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第19話 予想外の来客

 私の記憶が確かなら、昨日が金曜日で、今日は当然土曜日のはず。

 それなのに、気持ちよくベットで寝ていた私は、突然起こされてしまった。


「起きなさい。玄関にお友達が来てるわよ?何か約束でもしてたの?」


「ふぇ?」


 思わず時計を確認すると、まだ10時になったばかりだった。


 私は、土曜で休みの日なのに起こされてちょっと怒ったけど、友達が来てると言われたことで、その小さな怒りはあっという間に沈んだ。というか、これも私の記憶が正しければ約束なんてしていない気がする。


「ほら。お友達待ってるから早く行きなさい。」


 まだ状況がよく飲み込めないまま、お母さんに急かされて玄関まで降りていった私は、玄関に立っていた人を見て完全に凍ってしまった。


 そこにいたのは、ちょっぴり頬を染めて、お食事会の時に着ていたものとおんなじような服を着た雫ちゃんだった。

 私は思わず、自分の今の格好を見直して途端に恥ずかしくなってしまった。


 私はさっきまで寝ていたこともあり、髪には寝癖、そしてクマが描かれた幼いパジャマ。手には思わず持ってきてしまったサメの抱き枕があった。


 途端に私の顔は真っ赤になって行き、すぐに顔から湯気が出そうになっていた。

 いや、多分出てる気がする……


「ち……違うの!これは……その……あれで!」


 必死に弁明しようとするけど言葉がうまく出てこなくて……さらに顔が赤くなっていくのを感じた。


 目の前の雫ちゃんが今どんな顔をしてるのか、見えないほどに私は動揺してしまっていた。


「うん。だ……大丈夫だから。これ届けにきただけ。」


 そういって雫ちゃんが黒の大きめのカバンから取り出したのは、数冊の分厚い本だった。

 そういえば、昨日本を貸して欲しいって頼んで、良いよって言われたんだった。

 でもまさか、こんなに早く、しかも家まで届けてくれるなんて……


「うん。ありがと!ちょっと待ってて!着替えてくるから!」


「え……あいや……すぐ帰るよって……行っちゃった……」


 私は居ても立っても居られずに思わず自分の部屋に戻って、急いで私服に着替える。

 さすがに寝癖まで直してる時間はないけど、せめて格好だけでも……


「ごめんねバカな子で。学校でもあんな感じなの?」


「い……いえ。学校ではもっとしっかりしてるイメージというか……小動物みたいな感じで……。あ……変なこと言っちゃってごめんなさい。」


「小動物ね〜。まぁあの子にぴったりっちゃぴったりよね〜。あんな子だけど、今後も仲良くしてあげてね。」


「こちらこそです!」


 2・3分程度で私服に着替えた私は、急いで階段を降りて雫ちゃんと改めて話そうと思ったら、さっきまでそこにいた雫ちゃんの姿がない。帰っちゃったのかな……


「みな〜。こっち」


 リビングの方からお母さんの声がして、もしかしたらと思ってドアを開けてみると、そこにはいつも私が座ってる隣の席に雫ちゃんが座ってお母さんと一緒に話をしていた。


「何話してたの?」


「あんたの学校でのこととか色々〜。」


「ごめんね雫ちゃん。なんか色々……」


「私は全然。それにあの格好似合ってたよ……」


 雫ちゃんがそんなことを言うから、少し収まってた心臓の鼓動が再び激しくなりだした。

 なんでこの人はそんなことを平気で言ってくるの!?心臓が飛び出そう……


「ありがと……」


 できるだけ笑顔で答えたつもりだけど、上手く笑えてたかな。

 変な顔になってなかったかな……


「そういえば雫さんはみなの好きな人の事とか何か知ってます?」


「え?紅葉ちゃん好きな人いるの?」


「え!?いないよ!?お母さん!変なこと言わないでよ、」


 ニヤニヤしながら聞いてきたお母さんにそんなことを聞かれて、なぜかちょっとだけ心配そうに私の方を見た雫ちゃんは、私が勘違いなことを話すとホッとした表情を見せてくれた。

