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第30話 凛ちゃんの帰国

 アラームが鳴り響く中、ちょっとだけムッとしながら起きた私は、携帯のアラームを止めて早くも二度寝する用意をした。

 そんな私を許してくれなかったのは毛布をかぶって二度寝しようとした直後に部屋に入ってきたお母さんだった。


「なに二度寝しようとしてるの……。早く起きちゃいなさい」


「ん〜。後10分……」


「外であんたの好きな人が待ってるわよ?」


「嘘!?」


 良く考えたらわかるような嘘に反応して飛び起きてしまった私は、お母さんのニヤケ顔を見て、全てを察した。


 寝ぼけてたから仕方ないとはいえ、好きな人なんていないはずなのに反応してしまった自分が情けない。

 しかもなぜか好きな人が待ってるって言われて最初に浮かんだのが家の前で寒そうにして待ってる雫ちゃんの姿だった。


 別に好きとかじゃなくて……時々家の前で待ってくれてるからたまたま浮かんだだけ……だと思う。

 そもそもなんでお母さんはこんな嘘を……。


「はい。起きたわね。早くご飯食べちゃって」


「ちょ……。お母さん酷いよ!そんな嘘で〜!」


「いくら寝ぼけてても心当たりのある人がいない限り反応しないって昨日テレビで見たからやって見たかったのよ〜」


 そう階段を降りながら言うお母さんはずっとニヤついてて……ずっとムスッとしてる私とは正反対だった。

 心当たりのある人って言われても……。入学してから男の子と話した事なんて多分無いし……。雫ちゃんは……違うと思うし……。


「そんな人いないからテレビが間違ってるの〜!」


「はいはい。そんなに興奮しないの。良いじゃない。お父さんには秘密にしてあげるから〜」


「そう言う問題じゃ無い!」


 お母さんは本当にこう言う事になるとしつこい……。

 いないって言ってるのに分かってくれないし……。勉強会の時、皆に変なこと言わないと良いけど……。


 ご飯を食べてる時もずっとニヤついてるし……。

 なんだかこっちが恥ずかしくなって来る……。


「寝坊しちゃったから一緒に行かない?」


 ご飯を食べ終わった後、もやもやしながら部屋で学校に行く準備をしていた私を一瞬で笑顔にしてくれたのは、雫ちゃんからのメッセージだった。雫ちゃんってしっかりしてるように見えるけど結構寝坊しちゃうんだ……。

