第150話 勝負と約束
翌日、自宅を10時に出発した私たちは、そのまま電車で新幹線が止まる大きな駅まで行き、そのまま広島までまっすぐ向かった。
飛行機で行こうという話も出たけれど、さすがに冬休みということもあり席が取れなかったんだよね。
これからはずっと先輩の隣で、広島までノンストップ…。
「で、なんで手を繋いでるんですか…?」
「え〜?カップルっぽくて良いかなって!どうせ暇だしさ!」
「意味がわかりませんよ…。暇ならトランプでもしましょうよ…」
「あ、そうだな!なんか、修学旅行みたいで楽しいな!」
「まだ東京も出てませんよ…。お願いですから、小さな子供みたいにはしゃがないでください…」
単純に周りから見られる私が恥ずかしいっていうのもあるけど、子供みたいにはしゃいでいる先輩を見ると、なんだか小さい頃を思い出して余計に恥ずかしくなってくる。
しかも、昨日寝る前に散々昔のことを掘り返されたから余計…。
お嫁さんにしてくださいとか、本当に言った記憶ないんだけど…。
かなり小さかったからありえなくはないんだろうけど…そんなこと言えたのか!?私…。
「なぁ。これ、負けた方が将来プロポーズするってのどう?」
「…冗談ですよね?」
「春奈があの時のがプロポーズですって言うならそれでも良いけど…?」
「はぁ〜!自分が勝てそうだからってそんな条件出さないでくださいよ!やるなら次です!」
「…言ったな!?」
先輩が露骨に嬉しそうな顔をして、私は後悔した。
これ、私が負けたら絶対録音かなんかして、将来それで焦らしてくる…。
正直、なんでトランプをしようと言われてポーカーを提示されたのか分からなかったけど、こういうことか…。
案の定今回の勝負は先輩の勝ちだった。
やっぱり、勝てそうだったから急にこんなこと言い出したのか…。
でも、考えようによっては…
「私が勝ったら、将来先輩の方からプロポーズしてくれるってことですか?」
私は先輩がカードを配ってくれている間、さりげなくそんなことを聞いて見た。
だって、私に負けたらプロポーズしろって言うことはそういうことだよね?
「…あ、そうか。そうなるのか…」
「してくれるんですか?」
「春奈が勝ったらな〜」
自分の手札を見ながらニヤニヤと笑っている先輩になんとなく嬉しくなりながらも、カードを交換する。
ポーカーとは配られた5枚の手札で勝負する簡単なゲームだ。
よくギャンブル漫画とかで描かれるやつね。
これ、最初の方はイカサマありじゃないと役が揃えられないって思っていたんだけど、意外とそうじゃないんだ...。
ていうか、なんで30分も2人でこんなゲームしてるんだろ…。
「あ…やば…」
「どうかしました?」
「な、なぁ春奈?この勝負、次が本番ってことにはならないか?」
「…なりません。さぁやりましょ!」
先輩のその表情から勝ちを確信した私は、先輩の言葉に耳を貸さず、そのまま運命の勝負を開始した。
そのままお互いの手札を開示して、役を確認する。
「先輩…これって、どっちが勝ちなんですか?」
「わ、私じゃないか…?」
「…本当ですか?」
「…う、うん」
あからさまに目線をそらす先輩のその態度を怪しく感じ、私はポーカーの役について検索を開始する。
先輩の役は3・5のカードが2枚ずつだから…ツーペアかな?
私は10が3枚と1が2枚だから…
「私の勝ちじゃないですか!先輩の負けです!」
「…ま、まじ?」
「マジです。楽しみにしてますね!」
分かりやすく頭を抱えた先輩に対し、私は深く考えることも無くただ勝ったことに喜びを感じていた。
というより、よくどっちの役が強いかなんて分からず30分も持ったなこのゲーム…。
ほとんど談笑しながらだったから、勝ち負けなんてどうでもよかったって言うのはあるかもしれないけど…。
それから数時間後、無事に目的の駅へと到着し、ここからは普通の電車でフェリー乗り場へと向かう。
途中駅弁を買って食べたけれど、先輩はその時も分かりやすく動揺していた。
この頃になると、私もことの重大さを理解して、将来どこかタイミングで先輩からプロポーズされるとしっかり理解していた。
それよりも、遠回しに婚約したことになるんだよね…?
今思うと、絶対新幹線のゲームで決めるようなことじゃなかったよね…。
先輩も、自分が負けるとは思っていなかったんじゃないかな…。
絶対私を恥ずかしがらせて楽しむつもりだっただろうし…。
「ほら先輩?そろそろ船が来ますよ?」
16時ごろ、ようやくフェリー乗り場へと到着した私は、乗り場で分かりやすく乗り物酔いしていた先輩を介抱していた。
電車に乗ってるのに、ずっと下向いて考え事してたら、そりゃ酔うよ…。
「う…うん。大丈夫」
「プロポーズの件は一旦忘れませんか…?その、私も恥ずかしいので…」
「そ、そうだな…」
プロポーズと口に出すだけで若干恥ずかしいのは、私が意識しすぎているからだろうか…。
私たちが向かっているところは先輩が強く希望したある島なんだけど、旅館に着いたのは17時過ぎだった。
チェックインを済ませて、そのまま部屋でくつろぐ。
「遊ぶのは明日からですね〜。今日はゆっくり休みましょうか」
「そうだな〜」
フェリーの中で完全に吹っ切れた様子の先輩は、やはり子供のように部屋の中を歩き回り、なぜか押入れの中で寝たいだの猫型ロボットのようなことを言い出した。
小学生じゃないんだから、そんな場所で寝るなんてやめてほしいんだけども…。
「冗談だって〜!せっかく2人なんだし、一緒の布団で寝よ!」
「…いや、どういうことですか!せめて隣ですよね!?」
「え〜?いいじゃんか別に〜。照れてるのか?」
「照れてるに決まってるじゃないですか!もう、変なこと言ってないでご飯が来る前に温泉に入っちゃってくださいよ!」
「…一緒に行かないの〜?」
そんなチワワみたいに目をウルウルされると私が断れないことも、この人はちゃんと知っているのだ。
そして、私はもちろんその誘いを断りきれず、一緒に温泉へと向かった。
そこでも色々言われたけど…先輩のテンションが変に高かったせいで余計に恥ずかしかった…。
部屋に戻ると、既に食事が運び込まれていて、テーブルの上にこれでもかと色々なものが置かれていた。
刺身から何かも盛り合わせとか…その他諸々が。
「じゃあ…先輩。卒業と大学合格、おめでとうございます」
とりあえずお冷やを持って乾杯すると、向かい合わせで座りながらゆっくりと食事を楽しんだ。
そして、初日は特に何事もなく(色々あったけど!)終了した。
ちなみに、結局同じ布団で寝ることになったので、私はほとんど眠れませんでした。
次回のお話は4月1日の0時に更新します。