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第32話 私の戦い

 昨日フランスから帰って来てお昼に少し寝たせいか、その日はいつもよりだいぶ早く起きれた。

 携帯を確認しても、まだ6時28分。家を出ないといけないのが8時ちょうどくらいだから……まだ全然時間がある。

 かと言って……一昨日まで大会に出てたのに朝からゲームはちょっときついものがある……。


「はぁ……。起きますか……」


 ベットから立ち上がった瞬間、足元でバキッ。っという音が聞こえた。


 恐る恐る下を見てみると、そこにはパッケージが割れてヒビが入っているDVDがあった。

 というか、私の部屋には大きめのテレビとゲーム機、後は好きなアニメや映画のDVDが足の踏み場もないほど広がっている。

 この間ベットの下を掃除した時なんて数年前になくしたと思ってたゲームが出て来て感動したもん……。


「うっそ……。これ気に入ってたのに……。ショックー」


 私の部屋は2つあるけど、普段はこっちで生活してて、友達が来た時とかはもう一個の部屋に。ちゃんと女の子らしい部屋に通すことにしてる。


 この部屋に入ったことがあるのは、皐月と美月だけ。

 というか、私がこんなにゲームしてるって知ってるのあの二人と家族だけだったし……。


「お。おはよ。早いな」


 部屋から出て来た私にそう声をかけたのは、ちょうど隣の部屋から出て来た、学校でちょっとした有名人らしいお兄ちゃん。

 寝起きでも寝癖一つない綺麗な黒髪。クールそうに見えて実は、すっごく優しくて私に激甘なお兄ちゃん。


「お兄ちゃんおはよ〜。ねぇ聞いてよ。これ踏んじゃって壊れちゃった……」


「何やってんだよ……。はぁ……。帰りに買って来てやるからタイトル後で送っといて」


「ありがと〜!分かった!」


 ちょっと笑いながら下に降りていったお兄ちゃんを見ながら、やっぱりお兄ちゃんは優しいって思った。


 そういえば、お兄ちゃんの好きな人って誰なんだろう……。前に聞いても教えてくれなかったし……。

 お兄ちゃん、優しいしカッコいいんだから告白したらすぐに付き合えそうなのに……


「そういえば、昨日皐月から聞いたんだけどさ、お兄ちゃんってそんなに学校でモテてるの?」


「どうしたんだよ急に……。別にモテてるとか思ったことねぇよ……」


「そうなの?なんか気になっちゃってさ〜」


 朝ごはんの時に思い切ってお兄ちゃんに聞いて見たけど、自分がモテてるって自覚すらないみたい……。

 皐月が言うんだから多分結構女子の間では有名なんじゃないかな……。私はほとんど学校行ってないからわかんないけど……。


「てか、モテてたとしても別に嬉しくねぇよ……」


「え?そうなの?男子ってモテたいって常に思ってるって皐月が言ってたけど……」


「ん〜。まぁそう思ってる奴も少なからずいるだろうけど……俺は別にかな……。大体、好きなやつに好きって言ってもらえないと、どんだけモテてもしゃーないだろ……」


「何お兄ちゃん……。急にかっこいいこと言って……。どしたの?」


「当たり前のこと言っただけだろ……。それより、凛は勉強大丈夫なのか?そりゃ大会が近いからってゲームに集中するのはわかるけどな?赤点とって何言われても知らねーぞ?」


「多分……大丈夫……。今度の大会6月だから……。ちょっとは余裕あるし……。それにほら!私お兄ちゃんより英語とか得意だし!」


「泣きながら英会話教室通ってたのは誰だったよ……。英語は心配してねぇけど、問題はそのほかだろ?赤点取って母さんに何言われても知らねーぞ?」


 今、私はお兄ちゃんと私の2人暮らし。もちろんお母さんもお父さんもいるけど……。お兄ちゃんがお母さん達と喧嘩しちゃって一人暮らしを始めちゃったから私も高校生になってお兄ちゃんの家に居候させてもらってる。


 お母さんは私がゲームの大会に出るのは反対って高校生になったら現地に行くお金は自分で出しなさいとか言うから私もちょっと頭にきてたんだけど……。今となってはお兄ちゃんの所に逃げてきてよかったと思ってる。


 お兄ちゃんはお母さんとは違ってちゃんと海外に行く為のお金とか半分は出してくれるし……。

 お父さんは……ゲームとかよく知らないから本人達の自由にさせるって無干渉?を貫いてて頼りにならないし……。


 私がゲームの大会に出てるのをお母さんが見逃してくれてるのはお兄ちゃんがお母さんと交渉してくれたからで……。

 喧嘩して一人暮らしを始めたのに、私の為ならお母さんと話してくれるお兄ちゃんって本当に優しい。


 簡単に言うと、大会で仮に賞金を取れた場合、半分をお母さんに渡して、もう半分はお兄ちゃんに渡して管理してもらうこと。

 勉強としっかり両立すること。この2個が大きな条件だった。

 まだ何個か細かいルールはあるけど……そのうちの何個かは守ってない……。だって、ゲームは夜9時までで、一日3時間って……。ゲーマーをなんだと思ってるのか……。守れるわけない……。


