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第21話 お見舞い

 バスに乗った私達は、一番後ろの席に向かい、鈴音先輩と春奈先輩を離して座った。

 結奈先輩と恵先輩が春奈先輩に気を使ったみたい。


 それでも鈴音先輩がなんとか春奈先輩の近くに行こうとしてたのがちょっと可愛かった……


 当の本人である春奈先輩はからかわれすぎてかなり疲れてるというか……なんというか……

 でも、一番困惑してたのは渡辺さんだった……


 まぁ一番大人しそうだしこう言うことに体制がないのかもしれないけど……


 バスに揺られて20分ほど経ったあたりで「次で降りるぞ」とまだちょっと不満げな鈴音先輩が言った。

 朱音先輩ってちょっと遠くから来てるんだ……


 ちなみに、バスの中では距離があったからなのか、それとも他に乗ってる人が思いの外多めだったからなのか、鈴音先輩が春奈先輩をからかう事は無かった。まぁバスを降りた瞬間にからかいが再開されて春奈先輩がまた真っ赤になってたけど……


 よくこの先輩はこんな平気な顔して恥ずかしいことを言えるなぁ……なんて思っちゃったりもした。


 バスを降りて7〜8分くらい歩いた所で、鈴音先輩の足と春奈先輩をからかっていた口が止まった。

 足を止めた私たちの前にあったのはすごく綺麗なマンションで、なんかセレブ感が漂ってる所だった。

 さすがに鈴音先輩も鍵までは持ってないみたいで、中から誰かが出てくるのを待って、正面のドアが開いたら入ろうって小学生の男子みたいなことを言っててちょっと笑ってしまった。


