第1話 初対面
私の意識はカーテンが開かれ、部屋の中に太陽の光が入って来ることで少しばかり覚醒を始めた。
思わず唸り声を上げると、よく知った声で
「遅刻するよ。早く起きなさい」
と声が聞こえてくる。お母さんだ……。 昨日は確か入学式だったはず。あ……今日から学校だっけ……。
そう思い始めると、再び寝かけていた意識が急速に覚醒を始める。
毛布を自分の体から剥がし、ベットの上で数秒ばかりボーッとし、おはようと挨拶を交わす。
その後はお母さんと一緒にリビングにおり、朝ごはんを食べた。私のお父さんは単身赴任で北海道に行ってるのであまり会うことは無い。
もう数年あってないから顔を覚えているかも怪しいくらい。お母さん大好きっ子になってしまってる今の現状は仕方ないと思うんだ!
朝ごはんを食べ終わった後は部屋に戻り、カーテンを閉め、電気をつける。
学校に行く準備を済ませ、玄関に向かう。
まだ制服を着ることに慣れてないせいで、制服を着るのに10分ほどかかっちゃった……
「行ってきまーす」
玄関のドアを開けながらそう言うと、リビングからお母さんが出てきて笑顔で送り出してくれた。
問題はここから。
相変わらず、学校に行く道がわからないので、同じ制服を着ている人を探す旅に出る。
旅を続けて4分ほど経った頃、同じ制服の女の子を見かけた。確かあの子は……入学式にいた気がする……
同じ1年生と言っても話しかける勇気は相変わらず無いので、昨日と同じようにピッタリと後ろをついていく。しっかり道を覚えないといけないんだけど、追いかけるので精一杯。
そのうち覚えることに期待して、しばらくは同じ制服を着ている人の後を追いかけて登校しようと心に決めた。
5分程歩くと、学校が見えてきた。学校の前にはすごく沢山の人が集まっていて、少しビックリした。
中学生の頃は早めに学校に行って友達と喋ってたから校門の前にこんなに人がいるのを見たのは初めてだった。
少し怖かったけどなんとか教室まで辿り着き、自分の席でHRが始まるまで寝ようと机に突っ伏した。
意識が少しずつ眠気に侵食されて行く中、私の席の隣に誰かが座ったような気がして、突っ伏したまま横を見る。
その瞬間、私の眠気は吹き飛んだ。
吹き飛んだというより、眠気を忘れるほど衝撃を受けたと言った方が正しいかも。
横に座っていた少女があまりにも綺麗だったから。
黒くて長い髪と、猫みたいな可愛らしい目。教室の一番隅の1番後ろの席、窓際で一番いい席なんて呼ばれたりする席に座っているその子は椅子に座るなり、机に置いた鞄の中から本を取りだし、読み始めた。
私は眠気を忘れ、見とれてしまった。
私が隣の女の子に見とれてボーッとしていると、チャイムが鳴り担任の先生が入ってきた。隣のその子は本にしおりを挟み、鞄の中にしまうと退屈そうに先生の方を向いた。
私もハッとして先生の方に目を向ける。
この先生の名前は柊美鶴先生と言うそう。
昨日入学式の後に教室で学校の説明などを受け、最後に紹介された。
柊先生の声は小学生か中学生くらいの子供の声に似ている。中学生ですと言われたら納得してしまう様な可愛らしい見た目と相まって、女の子の私から見てもかなり可愛いと思う。
「おはよ〜。皆の高校生活初日だよ〜。」
可愛らしい声でそんな事を言ってる先生に不覚にも可愛い……と思ってしまう。
先生が教壇に立つと、一息ついた後に、またもすごく幼く、可愛らしい声で喋り始める。
「いきなりだけど、まずは自己紹介してもらおうかな。早くクラスに馴染んで欲しいしね」
え?いきなり自己紹介するの?とは思ったけど遅かれ早かれする事になるし……って考えると……まぁ。
でも私自己紹介苦手なんだよね。何喋ったらいいかわかんないし……緊張しちゃうから……。
不安な顔をしながら周りの子の様子を見ると男子の数人はクラスの女子を見回しながらウキウキしてる。
ほんと男の子って……
なんで男の子ってすぐ自分のクラスに可愛い子がいるか確かめようとするんだろ……
本当にわからない。
中学校で色々あったせいで男の子に対する気持ちが少しだけきついかもしれないけど……まぁ許して欲しい。
最初の子は、かなり美人な子で何故だかどこかで見た事あるような感じがした。
こんな綺麗な人、忘れるはずがないのに……なんでか思い出せない。
透き通るような声と真っ黒の猫毛で緑色の目をしている女の子。日本人じゃないのかな……どこかの国のハーフ?やっぱり思い出せない。
「奥田美月です。よろしくお願いします。よくハーフと間違われますが、父も母も日本人です。」
それだけ言うと、その子は席に座った。
ハーフじゃないのに緑色の綺麗な目……
いいなぁ……なんて思いながら奥田さんの方を見ていると奥田さんと目が合った気がした。
奥田さんがすぐに目を逸らしたので本当に私を見ていたのか分からないし、私と目が合った気がしたのは気のせいかもしれない。
その後は特に何事もなく、私の番になった。
何を言おうか全く考えてなかった……。
席を立ちながら何を言おうか考える……。
その時、さっきの奥田さんの自己紹介みたいにすればいいのでは?という考えが頭をよぎった。
「水無月紅葉です。よく外国人と間違われますが、私も日本人です。後、この髪は地毛なので染めてはいません。よろしくお願いします」
そう。私は銀髪で黄色の目を持っている。よく外国人と間違われる事もあるし、中学生だったの頃は何度も髪を染めるなと注意された苦い過去がある。
周囲の人からは外国人かと思った……とか、地毛なんだ〜みたいな予想できそうな答えがちらほら聞こえた。
私の後も何事も無く進み、私が朝見とれていた女の子の番になった。
その子は面倒くさそうに席から立ち上がり、
「緑川雫です。よろしく」
まぁなんとなく予想はついてたけど……
でも何故だかカッコイイと思ってしまう。
この自己紹介には先生が1番驚いていた。え……それだけ?みたいな顔してたし……
でも間違いなく、このクラスでは1番綺麗だしかっこいいと思う……
自己紹介の後は、クラス委員長を決めたり、どんな部活があるのかの紹介を軽く受けた。
何部に入ろうかなんて全く考えてなかったし、入る気もなかったけど横の緑川さんが文芸部の説明を受けていた時、少しだけ表情が変わったのを私は見逃さなかった。
憧れに近い感情だと思うけど、なぜだか気になってしまう。
近いうちに体育館で部活紹介があるからそれで決めたらいい。って柊先生は言っていたけど、私は緑川さんが入る部活なら運動系以外入ろうかと思っていた。
だって……少しでも早くお友達になりたいし……
それと、もう1人気になっていた奥田さんはクラス委員になっていた。
後は連絡事項とかを説明されて今日は終わった。
下校だけど、どう帰ればいいか分からず、20分くらいさまよった挙句、運良く知ってる道について家に帰り着くことが出来た。
学校を出たのは11時半頃だったのに、家に帰れたのは12時過ぎだった。お母さんはお仕事で夜まで帰ってこない。
暇だったし、私は自分の部屋で寝る事にした。
部屋に上がると少しばかり寒く、暖房をつけて、明日の学校の用意を終わらせパジャマに着替え、イルカの抱き枕を抱きしめて意識をゆっくりと手放した。