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第34話 勉強の成果

 中間考査当日の朝、私は変に緊張してしまって、2日間の勉強会でヘトヘトだったはずなのに全く眠れなかった。

 だからこんなに早い時間に起きてしまったんだと思う。


 まだ6時23分……。昨日の勉強会に凛ちゃんは来なかったけど大丈夫かな……。

 今日も来れないとか無いよね……。


 一応、お母さんが朝ごはんを作ってくれて呼びに来てくれるまでまだ時間があったから最後に少しだけ勉強しておこうと机に置かれた教科書とノートを開いた。


 改めて思うけど……普段の私からは想像できないような量をこの2日で勉強した……。

 中学の時は……もうちょっと楽だったのに……。


「起きなさい。朝ごはん出来てるわよ」


 そう言われて、自分が机に突っ伏して寝てしまっていたことに気がついた。

 勉強しようとしたのに寝ちゃったらしい……。というか、欲を言うならもうちょっとだけ寝たい……。

 緊張していたはずなのに、なんでだか急に緊張がとけて寝てしまったらしい……。


「ん〜。もうちょっと……」


「ふ〜ん。そういえばお母さんね〜。あなたの好きな人分かっちゃったわよ?」


 そう言われた瞬間、寝かけていた意識が急に覚醒して眠気が吹き飛んでしまった。

 冷静に考えたらそんなのありえないのになぜだか体が反応してしまった……。


「え!?嘘だ!」


「あ〜起きた。ご飯早く食べちゃいなさいね」


 飛び起きてビックリしてる私を置いて、1人ちょっと笑いながら部屋を出たお母さんを見て、騙されてしまった……。とやっと理解した。

 しかも、また心当たりが無いと反応しません〜。みたいなこと言われる気がする……。


 しぶしぶ、いつもの格好で下に降りた私は、変わらずちょっと笑いながら朝ごはんを先に食べてるお母さんに文句を言った。


「ねぇお母さん!あの起こし方やめてくれない?」


「え〜?面白いから良いじゃない。それより、ココア。冷めちゃうわよ?」


「も〜!」


 ちょっと怒りながら、あったかいココアを飲んだ私は席に座ってからずっと私を見て来るお母さんを気にしながら朝ごはんを食べた。


 日曜日の勉強会の時も、土曜日は特に何もして来なかったのに邪魔してきたし……。

 邪魔というか……私が途中でちょっと部屋から出た時部屋の前で笑ってるお母さんと鉢合わせしたし……。


 朝ごはんを食べ終えた私は、自分の部屋でモヤモヤしながら今日の準備をしていると、ベットの上に置いてあった携帯が光った。

 机の上に置いてあった筆箱をカバンに入れてから携帯を確認する。

 そこには、雫ちゃんからの「一緒に学校行かない?」のメッセージが表示されていた。


 もちろん、断るわけもなくもう準備が終わっていた私はオッケーの返事をして直ぐに家を出た。

 さすがに雫ちゃんはまだいなくて、やっと雫ちゃんより先に家の前で待つことが出来た。


 昨日の夜、寝る直前まで私のことを心配してくれた雫ちゃんはこの2日でだいぶ自信がついたって言ってた。特に英語が……。


 やっぱり、凛ちゃんの教え方がうまいのかな……。私も英語は多分大丈夫な気がするし……。


 そして、雫ちゃんからの最初のメッセージが来て5分くらいした頃、雫ちゃんが歩いて来るのが見えた。

 いつもなんで先に待ってるのか分かんなかったけど、こんなに早くから待ってたんだ……。


「ごめんなさい。待った?」


「ううん!今出て来た!」


「そう……。なら行こ」


 ちょっと複雑そうに笑った後、雫ちゃんは私の隣を歩き始めた。

 歩きながら、昨日や一昨日の勉強会の事を話してたら、凛ちゃんは体調が悪くて昨日来なかった訳じゃなくて、勉強しすぎて嫌になったから来なかっただけって事がわかった……。なんで私には言ってくれなかったんだろう……。


