく嬉しかった。
大丈夫かな……。今日眠れるかな……。
「なぁ。まさかとは思うけど今日寝れないかも。とか思ってないよな?どうせこの前の時も全然眠れなかったんだろ?」
「だって……楽しみすぎて……」
「遠足前の小学生みたいなこと言ってるし……。紅葉の前であくびしたら心配されるぞ?」
「そんなこと言われても……」
買い物袋片手に、皐月と一緒に夕飯のおかずを考えてる最中、そんなことを言われてしまった。
確かに……優しい紅葉ちゃんは私のことを心配してくれるかもしれない……。いや……多分してくれる……。それはそれで嬉しいけど……。
「あのなぁ……美月ってほんとに顔にでるよな〜。紅葉が気がつかないのが不思議なんだけど……」
「そっ……そんなに出てる……?」
「緑川さんも気付いてるだろ。多分……」
「あの子は良いの!でも……どうしようね……」
「紅葉はありえないくらい鈍感だし大丈夫だろ。美月がイメチェンした事にすら気付いてないっぽいし」
「気付かれない為のイメチェンなのに気付かれたら元も子もないでしょ……」
「まぁそうだけどさ〜。私は前の方が……」
「ん?何か言った?」
「ん〜?なんのことだ?別になんも?」
絶対何か言ったのに店内アナウンスのせいで聞こえなかった……。
今日はなんとかして寝ないとまずいかな……。でも……寝れる気がしない……。
「はぁ……。なら今日泊まり行っていいか?」
「どしたの急に……」
「私が一緒だったら寝やすいだろ?」
「ん〜。それはそうだけどさ……。葉月ちゃんはどうするの?」
「葉月も一緒に泊まるけど?」
「そんな急に……」
うちのお母さんは多分いいよって言ってくれると思うけど……。問題は萩なんだよね……。
あの子……急に葉月ちゃんが来るとか言ったら多分浮かれるから嫌なんだよね……
「葉月に連絡しとくから美月も萩君に連絡入れときな?」
「はぁ……。わかった……」
皐月が家に泊りにくるのは別に初めてじゃないし葉月ちゃんが家に泊りにきたことだって何度もある……。
だけど今回は……なんというか……いつもより強引というか……そんなに私が心配なのかな……。
「あ夕飯はカレーがいい!」
「はいはい。あんたも手伝いなさいよ?」
「分かってるって〜」
それからカレーの材料を買って一旦皐月と別れた。皐月は葉月ちゃんを迎えに。私は家に帰ってカレーの準備をしないといけない。
まだ萩は部活だと思うけど……一応連絡しとかないと……。
「今日の夜、皐月と葉月ちゃんが家に泊りにくるから帰ったらあんたの部屋掃除しなさいね」
すると、予想外に数分で返信が返ってきた。
萩は部活中だと思ったんだけど……違ったみたいで、もう家に帰ってるらしい。
あ……今日土曜だから部活は午前で終わりだっけ……。
家に帰ると案の定、萩が慌ただしくリビングを片付けていた。
それより自分の部屋を掃除しなさいって言ったのに……。
「僕の部屋はこの前姉さんが掃除してたじゃんか。だからこっちをしてんの。それより、葉月って何時に来るの?」
「確か〜5時くらいって言ってたから……後1時間くらいかな?」
「なんで急に泊まるとかいう話になったわけ?」
正直に、明日紅葉ちゃんと一緒に買い物に行くんだけど、楽しみで寝れそうにないから皐月が来る。なんて言えない……。
なんて言われるかわかんないし……姉としての立場が……
「それは……まぁ色々あって……」
「なら今度アイス奢って」
「はいはい……」
まだ5月なのにもうアイス?ちょっと早い気がするんですけど……。
それより……なんでこの子髪が濡れてるの?
「さっきシャワー浴びた。部活で汗かいたしプールの匂いしたら嫌われそうだから……」
「あ〜そうですか〜。リビング終わったらお姉ちゃんの部屋も片付けててくれない?これから夕飯の支度するから」
「分かった……」
本当に葉月ちゃんが来るってなったら浮かれるんだから……。
いつもこうなら良いのに……。
それからぴったり1時間後、皐月と葉月ちゃんが到着して萩がすごい緊張してたのがちょっと面白かった。
結局皐月は全然手伝ってくれなかったし……萩と葉月ちゃんはずっと話してて邪魔しちゃ悪いし……。
しかも、お母さんとお父さんはカレーが出来上がって数分で帰って来るし……。出来上がるタイミング狙ってるの?
「お泊まりなんて久しぶりね〜。ゆっくりしていってね皐月ちゃん。葉月ちゃん」
「はい。私達は美月の部屋で寝るので……」
「葉月ちゃんも私の部屋で寝るの!?」
「お姉ちゃんがそうしろって……。ダメ……ですか?」
「いや別に大丈夫!」
皐月を睨みながら言ってみたのに皐月は知らん顔してるし……。
聞いてないんだけど!葉月ちゃんはピュアすぎて私には眩しいんだけど……。
「相変わらず美月の料理美味しいよな〜」
「うん!お姉ちゃんのも美味しいけど美月さんのもとっても美味しい!」
「あはは……。ありがと……」
紅葉ちゃんに近づきたくて始めた料理なのに、だんだん毎日はキツくなってきてる私は、すごく微妙に笑うことしかできなかった。
この前は料理を教えてもらったおかげで紅葉ちゃんを家に呼べたけど……う〜ん……。
「姉さん。どしたの?」
「明日のことでも考えてたんじゃねぇの?明日は……」
「あーあー!葉月ちゃん。辛くない?大丈夫?」
「はい。大丈夫です……けど……。明日何かあるんですか?」
「何にも!?何にもないよ!」
「じゃあなんで新しい服買ってんの?ていうか、昨日日曜は朝から出かけるって妙に嬉しそうに言ってたじゃんか」
「そんなこと言ってませんー!萩の記憶違いですー!」
そこまで言って、お母さん達も含めて、全員が微妙な目で私をみていることに気がついた。
葉月ちゃんだけは何が何だかわからない。みたいな顔してたけど……。なんだか心が痛い……。
それからご飯を食べ終わって食器を洗ってると、横で手伝ってくれてた皐月がさっきのことをすっごく笑ってきた。
言われてることすべてが正しいし……なんだか急に恥ずかしくなってきて私の顔はすごく赤かった気がする。
「葉月〜。もう寝るか〜?」
「お姉ちゃんが寝るなら寝る〜」
「美月〜寝るぞ〜」
「まだ10時なんですけど……」
「明日紅葉とデートだろ?早く寝ないとじゃないのか〜?」
「……!それは言わない約束でしょ!?」
ほら……葉月ちゃんも少し顔赤いじゃん!もう!
それから私の部屋に3人。葉月ちゃんが私のベットで寝て、私と皐月は床に布団を敷いて寝ることになった。
10時30分ごろまで、明日のことをずっと話してたから緊張で余計眠れそうになかった。
明日がすっごく楽しみで、皐月が隣で寝てから20分近く眠れずにいたけど金曜日の夜もほとんど眠れなかったからなのかスッと寝てしまった。
明日が良い1日になりますように……




