第126話 相談会
今回のお話は雫ちゃん視点でのお話になります。
後半には別の視点でもお話があります。
私の方が本格的に忙しくなる前にこっちは終わらせたいですね。
私が先輩に論破された後、数分後に状況を聞いたもう1人の先輩から電話がかかって来た。
すぐに出ると、向こうも呆れているのかため息が聞こえて来そうな声色だった。
「私にはせめて全部話して欲しかったよなぁ〜」
「…すみません。でも、なんだか面白がりそうだったので…」
「それとこれとは話が違うだろ?それで?梅咲からは色々聞いたけど、緑川からもちょっと聞かせてくれないか?先週、奥田と出かけてた話はできたのか?」
「…その件は紅葉ちゃんを見て一目で分かりましたよ。一応聞きますけど、紅葉ちゃんに入れ知恵したのは先輩じゃないですよね?」
「なんの話だよ…」
今日の予定では、梅咲先輩が紅葉ちゃんに揺さぶりをかけてその直後に私が昨日の話を聞くと言う大雑把な作戦だった。
素直に昨日のことを聞いても話してくれるか分からないから、こんな遠回しな方法をとったんだけど…。
でも、それは紅葉ちゃんを教室で見た瞬間に吹き飛んでしまっていた。
その答えは簡単で、紅葉ちゃんの髪色がガラッと変わって、まんま紅葉ちゃんのイメージになっていたからだ。
確かに黒髪ロングって、女の私が言うのもなんだけど清楚なイメージがある。
その点で言えば、紅葉ちゃんは純粋すぎて心配になるレベルで清楚だし…いや完璧なんだよ本当!
紅葉ちゃんがなんで急に髪色を変えたのかは…残念ながら分からないけど。
「へぇ〜紅葉がねぇ〜。今日休んだからなぁ〜私」
「…まさかとは思いますけど、春奈先輩がいなかった事と関係あるんですか?」
「ん?ないない。春奈は単純に具合が悪いだけだ。関係無いぞ〜」
「ソウナンデスネー」
なんで学校休んでるのに春奈先輩が休んでいる理由を知っているのか…。
もちろん本人が知らせてるって可能性もあるけど、そんな事したら絶対お見舞いに行くだろうし、言う可能性は低い…。
結奈先輩達にも、同じ理由で口止めするはず…。少なくとも私ならそうする。
しかも、春奈先輩の名前が出た途端上機嫌になるし…。
やめよう。この話は私をまずい方向に導きそう…。
「話戻しますね?で、紅葉ちゃんがいきなり髪を染めた理由が先輩じゃ無いなら…やっぱり美月さんですかね?」
「まぁ、他に考えられないだろ。仮に紅葉自身が思いついたんなら、トンチンカンな方向にイメチェンするだろ?ほら、バッサリ髪切るとかな」
「ですね…。すると、私の今の状況って結構ヤバいですかね?」
「奥田がどんな手法で紅葉を落とそうとしてるかによるだろ。外堀から埋めるとかのんびりやってくれるやつならまだ大丈夫だろ?そうじゃ無いならヤバいけど」
今時親から落とす人なんて聞いた事ないから、おそらく後者だろう。
でも…そうなるとますますまずい。
梅咲先輩の説明を聞いて、本当に紅葉ちゃんが恋がなんなのか理解したかと言われると反応的にかなり怪しい。
そんな状態で告白して、万が一失敗すると取り返しがつかない状況になる。
告白するにしても、何かきっかけが欲しい。例えば2人の間に何かあるとかさ…。
「そんな期待しても仕方ないだろ…。なんかの記事で見たけど、あと1ヶ月もすればクリスマスだ。世間ではその頃になると、彼氏彼女が作りやすいって言われてる。現実的に考えるならそこらで決めるしかなさそうだな」
「あと1ヶ月ですか…。でもそれって、美月さん達にもそれだけの準備期間を与えるってことになりますよね?」
「そりゃな。悪いけど、あと数日で私は協力が出来なくなる。合格発表とか諸々あるしな」
「そう…ですか。推薦もらってたんでしたか?」