「なぁ。本当に大丈夫だよな?俺母さんに会うのもう嫌だぞ?」


「が……頑張る!美月達と一緒に勉強するから……」


「頼むぞほんと……。あ。今日俺部活の後バイト行って、帰りに朝言ってたやつ買いに行くから夕飯は適当に食ってて良いぞ」


「何時くらいになるの?バイトキツイんなら無理しなくても……」


「あのなぁ……。確かにお前の大会の賞金でかなり助かってるけど電気代とか毎月ばかになってないんだからな……?バイトの日数減らせたから多少楽になったとはいえ……」


 電気代がバカにならないのもその通りで……私は毎日5時間以上ゲームしてるし、休みの日なんかご飯も食べずにずっとゲームしてる……。

 電気をつけっぱなしで寝た時なんて珍しくお兄ちゃんが怒ってたし……。


 朝ごはんはいっつも2人で食べてるけど、お兄ちゃんが部活の朝練とかでいないときは食べないでゲームして、そのまま学校休んじゃったこともある……。そんな楽しい朝ごはんの時間も終わって、2人とも学校に行く準備を始めた。


 お兄ちゃんは自分の部屋へ。私は起きてきた部屋とは違う、もう一個の部屋に準備をしに行った。

 あの部屋にはゲーム関係のものとかしか置いてない。


 久しぶり。と言っても一週間ぶりくらいだけど久々の登校にちょっと緊張してきてしまった。

 昨日皐月達とカフェで話したときは何ともなかったのに……。


「ほら。今日の弁当。いいか?なんかあったら電話かメールすること!授業中は真面目に授業聞くこと。ノート取るのは二の次でいいからとにかく先生の話をよく聞いてろ。いいな?」


「分かった!」


「おし。忘れ物ないな?行くぞ〜」


 お兄ちゃんと一緒に学校に向かってると、おんなじ制服をきた女の子達がすっごい見てくるのが気になってしょうがない……。

 お兄ちゃんは気にしてないみたいだけど……。


「お兄ちゃん!そう言えば、最近部活どう?」


「どうした急にでかい声出して……。別に普通だよ……。後少しで俺は引退だし……」


 向こうから睨んできてる女の子達に聞こえるようにわざと大きな声出したんだけど……大きすぎちゃったかな……。

 皐月ならこんな時、うるさいって叩いてくるんだけど……。って、なんでここで皐月が出てくるの……。


「なんだ妹さんか……。彼女って言ったの誰よ……。良かった良かった〜」


 大きな声でお兄ちゃん。って言ったおかげで、さっきまで私を睨んでた女の子達は早足で歩いて行ったけど……私はどっと疲れた。

 これから校長先生に表彰のことで話に行かないといけないのに……。


「ああ。そう言えばうちの担任が今日凛が表彰されるって言ってたけど本当か?」


「ウッ……。それをなんとか出来ないかなって昨日皐月達と話してたんだけど……」


「まぁおかしいとは思ったけどそういうことか……。で?何か良いアイデアは出たのか?」


「一応、今日早めに行って説得してみるって結論になったけど……。それでもダメだったらお兄ちゃんになんとかしてもらおうかなって……」


「どうにかしてもらおうって……。俺に何をしろと……」


「え〜!良いじゃん!何とかしてよ〜!」


「無理に決まってんだろ……。表彰されたくないんだったら自分でなんとかしろ。」


 お兄ちゃんは助けてくれるって思ったのに……。

 どうにか出来そうにないから頼んだんだけどなぁ……。


 そうこうしてるうちに学校に着いてしまって、まだなんて言って表彰をやめてもらうかまとまってないまま職員室の前まで来てしまった。一応横にはお兄ちゃんがいてくれてるけど……どうしよう……


「とりあえず、話してみろって。案外すんなりやめてくれるかもしれねぇぞ?」


「ええ……。分かった……。失礼します〜。1年c組の砥綿凛です……。校長先生いますか……?」


「はーい。あれ?どうしたの凛さん。それに〜」


「あ。兄の響です。妹が先生に話したいことがあるそうなんで付き添いに」


「あらそう。なら校長室おいで。」


 そういうと、校長先生は隣の校長室に案内してくれた。

 校長室に入るのは中学校の頃に何度も入ったことがあるから慣れてるけど、この高そうなソファってどこの校長室にもあるのかな……。

 この怖そうな歴代校長先生の写真も……。


「それで?私に話したいことって何?」


「えっと……この前電話で母から言われたんですけど、今回の私のことが表彰されるって……」


「ああ。はいはい。それが?」


「その表彰ってやめてもらうの可能ですか?」


 私がそう言った瞬間、それまでニコニコしていた桜井校長先生の顔が、ちょっとだけ曇った気がした。

 怒ってるのかな……。さっきまで優しいお婆ちゃんみたいだったのに…………


 桜井校長先生は白髪で、近所の優しいおばちゃんみたいな感じの人って前にお兄ちゃんが言ってたけど……。

 今はすっごい怖い……。私は無意識に、お兄ちゃんの制服の裾を掴んでた。


「それは〜なんでか理由を聞いても良い?」


「えっと……それは……その……」


「はぁ……。俺から話します。妹はあまり人前に出るのが得意じゃないんです。なので、全校生徒の前で表彰されるのはイヤらしいんです。中学生だった時も今回のような事は何回かあったんですけど、全て表彰はしないでくださいとお願いしてたんです」


