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第18話 鈴音先輩と春奈先輩

 その日起きた私は、珍しくアラームが鳴る前に目が覚めたみたいだった。

 一昨日起きた時に床にサメの抱き枕が落ちていたことを思い出し、まだぼんやりとしている意識の中、腕の中にある感触を忘れて、つい床の方に目を向ける。


「落ちてない……。良かった……」


 そう思ってベットの上を見て見ると、サメのちょうど尻尾の部分が自分の太もものあたりから出ている。

 あ……自分で抱きしめてる……


 自分で抱きしめてるのに気がつかないで床を確認するなんてまだ寝足りないのかもしれない。

 でも、もう7時になろうとしてるし、今から寝てもどうせ数分でお母さんに無理矢理起こされてしまう。


 私は半ば諦め気味にベットから出て下に向かった。


「おはよ〜」


「おはよ。珍しく早いわね。」


 力なくそういった私に、お母さんは台所でお弁当に何かを詰めながら答えてくれた。

 私の目はまだ半開きみたいな状態だけど……


 先に席に座って待っていると、すぐに朝ごはんが運ばれてきた。


「はい。ほら。せっかく早く起きたんだからシャキッとしなさい!」


「ん〜。」


 なんで今日はこんなに眠いのか、自分でもわからない。

 昨日は別に夜更かししてたわけでもなければ、怖い夢を見て何回も起きたとかじゃない……はず……。


「なんでそんなに眠そうなの?好きな人となんかあった?」


 その言葉を聞いた瞬間、再び寝かかっていた私の意識は、急激に覚めていった。


「だからそんなんじゃないってば!もうお母さんはすぐそんなこと言う……」


「ん〜?違うの?へ〜。」


 顔が少し赤い私に対して、お母さんはこの前のカフェでの皐月ちゃんみたいにニヤニヤしていて、急いで朝ごはんを食べた私は食器を片付けもしないで逃げるように自分の部屋に戻った。