 素直にインターホン押して開けて貰えばいいのに……

 運が良かったのかすぐに子供達数人が中から出て来て、入れ違いに私達はマンション内に入ることができた。


「あの子の家って何号室だっけ……。久しぶりすぎてちょっと怪しいなぁ……」


「ポストとか無いんですか?」


「ああ。さすが私の結奈!あったま良い!」


 鈴音先輩がポストを確認すると、どうやら304号室だったみたいで階段を使って3階まで上がることになった。

 エレベーターは丁度使われてるみたいで階段で行くってなったけど、鈴音先輩が一番嫌そうな顔をしてた。

 なんでも階段はキツイから嫌だって……。子供みたい……


「ここだ。ん……。朱音まだこれ付けてるのか……」


「どうかしたんですか?」


「ん〜?いやなんでもない。それよりメグ。さっきからボーッとしてるけどどしたん?」


「え!?あ……ごめんなさい。ちょっと考え事してて……」


「そう。好きな人できたらうちに相談する約束だからな〜?」


「そんな約束してない気がするんですけど……」


 そんな恵先輩の言葉を無視して、迷いなくインターホンを押した鈴音先輩は、心なしか嬉しそうだった。

 本当にこの先輩は何を考えてるかよく分からない……


「はい……。どちら様ですか……」


「宅配便で〜す」


 そんな小学生みたいないたずらをしてる鈴音先輩がいつもより可愛く見えたのは言うまでもなく……

 相手の顔をよく見てなかったのか、それを信じて出て来た朱音先輩がもっと可愛く見えたのはもう言わなくてもわかると思う。


 というかパジャマであろう朱音先輩が着てた服が私と似てウサギが描かれたものだった。


「は〜い。って鈴音!?皆も……どうしたの?」


「面白そうだから皆誘って遊びに来た。嬉しいだろ?」


「私一応熱あるんだけど……」


「まぁ堅いこと言わずに。お邪魔〜」


「だから私熱あるんだけど…………」


 そう言いながらも私達を部屋に入れてくれた朱音先輩はとても優しいって事が改めてわかった。

 なんとなく予想はついてたけど、部屋の中はかなり広くて、朱音先輩みたいにおしゃれな感じの内装だった。


 朱音先輩のお母さん達はいないみたいだけどいつ帰ってくるか分からないから朱音先輩の部屋に通された。


 朱音先輩の部屋はさすがに一軒家の私の部屋よりは小さかったけど、それでも充分広かった。

 朱音先輩の部屋にはベットと学習机があって、他のスペースには所狭しと綺麗に整理された本が並んでいた。

 まるで小さい図書館みたいな感じで、私とは正反対でぬいぐるみとかは一切置いてなかった。


「で?多分言い出したのは鈴音なんだろうけど、皆も鈴音が3年だからって無理についてこなくて良いからね?」


「皆朱音が心配で来たんだぞ。まぁ思ったより元気そうじゃん。」


「一日中寝てたからそりゃね……。まぁでも皆ありがとね。ゆっくりして行って。」


「久しぶりに来たけどまだあれ付けてるんだな。意外だな〜。」


「別に良いでしょ……。」


 なぜかちょっとだけ顔を赤くした朱音先輩は私たちを残して部屋の外に行ってしまった。

 あれってなんのことだろう……


「まぁ色々あるんよ。気にしないで良いぞ。で……さおりんは何やってんだ?」


「さおりんって恥ずかしいからやめてくださいって言いましたよね……。いやこんなに沢山本に囲まれてちょっとテンションが上がっちゃって……」


「あ!分かる。ちょっとテンション上がるよね〜。」


 普段大人し目の2人がちょっとテンションが上がると言ってる中で、数日前まで全く読書なんてしてなかった私は、これ全部でいくらかかってるんだろう。みたいな考えしか出てこなかった。でも爽快というか……何故か気持ちよかった。

 電子書籍とかだとこんな気持ちにはきっと慣れないと思う。


「お。よく分かってるじゃん。電子書籍との大きな違いってこの爽快感のあるかないかだと私は思うんだよね。確かに場所は取るけどこの爽快感がたまんないんだよね〜。」


 そう言いながら部屋に戻って来た朱音先輩の手にはちょっと大きめのお盆があって……コップが人数分……あれ一個足りない。


「あんたのは無いから。いたずらの罰。」


「階段で疲れてる可愛い友達にその仕打ちはないだろ……?なぁ……本当はくれるんだろ……?」


 期待してるような鈴音先輩をよそに勢いよく自分のコップの中にあったジュースを飲み干した朱音先輩は不敵に笑っていた。

 なんだこの可愛い人達は……


 結局自分で冷蔵庫にあったらしいカフェオレを勝手に注いできて美味しそうに飲んでいた。

 ちなみに私達に配られたジュースはオレンジだった。


 それからしばらく朱音先輩と話して私達は朱音先輩の家を後にした。

 帰り側に鈴音先輩が朱音先輩の家の表札を見てちょっと笑ったのが少し気になったけど……


「案外元気そうでしたね朱音先輩。」


「明日は来れそうだったな〜。良かった良かった。」


 朱音先輩の前だと明日も来なくて良いみたいな事言ってたのに……鈴音先輩のこういう所は好き。

 友達思いというか……まぁからかってくる所は嫌いだけど!