「まぁな。12月頭とかに結果が出るとか言われた気がする。そしたら、冬休み前に春奈攫ってどこかに旅行だな!」
「冬休みに入ってからにしたらどうですか…」
「春奈がいいって言うならその前に攫う!」
なんでこの人は浮かれているんだろう…。攫うのはこの際良いとして、何をするつもりなのか…。
いや、話が逸れた。今の美月さん達に1ヶ月も猶予を与えるのは、正直怖い。
これは勘だけど、鈴音先輩の協力がある今決めておかないと、多分私は勇気が出せずにこのまま泣き寝入りで終わる気がする。
この先輩は、普段は迷惑極まりないけれど協力してくれるのならかなり頼もしい助っ人になる。
美月さん達も、私がここ数日で勝負を決めにくるとは思わないはずだし、裏をついた方が効果的か…。
「緑川よ〜。張り切るのは良いけど、告白するにしても場所とかは考えてるのか?体育館裏とか言いだしたら切るぞ?」
「今時そんな場所で告白する人なんているんですか…?当初考えてた場所は…文化祭当日だから意味があったので、また新しく考えますよ」
「ふ〜ん。じゃあ私ができることがあったらまた連絡してくれ。12月までは協力出来るからな」
「了解です。ありがとうございます」
思ったよりあっさり終わった相談会は、私の心の何かを動かしたんだろう。
ベッドに横になる時間には近いうちに自分の想いを伝えようと心に決めていた。
◇ ◇ ◇
「で〜?なんだよいきなり集合って」
「今日の緑川さん。何か引っかからなかった?」
「ん?いや、特になんとも?」
全ての授業が終わった後、私は美月に呼び出されていつもの非常階段にきていた。
ちょうど剣道場があるあたりで紅葉がウロウロしているのを眺めながら、美月の話を聞く。
にしても…何やってんだあいつ。
「昨日、私が紅葉ちゃんの髪を染める手伝いしたのは伝えたでしょ?」
「まぁな」
「で、私の好みどストライクになっちゃったんだけど…多分、緑川さんにとってもかなり来てると思うの…」
「あ〜それで?」
「あの子、多分だけど近いうちにやらかすと思う…」
とても真剣な表情でそういった美月は、そのまままっすぐ私を見た。
ていうか、やらかすってなんだ…。告白するって意味?
「それは分からないけど!なんかそんな気がするから、皐月にどうすれば良いかの相談!」
「そんなこと言われてもなぁ〜。大体、緑川に告白されて付き合う前提で作戦立ててただろ?仮にそうなったとしても、当初のプラン通りに進めるじゃダメなのか?」
「そうなんだけど!でも…なんかマズイ気がするの!」
「その根拠は?」
「長年の勘!」
長年って、美月まだ16年しか生きてないじゃん…。と言う言葉はなんとか飲み込んだ。
今年の誕生日は紅葉に祝って貰えなかったと凄い泣いてるくらい子供だけど…。長年ってなんだよ…。
ていうか、サラッと私の心を殴るのに本当抵抗ないよな美月って…。
まぁ、そこら辺は諸々割り切ってるから良いんだけどさ…。
「はぁ〜。美月が心配なら、緑川と紅葉を不自然にならない程度に2人きりにしなけりゃ良いだろ?私はあんまり気乗りしないけどな」
「皐月は凛経由で色々作戦を考えて?私も私で考えるから!」
「…仕方ないな。じゃあ、今日早速行ってみるから、決まったら連絡する」
「ありがと!」
そう無邪気に笑ったその顔は、私のために頑張ってくれる姿じゃない。
そう思うと…なんかこう、胸の奥に鋭いものが刺さった気がした。
結局凛のところに行っても胸の奥に刺さるものが気になって集中できず、まともな案など出なかった。
それが原因かは分からないけれど、次の日私は熱を出すことになった。
次回のお話は1月19日の0時に更新します。