第23話 私の危機感
その日、寒すぎて目が覚めた私は、ちょっとだけ震えながら自分の部屋の暖房を強めて改めて毛布にくるまった。
なんで急にこんなに寒くなったのか……。
しばらくして暖房が効いて来た頃には、さっきまで二度寝しかけてた私の眠気は完全に無くなっていた。
寒すぎて寝たかったのに暖房が効いてきたせいで眠く無くなったってなんだかなぁだよね……。
「そろそろ起きなさい。もう7時半よ?」
そんな時、いつもは部屋の中まで入ってくるお母さんが今日に限ってなんでか部屋の外から呼びかけてきた。
なんで部屋まで入ってこないんだろう……。
「私まだ寝てるよ〜。」
「馬鹿なこと言ってないで早く降りてきなさいよ〜?」
寝てるって言ってるのに……部屋に入ってこさせてびっくりさせようと思ったのに……
しぶしぶ私はベットから出ていつもの格好で下に降りようと部屋から出た瞬間、すごく寒くて思わず部屋に戻ってしまった。
いくらなんでも寒すぎるって……
部屋で靴下を履いて、もう一回挑戦してみたけど、まだまだ寒くて……下にいるお母さんに助けを求めた。
すぐにお母さんが来てなんとかしてくれると思ったら嫌がる私の手を引いて無理やりリビングまで降りていった。
階段でずっと凍えながら寒い寒いって言ってるのに……それでも足を止めてくれなかった。
「ひどいよ……すっごく寒かったのに!」
「冬なんてもっと寒いでしょ……」
呆れたように答えたお母さんは、朝ごはんにあったかいスープとココアを出してくれた。
さっきまで意地悪だったのに急に優しくなった……。
あったかい……
「そういえばなんで今日は部屋の中に入ってこなかったの?」
「あんた寒い日だとこれでもかってくらい暖房つけてるでしょ……。私には暑いのよ……。」
「あ〜……あはは……」
理由を言われて思い当たる節がある私は、納得して笑うことしか出来なかった。
自分ではそんなにつけてるつもりは無いんだけどなぁ……
あれで暑いなんてお母さんより私の方が暑さには強いってことだね!
「夏に冷房かけすぎて風邪ひいた誰かさんには言われたくありません」
「あったね〜そんな事も……」
「そんな事って……去年もその前も引いたじゃない……。懲りないんだから……」
「だって暑いんだもん!」
お母さんは相変わらず呆れたようにため息をついて首を振っていた。
暑さで倒れるよりマシじゃんか……
朝ごはんを食べ終えて学校に行く準備を始めると、ベットの上で充電されてる携帯が光ってメッセージが表示された。
制服に着替えながら送られて来たメッセージを見ると、雫ちゃんからだった。
「おはよ。今日寒いね〜。私寝坊しちゃってさ、一緒に行かない?」
ほら〜。雫ちゃんも寒いって言ってるんだし……私がおかしいんじゃ無くてお母さんがおかしいんじゃないかな……。
もちろん返事はオッケーだし、今日は寒いからいつも雫ちゃんを待たせちゃってる私は、いつもより急いで準備を済ませて家から出た。それでもやっぱり玄関の前には既に待ってる雫ちゃんの姿があって……
「待った?ごめんね。急いで準備したんだけど……」
「いいよ。私もさっき来たばっかりだし」
「ほんと……?」
疑う視線を雫ちゃんに向けた私は、そのまましばらく雫ちゃんを見てたけど、ちょっと顔を赤くして顔をそらした雫ちゃんの反応を見るに、さっき来たばっかりっていうのは怪しい……。
できるだけ早く用意したのになんでそんなに早いの……
「そういえば、私が貸した本どうだった?」
「あ〜。あとちょっとで読み終わるよ!結構面白い!私が買った本も何冊か来たんだけど、存在忘れちゃってたもん!」
「そう。なら良かった。あと……あれはどう……?私が書いてる……じゃ無くて……あの〜ネットの方の小説。」
「あ〜。あっちもすごく面白い!すっごい共感できるところ多いし……なんていうか……読み終わったあとすごい恥ずかしくなる事が多い!って何言ってるんだろう私……」
「いや……まぁなんとなく恥ずかしくなるのは分かる気がする……。共感できる部分って女の子同士があの……そうなる事とか?」
「え……えっとね〜違くて……主人公の子の気持ちとか?」
「そう!そうだ……よね……」
まだちょっとだけ顔が赤い雫ちゃんだけど、恥ずかしがってる顔なのにどこか寂しそうなのはなんでだろう……。
というか、なんで登校中にこんなこと話してるんだろう私達……。
改めて考えるとすごく恥ずかしい……。
でも、雫ちゃんが勧めてくれた本にはハズレが無いというか……今まで読書なんてほとんどしてこなかった私でも面白いって感じるやつばっかりだし……。
あ……そういえば……
「雫ちゃんって料理とかするの?」
「私?ん〜。出来なくは無いけど……そんなに得意な方じゃ無いかな〜。どうして?」
「色々あってね……お母さんが少しくらい料理勉強しなさいって……」
「なるほどね……。料理なら私よりあの子の方が得意なんじゃない?あの〜確か……」
「もしかして美月ちゃん?ああ。そういえば自分でお弁当作ってるとか言ってた気がする……」
「すごいね……」
なんで雫ちゃんが悲しそうな顔するんだろう……。