 というか、この時間に出るのが寝坊ならいつも何時に起きてるんだろう……。


「もちろん!行く!」


 さっきまでのんびり準備してた私は、今度こそ雫ちゃんより早く家の外にいたいって思いで急いで準備を始めた。

 けど……やっぱり雫ちゃんの方が早くて……私が玄関から出たときには、太陽の光を鬱陶しそうにしている雫ちゃんの姿があった。


「雫ちゃんってなんでいっつも私より早く家の前で待ってくれてるの?」


 学校に行く道すがら、気になってたことを聞いてみた。

 そしたら、なんでか雫ちゃんの顔がちょっとだけ赤くなって……


「えっとね……内緒〜」


 それから何回聞いても答えてくれることはなかった。それどころか、聞くたびにどんどん顔が赤くなって行くからなんだか面白くて……

 その後に、雫ちゃんが教えてくれたネット小説の事を話した時なんか、もう耳まで赤くして下向いちゃってたし……。


 雫ちゃんって……学校ではあんまり喋ってくれないのに学校じゃ無いところだとなんか……ちょっと可愛い……。


 女の子同士の恋愛小説もまだちょっと顔が赤くなっちゃうけど、最初よりは慣れてきて……今なら朝でも読める気がする……。

 真っ赤になっちゃったらまたお母さんに何か言われそうだから読まないけど……。


 今日も夢に雫ちゃんと私がその小説の主人公とヒロインみたいな形で出てきちゃって……。

 思い出すだけで顔が赤くなってきちゃう……。

 寝る前に読むのもよく無いかもしれない……。夢に出て来るのと真っ赤な顔をお母さんに見られるかって……。


「どうしたの?さっきから顔赤いけど」


「え!?そう……かな……。なんでもない!」


「そう?それより、ちゃんと勉強してる?」


「え……。えっとね〜」


「はぁ……。うん。なんとなく分かってた。本当に大丈夫なの?」


「多分……?なんとかなる……と思う!」


 だって……毎回毎回、勉強しようと思ったら眠気が先に来るんだもん……。

 やる気が無いわけでは……ないと思う……。


「分かってると思うけど、もう授業中に寝ちゃダメよ?」


「え〜」


「え〜じゃないの。2日だけの勉強だけで赤点回避なんて出来ないんだから……。ね?」


「うん……。できるだけ頑張る……」


 ちゃんとそう言ったのに……なんで雫ちゃん本人がちょっと残念そうなんだろう……。

 っていうか!2日だけ勉強しても赤点回避無理なの!?補習なんて嫌だ!


 そう思ってた私も、2時間目の数学の時間で……見事に……。はい……。

 やっぱり私には数学と物理はどうしても寝ちゃうみたい……。現代社会は……頑張ればなんとかって感じだけど……。

 雫ちゃんは怒ってるかなって思ったのになんでかホッとしてるし……


 昨日の凛ちゃんの件で男子たちはずっとそわそわしてるし……。

 皐月ちゃんと美月ちゃんは昨日からため息ばっかりついてるし……。凄いと思うけどなぁ……。凛ちゃん……。


 お昼休みも相変わらずため息ばかりついてる皐月ちゃんは、ちょっと不機嫌そうにサンドイッチをパクついてた。


「あの子、今日の朝着いたらしいんだけど、時差ボケで眠いから明日来るって!それなのに授業中にやっぱり会いたいって!もう!」


「凛はまぁ……そういう子だから。でも、あの子から皐月に会いたいなんて珍しいんじゃない?」


「まぁそうだけどさ。本当勝手なんだから……」


「皐月ちゃんって優しいよね〜。なんだかんだ言って会ってあげるんだ」


「紅葉も来るか?どうせ大した話じゃないだろうけど」


「私も行って大丈夫なの?」


 凛ちゃんが帰って来るのは今日だって言ってたけど、まさか朝に帰ってきてたなんて……。

 良く考えたら海外に行ってたんだから時差ボケして当然なのかな……。行った事ないからわかんないけど……。


「まぁ良いんじゃね?そういうのあんまり気にしないタイプだからあの子」


「なら行きたい!」


「ん。良かったな。美月」


「ん?なんで美月ちゃん?」


「誘ってみようって行ったのはみ……」


「私は何も言ってないからね!うん。凛に紅葉ちゃんも来るって言ってくるね!」


 そう言って、美月ちゃんはなぜか逃げるように教室から出て行ってしまった。

 皐月ちゃんは朝のお母さんみたいにずっとニヤけてるし……。


「まぁ美月はほっといて良いだろ。で、場所なんだけど、凛の家の近くのカフェだから、授業終わったら美月と一緒に先に行ってて。私はすごく大事な用があるから」


 皐月ちゃんは、すごく。の部分を強調して笑いながら私にそう言った。

 私は別に良いけど……なんでさっきから皐月ちゃんはニヤついてるんだろう……。そっちの方が気になる……。


 放課後、皐月ちゃんが行った通り、美月ちゃんと二人で先に行こうと美月ちゃんの席に行くと、すっごく顔を赤くした美月ちゃんが待ってくれてた。さっきの授業もなんだか集中できてなさそうだったけど……どうしたんだろう……。