 なんでそんなに私の好きな人の事がになるんだろう……


「そう。なら良いんだけど。あ。本題忘れてた。これ。昨日言ってたやつ。」


「もう持ってきてくれたの?ありがと〜」


 まだ寝癖がこれでもかとついている髪と無理矢理起こされたことでまだ寝足りなかった私は、眠いと言うことを隠そうともしなかったけど、雫ちゃんから本を借りるときだけは、さっきよりもさらに心臓が激しく動いてて、眠気とかそれどころじゃなかった。

 雫ちゃんに私の心臓の音が聞こえちゃってるような。そんな大きな音をさせて動いていた。


 雫ちゃんから受け取った本は、昨日雫ちゃんが言ってたようにかなり分厚いみたいで、渡された瞬間一気に数冊分の重さが一気に襲いかかってきて、思わず落としてしまいそうになった。


 普段運動なんか一切しない私は、腕の力なんて無いに等しいし、本が思ったよりずっと重かったのも原因の一つだと思う。

 とにかく、これで全く読書をしてなかった私でも、同級生よりは本を読んでることになるはず。


 しかも、雫ちゃんが持ってきてくれたってことは、この本は雫ちゃんが好きな本ってことであって、私もこの本を好きになれば、必然的に雫ちゃんと話せる内容が増えることになってさらに距離を縮めることができるかもしれない。


「わざわざごめんね。重かったでしょ……」


「うんうん。これくらい大丈夫。それより私もこんな時間に来ちゃってごめんね。ちょっと早かったよね。」


「それはこの子が10時過ぎまで寝てるのが悪いんだから気にしないで良いわよ。」


 雫ちゃんは可愛くぺこりと頭を下げて玄関の方に向かってしまった。

 もう帰っちゃうのかな。どうせならもうちょっといれば良いのに……


「ごめんね。この後やらないといけないことがあって。」


「残念ね。またいらっしゃい。うちのみなをよろしくね。」


 それだけ言うと、雫ちゃんは私の家から出て言ってしまった。

 あんな格好を見られちゃって……恥ずかしい……


 速攻で自分の部屋に戻った私は、もう一回ベットに潜るでもなく、さっき届けてもらった小説を読み始めるでもなくて、一番最初にしたのは雫ちゃんへのごめんねのメッセージを送ることだった。


 雫ちゃんは優しいからこのくらい許してくれるかもしれないけど一応ね……。

 そのあと私は、朝ごはんを食べずに、そもまま二度寝をして、起きたらすでに17時を回った頃だった。


 寝てるだけで1日を無駄にしてしまった……

 夜ご飯の時、お母さんが少し気になることを言っていた。


「あの雫って子、面白い子ね。こんな子のどこか良いのかね〜。」


「ん?何?」


「なんでも無い。ほらブロッコリーも食べなさいよ……。」


 げ……。残してるのバレないと思ったのに……

 子供っぽいって言われても……苦手なんだから仕方ないじゃん……


 その日の夜は、寝るまでずっと雫ちゃんとLINEで話してたり、朝届けてくれた小説を読んだりと失った時間を取り戻すために、できるだけ有効に使った。


「まだ流石に全部は読めてないんだけど、持って来てくれたやつ。面白かったよ。ありがと〜」


「読み終わったら返す感じで良いから急がないで良いよ」


 雫ちゃんってどこまで優しいんだろう……

 学校と外では本当に別人みたい。


 寝るときは、さっきまで目を酷使し続けたからなのか、今までで一番すんなりと眠りにつけた。

 昼にこれでもかと寝たはずなのに、その日はたっぷり寝れた。


 翌日も小説を読んで、雫ちゃんとやり取りをして、過ごしたけど、すっごい楽しかった。

 日曜日はなんでだか、昨日言われた私のパジャマ姿に対する雫ちゃんの言葉が頭の片隅にずっと残っていた。

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