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第136話 情けない姉

今回のお話も皐月ちゃん視点でのお話になります。

凛の家で話し合いが終わった後、私はまっすぐ家に帰った。

とりあえず、決まったことを家族に報告しないといけなかったからだ。


美月に真っ先に伝えられるほど、私のメンタルは強くはない。

そもそも、私が海外に行くのはただ凛が心配なだけではない。

むしろ、それは建前なのだ。たまたま誘われたからちょうど良いと思っていただけで…。


多分、遅かれ早かれ私はここから逃げ出していただろう。

まぁそんなことはどうでも良い。

今は、絶対泣くだろう葉月をどうやって説得するかだ。


「なんか…凄い嫌われそうだな…」


案外、私の中ではそれが一番嫌だった。

まだ着いて行くと言われたほうがマシだ。それは無理だけどさ…。


第一、友達の留学(亡命)に着いて行くというだけで異常なのに、そこに妹も同伴となると…。


それに、葉月には私と違ってうまくいきそうな相手がいるんだ。

それを壊すなんて、私にはできない。


「ただいま〜」


「おかえり!」


「ん?葉月、何かいいことでもあったか?」


「分かる〜?実は、クリスマスパーティに誘われたんだ〜!去年は行けなかったから今年こそはって!お姉ちゃんも行くでしょ?美月さんの家でやるらしいし!」


玄関を開けた瞬間、ものすごい勢いで抱きついて来た葉月をいなしつつ、クリスマスパーティのことについて考える。


そもそも、年越しは向こうで過ごすと凛は言っていた。

まだいつ出発するかは未定だけど、クリスマスまでいるかと言われると正直怪しだろう。


そういえば、ちょうど年末に海外で大会があるって言ってたっけ…。

もしかしたら、そのまま大会に出て帰国しないつもりなのかもしれない。


そうなると。パーティには出られない。


「そのことについて、ちょっと話さないと行けないことがあるんだ。お父さんとお母さんは?」


「え…?お姉ちゃん?」


「前言っただろ?その件で、ちょっと話さないといけないことが――」


「やだ!そんな話聞きたくない!」


そう叫ぶと、少しだけ目を潤ませた葉月は2階へと上がっていってしまった。

まぁ…両親にだけ話して、葉月には後で説明すればいいか…。


リビングに入ると、2人はテレビを見ながらソファでくつろいでいた。

葉月があまりに大きな声で叫んだせいで大体は把握しているんだろう。


私が入って来た時にはため息をついて苦笑した。


「…ということで、向こうの家族にも了承をもらいました」


「そう。向こうの方が良いなら、私たちからは何も言わないけど…。でも、本当に大丈夫なの?海外なんて行ったことないでしょ?」


「最初の方はそりゃ厳しいかもしれないけど、凛もいるしなんとかなると思うよ。それに、元々海外には行ってみたかったし」


「ん〜。葉月はどうする?あいつ、お前がいなくなったら辛いんじゃないか?」


「そうかもしれないけど、そんなこと言ってたら私はどこにも行けなくなるでしょ?それに、もう二度と会えないってわけじゃないんだしさ」


一通り話をしても、やっぱりお父さんはあんまり乗り気じゃないらしい。

一番は葉月のことが原因だ。この人は…葉月に甘すぎるから。


今も少し慌ててるし、体はデカイのに心が弱すぎるってお母さんに言われるのも分かる。

思うに、私のメンタルが豆腐なのはこの人のせいなのでは…。


いやそれは良いや。とりあえず、我が家でお母さんから許可をもらえたら大抵の場合は許される。

今回は許可をもらえているので、これ以上何か言われることはないだろう。


「そういえば美月ちゃんは?一緒に行くの?」


「…美月は、行かない。そもそも、私が海外に行くってまだ知らない」


「なんだ。まだ言ってないのか?」


「ちょっと…色々あって言うタイミングがなくてさ…」


「ほ〜ん?まぁ、いつ出発するかは知らんが、その前にちゃんと話しとけよ?葉月にも、ちゃんと話をすること。いい加減なまま行くことは許さんぞ?」


「うん。そのつもりだよ。それに、そのことは響さ――凛のお兄さんにも言われた」


ちゃんと話せと言われても、1名は対話を拒否されて、もう1人は現在精神が不安定だ。

葉月はまだなんとかなるかもしれないけど、美月に関してはいつ話せるか少し怪しい。


こんな不安定な時期に話をしたら、絶対に目も当てられないことになる。

仮にも高校生だし、そんなに長くひきずらないとおもうけど、確証がないのだ。


それに…私が美月の立場だったら、立ち直れる自信がない。

