第13話 番外編 お食事会 その後
私が立っている駅のホームにはスーツ姿の人が数人いるだけであとは私たち、私と皐月がいるだけだった。
今日は皐月が提案してくれたお食事会当日だった。
もう夕陽が雲に隠れてそろそろ夜が来る頃。
さっき紅葉ちゃんたちと別れた私は、ひどく疲れてホームの椅子でため息をついていた。
皐月に好きな人がいると相談したところまでは良かったんだけど、そこから根掘り葉堀り聞かれてしまって……なぜだかこんな展開になってしまった。
ちなみに私と皐月は中学校の頃からの友達で、高校に入ってからなぜか私と中学校の時より仲良くしてくれるようになったし、男の子みたいな口調になった。
もともとはこんな喋り方じゃなかったんだけど、本人に聞いてもはぐらかされてしまってなんで急に話し方を変えたのかは分からないままだった。
好きな人が同じクラスの紅葉ちゃんだと白状させられるまでそう時間はかからなかったけど、皐月に相談してからはどんどん紅葉ちゃんと距離が縮まって来てて、今はみなちゃんなんて呼べる距離まで来てた。
今日のお食事会だって、元々は皐月のアイデアだった。
「なぁ。今度の日曜にお前の好きな人と食事でも行かないか?てか行こう!距離縮めたいんだったら一緒に食事に行くのが一番早いだろ?」
なんだか面白がってるだけな気もするけど……
私自身、紅葉ちゃんとお食事には行ってみたかったし皐月に押されるまま紅葉ちゃんを誘ってしまった。
クラスの人を誘ったのも皐月のアイデアだし。
「仮に行くとしてもいきなり2人では無理だろうしクラスの女子数人誘ってカモフラージュしたほうがいいかもな〜」
それで、今日のお食事会が決まってから皐月は、今日のために入念に下調べまでしてくれ
て、私自身もすっごい楽しかった。
ゲームセンターで紅葉ちゃんに連れられるまま歩いてたら、いきなり凛から電話がかかって来たと思ったら皐月から話は聞いた!みたいな事言ってわざわざクレーンゲームのコツなんて教えて来たし……
まぁおかげで紅葉ちゃんがすっごい喜んでくれたんだけどさ……
あ、言い忘れたけど凛は同じ中学だったけど、あの子ほとんどゲームの大会とかに出てて学校には来てなかった。
凛とは小学校も一緒だったから皐月より仲いいんだけどさ……
「今日はどうだった?楽しかったか?」
感傷に浸っていると、隣の席に座っていた皐月が話しかけてきた。
正直、楽しくはあったけど皐月が終始ニヤついてたから余計に顔が赤くなっちゃってた気がする……
「だっておもしれぇんだもん。仕方ないじゃん。そういえば、あの緑川って人も顔赤くしてたけどあいつも水無月さんが好きなのか?」
「知らないそんなの……」
正直緑川さんのことはよく分かんないけど、紅葉ちゃんが気にしてるのは確かなんだよね。
緑川さんが紅葉ちゃんをどう思ってるかまでは分かんないけど、少なくとも紅葉ちゃんは少なからず気にしてるんじゃないかな……
それが好意なのか友達としての好意なのかまで分かんないけど……
「そうなのか。まぁあの人は同じクラスって言ってもほとんど喋んないからな〜。お。そういえば、帰り道手繋いでたよな〜。」
「そんなの知らない!言わないで!」
泣きそうになりながら皐月にいうと、皐月は笑いながら謝ってくれた。
私だって手なんか繋いだことないのに……なんであの子が最初なの……
そう思うと、私の目が少しだけ潤んでしまって、目の前が少しだけみにくくなって来た。
「おいおい。泣くなよ……。」
「泣いてないもん……。泣いてなんか……」
そこまで言って、我慢してた色んな感情が一気に溢れて来ちゃって、周りにかなりの人がいるのに私は子供みたいに泣いてしまった。
それもかなり大きな声で……
皐月は何も言わずに背中をさすってくれてたけど、本当に悲しい。
別に2人が付き合ったとかそんなんじゃないけど、なぜだか無性に悲しい。
私の目からはどんどん涙が溢れてくる。
5分ほど泣き続けてやっと落ち着いた私は皐月からハンカチを受け取ってまだ頬を伝っている涙を拭いた。
「落ち着いたか?ごめんな。まさかそこまでとは……思わなくてさ……」
