第12話 お食事会 第3部
楽しそうに歩く皐月ちゃんを見ながら後をついていく私と雫ちゃん。そして美月ちゃん。
今日は雫ちゃんとあんまり話せてないからこの後行くらしいモールでなんとかお話できる機会を作りたい……
「それにしても、ここら辺詳しいんだね。皐月ちゃん。」
「そりゃね。今回のために色々調べ……てないよ!?うん。全然下調べなんてしてないから!そう!たまたま知ってただけ!」
さっきまでとは違って、まるで人が変わってしまったかのように顔を赤くしながら答える皐月ちゃん。
これは流石の私でもわかる。多分今日のために念入りに調べてくれたんだろうなぁって……
「ありがと。皐月ちゃん。」
そう答えると、さらに顔を赤くしてしまった。
さっきまでとはまるで別人……
なんでか美月ちゃんが複雑そうな顔してるけど深くは考えないことにする。
雫ちゃんは……なんで泣きそうな顔になってるの!?私何かしたかな……
「雫ちゃん?大丈夫?」
顔を覗き込むようにして言った私にちょっと驚きながらも雫ちゃんは大丈夫と言ってくれた。
……自分でやっときながらちょっと照れて顔が赤くなってしまったのはバレてしまってるだろうか……
それからモールに着くまで、雫ちゃんとはお話できなかったけど、美月ちゃんとはいっぱいお話できた。
雫ちゃんはさっきから下向いて何も話してくれなくなってしまった。
どこか体調でも悪いのかな……
「ついたゾ。ここだ。」
そこは、想像してたよりもかなり大きめなショッピングモールだった。
えっとね〜駐車場も含めると、私の二階建ての家が50個くらい建てれるんじゃないかってくらい?
なんかかえって分かりにくい気もするけど……まぁすっごい広いってことで……
家の近くのデパートもかなり大きいけどそれの3倍くらいある気がする。
あぁ。こっちの例えの方がわかりやすいかも。
「想像してたよりでかいね……もっと小さいかと……」
「私も……こんなにでっかいなんてね……」
皐月ちゃんが下調べしてくれてたからなんとなく美月ちゃんもモールの事自体は知ってるって思ってたけどそんなことは無いみたい。
雫ちゃんはどうだろ……
そう思って後ろを見ると、さっきまで下を向いて歩いてた雫ちゃんがモールを見上げてビックリしてた。
びっくりしてる姿もちょっと可愛かったけどそんなこと口にできなくて、そのまま皐月ちゃんの案内でモールの中に入って行く。
どこに行くんだろう……ちょっと期待しながら後をついて行くと、3階にあるゲームセンターに着いた。
かなり大きいモールのゲームセンターだからなのか、最近のゲームセンターはみんなこうなのかわかんないけど、中は結構広くて、クレーンゲームやコインゲーム。見たことないようなゲームが所狭しと並んでた。
「ここでしばらく遊んでこ〜」
意気揚々とゲームセンターの中に入っていった皐月ちゃんに続いて雫ちゃんがなぜか嬉しそうについていった。
雫ちゃんと早々に離れ離れになってしまった私は、なんとも言えないような気持ちになってしまっていた。
ゲームセンターの前でしばらくぼーっとしてた私だけど、ふいに我に返って私も後に続く。
もちろん美月ちゃんと一緒に入ったよ?
「ゲームセンターなんて小学生の頃以来だなぁ〜。 美月ちゃんは?」
「私は〜凛ちゃんと時々来てるかな〜。ここのゲームセンターじゃないけどね〜」
私は物珍しさからクレーンゲームが沢山並んでるコーナーで可愛いぬいぐるみを見つけてはあれ可愛い。これ可愛いとはしゃいでいた。
でも、取り方がイマイチわかんないし取れるとも思えないからお金は使えないんだけど……
そんな時、一つの商品に目が釘付けになってしまった。
それは、妙にでかい水色のサメの抱き枕だった。
うちにも抱き枕はあるけど、このサメの抱き枕とっても可愛い……
「そのサメがどうかしたの?」
「このサメの抱き枕……可愛いなぁって思ってさ〜。取ってみたいけど取り方が分かんないんだよね……」
私が自嘲気味に笑うと、測ったようなタイミングで美月ちゃんのスマホが鳴った。
「ごめんね。電話みたい。」
美月ちゃんがゲームセンターの出口の方に向かって走っていってしまって私は1人取り残されてしまった。
それでも私は美月ちゃんが返ってくるまでの2・3分。目の前のサメの抱き枕に完全に目を奪われてしまっていた。
返って来た美月ちゃんはなぜだかすっごく顔が赤かった……
「なんでそんなに顔が赤いの?体調悪いの?」
「ちっ……違う……みなちゃん……ちょっとあっち向いててくれる?何があっても、私がいいよって言うまでこっちみないでね?」
「?わかった。何するの?」
「すっ……すぐわかる!いいから早く……」
私は言われるままサメの抱き枕とは反対の方向にあるクレーンゲームの商品を眺める形になってしまった。
後ろで何かお金を入れる音がして……その次になぜかコミカルな音楽が流れ始めて……美月ちゃんが何をしてるのか全く分かんない……
何やってるんだろう……