いつ出発するかわからない現状、早いうちに話をしておかないといけないけれど…。


美月の気持ちを一切考えずに海外に逃げるのは申し訳ないとは思う。

だけど、そうでもしないと私が押し潰されそうなのだ。


好きな人の失恋、そしてその失恋が自分のせいだという責任感から逃げるための海外移住でもあるのだ。

1番の理由は他にあるけれど、その責任から逃れるためというのも大きな理由だ。


「…とにかく、今日中に葉月には話をしておくこと。美月ちゃんと何があったのかは聞かないけど、何も言わないで去るのは、あの子のためにも、お前のためにもならない。わかったか?」


「うん…」


「たまには帰って来なさいよ?」


「…うん」


話し始めて1時間、両親への説明は終わった。

以外にすんなりと受け入れてもらったことに感謝しつつ、私は2階へと上がり、|中ボス(葉月)の部屋を叩いた。


「葉月?ちょっといいか?」


「…」


「話があるんだけど…」


「…」


何度ノックをしても、葉月がドアを開けてくれることはなかった。

一応電話もかけてみるけれど、当然のように切られる。

是が非でも話を聞きたくないらしい…。


いや、その気持ちはわからんでもないけどさ…。

でも、喧嘩したまま別れたくはないんだよ私は…。


「なぁ葉月。お姉ちゃん、年末には遠いところに行くんだ。だから、葉月とはしばらく会えなくなる。その前に、色々話したいんだけど…」


そう部屋の中に問いかけると、少しして部屋の外にいても耳を塞ぎたくなるような大声が聞こえてきた。


「なんで!?なんで海外になんて行く必要があるの!?別に行かなくてもいいじゃん!」


「…ごめんな。でも、もう決めたんだ。お姉ちゃんの心が弱いせいで、葉月には迷惑をかけることになる。だけど――」


「心が弱いって何!?なんでそれでわざわざ海外に行くわけ!?意味わかんない!」


ちょっと鼻声になりながら、葉月はそう叫んでいる。

もっともな意見だし、私も反対の立場ならそう言うだろう。


実際、凛に本当の理由を言えば呆れられ、そんな理由なら連れて行かないとまで言われるだろう。

しかし、ここは話さないと収まらないか…。


別に本人に言っているわけじゃないし…大丈夫だよね…。


「お姉ちゃんさ、最近失恋したんだよ…。それも、結構キツイ振られ方されちゃってさ…」


「失恋!?それだけで海外に逃げるとか本当に意味わかんないんだけど!お姉ちゃんなんか嫌い!」


「分かるけど聞いてくれって…。お姉ちゃんさ、その人のことずっと好きだったんだよ。ただ、その人は私とは違う人を好きになった。私はそれを知って、その恋を応援してたんだ。ただ、それも失敗に終わった。理解できないかもしれないけど、理由なんてそんなもんだよ。これ以上あの人の近くにいると、私が私で無くなりそうなんだよ」


「…」


「多分、私はずっとここにいるとあの人に甘えてしまう。自分のせいで失恋させておいて、私が甘えるなんてしていいことじゃない。それに、仮に私の恋が叶ったとしても、私は素直に喜べそうにないんだよ。私が逃げることで、他の誰かの気持ちを犠牲にしようとも、私を救おうって魂胆なんだよ。ごめんな…」


気付けば、私の目からは涙が溢れていた。

自分で言っていて情けなくなってきたのだ。


失恋して海外に逃亡するって、めっちゃ重い女だ。それは理解している。

だけど、今言ったようにここに残ってしまうと、私は私を許せなくなって、最終的に今の私とはかけ離れた存在になるような気がするのだ。


そうなると、メンタルの弱い私がどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

なので、そうなる前に自分を守ろうと体のいい言い訳をして逃げるのだ。


私のメンタルが強ければこんなことにはなっていないのだろう。ただ、それを今言ったところでしょうがない。

実際、こうなることは最初からわかっていたのだ。


美月が紅葉を好きだと言ったあの時から。

いや、いじめられていた美月を助けられなかったあの時から、いずれこうなることは分かっていたのだ。


ただ、それを見て見ぬ振りをして、気付かぬふりをして、問題を先送りにした結果がこれなのだ。


言うなれば、全て自業自得なのだ。


「なぁ葉月…。こんな、情けないお姉ちゃんでごめんな…」


ドアに背中を預けながらそう言った私の声は震え、目からは大量の涙が流れていた。

次回のお話は2月18日の0時に更新します。

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