第27話 萩君とのお出かけ
日曜日の朝、私はお姉ちゃんに起こされて目が覚めた。
とっさに枕元にあったスマホの画面を確認すると、まだ7時10分で、なんでこんな時間に起こされたのか分からない私は、ただ困惑していた。
お姉ちゃんが私を起こしてくれることはたまにあるけど、日曜日に。しかも、こんな早い時間に起こされたのは初めてで……。
「おはよ。どうしたの?お姉ちゃん」
「おはよ〜。ごめんな朝早く。部屋片付けてたら映画のタダ券が二枚出て来てさ。せっかくの日曜だし萩君でも誘ったらどうかと思ってな。私は美月のとこで用事があるからさ」
お姉ちゃんの言葉でちょっと眠かった私の意識は、眠気なんてすっかり忘れてお姉ちゃんに釘付けになっていた。
映画のタダ券をなんでお姉ちゃんが持ってたのかはわかんないけど……。
「萩君と2人で?」
「嫌ならこれは私の友達にでも……」
「行く!行きたい!行かせて!」
「なら10時くらいに美月の家に一緒に行こうか」
「うん!お姉ちゃんありがと!」
その後、お姉ちゃんは下に朝ごはんを作りに降りてしまった。
私も早く萩君に行けるかどうかの確認しないと……。起きてるかな……。
大会が終わったからしばらく朝練は休みって言ってたし……まだ寝てるかも……
「おはよ〜。今日暇なら一緒に遊ばない?」
返事が来るまでしばらくかかると思ったのに、予想以上に早く返信が来た。
もちろん良いよ!って言ってくれて……思わずちょっと大きな声でやった!って言っちゃった……。
朝ごはん食べ終わったら急いで準備しないと……。
「お姉ちゃん!萩君遊んでくれるって!映画行ける!」
「良かったな〜。葉月、今朝ごはん作ってるから食器とか出しといてくれる?」
「うん!」
お姉ちゃんが朝ごはんを作ってる時、私はずっと携帯を握りしめて萩君とLINEでやり取りをしていた。
お姉ちゃんの朝ごはんはいつも美味しいけど、今日は特に美味しかった気がする。
お母さんやお父さんはまだ寝てるし……私達2人だけの朝ごはんで……大好きなお姉ちゃんと向かい合って食べれた。
それから私は、萩君とのお出かけの準備で2時間近く過ごしていた。
着ていく服を選ぶのに1時間近くかかっちゃったけど……結局私が一番気に入ってる洋服で行くことにした。
一年くらい前に萩君と美月さん、お姉ちゃんと4人でモールに買い物に行った時に萩君が似合ってるって言ってくれてお姉ちゃんが買ってくれた洋服。萩君覚えてくれてるかな……。
このピンク色のワンピースはお姉ちゃんも似合ってるって言ってくれたし、お姉ちゃんに貰った髪留めもちゃんと付けて……。
大丈夫かな……。本当に変じゃないかな……。なんて考えてるうちに家を出る時間になっちゃって……。
これを着て行くって決めたのにまだちょっとだけ不安な部分もあって……。
「葉月〜。もう出るぞ〜。」
「待ってお姉ちゃん!お待たせ〜」
「おお〜。可愛いじゃん。あ……私があげた髪留め付けてくれてるのか。ありがと」
「これ気に入ってるんだもん〜。ねぇ手繋ご?」
「良いぞ。美月の家までだけどな。」
それから萩君の家までお姉ちゃんと2人で手を繋いで歩いて……時々笑ってくれるお姉ちゃんの顔が私は本当に大好きで……。
ちょっと前からお姉ちゃんの話し方が男の子っぽくなっちゃったけど……それはそれでカッコいいし……。
「そういえば萩君には告白しないのか?」
「無理だよ……。私にそんな勇気無いもん……。それに……萩君が私の事どう思ってるかなんてわかんないし……」
「あ……そう……。まぁ葉月がそれで良いなら私もそれで良いんだけどさ。後悔はしないようにな。」
「後悔?」
「あの時ああしてれば良かったとかつまんないだろ?やらないで後悔するよりやって後悔しろって誰かが言ってたし。お姉ちゃんもちょっと後悔してることがあるから...。葉月には私と同じ後悔はさせたく無いの。余計かもしれないけどね……」