「じゃあここで解散にしようか。お疲れ〜。気をつけて帰れよ〜。特に結奈。」


「なんで私なんですか……。」


 朱音先輩のマンションの下で別れた私達は、それぞれ自分の家に帰り始めた。

 私はというと……方向音痴な事を言い出せずにみんなと別れてしまったから迷子になっていた。

 ちゃんとナビアプリ使ってるのになんで……


 このあと雫ちゃんの家に行きたいって思ってたのに……

 それからしばらく歩き続けた私は、完全に迷子になっていて、今にも泣き出しそうになっていた。

 いや、多分だけどちょっと泣いてる。


 どこかの商店街に迷い込んだ私は、ここ20分くらい長い長い商店街をさまよっていた。

 この時の私は、なんでか友達に連絡するとか、お母さんに電話するとかの解決法が頭からすっぽりと抜け落ちていた。

 もう家に帰れないかも……そんな事を思ってると、突然後ろから聞きなれた可愛い声で話しかけられた。


「みなちゃん?どうしたのこんな所で。」


 振り返ってみると、そこにはよく知ってる可愛い顔が。というより美月ちゃんが立っていた。

 私はその瞬間に必死に我慢していた心細さが溢れて来て人前なのに美月ちゃんに抱きついて泣いてしまった。

 それも子供みたいに……


「え?え?ど……どうしたの?大丈夫?」


「もうダメかと思ったんだよ〜。良かったよ〜。」


 ちょっとの間そうして少しだけ気持ちが落ち着いた私は、美月ちゃんに連れられるままカフェに入って案内された席で背中をさすられながら今までの事を全部話した。

 部活の先輩の家にお見舞いに行った事。その帰り道がわからなくて1時間ちょっと迷子になっていたこと。


 美月ちゃんはたまたま家がこの近くで買い物に来てたらしい。

 そしたら前を歩いてる私が見えたから声をかけたって。


 どこらへんに住んでるか美月ちゃんに言うと、やっぱり全然違う方向に来てたみたいで……

 自分の不甲斐なさにまた涙が出て来てしまった。

 美月ちゃんは何も言わずにただ背中をさすってくれてたけど……すごく救われた気分になった。


「家まで送ってあげるから元気出して?ね?」


「ほんと……?」


「ほんとほんと!」


「美月ちゃんありがと!好き!大好き!」


 まだ涙目の私はひたすら美月ちゃんにお礼を言ってはぐれないように手を繋いで家まで歩いた。

 時々見た美月ちゃんの顔はなんでかわからないけどすっごく赤かった。


 20分近く歩いてやっと見慣れた道が見えて来た。

 不安で仕方なかった私だけど、ここに来るまでに美月ちゃんがいっぱい励ましてくれたからなんとかなった。


「本当にありがと……。もう大丈夫。ここからは1人で帰れる……」


「そう?気をつけてね。」


 美月ちゃんと別れた私は、なんとか家に帰り着いて、真っ先に美月ちゃんに無事に帰れた!ってメッセージを送った。

 本当にあそこで美月ちゃんに会えなかったらどうなってたか……

 その日は疲れすぎたからなのか、それとも無事に家に帰りつけたからなのか夜ご飯も食べずにぐっすり眠ってしまった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 紅葉ちゃんを家の近くまで送って行った後の私は、カフェで言われたセリフと、抱きつかれた時の感触を改めて思い出して近くの公園で悶絶していた。

 あそこを通りかかったのは本当にたまたまだけど、買い物に行って来てって言ってくれたお母さんありがとう!


 迷子になってた事といい、こんな事を言ったらダメなんだろうけど……可愛すぎる……。

 紅葉ちゃんが可愛すぎて本当にやばい……


「皐月!聞いて聞いて!紅葉ちゃんに好きって言われたよ!しかも!前に皐月が言ってたいい所も見せれた!」


 嬉しすぎてすぐに皐月にメッセージを送ったら、すぐに電話がかかって来て状況を根掘り葉掘り聞かれた。

 もちろん皐月に説明してる間も私はずっとにやけてたけど……

 だって嬉しすぎて…………もう本当にやばいんだもん!


 平静を装ってたけど手を握った時とか本当に嬉しくて泣いちゃいそうだったんだもん!

 ほら。皐月も「頑張ったね。」って褒めてくれてるし!


 家に帰った私は、それからもニヤケが抑えられなくて、お母さんに不気味って言われた。

 ああ……。すっごい幸せ……。

 この前ショックで2日休んだ時も心配してくれてたみたいだし……


 その日の私は寝るまで。というか、多分寝てからもずっと今日のことを思い出してニヤニヤしていた。

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