第25話 料理の勉強会
いつものような日曜日、私は今、昨日美月ちゃんから教えてもらった駅の前にいた。
今日はこの前相談してた料理を教えてもらう日だった。
その事を前もってお母さんに言ってなければ、多分だけどこの約束の時間には間に合わなかったと思う。
だって……私が起きたの10時30分くらいだったし……。
そこから急いで準備したけど、本当にギリギリになってしまった。
急いでたから昨日着て行こうとしてた服と違うやつを着て来てしまったし……。
私この服あんまり好きじゃ無いんだよね……。
本当ならこの前買ってもらった新しいピンクのコートと黒い洋服で来ようと思ってたのに慌ててたせいで、赤いパーカーと黒いスカートっていうなんとも言えないような格好になってしまった。
この赤いパーカーなんて中学生の時から持ってるし……。
電車の中で美月ちゃんが迎えに来てくれると何故か皐月ちゃんから連絡が来て、正直この前ここら辺で迷子になってしまった私にとってはすっごくありがたがった。だって……また迷子になる気がしてたし……。
むしろ、それを危険視してちょっと早めに出たくらいだし……。
電車がちょっとだけ遅れて12時を少しすぎたあたりで駅に着いた。
美月ちゃんはもう駅に向かってるらしいけど……どこだろ……。
一応連絡は取り合ってるんだけど……。
それにしても……この駅大きいな〜。
私の家の近くにある駅の2倍くらいある……。
あれ……。あの青いパーカー着てる女の子って美月ちゃんかな……。
なんであんなとこに隠れてるんだろう……。隠れきれてないのがちょっと可愛いけど……。
もしかしてクラスの人か誰かいたのかな……。えっとなんだっけ……。あの美月ちゃんに告白してきた人とか?
そのまま数分経過した頃、美月ちゃんはやっと私の所に笑いながら来てくれた。
美月ちゃんってパーカーとか着るんだ……。意外と似合ってる……。ちょっと幼い感じがして可愛いし……。
「ありがと〜。私1人じゃ家まで着けるか心配だったんだ〜。」
「この前もここら辺で迷子になってたから迎えに行けって言ってた皐月は正しかったと……」
「ん?どしたの?」
「なんでも無いよ。それより、みなちゃんの服可愛いね〜」
「ほんと!?ありがと〜。美月ちゃんも可愛いよ!」
「嬉しい!ありがと!」
その時に見せてくれた美月ちゃんの笑顔を見て、やっぱり美月ちゃんのこの顔はどこかで見たことがあるような気がした。
前もこんな事を思ってた気がするけど、美月ちゃんが可愛かったせいで忘れてた……。
というか、こんな可愛い子、会ったことがあるとしたらどこで会ったんだろう……。
「みなちゃん?どうしたの?ボーッとして」
「ねぇ。私達って高校で初めて会ったよね?」
「え……?う……うん。なんで?」
「なんだか美月ちゃんの顔見たことがあるような気がしてさ……。気のせいかな……。美月ちゃんみたいな可愛い子、会ってたとしたら忘れないよね……。ごめんね。忘れて。」
「かわい……え……えっと……。うん。」
それからの美月ちゃんは家に着くまでずっと顔が赤くて、ちょっと心配になるほどだった。
私何か変なこと言ったかな……。でも……なんでこんな気持ちになるんだろう。不思議……。
「ただいま〜」
「お……お邪魔します……」
美月ちゃんの家は私の家みたいに一軒家の二階建てで、玄関に入った瞬間いい匂いがしてくるし、何でかわかんないけど表札がすっごく可愛かった。何だろあれ……。ちょっとだけ欲しい……。
「お。おかえり。ん?美月何かあったのか?顔真っ赤だぞ?」
「あ……えっと……何でも無い!」
「ふーん。まぁいいや。ほら紅葉。こっち。」
「あ……うん。お邪魔します……。」
皐月ちゃんが私のことを紅葉って呼んでちょっとだけびっくりしてしまった。
でも、やっぱり美月ちゃんの顔が赤いのは私の勘違いとかじゃなかったんだ……。大丈夫かな……。
皐月ちゃんの案内でリビングに通されると、そこはすごく綺麗で、とっても整頓されていた。
すごい……。私の家より広いのに綺麗……。ちょっと待って……。テレビデカすぎじゃ……。
「あ〜。そのテレビは気にしないで。弟が勝手に買ってきたの。お年玉貯金全部使って……。バカよね〜。」
「美月ちゃん弟さんいるんだ〜。会ってみたいなぁ……」
「あ〜あんな子に会っても良いことないよ。皐月の妹なら別として……。」
「なんだよ……。急に話振るなって……。私的には萩君の方が可愛いけどな〜」
「萩君?え……。弟さん……だよね?」
「あ〜まぁ色々あってね〜。そんなことより、ほら。早速始めよ!」
「あ……。うん!」
荷物をソファに置いて美月ちゃんと一緒に台所に向かう。
私の家より立派……。美月ちゃんってもしかしてお金持ちなのかな……。
「えっと……私も何を教えたら良いかわかんないんだけど……教えて欲しいこととかある?こんな料理が作れるようになりたい!みたいな。」
「朝ごはんレベルが作れれば多分良いかな〜。この間目玉焼き黒焦げにしちゃって……」