そう言ってちょっと寂しそうに笑うお姉ちゃんは、まるでちょっと前、男の子っぽい口調になる前のお姉ちゃんが最後に笑った顔に似てて……なんとなく私まで悲しくなってきてしまった。
つまりお姉ちゃんは……そういう事を経験したことがある……
「なんで葉月がそんな顔するんだよ。ほら。もうちょっとで美月の家だぞ。私のことはまぁ……もう立ち直ってるから忘れて良いよ。でも、お姉ちゃんが言ったこと、忘れないようにな。」
「うん。わかった!」
10時数分前に萩君の家に着いた私達は、なかなか私の心の準備ができなくて、ちょっと待って貰った。
今までも萩君と一緒に出かけたことはあるけど、必ずお姉ちゃんか美月さんが一緒にいた。
2人でお出かけするのは今日が初めてで……。緊張してきた……。
「そんなに緊張しなくても良いんじゃない?いつも通りの葉月の方が今の葉月より可愛いぞ。」
「そ……そうかな……。うん……。お姉ちゃんが言うなら……」
「よし!頑張ってな!」
そう言うと、お姉ちゃんは目の前の家のインターホンを押した。
家の中から、ドタドタドタ!っていう音が聞こえたと思ったらいきなりドアが開いて、萩君がそこにいた。
なんか……いつもよりかっこいい……。
「萩君おはよ〜。今日の朝お姉ちゃんに映画のタダ券貰っちゃってさ……ごめんね急に」
できるだけ自然に……いつも通り話したつもりだけど……まだ緊張してるのかちょっとだけ震えてたかも知れない……。
「いや、ちょうど暇だったし……。よっし。行こ!行ってきます〜」
「2人とも気をつけてね〜」
せっかく美月さんもいたのに緊張しすぎたせいなのか話せなかった……。
ペコリと頭を下げるのが精一杯で……。
「葉月?頑張るんだぞ〜」
「あ……皐月さんおはようございます。」
「弟君久しぶり〜。葉月よろしくな〜」
それだけ言うと、お姉ちゃんは美月さんの家に。私と萩君は2人で美月さんの家を出た。
ここから私達だけ……。またちょっと緊張してきたけど……お姉ちゃんがいつも通りの私の方が可愛いって言ってくれたし……。
出来るだけ自然でいなきゃ……。
「そういえば、映画って何時から?」
「あ……言うの忘れてたね。えっと……12時40分から2時間くらいかな?」
「ならまだ早いしどっか寄らない?」
「うんいいよ!」
萩君はいつも通り……だと思うけどなんだか私と同じでどこか落ち着いてないと言うか……。
私もだしなんだかちょっと嬉しい。
「姉さんも今日なんか慌ててさ。何か聞いてる?」
「お姉ちゃんが萩君の家に何かしに行くってことしか知らない〜」
「そう……。でも皐月さん。よく映画のタダ券なんて持ってたね」
「ほんとだよ〜。いつから持ってたんだろうね〜。前もって言ってくれれば良いのに……」
萩君の家を出てから近くのカフェで最近の事とか、部活のことでたくさん話してたら、いつの間にか12時近くになってて……
「あ。そろそろ出ないと間に合わないかも。急ごうか」
「あ……。そうだね。行こ〜」
カフェにいるときに今日の服を褒めて貰えた私は、すっかり緊張が解けて逆に嬉しくてテンションがちょっとだけ高かった。
萩君もさりげなく道路側歩いてくれるし……萩君自身は女の子に間違われるような顔気にしてるみたいだけど……そこもちょっと可愛いし……。こういう優しいところも……カッコいいし……。
「あ……姉さんだ……。何してんだろあんなとこで……」
私が萩君の事を考えてぼーっと歩いていると、横を歩いてた萩君がいきなり止まって、朝別れたはずの美月さんの事を口にした。
萩君の目線の方を見てみると、美月さんが誰かと楽しそうに話してた。
女の子の友達かな……。
あれ...さっきは気が付かなかったけど、美月さんが着てるパーカーって前に萩君が着てなかったっけ……
「よく覚えてるね……。あれ僕のなんだけど、なんでか今日1日貸してって言われてさ……」
「へ〜。萩君はあの美月さんと話してる人誰か知ってる?」
「いや……見た事ない……。高校の友達かな……。まぁいいや。行こ。」
