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第147話 情けない姿

今回の話で皐月ちゃん達のお話は終わります。


しばらく経っても混乱していた私に、美月は困ったような顔をして説明してくれた。


紅葉達に訳もわからずタクシーに乗せられ、そこで私が泣いている録音が送られて来たこと。

そして、私の気持ちを知ったこと。

簡潔ではあるけれど、分かりやすく伝えてくれた。


「え…?私が泣いてるって…誰から?」


「凛から。やっぱり聞いてなかったんだね」


「いや、聞いてたら…あんなことは…」


分かりやすく狼狽える私を、美月はもう一度力強く抱きしめる。


「結果的にはね?皐月がどれだけ苦しんだ上で海外に行くことを決めたのか、それを知れて良かったと思ってるの。私の事もちゃんと考えてくれてたし、紅葉ちゃんとの件も責任を感じてくれてるって知って…ちょっと嬉しかったの」


「…でも、私は…」


「私、口では色々言うけど、実際はそこまで出来なかったでしょ?全部皐月のおかげでここまでこれてるの。だから、手伝えないって言われた時、嫌われちゃったと思ったんだ…」


耳元で苦笑する声が聞こえて、私は心の中で再び謝った。

私が美月を嫌いになることなんてありえないのに、そんな勘違いをさせてしまった…。


「海外に行くのも、私が嫌いだから離れたいのかなって、そう思ったの。だから、あの時は何も言えなくて…変な感じになっちゃった…。ごめんね?」


「美月が謝ることなんて…何も無いよ…」


「ううん。実際、皐月は私のことが恥ずかしいくらい大好きで、私に対する責任感から離れると決断してくれたんでしょ?それは私にとっては複雑だけど、ちょっと嬉しかったの。嫌われてなかったことが嬉しくて、ちゃんと好きだと言ってくれなかった皐月が、私の見てないところではあんなに気持ちを吐き出してて、凄く嬉しかった」


そう言われ、今この状況をよく考えてみると、私は好きな人に人前で抱きつかれている。


そう考えただけで耳まで真っ赤になり、今すぐ離れたくなる。

だけど私を抱きしめる美月の手は力強くて、ご飯もまともに食べていなかった私では引き剥がすこともできない。


「私が皐月に言って欲しかったのはね?自惚れてるって言われるかも知れないけど、ちゃんと面と向かって好きだと言って欲しかったの。紅葉ちゃんの事で気持ちの整理に時間がかかるかもしれないけど、皐月が私の事をあんなに考えてくれてるって知って、嬉しかったんだよ?」


「…そう、なの…?」


「当たり前じゃん。こんなに可愛い子が、自分のことを好きだって言ってくれるんだよ?嬉しく無い訳ないじゃん」


そう言われ、ヘタレな私はまともに立っていることができなくなった。

好きな人にずっと言われたかった言葉を言われて…ここ最近の私が全部報われたような、そんな気持ちになってしまった。


美月を裏切ってしまったのに、こんなに幸せな気持ちになっても…いいのかな…。

そんな気持ちに駆られてしまう。


「私、口下手だから上手く言えないけどさ。皐月はもう少し自分に自信を持っていいよ?あなたは可愛いし、とっても魅力的な女の子だからね?」


「…そんなこと――」


「まぁ確かに?色々考えすぎててめんどくさいし、何でもかんでも自分1人で抱え込むけどさ〜?でも、それを合わせたとしても、あなたは魅力的な人だよ?」


座り込んでしまった私に対し、美月も目の前に座り込み、肩に手を置いてそう言ってくれた。

恥ずかしそうに頬を掻きながら、それでいてちょっとだけ嬉しそうに。


「本音を言えば、皐月の気持ちを知ってなお、私はまだ行って欲しくないと思ってるの。ただ、もう止めたりはしない。でもね?1つ言わせて?」


「…なに?」


「私を長くほっとくと、誰かに気持ちが移っちゃうかもよ?」


悪戯っぽく笑った美月は、そのまま立ち上がって話は終わりとばかりに響さんの方へと歩いていった。


あんなに紅葉に一途だった人が、そんなに簡単に心変わりしないことを、私は誰よりも知っている。

でも…気持ちが移っちゃうって言いかただと…。


(いや…本人もまだ答えは出せてないみたいなこと言ってたし…!)


ちょっと優しくされたから自分のことを好きなんじゃないか。そう考えるのはアホな男子だけでいい。


私は…美月に好きになってもらえるほどの人間じゃない。そんな自信はない。

…だけど、これからは、もう少しだけ自分に自信を持ってみよう。


そう決めた私は、涙を拭って駆け寄ってきた葉月の手を借りて立ち上がり、そのまま2人でゲートへと向かった。

道中、何を話していたのか聞かれたけれど、恥ずかしくて葉月には話すことができなかった。


自分の好きな人に慰められて、あまつさえ早く帰ってきてと言われたなんて…話せるわけがなかった。


「もう、大丈夫だよ」


「…お姉ちゃん。次、いつ帰ってくる?」


「分からないって言ったでしょ?大丈夫。なるべく早く帰ってくるから」


「…お姉ちゃん?口調が…」


「うん。辞めたの。まぁ…気休め程度かも知れないけどさ。それでも、こっちの方がいいかなって…」


私は、少し遠くで涙を浮かべている女の子を見ながらそう言った。

元々、美月に対しての責任感から口調を変えていただけで、本来の私はこっちだ。


一時期やめていたけれど、すぐに戻っちゃったし…今回はもう、このままで行くと決めた。

せっかく美月には魅力的だと言ってもらえたんだから、自分がどう思っていようと、少しでも美月に魅力的に映るように努力すればいい。


向こうでも、きっとやれることはあるだろうし…。


「そっか…。私も、そっちの方がいいと思う!」


「そう?ありがと」


そう微笑むと、葉月は目に涙を溜めながらうんうんと頷いた。

この子にも寂しい思いをさせてしまうけれど、私も寂しいから我慢してほしい…。は、甘えか。

ごめんねと、もう一度心の中で謝っておく。


私も口下手なので、葉月に元気でねと言うと、さっさとゲートの列に並んだ。

ゲートを通過するまで、私は美月と葉月を眺めながら、手を振る2人に別れを告げた。


少し行くと、いくつか並んでいるソファに、肩を落とした凛が待っていた。

わざとらしく咳払いをすると、なぜか落ち込んでいる凛がこちらを向いた。


「どうかしたの?」


「…いや。成功したみたいで良かったよ」


「…なんのこと?」


「ううん。なんでもない。ごめん。ちょっとお手洗い行ってくるね!」


そう行って走り出した凛は、トイレとは反対の方向へと走って行った。


しばらくして「間違えた〜!」とか言いながら戻ってきたけれど、その時の凛は、なぜか泣いていた。

見間違いかも知れないけれど、私は泣いていたように感じた。


色々言いたいことはあったけれど、今の凛に説教するのは、流石の私でも気が引けた。

なんで泣いているのかは分からないけれど、そんな凛を怒ることなんて、私にはできなかった。


数分後帰ってきた凛は、さっきとはまるで別人のようで、言い換えるならいつも通りの凛だった。


泣いていたとは思えないほどケロッとしていて、落ち込んでいたとは思えないほど元気だった。

ただ、泣いていたのは間違いではないと、その目が訴えていた。

次のお話は3月23日の0時に更新します。


変なところ几帳面なので、150話で終わらせたかったんですが、絶対に無理なので...はい。

160話くらいで終わらせたいですね...(笑)

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