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第149話 卒業式

日曜からの旅行に向けて着々と準備を進めている中、先輩の卒業式の日となった。

紅葉たち1年生は学校には来れないけれど、私たちは在校生代表?として出ることができる。

というより、全員半ば強制的に参加させられる。


もちろん、私は先輩の卒業式なので例え体調が悪かろうが出席する。

そして、いっぱい写真を撮るであろう先輩のお母さんに頼んで、後でその写真を送って貰う。


(ちゃんとハンカチも入れたよね…?)


家を出る前、一番確認したのはティッシュやハンカチ等、涙を拭くものを忘れていないかだった。


泣かないよう努力はするけど、ほぼ確実に泣いちゃうだろうし…。

一年も先輩と離れるなんて、結構辛い。


しかも、先輩が行く大学って結構レベル高いから、来年は結構頑張らないといけないし…。


私は、当然先輩と同じ大学に行く。じゃないと、簡単に会えなくなって…最悪別れるとかいう話が出るかもだし…。


(先輩ほど頭は良くないけど…頑張るしかないもんね…)


そんな思いを胸に秘め、私は学校へと急ぎ足で向かった。

卒業式は体育館で行われ、自分と同じ2年生と保護者や卒業生の家族なんかが先に会場入りしている。


その列に、私も並ぶ。


「おはよ春奈。ちゃんと眠れた?」


「…メグ。あんまりだよ〜。なんか、いろいろ考えちゃってさ〜。先輩と1年も学校で会えないってのは結構堪えるよ…」


「ふ〜ん?順調そうで何より」


「そういえば、あなたの恋の方はどうなったの?結局協力してくれとか言われた覚えないんだけど…」


「…解決したよ。彼女がいたから諦めちゃった…。まぁ、当然っていえば当然だけどさ〜」


「結局、その相手って誰なの?」


その私の質問に、メグは苦笑で返してその先は語ろうとしなかった。


一応、彼女がいると聞きだせる仲にまで発展したのなら、その人が彼女と別れさえすればチャンスはあるだろう。

頑張ってと心の中で応援する。


「あれ?そういえば結奈は?」


「あ〜あの子は元彼の顔見たくないから休むって〜。まぁ、あんなにラブラブだったのに浮気されたら凹むのも当然だよね〜」


「そう…なんだ」


結奈は、花火大会の時までは順調だった彼氏と、数ヶ月前に別れたらしい。

その事を、ここ最近になって知った私は、その原因が相手の浮気にあると知って結構イラついた。


当時は本人を殴りに行こうかとも思ったけれど、当事者である結奈が諦めているので、私も何もしないことにした。

だけど、その人を見る目がかなり変わったのは確かだ。


私たちの可愛い結奈と付き合っておいて、浮気するなんて許せない。

これだから男は信用ならないんだ。

その点、女の子が相手ならそういう問題はほぼ起きないしね〜。


「あんたらはそういう問題とは無縁なんだから、今の結奈には何も言いなさんなよ?」


「わ、わかってるって…」


「あの子、立ち直りは早いから、もう少し待ってたら体調も良くなるって」


そんな会話を交わしながら、私たちは体育館の中へと入って指定された席へと座る。

目の前には背の高い男子が座っているので、ステージ上を見るのはほぼ諦めないといけないと知った時の私の絶望はどれほどだったか…。


まぁ、卒業式が終わった後も、しばらく外で記念撮影とかはするだろうから、その時に先輩の晴れ姿を思う存分目に焼き付ければいい。


そしてその30分後、特に何事もなく式が始まり、2時間後には滞りなく終了した。

もちろん私は、目の前で横の男子と喋っている背の高い男のせいで何も見えなかったけれど、卒業生代表で朱音先輩が何か言っているのだけは聞こえた。

内容は…覚えてないけど…。


そしてその後、予想通り、外で記念撮影が行われることになった。

私は真っ先に家族と談笑している先輩の元へ行き、お祝いを述べた。


「先輩…。卒業、おめでとうございます…」


「ありがと春奈!私に会えなくなるからって毎日泣くなよ〜?」


「泣きませんよ…。先輩こそ、泣かないでくださいね…」


「私は泣くぞ〜?毎日でも泣く!それで、春奈に慰めてもらいに行く!」


お母さんたちがすぐそばにいるのに、この人はなんで恥ずかしげもなくこんな事を言えるのか…。


でも、だいぶ先輩のからかいにも慣れてきて、最近では口だけのこんな挑発なんてどうとでも受け流せるようになった。

これは、何年も先輩にいいようにされてきた私なりの成長だ。


「お母さん〜。ほら、写真撮って〜」


「え!?一緒にですか!?」


「良いじゃん別に〜。入学式も絶対きてな!」


「もちろん行きますけど…」


「ほら、笑って〜!」


その場で何枚も先輩とのツーショットを撮った私は、後日その写真を見て初めて、自分が大泣きしていたことに気が付いた。


一方の先輩も、よく見ると少しだけ泣いていて、普段はカッコいい先輩の意外な一面に気がつくことができた。

やっぱり、なんだかんだ言っても先輩も私と会えなくなって寂しいんだ。


そう思われていると知った時の私の嬉しさと言ったら、多分言い表せないと思う。

先輩が私のことを大好きでいてくれているのは知っていたけれど、こんなに思われていると知れば誰でも嬉しい。

しかも、いつも冗談っぽく流してくる先輩なら尚更だ。


その翌日、終業式を無事に終え、大学合格祝いと卒業祝いを兼ねた2人きりの旅行が、明日に控えていた。


終業式が終わったその日、私が帰るとすでに先輩が家で誠也と話していて、少しだけムッとしたのを覚えている。


「何やってるんですか…」


「あ〜おかえり春奈!明日はいよいよ旅行だろ〜?せっかくだし、泊まってこうと思って!」


「何がせっかくなのか全く分からないんですけど…。明日から3日間は一緒に眠れるじゃないですか…」


「良いじゃん別に〜!弟君も、今日は友達の家に泊りに行ってくれるみたいだし、今日から2人きりだな!」


目を輝かせながらそう言ってくる先輩に、私は何も言い返すことができず、唐突に抱きつかれたことにより、完全に反論する気が消えた。


この人は…平気でこういうことをしてくるから…ズルイ。


「じゃあ、後は2人で…。あ、鈴音さん。姉ちゃんは自分から言えないんで、どうしてもしたい場合はご自分で言うしかないっすよ?」


「…うん。それは覚悟の上だよ。というか、君はそう言うことに関して平気で言えるんだね?」


「平気じゃないっすよ…。ただ、うまくいって欲しいって思ってるだけっす…」


「誠也。あんた、なんのはなししてんの?」


「次期に分かるだろ。じゃあな」


そう言うと、妙に照れながら誠也は部屋を出ていった。

状況が飲み込めていない私は、恥ずかしそうに微笑む先輩を眺めながら、明日からの旅行について色々妄想を膨らませていた…。

次回のお話3月29日の0時に更新します。



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