第29話 最近見かけなかった女の子
私が起きた時、いつもなら暖かいベットの中にいるはずなのに、机の上で寝ていた。
私の顔の下には開かれたままのノートと教科書があって…。
多分だけど、昨日勉強してる途中で寝ちゃったんだと思う…。
昨日のことはよく覚えてないけど…多分勉強はそんなに進んでないんじゃないかな…。
私が1時間も1人で真面目に勉強できるわけがないっていうのは自分が一番よくわかってるし…。
昨日のよく覚えてない自分に呆れていると、お母さんが部屋に入って来て、ちょうど私を起こしに来てくれたみたいだった。
私が机でぼーっとしてたからなんとなく状況を察したのか深いため息をついて下に戻って行っちゃったけど…。
急いで後を追った私だったけど、部屋には結構暖房が効いてるのになんでか寒かった…。
毛布被んないで寝ちゃったから体が冷えたのかな…。
いっつも暖かくして寝るからその弊害が出たのかもしれない…。
「お母さんおはよ〜」
「おはよ。あんた昨日あんな格好で寝たの?」
「起きたらあそこにいたから多分…」
「風邪引くわよ?もうすぐ中間考査なんだから気をつけなさい?」
「は〜い」
それからお母さんは、私のために暖かいスープとココアを作ってくれた。
冷えてた体がちょっとずつ温まっていくのを感じた。
ずっとこんな風に過ごせたらどんなに幸せだろう…。太陽に照らされて昼寝してるみたい…。
「早く準備しないと間に合わないわよ。ほら、ぼーっとしてないで…」
「は〜い…。」
ずっとこうしてたかったけど今日も学校はあるし…準備しなきゃ…
机の上に置いてある教科書とノートもちゃんと入れないと…忘れる…。
「ほら。お弁当忘れてる。」
「あ…ごめん。ありがと!行ってきま〜す!」
「行ってらっしゃい〜」
登校中に雫ちゃんがあんまり関わりたくないって言ってた男の子を見かけたけど、相変わらず、私は何も言えなくて…ただ遠目から見ることしかできなかった。隣に、前に一緒にお食事会に行った藤崎さんがいてちょっとビックリしたけど…。
なんか楽しそうだけど…何話してるんだろう…。
そう言えば、あの人って雫ちゃんに何してるんだろう…。前に非常階段で話してた内容といい、雫ちゃんがちょっと嫌がってる感じといい…。
私に勇気があれば…ちゃんと聞けるんだろうけど…色々あったせいで…怖い…。
確か、この前美月ちゃんに告白したっていう男の子が何人かの女の子と一緒に歩いてるのを見たのもここら辺だったような…。
私が最初に雫ちゃんと話したのも確かこの交差点だった気がするし…。
この交差点って何かあるのかな…。いや、考えすぎか…。雫ちゃんに貸してもらった推理小説の影響かも…。
学校について教室に上がってからも問題の男の子……確か、平川君。のことが気になって美月ちゃんがずっと話しかけてくれてるのに上の空になっちゃってた。
「ねぇ。みなちゃん?聞いてる?」
「あ…。ごめん。なんだっけ…」
「凛がね。明日帰ってくるんだけど、あの子も勉強やばいから週末参加させてって。大丈夫かな?」
「凛ちゃん…。ああ。前に一緒にカフェに行った子?あの〜ゲームが得意な?」
「そうそう!あの子、ゲームの大会で海外に行っててね。明日帰ってくるらしいんだ…」
「海外……!?あ〜。だから最近見かけなかったんだ…」
皐月ちゃんがゲームの大会に出てる。みたいなことを言ってたけど海外まで行けるなんて…もしかしたら凛ちゃんって凄い人なのかも…。
あんまり学校で見かけないけどそういうことなんだ…。
「あの子…ゲームの大会で学校休んでも部活の大会で休むのとおんなじ扱いになるからってちょっと頑張りすぎなとこあるんだよね…。頑張る方向性間違ってる気がするんだけど…ちゃんと結果残してるみたいだから強く言えないのよね…」
「そんなに凄い人なの?凛ちゃんって…。まだそんなに喋ったことないけど…」
「私も付き合いは長いんだけど、そっち方面は詳しく知ってるわけじゃ無いんだよね…。皐月とは仲良いみたいだけど…」
「じゃあ後で皐月ちゃんに聞いてみる!」
それからしばらく美月ちゃんと話していると、柊先生が入って来て…HRが始まる時間になってしまった。
もう少し話してたかったんだけどなぁ…。
柊先生は小学生か中学生くらいの可愛い声でHRを始めた。ここまではいつものことなんだけど、ここから先がこれまでとはちょっと違って…。先生がいつもよりニコニコしてるのと何か関係があるのかな…。
「えっと〜。いつもならここで雑談してるんだけど。今日は皆にお知らせがあります!他のクラスでも多分言ってると思うんだけど、うちのクラスの砥綿凛さん。ここ一週間くらい休んでる子ね。あの子が…」
「あ〜あの可愛らしい子ですか?まさか辞めるんですか!?いやそりゃ無いっすよ!もうちょっとお近づきになりたかったんですけど!」
先生がまだ話してるのに、クラスの男の子数人が突然そんなことを言い出して…なんだか私まで心配になって来てしまった。
横にいた雫ちゃんは凛?誰それ。みたいな顔してたけど…。
「はいはい。話は最後まで聞く!辞めるわけじゃ無いから。実はあの子…今海外にいるんですけど〜」
「海外!?なんで!?あの子ってそんな金持ちなんっすか!?ヤバ!もっと仲良くしとけばよかった〜!」
「だから話は最後まで聞いてってば!あの子、海外にゲームの大会で行ってるらしいんだけど、そこで入賞したらしいのよ!それでね。明後日表彰するらしいから、皆も凛さんが帰って来たらお祝いしてあげてね。」
先生が最後まで言い終わる前に男子数人が何か大きい声で話してたけど、私は正直何が何だか分かんなかった。
海外のゲームの大会で入賞したっていうのはわかったけど…男子がなんでそんなに盛り上がってるのかが分かんないというか…。
そこまで凄い大会だったのかな…。詳しく無いから分かんない…。
「先生!その人どこの国に行ってるんですか?」
「確か…フランスじゃ無かったかな……?ちょっと!静かに!」
「フランスってことは…あれだよな?年1か2でやっとる世界大会?は?それってやばくね?神やん…」
「いや待て、凛なんて選手おったか?ちらっと見たけどそんな人おらんかったぞ?」
「本名で出てる訳ねぇだろ……。うわー!マジなら本気でやばいんだけど!」
男子数人が異様に盛り上がってるけど、クラスの大半はよく分からずに私と同じで周りで騒いでる男子を眺めてる感じだった。
美月ちゃんと皐月ちゃんだけはお互い呆れたみたいな顔してたけど…世界大会入賞って…オリンピックとかで入賞したって感じなのかな…。詳しいわけじゃ無いから分かんないけど…そうだとしたら凄い!
