第20話 嫌な話
土曜日に雫ちゃんがわざわざ私の家まで小説を届けに来てくれてからご飯を食べる時と寝てる時以外はずっと読書をして過ごした土日は私にとってはとても有意義だった。
雫ちゃんの好きな本というだけあってなかなか面白かったし、ネットのあの小説みたいに恥ずかしくなるような内容じゃなかったし……
むしろ何回か感動して泣いちゃったくらい。
自然と普段の私からは考えられないほど睡眠時間が少なくなっていって、今日の朝なんか、お母さんに起こされたときは本当に学校を休もうと思ったほど眠かった。
「昨日夜遅くまで何やってたのよ……ほら朝ごはん食べながら寝ない!」
「ん〜。眠いんだもん……」
「昨日何時に寝たのよ……」
「ん〜。2時くらいかな……」
「学校で寝なさんなよ?」
毎日寝てる。なんて言えない……
眠いんだからそれに抗うなんて無理なんだもん……
朝ごはんをなんとか食べ終わって部屋に戻ると、ベットの上にあった携帯が光っていた。
変な期待をしながら画面を見てみると、そこには雫ちゃんからのメッセージ。ではなくて、美月ちゃんからのメッセージが表示されていた。
「5月の中旬くらいから中間考査があるって先生が言ってたじゃん?今度誰かの家で勉強会でもどうかなって皐月と話してたんだけど、一緒にどう?」
勉強会……私勉強ってそんなに得意じゃないし寝ちゃいそうで怖い……
みんながいるんなら寝る心配はないかもしれないけど……勉強会ってなんだか気が進まないというか……
「誰の家でやるかとかは別に決まって無いの?」
「多分私か皐月の家でやると思う。緑川さんもみなちゃんが誘いたいなら誘っていいよ。」
雫ちゃんと一緒に勉強会は確かに魅力的だけど……勉強がどうしてもなぁ……
まぁでも物理と数学が本当にマズイから勉強しないととは思ってたけど……
「1日考えさせて〜」
「もちろん!」
家を出る直前に、これって学校で直接いうのじゃダメだったのかな……
なんて思ったけど何か理由があるのかな……
学校に向かう途中に、この前のお食事会に来てた藤崎さんを見かけて話しかけようと思ったけどそんな勇気が出なかった私は、彼女の後ろをテコテコ黙ってついて行くだけになってしまった。
そんな私に気がついたのか、それとも不思議に思ったのか、信号が赤になり、青に変わるのを待ってる間に藤崎さんから話しかけて来てくれた。
「この前はどうも……」
「え……。えっと……どうも?」
「この前のあれってもしかしてダブルデートだったりしたの?だとしたらごめんね。私が入っちゃって。」
「ダブルデート……ってそんなわけないじゃん!なんでそんな……」
「皐月さんが終始ニヤついてたし凛さん以外の方は皆顔が赤かったのでてっきりそういう関係なのかなと……」
「そ……そんなわけないじゃん。」
そんな誤解をされてたなんて……いやまぁ確かに皆顔が赤かったのはあるかもしれないけど!
ん?そういえばなんで私以外の2人は顔赤くしてたんだっけ……忘れちゃった。
「あ……嘘……。すいません!勝手な勘違いで……私……てっきり……」
そう言って藤崎さんは謝りながら自分が言ったことに急に恥ずかしさを感じ始めたのか急激に顔を赤くしてしまった。
私は別に気にしないけどそんな顔されると私も恥ずかしい……
「ん?ああ。こんなところで会うなんて奇遇だな。あ。この間はども。」
「ど……ども……」
「皐月ちゃんおはよ〜」
「おう。おはよ。眠そうだな。なんかあったか?」
「別に……大丈夫。」
急に後ろから声をかけられたからびっくりしたけど皐月ちゃんだったんだ……。
でも皐月ちゃんっていつも私が学校についた時には大体教室にいるのになんで?
「昨日ちょっと美月と色々話しててな。寝るのが遅くなってな。速攻で来た。」
「へ〜。何話してたの?」
「ん〜。誰かさんの話してた。」
笑ってそう言った皐月ちゃんは信号が青になった瞬間走って行ってしまった。
誰かさんってもしかして私かな……。いや流石に自意識過剰か……
一体誰のことを話してたんだろ……
聞こうにももう行っちゃし……
まださっきの事が残ってるのか藤崎さんは顔を赤くしててとてもじゃないけど聞けない……
それからなんとなく気まずくなっちゃって、学校に着くまで藤崎さんは一言も喋らなかった。
教室に入ってからは女子数人と話してたけど。
そういえば、いつもなら横の席にいるはずの雫ちゃんがいない。
机の横や上にカバンもなかった。もうすぐHR始まっちゃうけど……遅刻かな……
まさかお休み……!?