 まぁ……土曜日にすっごく疲れて帰ってたから分かる気もするけど……。凛ちゃん……本当に大丈夫かな……


「まぁ……あの人はお兄さんがいるみたいだから大丈夫だと思うわよ。昨日の夜皐月さんに聞いたんだけど、昨日勉強会が終わった後、奥田さんと一緒に凛さんの家に行ったんだって。そこで、凛さんが泣きながら勉強してたとこ見たって言ってたし……」


「泣きながらってなんで?」


「さぁ……。そこまで詳しく聞いてないけど……お兄さんが関係してるんじゃない?」


「へぇ〜……」


 凛ちゃんのお兄さんは凛ちゃんに甘いって聞いた気がするんだけど……そんなに厳しいのかな……。

 そういえば、雫ちゃんが嫌がってた男の子はどうしたんだろう……


「知らない。しつこかったから通知切ってるし……」


「そうなんだ……。大丈夫?」


「中間考査が無理なら夏休み前の期末考査は?みたいな感じで聞いて来るから本当無理。もし校門の前で待ってたら無視するからその時は……その……」


「うん。協力する!」


「あ……うん……。ありがと……」


 なんだか寂しそうに笑った雫ちゃんがちょっと気になったけど、その時はそんなに気にしなかった。

 流石に校門の前にあの人はいなかったけど、雫ちゃんはなぜか少し残念そうにしていた。なんでだろう……。


 肝心のその人は、今日中間考査で周りの人が皆教科書とかノートを見せ合って慌ただしくしてたのに、1人だけのんびり机に突っ伏して寝ていた。なんだか、朝の私を見てるみたいでちょっと微妙な気持ちになってしまった。

 もう眠気はないけど……朝の私ってこんな感じだったのかな……。


「寝てるみたいだね……」


「こんな時に何やってるんだろうねほんと……。紅葉ちゃんもちゃんと復習しなよ?こんな風に寝ちゃダメよ?」


「こんな風にって随分ひどい言い方するね……。僕一応起きてるんだけど……」


「……行こ。紅葉ちゃん……」


「あ……うん」


 私と雫ちゃんが自分の席に座って、雫ちゃんは1時間目にテストがある物理の教科書を開いて復習を始めてしまった。

 私は、さっきの男の子が気になってあんまり復習ができなかった。


 だって、私たちが通り過ぎた後、また机に突っ伏して教科書を開こうともしてなかったんだもん……。気になるじゃん……。


 美月ちゃん達3人は、何か話しながら時々私の方を見て来てた気がしたけど……そんなに気にしないことにした。

 多分気のせいだし……。

 凛ちゃん……結局来たんだ……。来ないかもって心配してたから良かった……。


「え〜じゃあ。中間考査1限目。物理。始め〜」


 いまいち緊張感が無いような声で喋った男の先生は、問題用紙と回答用紙、開始の号令だけした後、黒板の前の教卓の横で寝てしまった。

 物理の先生ってこの人だっけ……。いつもだいたい寝てるから覚えてない……。


 結果から言えば……半分は解けた……。昨日美月ちゃんが作って来てくれた中間考査対策の問題でやったところがほとんど出てきた……。


 次の現代社会も、美月ちゃんの対策問題でやったところが出て来て、問題を見た瞬間すっごく嬉しくなってしまった。

 最後の英語なんか、凛ちゃんがたくさん教えてくれたからなのか、すごい自信があった……。


 中間考査は明日もあるけど、多分明日もなんとかなる気がした……。

 下校する前に、美月ちゃんや雫ちゃんがどうだったかも聞いたけど、雫ちゃんは普通。美月ちゃんや皐月ちゃんは今回簡単じゃなかった?なんて言ってたし……凛ちゃんに至っては美月ちゃんに泣きながらありがとうって言ってた……。