「逆にどうやって黒焦げにするのかすっごい興味あるんだけど……。とりあえず、基本のことから教えた方がいいかな?」
「うん!お願いします!」
「なぁ美月。一応そこのエプロンつけて貰えば?」
「エプロン?そんなのうちには……」
「何言ってんだ?そこにあるだろ?」
皐月ちゃんが指差した方を見ると、確かにしっかりとエプロンが2人分掛けてあった。
ん?なんで美月ちゃんが震えてるんだろう……。
「どうしたの?美月ちゃん。」
「え!?えっと……」
「紅葉〜。美月が自分でエプロンつけるの無理だから手伝ってくれって〜」
「ちょ!皐月!?あんた何を……」
「うん。分かった〜。えっと……これってどっちを私がつければいいの?」
2人分掛けてあったエプロンは、一個がネコの模様が入った黒いエプロン。もう一個がクマの模様が入った茶色いエプロンだった。
私はなんとなくクマの方をつけたいんだけど……
「美月はネコだよな〜?」
なんでさっきから皐月ちゃんがニヤついてるんだろう……。
反対に美月ちゃんの顔は来る時の比にならないくらい真っ赤だし……。
エプロンをつけてあげてる時なんか、何でかわかんないけど皐月ちゃんがすっごい笑ってたし……。
本当にどうしたんだろう……。
「あ……ありがと……。今度は私が……」
「ほんと!?ありがと〜!これ可愛いね〜」
「こんなの私持ってないんだけど……」
「何か言った?」
「う……ううん!?何でもない!」
それからは、何度か皐月ちゃんの指示で度々美月ちゃんの顔が真っ赤になったりしてたけど……何が何だか分かんないからとりあえず何も考えないようにした。
2時間くらいで目玉焼きが黒焦げになっちゃってた私は、とりあえずまともに目玉焼きが作れるようになった。
2時間もかかったのは私に包丁の使い方とか、火の調整の仕方とか、そういう基本的?な知識が全然無かったからで……。
だって……調理実習とか料理が得意な班の人がみんなやってくれてたんだもん……。
というか、強火とか弱火ってそんなのあるんだ……。火ってみんなおんなじかと思ってた……。
「ただいま〜」
料理の勉強が一通り終わって3人でテレビを見ながら休んでると、誰か家の人が帰ってきたみたい。
誰だろ……。弟さんかな……。
「おかえり〜。早かったな〜。」
リビングに入ってきた人は、一瞬皐月ちゃんの妹かと思ったけど、その後にすごい可愛い女の子が入ってきて、どこか皐月ちゃんに似てたから、初めに入ってきた子は美月ちゃんの弟さんって事に……
「あ……ども……。」
「ど……どうも……?」
「お姉ちゃん〜。ただいま〜」
「葉月〜どうだった〜?」
「とっても楽しかったー!」
やっぱり……弟さんなんだ……。女の子かと思っちゃった……。それにしても……皐月ちゃんの妹さん可愛い……。
なんか……女の子!みたいな感じ?とにかく!すっごい可愛い!
「じゃあ俺らは……上にいるから……」
「あ……ごめんなさい。私もう帰るから気を使わないで。」
「あ……そうですか……。分かりました……」
「え〜。もう帰っちゃうの?」
「うん!今日はありがと!」
「なら駅まで送ってあげり?な?」
よかった……。実は……料理の勉強が思ったより難しくて、駅までの道をすっかり忘れちゃってて……。
また迷子になっちゃうかもって心配だったんだ〜。なんて言えないし……。
「なら行こうか!」
「お邪魔しました〜。」
「お邪魔しました〜。じゃねぇよ……。荷物忘れてるぞ……。」
「あ!ごめん!ありがと〜!」
危ない……。てっきり忘れて帰っちゃうところだった……。
このバックについてるキーホルダーだけは……無くしたくないし……。
「あ……そのキーホルダー……どうしたの?」
「これ?可愛いでしょ〜。中学校の時の友達がくれたの。気に入ってるんだ〜」
駅までの道で美月ちゃんがカバンについてるキーホルダーについて聞いてきてくれた。
全部はちょっと話せないけど……これは……あの子との唯一の思い出の品だし……絶対無くしたくない……。
確か……私がクマのキーホルダーをあげて……お返しにこの黒いネコちゃんのキーホルダーをくれたんだよね。
「へ……へぇ〜」
何でちょっと嬉しそうなんだろう……。
あ……そういえば、美月ちゃんのエプロンの模様もネコちゃんだったなぁ……。可愛かった……。
皐月ちゃんが写真撮ろうって言ってくれたから合法的に手に入れちゃった。
「今日は本当にありがとね……。いっぱい教えてもらって……」
「ううん。こちらこそ。」
「え?私何かした?」
「え……えっと……今日1日紅葉ちゃんがすっごい可愛かったから!」
そう言いながら自分で照れちゃってる美月ちゃんの方がよっぽど可愛い気がするけど……。
私もそんなこと言われると嬉しいけど……美月ちゃんがそんな顔してると私まで恥ずかしくなってきちゃう……。
「あ……。着いたね〜。今日は本当にありがとね!また明日学校でね〜!」
「うん。またね〜。」
お互い笑顔で別れて、私は電車の中でちょっとの間寝てしまって……。
反対方向の電車に乗っちゃった事に気がつくのはもうちょっと先のことみたいです……。