結局、必死に襲いかかってくる眠気に耐えながら雫ちゃんが遅れて入ってきてくれる事を願って待ってたけどそんな事はなくて、4時間目に力尽きて眠ってしまった。眠気を必死に我慢してたからなのか授業中とは思えないほどぐっすり眠っちゃった。
多分今までで一番ぐっすりと……
お昼休みになんで休んでるのか聞こうと美月ちゃん達とお昼ご飯を食べてる最中にLINEを起動すると、朝の8時頃、ちょうど美月ちゃんとLINEで喋ってた頃にメッセージが入ってた。それも、一緒に学校に行かない?っていう誘いが……
「ごめんね。今気付いた!なんで休んでるの?」
数分してから、ちょっとよくわからない返信がきた。
「私の精神がもたなかったから休んだ。別に体調が悪いとかじゃないから大丈夫。」
精神がもたなかったってなんだろう……
大丈夫かな……
「緑川さん休みなんだな。勉強会のこと一緒に話そうと思ったのに。な〜?」
「私は別に……どっちでも……」
「本当か〜?」
「皐月はすぐそういうこと言う!」
どうしたのかな皐月ちゃんと美月ちゃん……。
美月ちゃんはなんで安心したみたいな顔してるんだろう……
それからしばらく教室で勉強会をどうするか話し合ってたんだど、結局成り行きで私も参加することになってしまった。
勉強苦手だしもうちょっと迷いたかったのに皐月ちゃんがどうしてもって言うから根負けしてしまった感じで……
「緑川と水無月いる〜?」
もうすぐでお昼休みが終わろうとしてる時に、突然名前を呼ばれて思わずビクッとなってしまった。
声の聞こえた方を見てみると、教室の前のドアから可愛い顔を少しだけ覗かした鈴音先輩が立っていた。
「鈴音先輩……。どうしたんですか……」
私が自分の席から鈴音先輩の方に向かって歩いて行くと、なぜかニヤニヤしながら教室に入ってきた。
後数分でお昼休みが終わるのにどうしたんだろう……
「今日恋人は休みなのか?風邪か?」
「恋人……私に彼氏は……」
「何言ってんだ?緑川が恋人じゃねぇのか?」
「は……はい!?」
何言ってるんだこの先輩は……私と雫ちゃんがこ……こい……恋人って……
私の顔はみるみるうちに真っ赤になっていって、今にも頭から湯気が出てきそうだった。
私この先輩きらい……
「あ〜まぁこの話はまた今度な。本題だけど、今日朱音が熱出しちゃってな。私らがあの子の家にお見舞いに行くんだけど、一緒に行くかなと思って誘いに来たんだ。行くか?」
意外としっかりした理由でちょっと驚いた。
というか、そんな大事なこと言いに来てくれたならわざわざあんなこと言わなくていいじゃん…………
「もちろんです……。行きます!」
「なら7時間目が終わったら校門前で待ってるからな。あと、あの子には内緒でよろしく。」
そう言うと、鈴音先輩は急いで自分の教室へと戻って行った。走ったら……ほら怒られた……。
今日は雫ちゃんが休みなのに……朱音先輩も熱が出たって……
もしかしたら雫ちゃんも本当は風邪とかなんじゃ……
朱音先輩のお見舞いが早く終わったら雫ちゃんの家に行ってみようかな……心配だし……
午後の授業はその事ばかり考えててあんまり授業に集中できなかった。
というか、ここのところ全然授業に集中できてない気がするんだけど気のせいかな……
いや、多分気のせいじゃない……。
高校生になってからほとんど授業を真面目に聞けてない気がする……。
7時間目が終わったあと、すぐに帰る準備をして校門の前まで走って向かった。
私は授業が終わってすぐに来たのに、私と鈴音先輩以外の文芸部の人達はみんな揃っていた。
校門前に私から見てもかなり可愛い先輩達が集まってるからなのか、校門から出て行く人たちがチラチラと先輩達を見ていた。
「ごめんなさい。ちょっと遅くなっちゃって……」
「私達も今さっき来たよ。あ、この前の件他言したら許さないから。」
可愛い顔で怖いことを言って来た春奈先輩は、私の後にすぐ来た鈴音先輩を見るなり、顔を赤くしていた。
この2人なんか可愛い……。いや、みんな可愛いんだけど!
「よ〜し。行くぞ〜。」
「なんでそんなに楽しそうなんですか……」
「春奈がどうしても私と行きたいって言ってたから嬉しくてさ〜。」
「私そんなこと言ってないじゃないですか!」
「私と行くのは嫌なのか?」
「……答えないと……ダメですか……」
春奈先輩の顔が、校門の前にいた時よりもだんだんと赤くなっていってる……
この2人……本当に仲がいいなぁ……
私と雫ちゃんもこんな風に……って何を考えてるんだ私……
学校からしばらく歩いて数分の所にあるバス停で先頭を歩いてた鈴音先輩が止まった。
ここからバスで行くみたい……。
バスを待ってる間の数分間の間も春奈先輩と鈴音先輩は仲良くお話……と言うよりは一方的にからかわれてた。
バスに乗るときなんか、春奈先輩の顔は凄いことになってた。
他の先輩達は苦笑いしながら見守ってたけど……この2人の関係は部活内では公認?されてるみたい。
「朱音先輩……助けてくださいよぉ……」
バスの中で隣に座った春奈先輩が小声でそう言ったのを私は聞き逃さなかった。