 学校に行く準備を終わらせてからも、数分はベットの上で悶えていた。

 別に誰かから連絡がくるのを期待してて悶絶してたとかそんなんじゃ決してないけど……


 結果は……もちろんお誘いのメッセージなんかは来なくて、少しがっかりしながら1人で学校に向かった。

 別に最近よく2人で行くようになったとかじゃないけど、でも最近話せてないのは確かだしちょっとだけ寂しい。


 学校に行く途中で、この間のお食事会に来てた女の子を見つけた。

 彼女は確か……凛ちゃんだ。美月ちゃんの友達だった気がする。


「おはよ〜。眠そうだね〜。」


「ん?ああ。水無月さん。おはよ〜。いや昨日帰って来たばっかりだから眠くってさ……」


「帰って来たってどこにいってたの?」


「ちょっと外国に……ゲームの大会が……」


 そういった凛ちゃんはなぜか気まずそうに目線をそらした。

 ん?なんで目線を逸らすんだろう……


「外国行ってたの!?すごいじゃん!そんなに凄い人だったんだ!」


「皐月が言ってた通りなんだね〜。ん?あ。こっちの話だから気にしないで。」


 そう言った凛ちゃんは可愛く笑って、学校に着くまで何回もあくびをしていた。

 私よりもよっぽど眠いみたい……


 学校に着いたのは8時30分ごろだった。

 教室にはいつも通り、数人の生徒がいて、その中にはいつもの席で読書をしている雫ちゃんの姿もあった。


 自分の席に着いた私は、今日の朝更新された例の小説(雫ちゃんが勧めてくれたやつ)を何を思ったのか教室で読み始めた。

 もちろん先生にバレちゃったら没収される可能性があるからちょっと隠れながらだけど……


 案の定HRが始まる前に、私の顔は真っ赤になっていた。

 横の雫ちゃんもなんだか顔が真っ赤だけど何かあったのかな……

 私の眠気は小説を読み終える頃には、すっかりどこかへと飛んで行ってしまった。


 1時間目の授業の間は、さっきまで読んでた小説のことで頭がいっぱいになっていて授業どころではなかった。

 何回か雫ちゃんの方を見たけど、雫ちゃんも顔が真っ赤でとても授業なんて身に入ってないように見えた。


 休み時間になった瞬間、教室の前のドアが勢いよく開いて、誰かが一目散に廊下に走って行った。

 どうしたんだろう……一瞬だったから誰かわかんなかった……


 2時間目もそんな感じで全く授業が身に入らず、半ば放心状態みたいになっていた。

 3時間目に入る頃にはさすがに落ち着いて、二度と学校。特に朝はあの小説を見ないことを心に固く誓った。

 恥ずかしすぎてその後の授業が本当に不味くなる。


 4時間目は物理学の授業だったし眠っちゃったけど。

 そういえば、寝てる最中に夢で雫ちゃんが私を見つめてたけど、この間私が見た光景は夢だったのかもしれない。

 考えてみれば雫ちゃんが私が寝てる度に私の寝顔を見てるはずがないし……


 お昼休みになって、美月ちゃんに起こされた時にはもう横の席に雫ちゃんの姿はなかった。

 最近話せてないから美月ちゃん達と一緒にご飯食べようと誘いたかったんだけどなぁ……


「そういえば、美月ちゃんは何部に入るの?」


 お弁当を食べながらふと気になった事を聞いてみた。


「私は吹奏楽部に入ろうか迷ってるんだ〜。でも楽器なんてやったことないから自信なくてさ〜」


「そうなんだ……。私と雫ちゃんは一緒に文芸部に入ったって言ったじゃん?美月ちゃんもどう?」


「え……えっと……文芸部は……いいかな〜」


「そうなんだ……」


 なんとか美月ちゃんも文芸部に入ってくれたらすっごい楽しくなりそうって思ったんだけどなぁ……

 なんでそんなに辛そうな顔してるんだろう……


「別に?なんともないよ。」


「気のせいならいいんだけど……」


 何か言いたげな表情の美月ちゃんは、やはりというか、何も言ってくれなかった。

 別に言ってくれていいのに……

 私美月ちゃんに何かした……かな……


 5時間目が終わってすぐに皐月ちゃんの席に行って聞いて見ることにした。


「ねぇ私って美月ちゃんに何かしちゃったかな……」


「ん?ああ。美月の態度なら気にしないでいいと思うぞ。凛と違って私は中学からの付き合いだけど、まぁあいつの態度は……なんというか……そう言うことだから」


「そんな可愛い顔で笑っても分かんないってば!何かしちゃったんなら謝らないと……」


「みっちゃんが何かやったのかは知らないけど、多分何もしてないと思うぞ。あの態度は多分全部美月に非があるから。美月に話しても多分何も変わんないからまぁ気にしないでやってくれ。根はいい奴だからさ。」