「それにしても、昨日美月ちゃんが作って来てくれた対策問題がほとんど出てきてびっくりした……!」


「私が一番ビックリしてるよ……。半分出てくればいいかな〜。くらいだったし……」


「ほんと、中学の時から変わったよな〜美月って。前はそんなに真面目じゃなかったのにな〜?誰かさんのおか……」


「わー!さっ皐月は何を言ってるのかな!?はい!帰るよ!じゃあね紅葉ちゃん!また明日!」


「う……うん……。また明日ね〜」


 美月ちゃんはまだ何か言いたそうな皐月ちゃんの口を押さえながら必死に連れて帰っていった……。

 どうしたんだろう……。あんなに慌てて……。


「それにしても、私が一番驚いたのはあの子……。凛さんよ……。あの子がここは絶対出るって言ってたところ、本当に全部出ててビックリしたんだけど……」


「あ〜。それは私も思った!凛ちゃんすごいよね!」


「あの子、本当に満点取るんじゃない?」


「そうなったらすごいよね〜!」


 帰り道、雫ちゃんと一緒に中間考査の話で盛り上がって学校から家までの道が、いつもよりずっと短く感じた……。


 明日もこのまま順調に終わって欲しい……。私がそう思うながら寝たのは言わなくても多分わかると思う……。

 そんな願いとは裏腹に、夢の中で赤点をとって泣いてた私は起きた時にすっごく安心したのはもうちょっとだけ先の事……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ちょっと!何言おうとしてるの!?」


 そうやって私の目の前で可愛く怒ってるのは私の初恋の女の子だった。


 でも、私にその気持ちを伝えるのは無理だった。それですごく後悔したし、今となっては彼女の恋を応援する立場になってしまった。


 だから葉月には後悔して欲しくなくて、この前あんなこと言っちゃったけど……あの子にはちゃんと届いてるかな……。


「聞いてる!?紅葉ちゃんに気づかれちゃったらどうするの!?本当に!」


 この子は中学生の時に助けてもらったから紅葉を好きになったと言っていた……。

 それを聞いた時、私は顔もよく知らない女の子に負けてしまったんだ……。そう思って、家に帰ってからしばらく涙が止まらなかった。


 美月があんなことになってたのに、私は助けることができなかった……。その時点で私には美月に気持ちを伝える資格が無くなってしまった。美月を助けてくれた女の子と幸せになって欲しくて応援することにしたのに、今でもたまにとても悲しくなる。


 なぜ私じゃないのか。なんであの時、勇気が出せなかったのか……。

 今でもたまに泣いてしまう時がある。凛にもこのことは言ってないし、もちろん葉月にも言ってない。この気持ちは、私の心に秘めておこうと決めた気持ちだったから……。


「気付かれる気付かれないの問題じゃないんじゃねぇの?週末の勉強会で紅葉の部屋見て感動してた誰かさんは分かんないかも知んないけど、あの子と緑川さん、だいぶ距離縮まってるぞ?」


「……感動してたんじゃないもん……。嬉しかっただけだもん……」


「ああ……はいはい。それで?あの2人の事はどうするんだ?」


「まだ考え中……。あの子には絶対取られたくない!」


 美月の可愛いところは、紅葉に少しでも近づけるためにかなりのイメチェンをして、勉強もして……料理もお母さんに教えてもらって……。

 意外と努力家なところ……。中学の頃はまぁまぁ仲が良かったらしいのに、その関係を全て捨ててまた1から始めるなんていうめんどくさいことを本気で考えた子だし……。


「じゃあ聞くけどさ、なんでわざわざ正体隠す必要があるんだ?向こうが美月に気づいてくれたら一気に関係縮まるのに……」


「それは……今じゃない気がする……。なんかね。まだここで明かしたらダメな気がするの!」


「ならいつかは話すつもりなのか?」


「まぁ……。でも、それは今じゃない気がする!だからまだ何も言わないで」


「はいはい。じゃああの2人の事どうするかだけ考えとくから美月もなんか考えな?いい?」


「わかった!じゃあね!」


 そう言って可愛く手を振りながら去っていく少女を見て、私は少しだけ寂しさを感じた。

 この恋が、もし叶ってしまったなら私は美月を応援するし、祝福すると思う……。


 だけど、もし失敗してしまったら……。

 私はその時、どうすれば良いんだろう……。


 とにかく、美月はもちろん、誰にも私のこの気持ちを悟られないようにしないと……。

 私にはもう……美月の横を一緒に歩く資格なんて無いんだから……。

 ましてや、告白する資格なんて...


 今は全力で、私にできることをしないと……

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