「そうだね。行こ〜」
駅の中に入ると、日曜日のお昼って事もあってか凄いたくさんの人がいて、さっきみたいにぼーっとしてるとすぐに逸れちゃいそうで……。なんとかして手を繋ぎたいけど……。恥ずかしい……。
「あ……あの……さ。逸れるとあれだし……」
それだけ言って、萩君は手を出してきてくれた。本当に優しい……。
ちょっと顔が赤いのは私と同じでちょっとは恥ずかしいのかな……。そう思ってくれるだけでなんだか嬉しい。
私もちょっと。というか、だいぶ顔を赤くして、差し出してくれた手を握る。
「うん……。ありがと……」
それから、なんとなく手を離したくなくて、電車の中でも手を繋いだままでいた。
私達2人の顔はすっごく赤かったと思うけど……。
さすがに映画館では恥ずかしくて手は離しちゃったけど……ここまでの道で手を繋げただけでもう満足……。
映画の内容は……よくある様な恋愛映画だったけど、終わってから隣にいる萩君をみると、ちょっと泣いてて……可愛かったなぁ……。
確かに泣いちゃいそうにはなったけど……まさか萩君が泣いちゃうとはね……
映画を観終わった後はまっすぐ萩君の家に帰ったんだけど……その道中でも当然の様に道路側を歩いてくれて……でも、目には涙の跡があって……朝はカッコいいって思ってたのに今は可愛いが先に来ちゃってて……。
「もうそろそろ着くけど……大丈夫?」
「うん。もう大丈夫。ありがと」
「ただいま〜」
萩君の家の玄関には、お姉ちゃんと美月さん以外の靴があって……お昼に駅で見た人のかな……。
「おかえり〜。早かったな〜。」
リビングの方からお姉ちゃんの声が聞こえて来て、なんだかちょっとだけ嬉しくなって来た。
なんでなのかは……分かんないけど……
リビングに入ると、案の定美月さんとお姉ちゃんの間に見た事ない可愛い人が座ってて……。
何故か分かんないけど咄嗟に萩君の方を見てしまった。
萩君があんまり興味なさそうだったから安心したけど……。
「あ……ども……」
「ど……どうも……?」
「お姉ちゃん〜。ただいま〜」
「葉月〜どうだった〜?」
「とっても楽しかったー!」
「じゃあ俺らは……上にいるから……」
「あ……ごめんなさい。私もう帰るから気を使わないで。」
そう言われてるのに私を連れて2人で上に歩いていく萩君が、私はすっごく好き。
本人には言えないけど……。朝お姉ちゃんが言ってた事も確かに分かるけど……まだ一歩が踏み出せる気がしない……。
萩君の部屋は漫画と小説が沢山並んだ本棚と、部活関係のものが綺麗に整頓されてた。
私はあんまり見ないけど萩君は確かアニメが好きなはず……。あんまり詳しくないけど……。
「あの人誰だろうね〜。高校の人なのかな……」
「多分ね〜。高校って言えば僕たちも今年受験だけどどこいくか決まった?」
「私はお姉ちゃんと同じ高校に行くと思うけど……萩君は?」
「あ〜なら僕もそこにしようかな。行きたい高校特にないし……」
「なら一緒の高校いけるね!」
内心はもっと喜んでるけど……だって……萩君は部活関係で推薦とか貰えるだろうし遠くの学校に行っちゃうかもって心配だったし……。
一緒の高校になるんならちょっと安心……。
それから、1時間?2時間くらい萩君と話してて、お姉ちゃんから呼ばれてもう帰る時間になっちゃったみたいで……。
「萩君またね〜。」
「うん。また来てね〜」
帰り道もお姉ちゃんと手を繋いで帰って、今日のことを帰り道にいっぱい話した。
あと、やっぱりお昼に駅で見た女の子はお姉ちゃんと同じクラスの人だったみたい。
家に帰ってからは、今日のことを思い出しながら自分の部屋でずっとゴロゴロしてた……。
お姉ちゃんもお姉ちゃんでずっと誰かと電話してるし……。
夜はこっそりお姉ちゃんのベットに入ろうとして失敗したりといろんなことがあったけど、今日1日がとっても楽しかったのはお姉ちゃんのおかげで……やっぱりお姉ちゃん大好き!




