第28話 中間考査のこと
その日の私は、枕元で鳴る電話の音で目が覚めた。
まだ眠たい体をなんとか起こして相手をよく見ずに電話に出てしまった。
「はい...もしもし...」
「おはよ。もうすぐでHR始まるけど今日は体調でも悪いの?」
まだ寝ぼけてた私は、電話越しに聞こえて来たのが誰の声か分からなかったけど、言われた事の意味はちゃんと理解できた。
もうすぐで朝のHRが始まる……ってやば!寝坊しちゃった!
そう思った瞬間、一気に眠気が晴れた。
「え!?嘘!今起きた!」
「嫌な予感が当たった……。先生には上手く言っとくから急いでね。待ってるから」
「うんごめんね!すぐ行く!」
電話が切れた後、やっと電話の相手が雫ちゃんだったことに気がついて、慌てて準備を始めた。
雫ちゃんが私を心配してわざわざ電話をかけて来てくれた事がすっごく優しくて、本当ならいつも起こしてくれるお母さんの存在を忘れていた。
準備が終わったのは雫ちゃんが電話をかけて来てくれた20分後で、急いで準備した割には早く終わった気がする。
急いでた私はリビングにも入らず、そのまま玄関から出た。
時間的にもう1時間目の授業が始まっちゃってる……。急がないと……。
私が学校に着いたのは、1時間目の半分が終わったところで……。
教室に入った時、当然クラスの人からすごく見られるわけで……すっごい恥ずかしかった……。
「寝坊でもしたんか……。はよ座れ」
「はい……。」
急いで自分の席に座って、ノートと教科書を並べてとりあえず形だけでも授業を受けた。
数学の授業だったから、相変わらず先生が何をいってるのかさっぱり分かんなかったけど遅刻したのに授業も寝てました……。とかじゃ絶対怒られる……。
「紅葉ちゃん……。寝癖が……」
1時間目の授業が終わってやっとのんびりできると思ってたら、朝電話をかけてくれた雫ちゃんが、とっても言いにくそうに私に話しかけて来てくれた。
「あ...急いでたから直す時間なくてさ……。それよりありがと……。あのままだとお昼にまで寝てたかも……」
「お昼までって……。昨日何時に寝たの?」
「えっと……10時くらい?」
「だいぶ寝てるじゃない……。念のため電話して良かったよほんと……」
ここで初めて、いつもは起こしてくれるお母さんが今日は起こしてくれなかった事に気がついた。
多分またお仕事で急に〜みたいな感じなんだろうけど……。
「もうすぐ中間考査があるんだから……しっかりしないと……」
「え!?そうなの!?」
「……この前柊先生が言ってたでしょ?紅葉ちゃんもちゃんと勉強しなさいって言われてたじゃない……」
「そうだっけ……。どうしよう……。物理とか数学とか全然分かんないんだけど……」
「そりゃいつも気持ちよさそうに寝てるからね……。どうするの?」
本当にどうしよう……。赤点なんてとっちゃったら補修受けなきゃだろうし……。
数学と物理で補修なんて絶対いや……。かと言って今から勉強しても間に合うか分かんないし……。
「私って……私が思ってるよりやばい?」
「今頃気付いたの?あなたってほんと……」
「だって……数学とか何言ってるか分かんないじゃん……」
「いやまぁ否定はしないけど……。私も数学は苦手だし……。物理とかならまだ教えてあげられるけど……」
「ほんと!?教えてくれるの!?」
「物理だけね……。数学は……私も誰かに教えてもらわないと自信ないかな……」
雫ちゃんも数学は苦手なんだ……。なんだかちょっとだけ嬉しい。
問題は数学をどうやって乗り越えるかだけど……。文芸部の先輩に教えてもらおうにも先輩達も中間考査はあるし……。
というかそもそも、今週から部活は休みって金曜に言われたし……。
「なら数学は美月に教えてもらったらどうだ?あの子、数学が一番得意だし」
「ほんと!?でも……美月ちゃんは?」
「あの子は〜さっき職員室に用事があるとか言って出てった。後で話しとくよ。緑川さんも一緒にどう?あの子……というか、私が物理ちょっとヤバいんだよね。教えてくれると助かるんだけど……」
「私は……いいけど……。私も物理が得意ってわけじゃないからなんとも……。人並みにはできるってだけで……」
「それでも十分だよ。私英語と現代社会くらいしか分かんないから。」
「私は国語しかまともに解けるの無いかも……」
「なら昼休みにでもまた話そうか。美月にも話しとくよ。それじゃ」
それだけ言うと、皐月ちゃんは自分の席の方に戻って行ってしまった。
これでとりあえず中間考査は問題なくなった……。と思うけど……本当に大丈夫かな……。
「ごめんね紅葉ちゃん。本当はあの人から勉強に誘われてて……断る口実が欲しかったんだ……」
もう少しで2時間目が始まるって時に、横の席で申し訳なさそうにした雫ちゃんからそんなことを言われてしまった。