凛ちゃんってあんなに可愛かったのにこんなに凄い人だったんだ…。
帰ったらちゃんとおめでとうって言わなきゃ…。
「別に言わなくていいんじゃね?多分本人はそれどころじゃねぇと思うぞ?」
HRの時の先生の言葉が衝撃的すぎたのか、クラスの何人かはまだ落ち着いてなかったけど、なんとか1時間目が終わって皐月ちゃんに凛ちゃんのことを聞きに行った時、そう言われた。
「なんで?それどころじゃ無いってどういう…」
「ん〜。多分あの子、優勝できなかった!悔しい!泣きたい!みたいな感じだから…ほんとは表彰されんのも嫌なんじゃねぇかな…。
あの子負けず嫌いだから…。どうせ…なんで負けたんだ!って自分責めてるぞ」
「でも…なんか凄い大会で入賞したんでしょ?十分凄いと思うけど…」
「あ〜なんていうかな…。あの子が今回出てた大会って、世界でも結構有名な大会なんだけど、去年も出てるんだよ。去年は20位手前くらいだったんだけど、一週間くらいずっと自分責めててさ〜。多分今回も同じ感じになると思うんだよな」
「そうなんだ……。去年も出てたんだ……。凛ちゃんって思ってたより凄い人なんだね…」
「本人は恥ずかしがって周りに教えたがらないけどな〜。まぁしばらくはそっとしておいてあげて」
そう言われて、凛ちゃんにお祝いのメッセージを送るのがちょっと送りづらくなってしまった。
でも、何回も言うけど凛ちゃんって凄い人なんだ…。ちょっと小動物感があって可愛いって思ってたのに…。
皐月ちゃんが言うには、世界でも結構有名な大会に2回も出れる凛ちゃんって一体…。
学校を休めるってだけでそんなに頑張れるなんて…凄い!
その後の授業も男子数人は落ち着かない様子でずっとブツブツ何か言ってるし、お昼休みは男子がすっごい増えて何か会議みたいなことしてたし…。美月ちゃんと皐月ちゃんの3人でご飯を食べてた私達もちょっとだけ話題に出したり…。
今日1日は凛ちゃんの事で持ちきりだった。
皐月ちゃんが、動画サイトで探せばあの子の試合観れるんじゃない?って言ってたから、急いで帰って調べてみたら本当にあって…。
良く分からない格闘ゲームの戦いだったけど…英語でずっと話してるし…格闘ゲームなんてやらないから全然分かんなかった。
画面に写ってるのは確かに凛ちゃんだったけど、カフェに行った時よりずっと真剣で怖い顔だったのと、迫力が凄くて……一瞬別人だと思ってしまった。
皐月ちゃんが教えてくれた「わたりん」って調べると凄いいっぱい動画が出てきて……ネットで調べてみてもなんだか凄い有名人らしくて……今日何度目かわからないけど、凛ちゃんが凄いって思った。
私がやるゲームっていっても…トランプとか?そういえば前にゲームセンターに行ったことがあったっけ…。
ほとんどやらなかった記憶あるけど…。
お母さんにも凛ちゃんのことは話したんだけど、ゲームの大会で海外に行ってるんなら私より英語は上手かも…なんて言ってて…ゲームの大会で海外に行ったことに関しては全く興味無さそうだった。
あ…でも凛ちゃんって英語とか上手そう…。教えてもらえるかな…。
「お母さん。週末の勉強会なんだけど、今話した凛ちゃんも来ると思うんだけど良い?」
「別に良いわよ?賑やかになりそうね〜」
「うん!楽しみ!」
それから一緒に夜ご飯を食べて、美月ちゃんにお母さんから良いよって言われた事を伝えて…。
寝たのは11時近くになっちゃったけど…今日はちゃんとベットで寝れた。
勉強は…ベットに入ってから忘れた…。って思い出しちゃったけど、また明日やろうって…そのまま寝ちゃった。