「ううん。私が恥ずかしがって何もできなかったのが1番の原因だもん。自業自得だよ……」
皐月が気を利かせてせっかく連れて行ってくれたカフェでも、ゲームセンターでも、私は恥ずかしくってこれということはできなかった。
ずっと皐月がLINEで指示を出してくれてたからそれに従ってたみたいなところあるし……
「皐月……なんであの……緑川さんは……なんの苦労もしないで紅葉ちゃんと仲良くできてると思う?」
まだ若干涙を流しながら聞いた私に、皐月は涙ちゃんと拭きな?と優しく言ってくれてその後に答えてくれた。
「そんなの私には分かんないけどさ。なんの苦労もしないでってのは違うんじゃねぇか?ゲーセンでもカフェでも緑川さんの動向見てたけど、カフェじゃ全然話してなかったし、道中も全然話してなかっただろ?それは多分、美月と同じで恥ずかしかったからとかじゃないのか?だとしたらあの子らが手を握ってたんは苦労した結果そうなったってだけだと思うぞ。」
そう言われて思い出してみると、道中は皐月がうまいこと紅葉ちゃんが緑川さんに話しかけようとしてるのを邪魔してくれてたおかげもあって緑川さんは誰とも喋ってなかったし、カフェでも話の輪の中には入ってこなかった。
苦労の結果だったとしても、悲しさが消えるわけじゃないけど気持ちの面では少しだけ落ち着くことができた。
「なら私も……頑張ったらあんな風になれるかな……」
「第一、私も恋愛経験なんて無いんだからまともなアドバイスができてるか怪しいんだけどな。まぁ頑張ってもダメな時はそりゃあるさ。それがまさに今日だろ?そこで今日ダメだったから諦めるのか、次また頑張るのかは美月次第だろ。あんな風になれるかは私に聞かれても分かんないけどさ、緑川さんにできて美月に出来ないことは無いと私は思うぞ」
私が泣いてる間に何本かの電車が通り過ぎて、気がついたら6時になろうとしてるのに真剣に相談に乗ってくれてる皐月を、私は本当に大切に思う。
しかも、こんなに励ましてくれてる。女の子が好きって言った時もちょっと驚いてたけど、好きになった理由を話した時には納得してくれた。
私が出来なかったことをしてくれた人なら認める……なんてよく分かんないことを言ってたのを今でも覚えてる。
「ありがと……また頑張るよ……。明日からもよろしくね……皐月……」
「もちろんだ。水無月さんは私にとっても特別だからな!できる限り協力するぜ!」
力強くそう言ってくれた皐月の姿を見て、いつの間にか私の頬をつたっていた涙は止まっていた。
数分ホームの椅子に座って待っていると、電車がホームに入って来た。
「帰ろうぜ。もうこんなに暗いぞ。」
「うん。ごめんね。私のせいで遅くなっちゃって……」
「気にすんなって。さっきも言ったろ?協力するって」
少しだけ元気になったような気がしてた私だけど、電車の中でゲームセンターでの2人のことを思い出して、また泣き出してしまった……
皐月は何も言わずに頭を撫でてくれてた……
そんな優しい皐月が……私は好き……
家の近くの駅について電車から降りると、私は泣き疲れて皐月に肩を貸してもらいながら歩いていた。
気を抜いたらすぐにでも眠ってしまいそうなほど強い睡魔にも襲われて……
家まで送ってくれた皐月は、今日一日迷惑ばっかりかけてしまった私に対して、笑顔で手を振って別れてくれた。
家に帰り着くと、さっきまで私を襲っていた睡魔はどこかへ行ってしまい、その代わりにとてつもない悲しさが私を襲っていた。
家に帰って自分の部屋で休んでた私は、1時間に1回くらいのペースで帰り道の光景がフラッシュバックして来て涙が溢れて泣いてしまっていた。
もう部屋のゴミ箱の中は涙で濡れたティッシュでいっぱいになってる……
明日は学校もあるのにこんな状態で本当に大丈夫なのか……すっごく心配……
夜の11時頃に皐月からLINEで、「どうせまだ泣いてんだろ?明日学校に来るまでには落ち着いてると良いな……」って励まし?のメッセージが来てて、更に涙が止まらなくなってしまった。
その日は、涙が出なくなるまで泣いて、気がついたらベットの中で寝息をたてていた。