あの人っていうのは多分……平川君だっけ……。よく覚えてないけど……。
「別に私は気にしないけど……。あの人と何かあったの?」
前に非常階段で話してたのをちょっとだけ聞いちゃったことがあるけど……。そんなこと雫ちゃんに言えないし……。
あの時はそんなに気にしなかったけど……あの人がまた何か言ったのかな……
「まぁ……何があったとかじゃ無いんだけど……あの人とはそんなに関わりたくないって言うか……苦手なんだよね...ああいう人...」
「そうなんだ……。困ったことがあったらなんでも言ってよ?」
「ありがと。私よりよっぽど大変な紅葉ちゃんに言われるとなんだか変な気持ちになっちゃうけどね」
「……否定できないけどさ……」
そんな話をしてると、すぐに授業が始まる時間になっちゃって……話はお昼休みにまたゆっくり話そうってことになった。
この時の私は、自分がお弁当を持ってきてないことを忘れてたみたいで……。
「あ……そう言えば私……お弁当持ってないんだった……」
気がついたのは美月ちゃん、皐月ちゃん。そして雫ちゃんと一緒にお昼ごはんを食べようとしてた時だった。
よく考えたら私……朝ごはんも食べてなかった……。お腹すいた……
「良かったらこれ……食べる?」
「ありがとぉ……」
「お。なら私のこれも良いぞ。美月の卵焼きも……ほら」
「ちょ……。いやまぁいいけど……」
みんなからちょっとずつおかずを貰ってお昼を過ごしたけど……私っていっつも迷惑かけてない?気のせいかな……。
さすがに申し訳なくなってくる……。
「気にしないでいいと思うぞ?別に迷惑と思ったことないし」
「私も別にそう思ったことは無いよ。気にしないで」
「ありがと〜……」
お昼ごはんをみんなで食べた後は、勉強会の事を話してたけど……なんでかずっと美月ちゃんの顔が赤かった……。
皐月ちゃんは……ずっと笑ってたけど……。
勉強会は今週の土曜と日曜にすることになった。
どっちも私の家で……。お母さんに聞いてもすぐ、良いよって返ってくるし……。
私はどちらかというと皐月ちゃんの家か雫ちゃんの家に行きたかったのに……。
ていうか、なんで私の家で……。別に良いけど……なんだか恥ずかしい……。
「美月が前に紅葉の家に行ってみたいって言ってたからな。まあ良いじゃん」
「ちょ!皐月!?あんた何言ってるの?」
「私は別に誰の家でも良いけど……紅葉ちゃんの家は近いし……」
「雫ちゃんまで……」
「まぁ紅葉のお母さんも良いって言ってくれてるんだし決定!」
「えぇ……。もう……」
半ば無理やりって感じで決定しちゃったけど……お母さんもお母さんだよ……。
ダメって言ってくれたら……
その後の授業は、正直何も分かんなかった。
だって……週末のことが気になって……集中できなかったんだもん……。
家に帰ってからもそのことが気になって……。
リビングに置いてあった書き置きには「おはよう。ちゃんと起きれた?お弁当は作ってるから忘れずに持っていってね」って書いてて……。なんとも言えない気持ちになってしまった。
しっかり寝坊してお弁当も忘れちゃったし……。
お母さんが帰ってくるまでにお弁当を食べて忘れた事実を無かったことにしようとしたけど……帰ってきたお母さんにあっさりとばれちゃった……。
そんな気はしてた。って呆れられたけど……。
「それより!なんでお昼の件オッケーしたの?」
「ん〜。なんとなく?あなたの好きな人が来るって私の直感が言ってたの」
「来るわけないでしょ……。というかそもそもそんな人いないし……」
「分かった分かった。週末に向けて部屋片付けときなさいよ〜」
「分かってないでしょ!もう……」
私に好きな人なんているわけないのに……お母さんは本当に……。
絶対わかってない……。というか来るのは皆女の子って言ったんだけど……。
寝る前に携帯で小説を見てると、雫ちゃんからメッセージが来て……ちょっとだけ顔が赤くなってた私は、少し落ち着いてから返信した。
私は、雫ちゃんから教えて貰った小説にすっかりハマってしまって……寝る前に読むのが日課になってしまった……。
時々小説の光景が私と雫ちゃんになって夢に出て来ることがあるから恥ずかしいんだけど……。
「週末楽しみにしてる。ちゃんと自分でも勉強しないとダメよ?」
「うん……できるだけ頑張る……。」
「今何してたの?」
「えっとね〜...勉強してた!」
「うん。多分だけどしてないでしょ……。私が貸した小説でも見てたんでしょ」
「なんで分かるの!?ちょうど今雫ちゃんが教えてくれたネット小説見てた……」
「そう……。なら……いい……。ちゃんと勉強もしなさいね。おやすみ」
「うん……。おやすみ〜」
その後……勉強しようと教科書を読んでたら、だんだんと眠くなっちゃっていつの間にか寝ちゃってた……。
中間考査……大丈夫かな……。