「う……うん……。わかった……」


 あとで凛ちゃんにも聞いてみよ……

 それにしてもなんで私には何も言ってくれないのか理由がわからないと怖いと言うか……寂しいと言うか……

 なんとも言えない気持ちになってくる……


「どうしたの?そんなに暗い顔して。」


 自分の席に戻ると、心配してくれたのか雫ちゃんが話しかけてきてくれた。

 そのことだけで、さっきまでのなんとも言えない気持ちがちょっとだけ晴れた気がした。


「別に。大丈夫。心配かけてごめんね。」


「そ?ならいいけど。」


 あ……今なんとなくわかった気がする。

 美月ちゃんが私に何か言いたくても言えないのは心配かけたくないからなのかな……


 あれ……ていうか一昨日も確かそんな事を皐月ちゃんが言ってた気がする……

 あれ……私の勘違いかな……


 それからモヤモヤが晴れたのか、6・7時間目はしっかりと授業を受けることができた。

 というか、普通ならいつもこんな感じで授業受けないといけないんだけどなぁ……


「これで7限は終わりだけど、5月に中間考査があるから勉強もしっかりすること!いいね。特に水無月さん?あなた。」


「私!?」


「あなたいつも物理と数学で寝てるでしょ……。赤点取っても知らないからね。」


「ふぇぇぇ……」


 家庭科の授業も終わりに、担任でもある柊先生から言われた一言で、途端に私は絶望に落とされてしまった。

 中間考査……まったく考えてなかった……

 あれ……。もしかして私結構やばいんじゃ……


「はぁ……。とにかく!みんなしっかり勉強すること!」


 それで今日の授業は全部終わった。

 けど、私と雫ちゃんにはまだ文芸部の部活動が残ってる。

 運動部以外の子達はみんな帰り始めてるのに私達は部室に向かった。


「そういえば雫ちゃん。今度何冊か本貸してくれない?一応少しは読書して勉強しとかないと……」


「いいけど……私が持ってるのって500ページとかある本か、何十冊もあるようなシリーズ物だけど……大丈夫?」


「げ……。だっ...大丈夫……。頑張るから……」


「なら今度貸してあげる。」


 部室に向かってる時にダメ元で聞いてみたけど雫ちゃんが優しくて助かった。

 もちろん自分でも買ってるけど私が買ったのは明日か明後日にならないと届かないし……。


 というか雫ちゃんてそんなすごい量読むんだ……

 すごいなぁ……


 そんな感じで部室まで久しぶりに2人きりで話してると、あっという間に着いてしまった。

 一応もう部員だけどノックはして入った。


「どぞ〜」


「お邪魔します……」


 そこでみた光景は、思わず顔を覆いたくなるような光景で、私が見学の時に見た光景とはまったく別だった。


 ドアを開けた先には、鈴音先輩が春奈先輩を押し倒して今にもキスしちゃいそうな光景で……


「どうぞじゃないですよ!こんなところ見られたら誤解されちゃうじゃないですか!」


「行こ紅葉ちゃん。お邪魔みたいだし……」


 私と同じか、多分それ以上に顔を赤くした雫ちゃんが私の手を引いて部室から出ようとした時、後ろから朱音先輩の声が聞こえてきた。


「あんたら……部室でイチャつくなって言ったよね?鈴音は少し離れなさい!」


「失礼な。私はただ春奈がして欲しそうだったから……って痛!」


「馬鹿なこと言わない!春奈の顔見て見なさいよ……」


 私たちの間を抜けて部室の中に入った朱音先輩は、この前みたいに見事なチョップを鈴音先輩の頭に当てた。

 一方の春奈先輩は、もう見てられないくらい顔を真っ赤にしていた。

 当然だけど、私と雫ちゃんより顔は赤いと思う……


「からかっただけでいちいち叩くなって!春奈が可愛いんだからしょうが……ごめんなさい。もうしません……」


「分かったならもう部室ではしないこと!お互いの家でやりなさい。」


 お互いの家ならいいんだ……

 春奈先輩はその言葉を聞いて想像したのか頭から湯気が出そうになっていた。


 その光景を見ていた私たちもなんとなく顔を赤くしてしまった。

 というか、見学に来た時とは随分雰囲気が……


「ああ。あんときは朱音がこんな姿見せたらせっかくの新入部員確保に支障が出るって私と春奈にそれぞれ言ってきた。いっつもあんなんだったらさすがに疲れるって。」


「疲れるのは私よ……。本当にあんた達は……」


「朱音先輩!私何かしましたか!?私は鈴音先輩に襲われた被害者ですよ!?」


「どうせ冗談でまた付き合おうとか言ってからかわれたんでしょ……?違うの?」


「それは……その……」


 それだけ行って春奈先輩はまだ赤い顔を抑えながら部室も外に走って行った。

 その直後、文芸部のグループラインに、今日は体調が悪いから早退します。とだけ……


「あ〜。春奈は気にしないで。去年からこんな感じだから。鈴音はもう少し春奈に対するちょっかいを抑えてくれない?」


「可愛いからしょうがないって言ってるだろ〜。結奈も可愛いけどあの子はうちらと違って彼氏いるから……」


「自分で言いながら泣きそうになるのやめなさいよ……。まったく。」


「結奈先輩って彼氏いるんですか〜」


「いるけどどうしたの?」


 突然自分の腰のあたりからちょっと幼い感じの声がして下を見て見ると、小さくて可愛い先輩がいつの間にか私と雫ちゃんの間に立っていた。というか……ちっさすぎでは……


「ビックリした……。ごめんなさい。気がつかなくて。」


「慣れたからいいよ。それよりどうしたの?私の彼氏がって話が聞こえたけど……」


 それからは、なぜか先輩達の愚痴と、恋バナを聞かされただけで部活動が終わった。

 なんでかわかんないけど雫ちゃんは興味津々で聞いてた……


 正直私は……横の雫ちゃんが一生懸命話しを聞いてる姿にちょくちょく見惚れてて、話が入ってこなかった。

 夢中で聞いてるからカッコよく見えるというか……なんというか……


 家に帰っても、部室で見た光景は忘れることができなくて、半ば放心状態で夜ご飯を食べていた。

 夜ご飯中、お母さんが何か言ってたけど、ほとんど聞いてなかった……


 自分の部屋に戻ると、あの光景を思い出しながらも一応凛ちゃんに美月ちゃんのことを相談してみた。

 数分して返って来た返信は、皐月ちゃんと大体おんなじ感じだった。


 やっぱり私が思ってる通りの答えなのかな……

 とにかく、今日はもう眠いし……寝よ……


 今日見る夢に部室の光景が出てくるのはもう確定だと思う……

 私は、顔を少しだけ赤くして、ベットの中で眠りについた。

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