私なにか変なこと言っちゃったかな……。
でも美月ちゃんが料理が得意そうっていうのは分かる気がするし一応聞いてみようかな……。
学校の正門に着くと、どこかで見た事があるような男の子が寒そうに立っていた。
誰か待ってるのかな……。
「あの人また……。ごめん紅葉ちゃん。先に行ってて。多分あの人が待ってるの私だから……」
「えぇ……。あの人どうしたの?」
「ん〜。私が嫌いなタイプの人……かな?」
「彼氏じゃ無いならいい……。じゃあまた教室でね……」
「うん。ごめんね……」
紅葉ちゃんと別れた私は、正門を通り過ぎる時にちょっとだけその男の子を恨めしそうに見たけど、その人が私に気づくことは無かった。
その後に正門を通った雫ちゃんには話しかけてたのに……。
教室についてから思い出したけどその子は前に雫ちゃんと教室で話してた男の子だった。名前は...覚えてないけど...。
でも……なんであんなこと言っちゃったんだろう私……
彼氏じゃ無いならいいって……本当になんで私はあんなこと……
あのネット小説に影響されすぎでしょ……
急いで教室に向かってカバンを置いた後、雫ちゃんを探してすぐに教室を飛び出していった。
まだ8時30分だし……授業には間に合うでしょ……
雫ちゃんどこだろ……
この前は中庭で何か話してたんだっけ……。
一応中庭を確認したけど2人の姿はなかった。2人で話すとしたらどこに行くかな……。
確か雫ちゃんが貸してくれた中に推理小説みたいなのが入ってて……えっと……自分ならどこに行くか考えるんだっけ……。
私が2人でこっそり話す事になったら……階段の踊り場!にはいない……。あ……もしかしてあそこかも!
走って向かった先に、私が探してた2人はいた。
あの推理小説のおかげ……。ありがと〜!
ところで、何話してるんだろう……。
「だから嫌って言ってるでしょ?何回言ったら分かってくれるわけ?」
「そんな事言わずにさ……頼むよ……」
「だいたい、正門で待つなんてやめてくれない?しかもこんな寒いのになんで外にある非常階段に連れてくるのよ……」
「この時間なら誰もこないし2人で話すならここしか無いかなって思って……」
「とにかく!私はあなたの事に興味無いし2人で遊びになんて行きたく無い。」
そこまで聞いてた私は……なんとなくだけど盗み聞きなんてダメだって……今更思い出して逃げるように非常階段から離れた。
なんか……すごいところを聞いちゃった気がする……。
あの推理小説読んでなかったらこんなところ聞かなくて済んだのに!バカ!
教室に帰り着いて少ししたら、さっきの2人が教室に入ってきて、雫ちゃんはすごく疲れた様子で、もう1人は何事も無かったかのようにのんびり欠伸をしていた。さっき私が聞いた限りだと喧嘩してたみたいだったのになんでこの人はこんなに平然としてるんだろう……。
その後の雫ちゃんは、授業中もずっと窓の外の空を眺めてた。
入学して間もない頃によく見た光景……。
最近仲良くなって忘れてたけど学校での雫ちゃんは滅多に喋らないしクラスの人と話してるところなんてほとんど見た事ない。
この前さっきの男の子と話してたけど……
4時間目までずっとそんな感じで……というか4時間目は私寝てたし分かんないけど……
昼休みになって美月ちゃんに起こされた時には、横にいるはずの雫ちゃんはいなくなっていた。
「料理?うん。私は得意だよ?色々あって中学生の時からお母さんに教えてもらってたんだ〜。皐月も得意じゃなかった?」
「美月がいうと嫌味に聞こえるな……。まぁ私もそれなりにはできるけど……それがどうかしたのか?」
「実は……私も色々あってお母さんから料理勉強しなさいって……」
「教えて欲しいってことか?」
「うんうん!」
お昼ご飯を食べてる時に、朝雫ちゃんにも聞いたことを美月ちゃんと皐月ちゃんに聞いて見たらやっぱりというか、2人とも料理は得意らしくて……1人で朝ごはんくらい作れるようにならないと……
「私は別にいいけど……美月どうだ?」
「うん。私も全然いいけど……。教えてって言われてもどうしたらいいの?」
「美月の家で美月が直接教えればいいんじゃないか?」
「は……はぁ!?皐月!?あんた何を……」
「良いじゃんか。なぁ?」
「私は良いけど……。というか……美月ちゃんの家行って見たいし……」
「だってよ?どうする?」
「皐月……あんた後で納豆の刑ね……」
「いいよ。その前に逃げるから」
その後はトントン拍子に話が進んで行って、料理の勉強会?は次の日曜日、5月の頭にやる事になった。
参加メンバーは私達3人だけだけど場所は美月ちゃんの家。
でも雫ちゃんはその後の授業も窓の外を眺めててなんだか授業が身に入ってなかった。
文芸部の部活にもこなかったし……。あの男の子のせいかな……。許せない!
家に帰ってからもなんだか雫ちゃんのことが気になってLINEを送って見たけど何も話してくれなくて、「大丈夫。心配しないで。」としか言ってくれなかった。
寝る直前までそのことがすごく気になって……私が寝たのは11時になってしまった。