 私が言葉に詰まって、頭が真っ白になって泣きそうになっていると、見てられなかったのか、横に座ってたお兄ちゃんが代わりに説明してくれた。やっぱり着いて来てもらってよかった……。こんな事があったらマズイと思って付き添ってもらったんだよね……。


「なるほどね。でも、他の子達はあなたが表彰されるって知ってるけど、それは良いの?」


「え……えっと……。私は友達があんまり多くないので……。付き合いがあるのは中学から知ってる人で、私が表彰されるのが苦手って知ってる人達なので……」


「そう。私はあなたが頑張ってる方面の事には詳しくないんだけど、なんだか凄いことしたらしいわね。本当に良いの?」


「表彰されたくて頑張ってるわけじゃないので……いいです……」


「そう。あなたが良いなら私達が強制する事は無いわ。でも、お母様から電話があったときはそんな話は出なかったって聞いてるんだけど、どういうことか分かる?」


 校長先生の口から意味がわからない言葉が出て来て、私は訳が分からずに混乱してしまった。

 だって、お母さんはちゃんと表彰は断った。でもどうしてもって言われて仕方なく。みたいな事言ってたのに……。


「あ〜。母は妹がゲームで学校を休んでるのをよく思ってないんです。だから多分、そういうことかと……」


「……そう。複雑な家庭環境なのね……。なら、朝の職員会議で今の話は伝えておくわね。最後になったけど。おめでとう。凛さん」


「ありがとうございます!失礼しました……」


 校長室にいたのは10分くらいだったのに、もう家に帰って寝たいくらい疲れた……。

 実際、お兄ちゃんがいなかったら多分表彰される。みたいな流れになっちゃってたし……。


「はぁ……。あいつはどこまで凛にゲームを辞めさせたいんだよ……」


「お母さんのこと?あれどういうことなの?私に言って来た話とだいぶ違うんだけど……」


「まぁとにかく、表彰。なくなって良かったな。ほら。用事は済んだだろ?早く教室いけ」


 はぐらかされてしまった……。でも本当に表彰が無くなって良かった……。

 教室に上がったら、案の定先に来てた男子数人にすっごい絡まれて更に疲れたけど……。


「お疲れだな。話題の凛さんや〜」


「何言ってんの皐月……。もう帰りたいよ……」


「でも表彰無くなって良かったじゃねぇか。校長が怖いおじさんみたいな人じゃなくて良かったな〜」


「ほんとだよ……。お兄ちゃんがいなかったら今よりひどい状態になってたと思うよ……」


「まぁさっき話し聞いてた時から思ったけど、やっぱ響先輩甘すぎるよな〜」


 お昼休み、皐月とお弁当を食べ終わった後、非常階段で朝の事を話してたけど、皐月はいつも通りというか……。

 私はそれどころじゃ無いし、そうじゃなくても朝から色んな人に話しかけられてめんどくさくなって来てるのに……。


「まぁ、どうせしばらくしたら忘れられるんじゃねぇの?それよりだな。今美月と紅葉が面白い事になっててな?」


「あ!その話聞きたかったんだ!教えて教えて!」


 それからチャイムがなるギリギリまで美月と紅葉ちゃんの話を皐月から聞いてた。

 美月がなんで紅葉ちゃんを好きなのかまでは知らないけど、小学生の頃から付き合いのある美月の恋愛事情なんて興味がない訳がない。

 この話をするときの皐月は時々寂しそうになるけど……。その理由は私にはわかんない。


 学校が終わって、校門の前でお兄ちゃんを待ってるとき、今日は部活とバイトで遅くなるって言われてたのを思い出して、少しだけショックを受けながら帰った事が今日一番心にきた事だった。


 紅葉ちゃんは昨日、中間考査が終わるまで部活は休みになったって言ってたのに……サッカー部は休みじゃないの変だと思うの!


 家に帰った私は、夜ご飯を食べないといけない事をすっかり忘れて、お兄ちゃんが帰ってくるまでずっと部屋でゲームをしていた。


 お兄ちゃんから勉強はしたのか?って言われて、してないって言ったら珍しく怒られて、夜中の1時くらいまで勉強させられた……。

 普段は優しいのに……勉強のことになるとお兄ちゃんはすごく厳しくなる……。


 ゲームを3時間続けてやってる時より疲れた……。

 疲れた私は、寝る直前に枕元に置いてあるチョコを食べて、眠りについた。

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