ちょうど3回お金を入れる音がして、もういいよ?と言われて振り向くと、私の目に驚きの光景が飛び込んで来た。
さっきまでクレーンゲームの中にあったサメの抱き枕が美月ちゃんの手に抱かれていた。
美月ちゃんの顔は、さっきとは比にならないくらい真っ赤になってしまっていた。
「どうしたの!?それ……」
「可愛いっていってたから……と……取ったの……」
そう言うと、美月ちゃんは私にそのサメの抱き枕を渡してくれた。
「美月ちゃんが取ったのに……良いの?」
美月ちゃんは何にも言わずに黙ってたけど、コク。と小さくうなづいてくれた。
美月ちゃんの顔は下を向いちゃってよく見えなけど、耳が真っ赤になってる……
「ありがとう!大事にするね!」
私は貰った抱き枕を大事に持ち直す。
可愛いと思ってた抱き枕をお友達が取ってくれて……しかもくれるって……
こんなに嬉しいことは初めて……泣いちゃいそう……
そのあとは、お店の人に言って袋をもらってからその袋に貰ったサメの抱き枕を入れた。
しばらくゲームセンターの中を歩いてると、コインゲームが並んでるコーナーに雫ちゃんの姿を見つけて思わず駆け出してしまった。
美月ちゃんはさっきから顔が真っ赤で何を話してもうん。としか答えてくれなくなっちゃった……
どうしたんだろう……
椅子に座ってコインゲームをしてる雫ちゃんの隣に座って何してるの?と聞いてみると、小さかったけれどゲームの説明をしてくれた。
雫ちゃん心なしかちょっと顔が赤い気がする。
しばらく横に座って雫ちゃんがコインゲームをしてる姿を眺めてたけどだんだんコインが増えていって、いつの間にかカップ3個分にまでなっていた。
「すごいね雫ちゃん……もうこんなに……」
「このゲームはコツがあるんだよ。場所が良かったらもうちょっと稼げるんだけ……」
そこまで言って私の顔を見た雫ちゃんは急に顔を真っ赤にしてしまって私と目線を逸らしてしまった。
私も視線をそらされて初めて自分がかなり雫ちゃんと近い距離にいたことに気がついた。
オマケに、無意識のうちに手を繋いでしまっていた……
意識してしまうと途端に恥ずかしさが湧いて来て、とっさに手を離そうとしたけど雫ちゃんが……手を離してくれなかった。
私はさらに顔が赤くなってしまってるのに気がついて、それからしばらくお互いの間にはゲームの音とコインが落ちてくる音しか聞こえてこなかった。
相変わらず、横長い椅子の上で手は繋いだまま……
そのまま皐月ちゃんと美月ちゃんが呼びに来てくれるまでずっと雫ちゃんがコインゲームをやってる姿を眺めてた。
ずっと手を離さないでいたまま……
「そろそろ5時になるし帰ろうか〜」
「あ……もうそんな時間なの?帰ろ帰ろ〜」
雫ちゃんの方を見ると、残念そうにしてたけど……
ちなみにこのゲームセンターにいた1時間30分くらいで雫ちゃんが稼いだコインの枚数は1000枚を超えてたみたい……
帰る直前に機械の中に今日稼いだ分のコインを入れてたけどあれはなんだろう……
「あれはね。コインゲーム専用の銀行みたいなやつで、登録しとくとコインの貯金とか引き出しができるの。」
「そんなシステムがあるんだ〜」
帰り道も私たちは手を繋いで帰っていた。
正直かなり恥ずかしいからそろそろ手を離して顔を覆いたいんだけど……雫ちゃんが離してくれない……
雫ちゃんの方もかなり顔が赤くなってるのになんで離そうとしないんだろう……
いや、別に嫌ってわけじゃないし……むしろ嬉しすぎていまにも死んじゃいそうなんだけど……
前を歩いてる2人は何か話してるみたいで時々後ろを振り返ってちゃんとついて来てるかどうか確認してくれてる。
モールから5分くらい歩くと、最初降りた駅とは別の駅に着いた。
ここで解散になるみたい。
「今日はお疲れ〜。私たちはこっちだから今日はここまでだな。また遊ぼうな。」
「うん!とっても楽しかった!美月ちゃんこれありがと!」
「う……ううん。私も楽しかったよ。また遊ぼうね」
「わ……私も楽しかった……です。また機会があれば……よろしくお願いします……」
帰り側に皐月ちゃんのLINEをゲットして、私達はそれぞれ反対の方向の電車に乗り込んだ。
私と雫ちゃんは降りる駅が一緒だから一緒に乗った。
私は電車の中で寝ちゃって、雫ちゃんに降りる直前に起こされて初めて雫ちゃんの肩に寄りかかってしまってたことを知った。
「ごめん!寝ちゃって……」
「い……良いのよ……可愛かったし……」
最後の方は小さくてよく聞こえなかったけど雫ちゃんの顔がまた赤くなって来ている……
電車を降りて駅を出たら、私たちも別れてしまった。
もう少しだけ一緒に居たかったな……なんて思いながら家に帰った。
家に帰り着くと、お母さんが迎えてくれたけど、私は色々ありすぎて疲れちゃったから早々に眠ってしまった。
寝る直前に、ゲームセンターでの事を思い出して少しだけ顔が赤くなってしまった……
美月ちゃんに貰った抱き枕を抱えて、その日は眠りについた。