「美月ちゃん?顔赤いけど大丈夫?」


「え!?うん!大丈夫!行こ!」


 雫ちゃんはお昼休みから急用ができたって帰っちゃったし……。

 美月ちゃんは大丈夫って言ってるのにまだちょっと顔赤いし……。


「そういえば凛ちゃんっていつ頃からゲームの大会とか出るようになったの?」


「ん〜。確か小学校2年の時からじゃなかったかな……。あの子のお兄さんが行ってたゲーム大会に付き添いで行ったのがきっかけで出るようになったって言ってた。お兄さんが学校サボれるから頑張りなって言ったらしくて……それで火がついたみたい……」


「お兄さんがいるんだ……。お兄さんも凛ちゃんみたいに凄い人なの?」


「いや……確かお兄さんは趣味でゲームしてるだけだった気がする。凛が特殊なだけで……」


「まぁ普通そうだよね……。昨日皐月ちゃんに言われて調べてみたけど、凛ちゃんって結構有名人でビックリしちゃった!」


「女の子っていう時点で珍しいみたいね。努力する場所間違えてる気がするんだけどね……」


 そう言ってる美月ちゃんは、言ってることとは裏腹にとっても嬉しそうだった。

 友達が活躍してるのはなんだかんだ言っても嬉しいみたい。


「美月ちゃんって優しいよね〜」


「ふぇ!?どっ……どうしたの急に……」


「ん〜?とっても嬉しそうに凛ちゃんの事話してたから」


「……みなちゃんはすぐそういうこと言う……」


 顔を真っ赤にした美月ちゃんは、目的地のカフェに着くまでずっと下を向いて喋らなくなってしまった。

 私何か変なこと言ったかな……。


「よ!美月〜まだまだだな〜」


「皐月ちゃん!早かったね〜」


「まぁな。中に入って待ってても良かったのに」


「美月ちゃんがこんな感じだったからとりあえず皐月ちゃんを待ってみようかなって……」


「皐月……。あんたまさか……」


「多分美月が思ってること当たってるぞ。もうちょい頑張っても良かったんじゃね?」


「あんたってほんと……」


 よくわかってない私を置いて二人でしばらく話してたけど、もう中で凛ちゃんが待ってるらしくて、とりあえず合流することにした。


 中はこの前みんなで行ったカフェより少し広いくらいで……私達みたいな制服姿の女の子も何人かいた。

 お店の奥の方に、眠たそうにしてアイスココアを飲んでる凛ちゃんを見つけて、足早におんなじテーブルに座った。


「やっと来た〜。遅いよ皐月〜」


「ごめんごめん。面白くてつい」


「あ〜その話。後で聞かせてね!」


 凛ちゃんの横には皐月ちゃんが座って、自然と私と美月ちゃんが隣同士になった。

 美月ちゃん……。さっきから顔が赤いけど大丈夫かな……。


「とりあえず、なんか頼んで〜。ここは私が奢る〜」


「お!なら私はパンケーキとアイスココア。美月は?」


「私は……えっと……このパフェ」


「紅葉ちゃんは?遠慮しないでいいよ!」


「え……えっと……なら私もパンケーキと……ホットココアで……」


「はいよ〜。にしても……奢りって聞いたら躊躇ないね美月……。あんた普段こんな高いの頼まないでしょ……」


「文句なら皐月に言って!私は知らない!」


 怒ってる美月ちゃんってなんだか可愛い……。でも……同級生の友達に奢ってもらうってなんだか抵抗が……。

 二人は慣れてるみたいだけど……


「この子、大会の賞金で張り切ってるんだから凄いって思わなくていいよ。みなちゃんももっと高いの頼めば良かったのに……」


「バレてるんだ……。まぁ私が呼んだしそのくらいはね……」


 頼んだものが運ばれてくるまで、4人で楽しくおしゃべりしていると、皐月ちゃん達の後ろに私達と同い年くらいの女の子が座って、その様子がすごく寂しそうで...なぜだか印象に残ってしまった。



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